芸術で自分の心を知る「アートセラピー」がもたらす効果とは?
「病は気から」という言葉があるように、心は体の健康に大きな影響をもたらします。体を健康に保つには、心も健康でなければなりません。心の健康を保つものとして近年注目を浴びているのが「アートセラピー」です。この記事では、アートセラピーとその効果などをご紹介します。
自分の心を見つめる「アートセラピー」とは
アートセラピーとは、絵や造形、刺しゅうといったさまざまなアートを通じて心を癒やす治療法です。「ありのまま」の心をアートによって表現することで、自分の本当の気持ちに気付いたり、モヤモヤしていた心をスッキリさせたりすることができます。
障害がある方や心に傷を負った方はもちろん、健康な方の心をより成長させることも可能です。
アートセラピーの歴史
アートセラピーは、古くは旧石器時代から行われていたと言います。これはこの時代に残された洞窟壁画が、宗教的な意味合いで描かれたものとされているためです。その後も宗教画は人々に癒やしをもたらすものとされ、19世紀になると自分の想いを形にする画家も多く出てきました。こうした作品はアートセラピーという概念のない時代のものですが、形としては現代のアートセラピーによく似ています。
アートセラピーの先駆者と言われるのが、アメリカのマーガレット・ナウムブルグです。彼女は1940年代から1950年代にかけて活躍した人物で、絵を描くことによって治療にどのような影響があるのかを研究し、アートセラピーの基礎をつくりました。
また同時期にはイギリスのエイドリアン・ヒルが、結核患者に絵を描かせる治療を行っていました。アートセラピーという言葉は、彼が作ったと言われています。
日本でアートセラピーが取り入れられるようになったのは戦後で、広く知られるようになったのは心理学ブームの起こった2000年代以降です。アメリカやイギリスに比べて、日本のアートセラピーの歴史はまだ浅いと言えます。
紙とペンだけでできる! アートセラピーの方法
アートセラピーにはさまざまな方法があります。中でも一般的なものは「絵を描く」方法です。
この方法では、紙と色鉛筆やクレヨン、絵の具などの絵を描けるものを用意して、好きなように絵を描きます。色鉛筆やクレヨンなどは、12色以上の色数があるものを用意しましょう。また子どもや障害がある方などと行う場合には、安全な画材を用いるようにします。
アートセラピーでは、上手に描く必要はありません。ただ、自分の描きたいように描くことで、自分の心を開放することが目的です。そのため、描きあがった絵を批評してはいけません。描きあがった絵を見て、自分の心と向き合います。
絵を描く以外にも、塗り絵を行ったり、シールを好きなように貼ってみたりなど、アートセラピーの方法は非常に豊富です。場合によっては、詩やダンスなどもアートセラピーに取り入れられることがあります。
色使いや構図で心理状態が分かる
アートセラピーでは使った色や絵の構図などによって、心理状態が分かります。
例えば、赤は火や太陽、活動的、勇気などを連想させます。青は、空や海、平和、知性などを連想させる色です。またシンボルの形や筆圧、タッチなどからも、心がどのような状態であるかが分かります。
アートセラピーを行う「アートセラピスト」
アートセラピストとは、先述したアートセラピーを専門的に行う職業のことです。ドイツでは国家資格があるほど認知度がありますが、日本では臨床心理士や精神科医、カウンセラーなどが治療の一環として行っていることが多く、資格も民間のものしかありません。日本ではまだメジャーな職業ではないため、まずはアートセラピーの必要性について広めることから始めなければなりません。
アートセラピストになるには
もしアートセラピストを目指すなら、民間資格を取得できるような勉強をするか、臨床心理士やカウンセラーになる道を選ぶと良いでしょう。アートセラピストの勉強は、大学や短大、専門学校の他、資格取得のための養成講座などで可能です。
養成講座は、通学で取得できるものはもちろん、自分のペースで勉強しなから取得を目指す通信講座もあります。中には、CATA(カナダアートセラピー協会)認定のクリニカル・アートセラピーになれるものや、子どもをカウンセリングの対象とするチャイルドアートセラピーもあり、各講座によってレベルや受講期間が違います。
アートセラピストになるために知るべきこと
アートセラピストの資格取得にあたっては、さまざまな勉強を行います。下記に、ある講座で勉強する内容をいくつか挙げてみました。
・心理学
・心理判定技法
・色・形・シンボルの意味するもの・解釈
・絵に現れる性格傾向
・障害がある人の絵
・絵から深層心理を読む
・症状に応じた描画法
・子どものヘルプサイン
・絵の見方
基本的には心理学や心の問題を学び、心が絵にどのように現れるのかを深く知る、というような内容です。通学で行う養成講座では、実習を行う場合もあります。
リラックスだけじゃない! アートセラピーの効果
アートセラピーは、心にさまざまな効果をもたらします。その効果は非常に多角的で、幅広いです。代表的な効果を下記にいくつか挙げてみました。
リラックスできる
アートには、リラックス効果があります。その理由は、アートが右脳を使う作業であるためです。
脳には右脳と左脳があり、基本的に右脳は感情、左脳は論理をつかさどっています。そして事務作業や計算式など、現代の仕事はほとんどが左脳を使います。
しかし左脳ばかりを使っていると、脳が疲れて睡眠不足になったり、ネガティブな感情ばかりが浮かぶようになったりします。脳をリラックスさせるには、右脳と左脳をバランス良く使うことが大切です。
絵を描いたり、粘土をこねたりする作業は右脳を使うため、脳のバランスを整えるために非常に有効です。仕事で左脳を、アートで右脳を使うことで、脳の使用バランスが良くなり、リラックス効果が得られます。
自分の考えを整理して思考をはっきりさせる
「今自分が何を考えているのか分からない」「心の中にモヤモヤした感情がある」と感じる人は多いと思います。そうしたときにもアートセラピーが有効です。
アートには、自分の心が現れます。感じたままに絵を描いたり、粘土で何かを作ったりすることで、自分も分からなかった心が作品ではっきりと形になってきます。自分の中に葛藤や迷いがある場合には、アートセラピーを行って心の全体像を整理してみましょう。
またアートセラピーの良いところは、自分の作った作品を見て振り返りができることです。しばらくたってからその作品を見れば、自分がそのときにどういう気持ちだったのかを客観的に見られます。心の整理をしっかりつけてから、自分の行動を決めることも可能です。
アイディアが生まれる
アートセラピーは、新しいアイディアを生むのにも効果的とされています。前述したように、アートでは右脳を使います。そのため右脳が活性化されて、感覚的な部分が研ぎ澄まされ、新しい考えが生まれるようになるのです。
この効果は、ビジネスでも取り上げられています。論理的思考だけでなく、感情を含めた企画や考え方が必要な現代では、そうした思考ができる人材が求められています。特にリーダー育成に関しては、その傾向が顕著です。
実際、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューでは、ヤフーやLIXILグループ、星野リゾートなどの代表取締役が、アートセラピーを通じて自身の仕事やビジョンを改めて整理する企画を行っていたことがあります。
また株式会社ホワイトシップでは、法人向けアートプログラムでチームビルディングやリーダー育成を行うなど、アートの力で新しいアイディアを創出する手助けしています。このプログラムは、日立やdocomo、リクルートなど170を超える会社で導入されており、アートセラピーの効果をビジネスに活用した事例として注目されています。
アートの才能に目覚める
アートセラピーを行うことで、アートの才能に目覚めることもあります。右脳を活性化させることで、自身の感性が目覚め、絵を描くことや物を作ることが楽しいと思えるようになれば、そこから芸術家を目指す人も出てくるかもしれません。
幼稚園や保育園では、教育にアートセラピーの一種である臨床美術を取り入れているところもあります。臨床美術では、描いた絵の分析は行いません。他の子どもたちの作品を、具体的に褒めます。こうすることで自信につながり、アートを続けていく子どもが出てくる可能性もあります。
アートセラピーの可能性は無限大
アートセラピーは前述したように、さまざまな効果があります。本来は心を癒やすためのものですが、現在ではビジネスにも活躍の場が広がっており、今後も広がっていくと予想されています。
実際、神戸医療福祉大学などが行った「アートセラピーの全国実態調査」(参考:https://jss-sociology.org/research/87/199.pdf)によると、アートセラピーは、医療や保健の「治療」としてではなく「人間の潜在的なパワーを引き出すもの」として利用されていることが分かりました。アートセラピーを治療として考えた場合、非常に狭い範囲での活躍にとどまってしまいますが、人の潜在能力を引き出せるものと考えれば、幅広い分野での活躍が可能です。
現在では絵画教室の他、老人ホーム、幼稚園などでアートセラピーが利用されています。
まだまだ知名度の低いアートセラピーですが、その分さまざまな可能性を秘めています。今後、アートセラピーの効果が広まれば、より多くの場所で利用されるかもしれません。
おわりに
アートセラピーは人の心を癒やすだけでなく、自身の内面を整理したり、能力を引き出したりもできます。今後も活躍の場を広げていけば、アートセラピストの必要性も増えるかもしれません。これからも注目していきたい分野です。
出典元:
アートセラピーとは|クエスト総合研究所
アートセラピーの可能性6つ|癒し効果~資格・仕事まで
らくわ健康教室「アートセラピー(芸術療法)とは?」
日本心理学会
アートセラピーの歴史|アートセラピーパーク
アートセラピーのやり方をマスターしよう・方法と効果を得るコツ|WORKPORT PLUS
カラーセラピー大辞典|TC カラーセラピー本部
アートセラピーの資格と仕事|アートセラピーパーク
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アートセラピーの普及と専門家の育成|臨床芸術療法士
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