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ヘルスケア 2024-03-25

寄り添いつつも自立支援を促すために、介護士が心がけるべきことは?【介護リレーインタビュー Vol.44/BLG品川(けめともの家・カンタキ西大井)】#2

介護業界に携わる皆様のインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。

今回お話を伺ったのは、

BLG品川(けめともの家・カンタキ西大井)の竹内留美子さん(ホーム長)と、石川裕貴さん。

前編では、BLGの活動内容や施設の特徴を詳しく伺いました。
後編では、ご利用者さまとのエピソードやこれから介護士を目指す人へのアドバイスを伺います。

諦めかけた思いも叶え、
最後の最後まで寄り添った支援を

――実際にご利用者さんとのエピソードはありますか?

石川さん(以下、敬称略):私が担当している中に69歳の男性がいるのですが、その方が「味噌ラーメンを食べたい」とおっしゃって。一緒に行くメンバー(利用者)さんを募って、みんなで駅前の中華屋に食べにいきました。

竹内さん(以下、敬称略):その方は末期のがんなんです。余命宣告を受けて、治療もやめられて……。ご家族も含め何度も何度も話し合いを重ね、「最後まで好きなことをして過ごしたい」というご本人の思いを尊重することになりました。

ラーメンを食べに行くというのも、「もうラーメンなんて食べられないよな……」という思いを聞いて、石川が「食べられますよ、行きましょう!」と発案してくれたんです。

石川:その方とは、麻雀大会を開いたり、部屋飲みをしたりもしましたね。

――部屋飲み! このホームでですか?

石川:そうです。ほかのメンバーさんやお知り合いの方達を集めて、みんなでおつまみを食べながらお酒を飲みました。

竹内:すごく喜んでくださいましたね。やはり高齢者、とくに病気の方だと、「あれはできないな、これももうできないな」と諦めることが多い。外出でさえ、「すぐに疲れて休憩が必要になるから」「トイレが近いから」と諦めてしまう人がたくさんいます。そうなると地域とのつながりどころか、ベッドの上だけの生活になり、最終的には引きこもりにつながってしまいます。

でもそれを「そんなことないですよ、できますよ。やりましょうよ」と実現してあげる。一人一人の思いを形にするって、そういうことだと思うんです。特に石川はそこに熱い思いを持っていますね。

石川:できる限り叶えてあげたいと思うんです。「〇〇したい」という思いを聞いた以上、聞いた責任もありますし。

竹内:私たちが出会うのは20代、30代の全盛期の人たちではなく、ラストランに差し掛かった高齢者の方達です。そういう方達が「私の人生捨てたもんじゃなかったわ」と満足して最期を迎えてほしい。そのために最後の最後まで寄り添って、思いを汲んであげたい。それがその方の生きがいになれば、すごく嬉しいですね。

その人の能力を信じて
ただ見守ることも自立支援には必要

――ご利用者さんと向き合う時に大切にされていることはありますか?

石川:メンバーさん一人一人、その人自身に決定権を持ってもらうために、何をするにも必ず声掛けをして希望を聞くことです。そして、ご自身でできることはできる限り手を出さずに見守る。できないところだけお手伝いする。「自立支援」を意識しています。

例えば配膳や下膳も、「この方は自分でできる」と思う方にはご自身でやってもらいます。

竹内:例えそれが「ちょっと危ないかな?」と思って、つい手を出してしまいそうになってもグッと我慢。あくまで見守るんです。

石川:できることを奪ってはいけないと思うんです。介入しすぎると、「この人、私のこと信じてくれないわ」「信用してくれないわ」というふうに感じてしまうかもしれませんし。

――でも、見守るって意外と難しいですよね。

石川:ご本人自身が「できないかも」と不安がっていることもあります。そういう時でもなるべく「できるところまでご自身でやってみましょう」とお声がけします。それで「これ以上は難しいのでお手伝いしてください」と言われればその部分だけサポートする。これはスタッフみんなの共通認識として心がけています。

――自立支援には、大切なことかもしれませんね。ちなみに石川さんの今後の夢や目標はありますか?

石川:ここは医療ニーズの高いメンバーさんが多いので、少しでも力になれればと、喀痰吸引と経管栄養の研修を受けています。これは医療行為なので、本来は看護師しかできないのですが、きちんと研修を受けて修了すれば実践が可能。今はその資格を取ることが目標ですね。

竹内:多職種連携を実践してくれていますね。正直、体のことを診るのが看護師、心を中心にサポートするのが介護士というのが世間一般の認識ですが、メンバーさんとより近く、より親密に関わっていきたいという思いが彼の中にあるようです。

メンバーさんの中には寝たきりで意思疎通ができない方もいますが、排泄や食事の介助だけでなく、痰の吸引したり、チューブで栄養を送ったりすることでより密なコミュニケーションを取りたいという思いを聞いて、私たちも応援しています。

スタッフ同士の
身体的・精神的なケアと管理も大切

――これから介護士を目指そうと思っている人に、何かアドバイスをお願いします。

石川:介護の仕事に限らないと思いますが、新しい場所に飛び込むのって最初は不安だと思います。私も最初はそうでした。でも先輩にたくさん話を聞いて、たくさんアドバイスや励ましをもらって、今は楽しく働いています。一人で抱え込みすぎず、悩みや不安を吐き出せる人を見つけるというのも、大切なんじゃないでしょうか。

また、介護士は利用者さんから学ぶこともたくさんあります。みなさん人生の大先輩なので、いろんなことを教えてくれるんです。私は、一人暮らしを始めたばかりの頃に料理のコツを教えてもらいました。調味料を入れる順番とか、味付けのポイントとか(笑)。

もちろん料理以外もたくさん教えていただいたのですが、人生の大先輩から直接「学び」を得られるのは介護士ならではの魅力だと思いますので、この仕事を楽しんでほしいですね。

――確かに、人生の大先輩とこんなに関わることができること自体、介護士ならではですね。

石川:今、介護施設に求められているのは、利用者さんが自分の思いを伝えやすい、居心地のいい場所。そして介護士に求められているのは、利用者さんに寄り添って思いやりを持ち、「利用者さん自身ができること」まで考えて対応できる人だと思います。とくに「利用者さんができること」を見極めるのは難しいかもしれませんが、頑張ってください!

――ありがとうございました。最後に介護士の心得3箇条をお願いします。

・利用者さんへの思いやりの気持ちを持つ
・利用者さんにとって居心地のいい環境を作る
・スタッフ同士の身体的・精神的なケアの管理も大切にする

石川:みんなで協力して利用者さん一人一人をサポートしているので、スタッフ同士もちゃんとケアし合うことが大切だと思います。それは体調面だけでなく精神面も同じ。気軽に話し合える関係を築くのも、大切なんじゃないでしょうか。

竹内:「思いやりを持って寄り添う」というのは簡単ではありません。まず、人の心を読むことが大切になります。

例えば同じ「いいわよ」でもその解釈はごまんとあって、本当に「それがいい」のか、「本当は〇〇がいいけど、まぁそれでもいい」のか、「本当は嫌だけど、迷惑をかけるから諦めよう」の「いい」のか。私たちは、言葉の奥に隠れた思いまで汲む必要があるんです。

これにはすごくスキルが必要で、人間力も磨く必要があります。でもそこにやりがいを感じていけば、自分自身の学びにもなるし、ご利用者さんにも喜んでいただけると思っています。

取材・文/児玉知子
撮影/喜多二三雄

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