野沢道生 interview:美容師になったきっかけ……。そして挑戦は続いていく
雑誌やTV、ヘアショーなどでの活躍や様々な美の商品開発で、今や美容師を目指す人でその名を知らない人はいないほどのトップヘアスタイリスト、野沢道生さん。30年以上のキャリアを持つ野沢さんが、ここに至るまではどのような道を辿ったのか。美容師を目指すリジョブ読者に語っていただきました。
美容師ってカッコいい! 純粋にそう思った
「僕の子供時代は、映画『ALWAYS』みたいな『ザ・昭和!』という時代でした。ところがある日友だちの家に行ったら、家の中には大きなスピーカーがあって、庭には芝生があって、お父さんは髪が長くて、破れたジーンズなんか履いて、それまで見たことがないほどのお洒落な家庭だった。 そのお父さんが美容師だったんですね。その印象は強烈でした。美容師ってカッコいい!と純粋に思いました。 その後成長して進路を考える頃になって、母が昔美容師をやっていたこと、自分のやりたいこと、やれることなどいろいろ要因はありましたが、ひとつにはその子供時代の印象があったように思います。結果、美容学校へ進んでいきました」
とりあえず、景色の変わるところまで行ってみよう、と思っていた。
「辞めたいと思ったことは、もちろんあります。それはもう、全然あります(笑)。美容学校では上手かった方で、全校生徒や先生の前で実演したりもしていました。なので、技術に関して多少の自信はあったんです。でもそんなの関係ないですね。最初の半年は、もう毎日辞めたかった(笑)。 美容学校は2年制。僕がインターンの頃、大学に進んだ友人たちはバイトしたりコンパに行ったり、夏休みに海外に行ったりしている。その一方で、こっちはサロンが終わってからも練習で、朝から晩までずーっと美容のことばかり。あの時代はきつかったなあ。 なぜ辞めなかったのかというと、ひとつは一人前の美容師になるという夢があったこと。あとは、単純に我慢をしたからでしょうね。辞めるのはいつでも辞められる。とりあえず今日はやってみよう、明日また考えよう。今日は我慢しよう、明日考えよう、って。その繰り返しで、とりあえず景色の変わるところまで行ってみよう、と思っているうちに、半年も経てば楽しくなっていました。 今思うと、成長のためには絶対に必要な時間でしたね」
短い時間でお客さまに貢献できる仕事
「半年ほど過ぎると、だんだんできなかったことができるようになってくる、先輩に『シャンプー上手いじゃないか』なんて褒められる、そして何よりも、お客さまが褒めてくれる。やっぱりそれが楽しかったですね。最初にリピートしてくれたお客さまのことは今でも覚えています。当時はまだまだ技術的は熟してなかったと思うんですが“気にいったわ”って言ってくれて、1ヵ月後にご指名をいただきました。嬉しかったなぁ。 例えば伝統的な技術を伝える職人さんなどは10年修行をしないとお客さまの前には出せない! みたいなイメージがありますが、美容師は比較的短い期間で、お客さまへの貢献が果たせる仕事だと思います。 このサイトを見る方は、業界に入って1~2年の方が多いのかな。その期間で辞めてしまう美容師さんも多いですよね。でも、最初の1年なんてフルコースでいえば、まだ前菜の時間。辞めちゃうのはもったいないです。これからどんどん楽しいことが、メイン料理が待っているのに(笑)!」
美容室にいることが、何よりも楽しい時間に
「自由な時間がないことがストレスになるという声も聞きます。でも、時間は作るもの。たとえば、旅行に行けないってことがストレスになるんだったら、行ってしまえばいいと思います。僕が若い時は、夜9時にお店が終わってから車でスキーやスノボに行って、温泉入って、2~3時間寝て、次の朝から仕事をしていました。 『一人前の美容師にはなりたいけど、でも遊びに行けないし』『自分の好きなこともやりたい』と悩んでいるなら、好きなこともやって、美容師も辞めなければいい(笑)。身体のことも考えつつ、両方続けていけばいいと思います。 無茶なことを言っているわけではないですよ。自分の時間と仕事のバランスを取ることは絶対にできます。そうこうしているうちに、遊びに行くよりも何よりも、美容室にいることが一番楽しいことになってきますから(笑)」
必要なのは「お客さまを理解しようとする心」
「僕は、比較的最初の頃からご指名をいただけたんです。そのへんは順調でした。今と比べると技術はつたなかったですが、そんな若造でも気にいっていただけたのは、たぶんお客さまの好みや要望をくみ取ることが上手かったんだと思います。僕が注文を言いやすいタイプなのかもしれないですね。ありがたいことです(笑)。 美容師は、接客業でもあり、クリエイティブ性もあり、アーティスティック性もあり、スタイリスト的なトータルバランスを見る力も必要です。美容師になるために培うべき基本的な能力は、『お客さまを理解しようとする心』なのかもしれません。 それを身につけるには、若いうちに友だちとよく遊んで、ひとりひとりときちんと向き合うクセをつけることが大事なのかもしれないですね」
美容師は、やればやるほど楽しくなる仕事
「美容師は、華やかでありながら裏方として厳しい仕事です。でも、やればやるほど楽しい仕事でもあるんです。インターンでもトップスタイリストでも、その時その立場での楽しいことがある。美容師さんて本当に勉強している人が多いんですよ。 どんな業種でも勉強している人としてない人がいるでしょうが、ここはアベレージの高い業界だと思います。カラー、技術、社会常識やマナー、着付けや肌医学など……。勉強や練習をすればするほど道が開けていきますから。どんな仕事でも経験を積んで技術が向上すれば面白くなってきますが、道が伸びていくだけではなく、広がっていくんです。 僕は今、新人タレントさんのプロデュースに関わったり、ルーブル美術館でヘアショーを行ったりしています。美容師になりたての頃は空想さえもできなかったことが、現実になっている。自分がサロンの運営に関わるようになり、美容師育成のための受け入れ体勢を整えることも考えるようになりました。僕たちのような先輩も頑張りますから、若い人たちも夢と誇りを持って仕事に就いて欲しいですね」
ルーブル美術館でのヘアショー
「一昨年、上海にサロンを開きましたが、将来的にはパリやミラノにも店舗を持ちたいと考えています。あと、今年の3月にパリのルーブル美術館でヘアショーをやったんですよ。『アートからモードへ』というコンセプトで、ルーブル美術館に所蔵されている美術品……ミロのビーナスやモナ・リザなどからインスピレーションを得たイメージを、モデルさんの髪で表現していきました。 その時代ごとのファッションアイコンが、時代の息吹を取り入れ新しいスタンダードとなっていく。女性にとってのヘアスタイルの重要性を改めて確認できたショーでした。おかげさまで大好評で、来年もやることになりました。 そういうヘアの歴史を残していくための試みも、随時行っていきたいですね」
「おしゃれ」は心を豊かにする。東北仮設住宅を回って
「また、東北の仮設住宅を回って髪型を整えるキャラバンも定期的に行っています。実は母方の親戚が福島なんです。あの震災が起こり、何か手助けしなくちゃいけないと考えました。がれき撤去でも何でもよかったんですが、僕が行って喜んでもらえることってやっぱり髪に関することだろうと思い、ヘアセットを行うことにしました。 現地の美容室さんの復興を邪魔しないように、髪を切ることはしません。最初は一人でやっていたんですが、TV局さんに声をかけていただいて、今は美容チームを組んで回っています。お洒落をするとその一日が楽しくなるでしょう。髪の毛を整えるだけで、心が豊かになることってあると思うんです。なかなか外に出たがらなかった人が仮設の集会所に来てくれたこともありました。 『おしゃれっていいな』と思っていただいて、少しでも元気になってもらえたら、こんなに嬉しいことはありません」
髪を変えれば、人生が変わる
「何度も言いますが、美容に関わる仕事はやればやるほど楽しい仕事です。髪の毛が変わると、人生が変わるんです。大げさに聞こえるかもしれないけど、僕はそういう現場を何度も見てきました。人ひとりの人生が花開く瞬間に立ち会える、もっと言えば、そんな瞬間を作りだすことができる。それは感動的ですらあります。 これから美容師になりたいと思っている人、また、もっと向上を目指している人がいたら、ぜひ足を踏み出してほしい。一緒に、業界を盛り上げていきましょう!」
Profile
野沢 道生(のざわ みちお)さん
ヘアロンNozグループCEO 独自の美容理論美容業界を牽引している、トップヘアスタイリスト。一般人から芸能人まで、幅広い顧客層から絶大な支持を集めている。 有名美容室ACQUAの代表を経て、2010年六本木ミッドタウン前にヘアサロン「Noz」をオープン。
Shop Data
Noz Roppongi
「最の満足」を作りだす 1人でも多く、世界中の人々の「美しい」を作りたい。それが、Nozのコンセプト。「最高のクリエイティブ」と「最高のホスピタリティ」でお客様をもてなす、日本を代表するヘアサロンです。 ◇渋谷公園通り店もオープンしました! ますます広がるNozワールドを、ぜひ体感してください。 詳しくはNozのサイトをご覧ください。
Noz Roppongi 東京都港区六本木7-8-6 AXALL ROPPONGI 2F/3F TEL:03-5414-2100 時間 10:00~23:00 日曜 10:00~19:00 HP:http://noz-hds.com/