教育者の立場で、美容師の地位や価値向上に取り組んでいきたいと思っています。
この世に手業を生業にしているサービス業はどれぐらいあるのでしょうか?手一つで人を喜ばせたり、疲れを取ったり、美しくしたり、癒やしたり・・・。これってすごいことですよね。
このコラムは、手業を生業にしている美容からヘルスケアの業界の方々にフォーカスをしたプロフェッショナルインタビューです。その人の手が語る物語をお楽しみいただければ幸いです。
モアリジョブ編集部
私の手にしか、できないシゴト。 岡本紋佳さん
――美容師を目指したきっかけは?
岡本 単純に、最初はかっこいいなと思いました(笑)。中学生の時に、初めて行った近所の美容室で、担当してくれたお兄さんが、すごいキラキラしていたんですよね。それまでは、床屋さんに行くか、家でバリカンを使って髪の毛をカットしていたので、美容室に行った時は、すごく感動しました。いつもと違う髪型になって「自分もかっこよくなれたのかな」「美容師さんいいな」と思ったきっかけですね。
――美容師になる夢は、中学生の頃から変わりませんでしたか?
岡本 高校が進学校だったので、親は美容師になることを反対していました。親の反対もあり、建築関係とか設計士なども進路先として考えたことはありました。最終的には、美容師のように人と接する仕事がやっぱり良いなと思い、美容師を目指しました。
――美容師になったばかりの頃のお気持ちは?
岡本 念願の美容師になったこともあって、すごく楽しみでワクワク、ドキドキしていました。美容師になった時は、夢が叶ったこともあって、ふわっと光が差してくる感じでした。「やっと美容師になったんだ。」って嬉しかったですね。
――美容師になってからの失敗談を教えてください。
岡本 お客様の名前を間違えて呼んでしまったことですね・・・。美容師になりたての頃は、お客様の名前を覚えるのに慣れず、苦労しました。お客様の顔を見れば「あの方だ。」って分かるんですけど、名前がすぐ出てこない・・・。流石にまずいなと思い、一からカルテを見直して、お客様全員の名前を覚えるようにしました。
――岡本さんの成功談をお聞かせください。
岡本 成功談というか、印象に残っているお客様の話です。そのお客様は、物凄く気が強く、ご要望もはっきり言われるマダムの方でした。お客様のタイプを見て、弱気で行ったらダメだと思い、難しいご要望に対しても「できますよ。」と、クールに対応していました。その日は、何事もなく終わり、お客様も満足して帰られました。その後も何回かご来店いただきました。ご来店の度に、色々とご要望をいただき、こちらもそのリクエストにお応えし、また満足して帰られるを何度か繰り返していました。4、5回目のご来店の際に、「今日はもうあなたに任せるわ。似合うようにして。」とおっしゃってくださいました。そのお客様のお声をいただいて、「勝ったな」「成功したな(スタイルが)」って思いましたね。お客様と戦っていたわけではなかったのですが、そんな感情が出てきましたね。あの時は、美容師としてお客様のご要望にお応えすることができ、本当に嬉しかったです。
――思い出に残っているお客様はいらっしゃいますか?
岡本 デビューして初めて入客したお客様は、やっぱり印象に残っていますね・・・。
そのお客様は、髪の毛にクセがあって、美容室に行くとスタイリストから必ず「長めで重めの方が髪の毛が収まっていいですよ。」と提案されていたそうです。私はそのお客様の顔を見て、ショートスタイルがお似合いだと思ったので、「お客様だったら、ショートスタイルでこういう感じも良いですよ。」と思い切って、他の美容師とは真逆のご提案をさせていただきました。言った時は、緊張しましたね。お客様は、「今まで言われた事なくて不安だけど、やってみようかな。」って任せてくださいました。「絶対に素敵にしよう」と思い、仕上がりまでに時間はかかりましたが、お客様には、すごく気に入っていただきました。初めてのお客様でしたが、信頼関係を持つことができ、その後の自信に繋がりました。そのお客様は、新規の方でしたが、その後もずっと私をご指名していただき、サロンに通ってくださいました。
――美容師から教育の道に進まれた経緯を教えてください。
岡本 当校の副教頭の米山が、地方にガイダンスに行くついでに、私の勤めていた静岡の美容室に、何度も顔を出してくれました。その度に先生とは、色々な話をさせていただきました。先生とお話しすることで、「教える側になりたい」という思いが、どんどん強くなりました。それから何度か先生にお会いする機会があり、その度に「先生になりたい。」と話をしていました。米山先生の協力もあって、国際文化理容美容専門学校の採用に繋がり、念願の『先生』になることができました。
――そもそも何がきっかけで先生になりたいと思ったのですか?
岡本 元々、学校の先生になるのも夢の一つでした。高校生の時に尊敬する先生がいて、その先生みたいになりたいなと思ったこともありますし、国際文化理容美容専門学校に入学してからは、学校の先生がカッコいいなと思いました。特に、コンテストに先生方も出場していて、生徒と一緒になって頑張っている姿を見て、自分も教える側になりたいなって思ったんですね。教員になった今は、私も生徒と一緒になって、コンテストに出場しています。
――コンテストですか?
岡本 コンテストで頑張っている姿って、学生に一番分かってもらえると思うんですよね。生徒の成長を見る度に、背中を見せることの重要性をとても感じています。今後もコンテストへの出場は、ライフワークの一環として続けていきたいと思っています。
――美容師の仕事を辞めたいと思ったことはありますか?
岡本 上手くいかなくて、辞めたいと思ったことはありました。でも、本気で辞めたいとは、思いませんでした。誰しもが一度は経験すると思うのですが、上手くいかない時は、今の状況から抜け出して、辞めて楽になりたいって。でも、辞めた時のことを想像すると、辞めたら何も残らないなって答えが出てくるんですよね。最初の1、2年は、これの繰り返しでした。私は、親の反対を押し切ってまで美容師を目指したので、これで辞めたらカッコ悪いなって、思いながら過ごしていました。
――この仕事を続けられている理由は?
岡本 美容が好きだからですね・・・。この仕事は、ここまで出来るようになっから『終わり』っていうことがないんですね。技術もセンスも、時代時代に合わせて、永遠に追求し続けなければいけない職業だと思っています。だから、飽きないんですよね。学校も同じで、学生の入学と卒業を毎年繰り返しているだけと周りから思われるかもしれませんが、入学してくる学生のタイプも毎年違い、変化しています。一人一人の学生に対して、違うことを教えたり、感じさせたりしているんです。だからでしょうか、今度入学して来た学生にあれを教えようとか、コンテストで絶対に優勝させようとか考えてしまい、『やりがい』を感じているからこそ、辞めないで続けられているんだと思います。
――岡本さんにとってのモチベーションは?
岡本 学生が上達してくれるのが、まず一つ目のモチベーションですね。あとは、沢山の卒業生が、会いに来てくれることです。卒業生がこんなに来てくれる学校もないかな・・・と(笑)。卒業してからも、こうして関係が続いていていることは、学生時代に良い思い出が作れたからかなと、嬉しくなります。来校する度に、卒業生の成長度合いを聞けるのも、やり甲斐に繋がっていますね。学生たちの重要な土台作りに参加することでき、その学生の眩しい姿を見るのも、私のモチベーションになっています。
――恩師の方はいらっしゃいますか?
岡本 副教頭の米山先生です。自分が今ここにいられるのも、米山先生がいたからだと思います。今も何かあった時には、相談とかもちろんしますし、いつも頼りにしています。
――米山先生との印象に残っていることはありますか?
岡本 私は、両親の反対を押し切って専門学校に入学したので、学校の事は一切話すことがありませんでした。私がそんなんだからか、母親から米山先生に、よく電話がかかってきていたと、卒業してから聞いて驚きました。母は私を大学に進学させたかったので、「うちの子はどうなんですか?向いていなかったらすぐに大学に進学させます。」とよく言っていたそうです。2年生になって、私がコンテストで優勝したことがありました。私は別にそのことを両親に伝えることもしなかったのですが、先生が気にかけてくださって、両親に報告してくださったそうです。両親には、「結果出ていますよ。」「頑張っていますよ。」って毎回伝えてくださっていたそうです。先生が母親にそう伝えてくれていたお陰で、今では、すごく応援してくれています。
――将来の自分はどうなっていると思いますか?
岡本 この学校にいると思います。この学校の中でどうなっていくかは、まだ模索中ですね。ただ、ハサミはずっと持っていたいなって思います。今は教える側になっていますが、技術をずっとやっている、技術屋でいたいなと思っています。
――業界や美容師を目指している方に一言。
岡本 苦労して得た技術を、安売りしないでほしいですね。美容師が得る技術は、1日、2日で出来るものではもちろんないですし、何年やってもこれでOKというものでもない価値あるものだと思っています。
日本では、美容師の価値がものすごく低いと思うんですね。海外では、美容師の地位が高く、技術に対しての対価ももちろん高く設定されています。日本も海外同様、地位や価値が上がると、今みたいに辞める人も減るんじゃないかなと・・・。今すぐに日本における価値や地位を変えていくのは難しいと思いますが、自分の技術に誇りを持ってやっていれば、いつかは海外並みの評価を得られるのではないかと思っています。
学校の中で、「つくす心」という理念があります。『見返りを求めず、自分が相手のために何が出来るのか』という考えを表しています。私は、この思いを皆が持つことができれば、美容業界も良い方向に向いていくのではないかと考えています。それを実現するために、私は教育者の立場で、美容師の地位や価値向上の為に、尽くしていきたいと思っています。
School Data
国際文化理容美容専門学校国分寺校
住所:東京都国分寺市南町3-22-14
TEL:042-321-0002
https://kokusaibunka.ac.jp/overview/kokubunji.html