「一緒に楽しく遊ぼう!」のスタンスで子どもたちと向き合う日々【介護リレーインタビューvol.66/訪問美容師 齋藤博美さん】#2
介護業界に携わる皆さまのインタビューを通して業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。
お話を伺ったのは…
美慈 代表 齋藤博美さん
高校卒業後、物流会社に就職したものの半年後、子どもの頃から通っていた美容室に転職。通信教育で美容師免許を取得する。13年勤務した後、カット専門店に転職。その間にヘルパー2級を取得し、平行して訪問理美容をスタートする。現在は介護施設や障がい者施設、病院をはじめ個人宅で理美容を行う「訪問理美容りくみぃ」をはじめ、特別養護老人ホーム 和みの園内にある「母と子の美容室みちか」で発達障がいの子どもの施術を行っている。
前編では福祉に携わりたいという夢を、遠回りしながら叶えたことをご紹介しました。
後編では念願の訪問理美容を始めたこと、発達障がいの子どもたちとどう向き合っているのか、今までの美容人生の中で最大のピンチだったことなどを伺います。
ゆっくりステップアップする姿を見守るのも訪問理美容の醍醐味

息子さんと共同で購入した愛車。普段は齋藤さんが乗り回しているそう。
――介護施設や障がい者施設は、ちょっと不便な場所にあるところが多いですよね。
そうなんです。最初のうちはゆとりがなかったので、電車やバスを乗り継いで施設までは徒歩で通っていました。しばらくしてから三輪バイクを使うようになりましたが、雨の日や寒い日は辛かったですね。
――訪問理美容だと荷物も多いでしょう? 徒歩は大変でしたね。
この仕事を始めて、辛かったことのひとつですね。今は息子と共同で車を購入したのでものすごくラクになりました。
――訪問のお仕事は「今日は天気が悪いから休んじゃおう!」はできないですものね。
待っていてくださる方がいる、私を必要としてくださる方がいるのが私のモチベーションになっています。
――発達障がいのお子さんと接するときの心構えはありますか?
一緒に遊ぼう!っていう姿勢で関係を築くようにしています。声がけと関わりを重ねるうちに安心感が育まれて、お子さんたちも自然とお話ししてくれるようになります。もちろん、初めて会うときは「どんな子だろう?」って私も緊張します。でも、仲良くなりたいと思って話しかけていると少しずつ打ち解けてくれますね。
――最初から髪を切らせてくれる?
そういうケースもありますが、一緒に遊んだだけとか、ハサミを1回入れただけとか、そんな時もあります。でも回を重ねるごとに少しずつステップアップしていくんですよ。動き回ってなかなか髪を切らせてくれなかったお子さんのお宅にお邪魔したとき、たまたまお兄ちゃんが学校から帰ってきて「〇〇ちゃん、偉いね! ちゃんとイスに座って髪を切っているんだね」って褒めてくれたんですよ。ご家族の肯定的な声がけがお子さんの前進を後押しするので、私もすごく嬉しくなります。
――発達障がいのお子さんはお宅に訪問するケースが多いんですか?
小さなお子さんの場合、ご自宅の方が安心して過ごせる環境なので。でもゆくゆくはお家を出て、社会に出なければいけません。お家でのヘアカットに慣れてきたところで、「みちか美容室」に来てもらうようにしています。
――ただ髪を切るだけではないんですね。
美容を通して、お子さんたちがいろいろなことができるようになるのは本当に嬉しいです。
長く仕事を続けるには自分を大切にすること!

キラキラにリメイクした子ども用のカット台。ここに座ると女の子はテンションが上がるそう。
――今までの美容人生でピンチだったことはありますか?
最初に勤めた美容室にいたころ、階段から落ちて両足を捻挫したことですね(笑)。訪問美容を始めてからは、腰の手術をしてしばらくカットができなかったこともありました。
――訪問理美容のときはどうしたんですか?
友人の美容師に同行してもらって、友人はカット、私はおしゃべりと分業しました(笑)。
フリーですから保証がない中で仕事ができないのは辛かったですね。
――起業しても続けるのが大変ですよね。
それで横浜市が支援している「女性起業家たまご塾」のサポートを受けました。コンサルティングの先生が指導してくれる講座なんですよ。例えばホームページをつくるにも、個人の歴史を入れた方が良いとか細かくアドバイスをしてくれました。おかげでホームページを見て予約をしてくれる方が増えました。
――それは良いことですね。
障がいをお持ちの方は施術の時間を長めに取りたいので、電話でお話を伺いながら日程を調整したいんですが、施術中だと電話に出られないことが多々あります。これがもどかしい。
――そうですね。
折り返しの電話をかけたら「別の方にお願いしてしまいました」と言われてしまうんですよ。それをコンサルの先生に相談したら、「留守電のメッセージを機械任せにしないで、齋藤さんの声で吹き込むと良い」というアドバイスをもらったんです。
――変わるものですか?
違いますね。私の声にしたら、ほとんどの方が折り返しの電話を待ってくださるようになりました。
――声のパワーってすごいんですね。齋藤さんの今のお仕事は?
介護施設や障がい者施設、病院などを訪問して髪を切る仕事と、発達障がいをお持ちのお子さんの髪を切っています。基本はこのみちか美容室で施術しますが、お宅にお邪魔することもあります。
――カット専門店のお仕事は完全に辞めたんですか?
実は少し前まで月に数日入っていたんです。サロンワークを忘れたくなかったので。でも、訪問理美容の仕事が忙しくなったのと、通っていた専門店が他の支店と統合されることになって閉店が決まったので、本業の仕事に専念することにしました。
――働き過ぎは身体が持ちません。
コンサルの先生にも「そろそろ定休日を作った方が良いのでは?」と言われています(笑)。この仕事を長く続けていけるように、最近になって自分を大切にするようになりました。
――最後に、この仕事を目指す方にアドバイスをお願いします。
技術を磨くことや知識を蓄えることも大切ですが、お客さまやご家族との対話から生まれる感動を大切にしてください。それが次の一歩を後押ししてくれます。
齋藤さん流! 訪問理美容の心得三か条
1.障がいや体調に事前に確認し、状況に応じた配慮をすること。
2.一緒に遊ぼう!という姿勢で子どもと関係を築くこと。
3.セルフケアを徹底して自分を大切にすること。
撮影/森 浩司












