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ヘルスケア 2024-07-31

サッカーにずっと携わっていたい想いが、選手からトレーナーへ後押し!【もっと知りたい!「ヘルスケア」のお仕事Vol.151/サッカートレーナー森本麻衣子さん】#1

ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。

今回はサッカートレーナーとして、WEリーグや大学リーグで活躍をしている森本麻衣子さんにお話しを伺います。

前編では、プロのサッカー選手から引退を決意するまでのこと、ずっとサッカーに携わっていくために選んだセカンドキャリアのこと、サッカー選手とどう向き合っているのかなどを語っていただきました。

お話しを伺ったのは…
サッカートレーナー
森本麻衣子さん

2011年に8年間在籍していた浦和レッズレディースを引退。鍼灸師とAT(アスレティックトレーナー)の資格を取得後、オルカ鴨川FC、ちふれASエルフェン埼玉などのプロリーグ、帝京平成大学女子サッカー部、早稲田大学女子サッカー部の大学リーグのトレーナーを歴任。

28才で引退を決意。サッカーにずっと携われる仕事としてトレーナーを選択

――引退を決意したきっかけは何だったんですか?

2011年の元旦、国立競技場で皇后杯がありました。私はメンバーには入っていましたが出場の機会はありませんでした。それで、「これで最後だな」と、引退することに決めました。

――まだ28才ですよね。早くないですか?

身体のいろいろなところに痛みがあったんです。それに自分の実力も分かっていました。ベテラン選手としてチームを引っ張っていくのは、私には難しいと思えたので、セカンドキャリアに進みました。

――トレーナーのお仕事を選んだのはなぜですか?

サッカーが好きで、現役を辞めてもサッカーに関係する仕事に就きたかったんです。そうは言っても、指導者は無理、マネージメントも無理(笑)。トレーナーはやってみたいかも!と思えたんです。

1月に引退を決めてから、その年の4月には鍼灸師の資格が取れる専門学校で学び始めました。

――森本さんがお持ちの資格、アスレティックトレーナー(AT)はどんなことをするんですか?

選手がパフォーマンスを上げられるような管理やコンディショニングが仕事です。ケガをして競技ができなくなったときには、復帰のサポートもします。

学校ではスポーツに関わる筋肉や身体の機能からテーピングなどのケアや栄養のこと、トレーニングメニューの組み立て方などを学びました。サッカーのトレーナーになるには、このATの資格が必要なんです。

学びを深めるうち、メンタルの不調が身体に直結することを痛感!

鍼灸学校時代はじっとしているのが辛くてトレイルランニングにはまっていたとか。

――28才から学校に通うとなると、同級生は18才ですか?

高校を卒業したばかりの18才の人もいれば、60代の方もいました。私はちょうど真ん中くらいですね。セカンドキャリアをスタートさせるには、ちょうどいい年齢だったと思います。

――トレーナーというと、選手のトレーニングメニューを考えたり、ケガをした選手のリハビリをサポートするイメージがあります。

ケガした選手をサポートするのも仕事ですが、今、私がやりたいのは予防です。ケガをする前に、食事や睡眠がきちんと取れているか、日々のコンディショニングをチェックすることに重きを置いています。私が選手をしていた経験から、この2つの重要さを痛感するようになりました。

――食事と睡眠はそんなに大事なんですか?

食欲がなくなったり、眠れなかったりするのはメンタルに問題があるケースが考えられます。選手のパフォーマンスはメンタルと密接に絡み合っているので、グランド内だけでなく、それ以外の日常生活のことも見ておきたいんです。

もちろん、選手に根掘り葉掘り聞き取ることはありません。ただ選手と2人きりになったとき、ポロッと心の内を打ち明けてくれることもあります。内容によってはチームの上層部には報告しないで、何とか解決できる方法を探すこともあるんですよ。

――トレーナーは選手の毎日のデータを細かく分析するのも仕事なんですね。

栄養や睡眠はアプリで管理できるので便利になりました。選手が抱える痛みだけではない部分を見たいんです。これも経験を積むと分かるようになります。

――痛みもメンタルに関係あるんですか?

学校や塾に行く時間になると「お腹が痛い」って言う子どもがいますよね。あれは仮病ではなくて、本当に痛いんです。行きたくないから「痛い」と言っているワケではないんです。でも、行きたくない気持ちが影響してしまう。

――すごく複雑…。

私を例にすると、引退する最後の方は自分のプレーに自信がなくて、本当に試合に出たいのかどうか自分でも分かりませんでした。でも、もし膝の痛みと自分の気持ちに本気で向き合っていたら、痛みが改善して選手生命が伸びていたかもしれません。

痛みだけに集中してケアしても、痛みが取れないこともあります。

――原因がいろいろあるってことですか!?

環境を変えるだけで、パタッと痛みが消えることもあるんです。楽しかったり、イヤじゃない場所に行ったりすると痛みが取れることがよくあります。「痛い」って、脳が勝手に思い込んでいるケースもあるのではないか、と考えるようになりました。

選手の「環境を変えたい」とか、「自分はこのチームにいたい」とか、そんな相談に乗っているうちに、選手たちの痛みが消えることもありました。

――脳とメンタルは本当に絡み合っているんですね。

身体からのアプローチでメンタルが変わることもあります。
トレーナーの仕事は本当にやりがいがあって面白いです。

――選手のみなさんはすぐに心の内を明かしてくれるものですか?

そう簡単なことではありません(笑)。本人が向き合いたくない問題のこともありますから。そんなときは、「無理をしなくていい。今じゃなくていいよ」と伝えています。フィジカルな外側からアプローチをしながら、「いつか向き合えたらいいね」とか、「決めるのは今じゃなくていいんじゃない」と感じることもあります。

――選手にとって、森本さんは頼れるお母さんのようですね。

そんなことはありません。失敗もたくさんありましたよ。

トレーナーになりたての頃は、選手ひとりひとりに入り込みすぎるクセがあったんです。自分のできるキャパを越えて仕事を任されるうち、キャパオーバーになってしまったこともありました。

――それは大変! 

国内最高峰のWEリーグで戦う、ちふれASエルフェン埼玉の専任トレーナーをしていたときのことです。あるときから突然、仕事に行けなくなってしまいました。


現役のプロ選手からサッカートレーナーに転身をした森本さん。真面目な性格から仕事を抱え込みすぎて、ダウンしてしまったことも。

後編では、メンタルダウンからどのように復活したのか、サッカートレーナーとしてどう仕事と向き合っているのか、新たに見つけた「やりがい」について伺います。

撮影/古谷利幸(F-REXon)

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