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ヘルスケア 2024-03-09

大切なのは「思い出話に花を咲かせてもらうこと」。介護士が行う「授業」とは?【介護リレーインタビュー Vol.43/おとなの学校 船橋前原東校・脇田紀隆さん】#2

介護業界に携わる皆様のインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。

今回お話を伺ったのは、
学校式介護で注目を集める「おとなの学校」。

前編では、「船橋本町校」の秋吉智美校長に、「おとなの学校メソッド」やご利用者さまへの向き合い方などを伺いました。
後編では、「船橋前原東校」の脇田紀隆校長に、「おとなの学校」での働き方やこれから介護士を目指す人へのアドバイスなどを伺います。

介護職に少ない「土日休み」も
学校形式の「おとなの学校」なら叶う!

――「船橋前原東校」はいつ開校されたのですか?

23年2月です。こちらも「船橋本町校」と同様に、「社会福祉法人 照敬会」が運営している「おとなの学校グループ」の直営校になります。僕が入社したのは23年3月なのですが、1月に面接を受けて管理者(校長)として採用されたのち校長研修を受け、遅ればせながら23年5月から正式に校長に就任しました。

――ちなみに介護業界を目指されたきっかけは?

もともとは営業マンでした。会社は何社か変わっているのですが、転職するたびに父親から「手に職を持て」と言われていたんです。父自身が旋盤工で職人だったのも理由だと思います。

それもあって、30歳で転職しようと思った時、改めて父の言葉を考えました。でも何がいいかピンとこなくて迷っている時に、友人たちと「これからは高齢者向けの業界が求められるよね」という話になったんです。そこで、職安(ハローワーク)で介護の訓練校を紹介してもらいました。

――学んでみてどうでしたか?

最初は不安でしたね。まず最初に思ったのは、「他人の排便処理ができるかな……」でした。介護職となると、三大介護の一つであり、清潔保持の基本である「排泄介助」を避けて通ることはできません。そこって介護士の第一関門だと思うんです。

ただ僕の場合、いざ実施訓練をしてみると意外とすんなりできたので、「これならこの仕事でもやっていけそう」と。そのまま特別養護老人ホームに勤めることに。その後、居住系、在宅系(通所・短期入居・訪問介護)、いろいろな事業所に勤めました。

――「おとなの学校」を選ばれた理由は?

最初のきっかけとしては、土日休みだったから。というのも、ここに転職する前は居住系の施設に勤めていたのですが、土日どころか祝日も年末年始もお休みがありません。

とはいえ、働いている時はそこまで気にしていなかったんです。ただ、少年野球のコーチをするようになって、土日に練習や試合が入ると、休みが欲しいと思うようになりました。

ただ、介護職、特に居住系は、毎週末お休みをもらうのってなかなか難しいんですよ。半ば諦めていたのですが、そんな時にたまたま見つけたのが「おとなの学校」です。

「学校式介護」というだけあって毎週土日がお休みなので、「これはいいぞ」と。すぐに資料を取り寄せました。

最初は失敗してもOK!
落ち込まず、次につなげる前向きさこそ、
成長には欠かせない

――休日の希望も、働き方を考える上で重要なポイントですもんね。前編では「船橋本町校」の秋吉校長に「おとなの学校メソッド」について伺ったのですが、脇田校長が「船橋前原東校」で大切にしていることはありますか?

この施設ならでは、ということではないかもしれませんが、とにかくお客様(ご利用者様)に笑ってもらうことを大切にしています。

というのも、僕が今まで勤めていたところでは、みんなが一つの会話に参加して笑うっていう機会があまりなかったんです。もちろんレクリエーションはありましたが、それって一日のうちの数十分。あとは、それぞれ塗り絵やドリルなどを各々やっていただく形になってしまうので、会話や笑いが起きるのはせいぜい数人のグループ内でのこと。

でも「おとなの学校」なら、1日4コマの授業に基本全員が参加します。そこでは一つの話題についてみんなでおしゃべりしますし、思い出話を聞いて笑いも起こる。もちろんその思い出話をいかに引き出すかが、我々先生(スタッフ)側の努めにはなるのですが、会話が弾み、みなさまに笑顔になっていただくことこそ、この施設において最も大切にすべきことだと思っています。

――素敵ですね。ちなみに、新しくスタッフさんが入られた時など、どのように指導されるんですか?

僕は基本的に、あまり指導をしません。もちろん悩みを抱えていたら相談に乗りますしアドバイスはしますが、そもそも授業のやり方に決まりはないので、「こうして」「ああして」ということはあまり言わず、なんならすぐ「じゃあ、授業やってみようか」と、実践の場に立ってもらいます。

そもそも僕自身、授業の予習をしないんですよ。もちろん教科書を見て、「今日はこの内容ね」と確認はするんですが、あとはその場の流れ。授業開始時の話から最終的には全然関係ない話に飛んでしまって、「黒板に書いてあることは全然違いますが、この授業は一応理科ですよ」っていうことはしょっちゅうです(笑)

――楽しそうですが、新人さんには少々難しいような……(汗)。

たしかに、人によっては「先輩の授業風景をもっとしっかり見て、勉強してから実践に進みたい」「ちゃんと予習をしないと不安」っていう人もいると思います。そのために「先生用」の教科書もあるので、その辺りはある程度カバーできているのではないのでしょうか。

ただ、これはあくまで僕の考えですが、たくさん予習して、準備して、いざやってみたら思ったようにできなかった、となると落ち込みませんか? でも、気楽に構えてチャレンジしてみて失敗したら、「最初だもん、仕方ないよね。次頑張ろう」って思えると思うんです。意外とうまくいったら、それはそれで次回のモチベーションにもなると思いますし。

――たしかに。

そもそもここでの授業は、勉強を教えたいわけではなく、回想法をベースにした「思い出話に花を咲かせる」というのが重要ですから。その方法は教えられてどうこうなる技術ではないので、実践あるのみだと思います。

スタッフの感情はご利用者様にだだ漏れ⁉︎
求められるのはエンターティナーな役者魂

――実際にやってみて、次はこうしよう、ああしようと考えるのも、スタッフさんの成長につながりそうですね。せっかくなので、介護士を目指している読者にも、なにかアドバイスをお願いします。

自分自身が楽しむ気持ちを忘れないことだと思います。お客様は、我々が思っている以上に我々の感情に気づいています。楽しいと思っていなかったら、それがそのまま伝わっていると思ってください。

なので、ここなら授業、他のデイサービスならレクリエーションになると思いますが、常にエンターティナーでいること。要は役者です。自分自身が心から楽しんでこそ、お客様にも楽しんでいただける空間が作れると思います。

あと、これからまさに介護士の勉強を〜という人に言えることは、やはり第一関門である「排泄介助」が乗り越えられるかどうかではないでしょうか。

――避けては通れませんね。

とはいえ、「なんとかクリアした」ではダメです。嫌々やっていたら、その感情は必ずお客様に伝わりますし、羞恥心への配慮ができているとは言えません。一つの目安としては、お客様の排便で自分自身も「すっきりした」という気持ちになれるかどうかだと思います。

みなさん、自分の排便に「嫌だな」とは思いませんよね。「すっきりした」と思いますよね。それをお客様の排便でも感じられるかどうかじゃないでしょうか。

――なるほど。ちなみに、脇田校長の介護職のやりがいってなんですか?

月並みですが、お客様の笑顔が見れた時、楽しいと言ってくれた時は、やはり「この仕事やっててよかったな」と思いますね。

あと、「これがなかったら僕は介護の仕事を続けてこられなかったな」というエピソードがあります。

特養で働いていた時なのですが、要介護5で車椅子生活をされているご利用者さまがいたんです。当時排泄はパッドにしてもらっていたのですが、「布パンを履きたい」という目標を持って努力されていました。

そのために、時間を決めて頻繁にトイレに行き、何度もトライしていたのですが、あるときタイミングがピタッとあって、トイレで排泄ができたんですね。それをきっかけにうまくいく回数が増えて、最終的に布パンで生活できるようになったんです。

これは利用者様の成功体験ですが、私の成功体験でもあって、すごく記憶に残っています。介護職って、どんなに綺麗事を言ってもやはり大変なことが多い。でも、この成功体験があるからこそ、私はこの仕事を続けられていますし、これからも続けていきたいなと思っています。

――ありがとうございました! 最後に「介護士の心得3箇条」を教えてください。

・笑顔でいる
・介護ではなく援助する
・相手の立場を考える

仏頂面でいる人に、体を任せたいとは思いませんから、やはり笑顔でいることが大切です。

あと、「介護ではなく援助」ですね。私たちは「介護士」ではありますが、介護だとその人のすべてをやることになります。これだとせっかく自分でできることも奪ってしまうことになりかねません。あくまで私たちは、その方ができないことを援助するだけ。手伝うだけ。やりすぎは禁物です。

「相手の立場を考える」はそのままですね。例えば入浴介助だとして自分だったらどうしたいですか? ゆっくり湯船に浸かりたいし、洗うのも洗われるのも嫌ですよね? となれば、こちらの行動も自然と変わってくると思いますよ。

取材・文/児玉知子
撮影/喜多二三雄

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