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特集・コラム 2023-09-21

アートセラピーとは? 主な種類と効果を紹介|介護施設で取り入れるメリットとは

「アートセラピー」という療法があるのをご存じでしょうか。日本ではまだなじみの薄いセラピーですが、いろいろな手法があり、介護施設などでの活用も期待されています。

今回は、アートセラピーの概要や種類、効果などについて知識を深め、介護施設ではどんなふうに利用できるのかを学んでみましょう。

自分の心を見つめる「アートセラピー」とは

アートセラピーとは、絵や造形、刺しゅうといったさまざまなアートを通じて心を癒やす治療法です。アートによって「ありのまま」の心を表現することで、自分では気付いていなかった本当の気持ちに気付いたり、うまく言語化できなかった心のモヤをスッキリさせたりすることができます。

障害がある方や心に傷を負った方はもちろん、健康な方の心をより成長させることも可能です。

アートセラピーの歴史

アートセラピーは、古くは旧石器時代から行われていたと言います。これはこの時代に残された洞窟壁画が、宗教的な意味合いで描かれたものとされているためです。

その後も宗教画は人々に癒やしをもたらすものとされ、19世紀になると自分の想いを形にする画家も多く出てきました。こうした作品はアートセラピーという概念のない時代のものですが、形としては現代のアートセラピーによく似ています。

アートセラピーの先駆者と言われるのが、アメリカのマーガレット・ナウムブルグです。彼女は1940年代から1950年代にかけて活躍した人物で、絵を描くことによって治療にどのような影響があるのかを研究し、アートセラピーの基礎をつくりました。

また同時期にはイギリスのエイドリアン・ヒルが、結核患者に絵を描かせる治療を行っていました。アートセラピーという言葉は、彼が作ったと言われています。

日本でアートセラピーが取り入れられるようになったのは戦後で、広く知られるようになったのは心理学ブームの起こった2000年代以降です。アメリカやイギリスに比べて、日本のアートセラピーの歴史はまだ浅いと言えます。

色使いや構図で心理状態が分かる

アートセラピーでは使った色や絵の構図などによって、心理状態が分かります。

例えば、赤は火や太陽、活動的、勇気などを連想させます。青は、空や海、平和、知性などを連想させる色です。またシンボルの形や筆圧、タッチなどからも、心がどのような状態であるかが分かります。

アートセラピーの種類とは

アートセラピーではさまざまなアートが取り入れられます。具体的にはどんなものがあるのか、以下でアートセラピーの種類をいくつか紹介します。

箱庭療法

箱庭療法とは、砂が入った箱(箱庭)に人間や動植物などのミニチュアを配置し、世界観を表現する方法です。基本的には、セラピストとクライアントが1対1で行うもの。箱庭に表現されたものをもとにカウンセリングを実施します。

コラージュ療法

コラージュとは、フランス語で「のり付け」という意味です。もともとはピカソやブラックなどの芸術家が利用していた技法のひとつでした。

コラージュ療法では、異なる素材や色を組み合わせて貼り、完成したアート作品から、セラピストがクライアントの心情を把握したり、クライアント自身が自己理解を深めたりしていきます。

引用元
「コラージュ療法」について|鳴門教育大学

音楽療法

音楽療法には、クライアント自身が歌や楽器で音を鳴らす能動的音楽療法と、音楽を聴く受動的音楽療法があります。

では、どのように活用するのでしょうか。たとえば、高齢者は能動的に歌を歌ってのどや肺活量をきたえることにより、嚥下障害の防止に期待できます。また、言語の習得が難しい子どもが楽器を鳴らすことで他者とのコミュニケーションなどに活かせるともいわれます。

受動的音楽療法では、音楽を聴くことによってリラックスしたり癒やされたりする効果が期待できるでしょう。

ドラマセラピー

ドラマセラピーとは、ドラマ(演劇)を利用する心理療法です。ただ演技をするだけでなく、ウォームアップやフォーカシング、メインアクティビティ後の締めなどの流れがあります。

さまざまな役を演じることにより、他者の気持ちを理解したり共感したりすることができるなどの効果を得られます。

風景構成法

風景構成法では、山や川などセラピストが指定したものをクライアントに1枚1枚の紙に描いてもらい、全体として1つの風景になるように仕上げます。全体のバランスや色、距離感などを見ながら対話を行い、悩みや葛藤などに気づいていく療法です。

園芸療法

園芸療法は、園芸によって心の癒やしを求める療法です。苔玉作り・フラワーアレンジメント・ガーデニングなど、規模や内容はさまざま。土と触れ合ったり収穫物を得たりすることで、五感が研ぎ澄まされ、意欲も向上し、心身ともに健康になっていくとされています。

引用元
園芸療法とは|淡路景観園芸学校

アートセラピーを行う「アートセラピスト」

アートセラピストとは、先述したアートセラピーを専門的に行う職業のことです。ドイツでは国家資格があるほど認知度がありますが、日本では臨床心理士や精神科医、カウンセラーなどが治療の一環として行っていることが多く、資格も民間のものしかありません。

日本ではまだメジャーな職業ではないため、まずはアートセラピーの必要性について広めることが求められています。

アートセラピストになるには

もしアートセラピストを目指すなら、民間資格を取得できるような勉強をするか、臨床心理士やカウンセラーになる道を選ぶと良いでしょう。アートセラピストの勉強は、大学や短大、専門学校の他、資格取得のための養成講座などで可能です。

養成講座は、通学で取得できるものはもちろん、自分のペースで勉強しながから取得を目指す通信講座もあります。中には、CATA(カナダアートセラピー協会)認定のクリニカル・アートセラピーになれるものや、子どもをカウンセリングの対象とするチャイルドアートセラピーもあり、各講座によってレベルや受講期間が違います。

アートセラピストになるために知るべきこと

アートセラピストの資格取得にあたっては、さまざまな勉強を行います。下記に、ある講座で勉強する内容をいくつか挙げてみました。

・心理学
・心理判定技法
・色・形・シンボルの意味するもの・解釈
・絵に現れる性格傾向
・障害がある人の絵
・絵から深層心理を読む
・症状に応じた描画法
・子どものヘルプサイン
・絵の見方

基本的には心理学や心の問題を学び、心が絵にどのように現れるのかを深く知る、というような内容です。通学で行う養成講座では、実習を行う場合もあります。

リラックスだけじゃない! アートセラピーの効果

アートセラピーは、心にさまざまな効果をもたらします。その効果は非常に多角的で、幅広いです。代表的な効果を下記にいくつか挙げてみました。

リラックスできる

アートには、リラックス効果があります。その理由は、アートが右脳を使う作業であるためです。

脳には右脳と左脳があり、基本的に右脳は感情、左脳は論理を処理する能力をつかさどっています。そして事務作業や計算式など、現代の仕事はほとんどが左脳を使い、論理的な思考を求められることが多いです。

しかし左脳ばかりを使っていると、脳の使い方が偏ってしまうため、もの忘れが増えたり、外部からの情報をうまく整理できないようになることも。脳をリラックスさせるにも、右脳と左脳の両方をバランスよく使うことが大切です。

絵を描いたり、粘土をこねたりする作業は右脳を使うため、脳のバランスを整えるために非常に有効です。仕事で左脳を、アートで右脳を使うことで、脳の使用バランスが良くなり、リラックス効果が得られます。

自分の考えを整理して思考をはっきりさせる

「今自分が何を考えているのか分からない」「心の中にモヤモヤした感情がある」と感じる人は多いと思います。そうしたときにもアートセラピーが有効です。

アートには、自分の心が現れます。感じたままに絵を描いたり、粘土で何かを作ったりすることで、自分も分からなかった心が作品ではっきりと形になってきます。自分の中に葛藤や迷いがある場合には、アートセラピーを行って心の全体像を整理してみましょう。

また、アートセラピーの良いところは、自分の作った作品を後から見て振り返ることが可能なところです。時間がたってからその作品を見ることで、自分がそのときにどういう気持ちだったのかを、客観的に見られます。心の整理をしっかりつけてから、自分の行動を決めることも可能です。

アイディアが生まれる

アートセラピーは、新しいアイディアを生むのにも効果的とされています。前述したように、アートでは右脳を使います。そのため右脳が活性化されて、感覚的な部分が研ぎ澄まされ、新しい考えが生まれるようになるのです。

この効果は、ビジネスでも取り上げられています。論理的思考だけでなく、感情を含めた企画や考え方が必要な現代では、そうした思考ができる人材が求められています。特にリーダー育成に関しては、その傾向が顕著です。

実際、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューでは、ヤフーやLIXILグループ、星野リゾートなどの代表取締役が、アートセラピーを通じて自身の仕事やビジョンを改めて整理する企画を行っていたことがあります。

また株式会社ホワイトシップでは、法人向けアートプログラムでチームビルディングやリーダー育成を行うなど、アートの力で新しいアイディアを創出する手助けしています。このプログラムは、日立やdocomo、リクルートなど170を超える会社で導入されており、アートセラピーの効果をビジネスに活用した事例として注目されています。

アートの才能に目覚める

アートセラピーを行うことで、アートの才能に目覚めることもあります。右脳を活性化させることで、自身の感性が目覚め、絵を描くことや物を作ることが楽しいと思えるようになれば、そこから芸術家を目指す人も出てくるかもしれません。

幼稚園や保育園では、教育にアートセラピーの一種である臨床美術を取り入れているところもあります。臨床美術では、描いた絵の分析は行いません。他の子どもたちの作品を、具体的に褒めます。こうすることで自信につながり、アートを続けていく子どもが出てくる可能性もあります。

介護施設でアートセラピーを取り入れるメリットとは?

ここまでくわしく見てきた「アートセラピー」ですが、介護施設で取り入れるメリットはどんなところなのでしょうか。3つの点を紹介します。

脳や身体のトレーニングになる

アートセラピーでは脳で考え、心を動かし、手足などで表現します。そのため、必然的に頭や身体を使うことになり、介護施設利用者の各機能のトレーニングになるでしょう。

脳で考えることによりストレスを感じますが、これは脳の活性化につながる「よいストレス」。きちんと脳が働くことにより、認知症予防・睡眠リズムの改善・精神の安定などにも役立つとされています。

QOLの向上につながる

もともと芸術活動が好きな利用者にとっては、アートセラピーによって楽しみが生まれ、生活の質(QOL)の向上につながる効果が期待できます。

それ以外の利用者も、これまでにない経験を通して自分の潜在能力に気づくことができ、自信がついたり自己肯定感を得たりする可能性も。精神的に活力がわき、生きることへの意欲が増すでしょう。

コミュニケーションの機会が増える

アートセラピーの活動を通して、スタッフや他の利用者、家族など、コミュニケーションの輪が広がります。いきいきとした表情になり、積極的にコミュニケーションを図ろうという姿勢に変化する人も多いです。

また、会話が苦手な人も、作品を通じて非言語コミュニケーションが可能に。創作活動で得られた刺激により、周りの人との交流が盛んになっていくでしょう。

介護施設でアートセラピーを行う際の注意点

前章のようなメリットのあるアートセラピーですが、実施の際には注意したい点もあります。以下で詳細を見ていきましょう。

専門家に依頼しなければならない

アートセラピーを行う場合は、専門知識を持った専門家に依頼して実施してもらうことが必要です。アートセラピストやミュージックセラピストなどのプロに頼み、適切な環境下で行いましょう。

なお、海外ではアートセラピーに関する国家資格を設けているところもありますが、日本では国家資格はありません。ただし、民間の認定資格はあるので、資格を持っている人に依頼すると安心でしょう。

リスクのない種類のセラピーを導入することが求められる

利用者の状況をきちんと考慮し、リスクのないセラピーを行うことも大切です。たとえば、足腰が弱っている方に対して、身体をしっかり動かすセラピーはNG。

また、利用者が途中で不安や混乱を起こしたり退席したりした場合は、安心させるような声かけや行動を取る・無理に現場に戻さず次回につなげるなど、利用者の症状や特性などに配慮しながら実施してください。

セラピー実施中も十分に気を配る必要がある

利用者によっては、認知症の症状で「異食(食べ物以外のものを口に入れる行動)」をする人が出てくる可能性があります。画材などを食べてしまわないように、セラピーの最中は十分に気を配りましょう。

また、スタッフが作品の出来栄えに口を出したり、ほかの利用者のものと比べたりすることのないように注意しなければなりません。上手に作品を作ることが目的ではなく、セラピーなので、不安を与えず前向きな言葉をかけることが重要です。

アートセラピーの可能性は無限大

今回見てきたように、アートセラピーにはさまざまな効果があります。本来は心を癒やすためのものですが、現在ではビジネスにも活躍の場が広がっており、今後も広がっていくと予想されています。

実際、神戸医療福祉大学などが行った「アートセラピーの全国実態調査」によると、アートセラピーは、医療や保健の「治療」としてではなく「人間の潜在的なパワーを引き出すもの」として利用されていることが分かりました。

アートセラピーを治療として考えた場合、非常に狭い範囲での活躍にとどまってしまいますが、人の潜在能力を引き出せるものと考えれば、幅広い分野での活躍が可能です。

現在では絵画教室のほか、老人ホーム、幼稚園などでアートセラピーが利用されています。介護現場でも導入のメリットが多く、今後ますます需要が高まっていくでしょう。

まだまだ知名度の低いアートセラピーですが、その分さまざまな可能性を秘めています。人の心を癒やすだけでなく、自身の内面を整理したり、能力を引き出したりもできるため、これからも注目していきたい分野です。

引用元
アートセラピーの全国実態調査(1)|日本社会学会

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