鍼灸師が開業するにはどうすればいい?開業に必要な手続きと流れを解説
鍼灸師にとって、独立開業は夢であり、目標であるという人が多いのではないでしょうか。一方で、独立開業は夢だけれど勝手もわからないし、当然の如くリスクも伴うし、と足踏み状態の人も多いのではないでしょうか。
おそらく、開業するためには資金が必要だということくらいは、皆さんご存知かと思いますが、開業に至るまでに具体的にどのような準備や手続きが必要なのかは知らない人がほとんどでしょう。
今回は、鍼灸師が開業するために必要な手続きを、流れに沿ってお伝えしていこうと思います。
鍼灸師が開業するには①|まずは設備構造基準を満たした場所を探そう!
鍼灸師が開業をするためには、まず設備構造基準を満たす場所を探す必要があります。この基準は法令で定められたもののほかに、自治体ごとにさらに設定されている場合があるため、必ず設置を検討している自治体に確認が必要です。
では、まず始めに設備構造基準について詳しく見ていきましょう。
出典元:施術所開設届出書留意事項
設備構造基準とは?
施術所などを開設する際に、構造の基準となるもので法令で定められています。また、これに加え自治体の基準が設けられている場合がありますので、設置を検討している自治体に必ず確認を行ってください。
法令で定められている基準
・66㎡以上の専用の施術室を用意する
・待合室は3.3㎡以上のスペースを確保する
・施術室は部屋の面積の1/7以上を外気に解放できる、もしくは十分な換気設備を用意する
・施術に用いる手、指、器具等の消毒設備を用意する
・常に清潔が保たれている
・採光、換気、そして証明を十分にする
関連法案|あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律
鍼灸師に関係がある法律として「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」があります。
中でも施術所の開設に関わってくるのは、第7条の広告に関するもの、第9条の開設の届け出に関するもの、第10条の構造設備に関するものでしょう。しっかりと目を通しておく必要がありそうです。
ここでは、後述する施術所の名称にも関わってくる第7条についてもう少し掘り下げて見ていきましょう。
知っておきたい、第7条の広告の規制
看板や印刷物など目に触れるものが対象となり、この規制を受けます。尚、もし広告可能な内容を広告する際も、その内容が施術者の技能や施術方法、または経歴に関する内容については広告することができません。
・施術者である旨、ならびに施術者の住所、氏名
・法律第1条に規定する業務の種類
・施術所の名称、電話番号、及び所在の場所を表示する事項
・施術日、または施術時間
・その他厚生労働大臣が指定する事項
1もみりょうじ、えつ、小児鍼、やいと
2開設の届け出をした旨
3医療保険療養費支給申請ができる旨
4予約に基づいた施術の実施
5夜間または休日における施術の実施
6出張による施術の実施
7駐車設備に関する事項
具体例としては、料金を表示したり効果や効能を表示したりすることはもちろんできませんし、また「〇〇流」という表記や「各種保険取り扱い」、「法以外の医業類似行為(例えば、整体、カイロプラクティック)」という表記も厳禁です。
指導基準の一例
法で定められている設備構造基準とは別に、指導基準というものがあります。今回は代表的なものをご紹介しますが、自治体によって異なる場合があるのでご自身でも最新の情報をご確認ください。
・施術所と待合室の区画を完全に固定壁によって仕切る
・施術所は構造上独立してなければならない
・プライバシー保護のため、ベッドごとにカーテンやパーテーションで仕切る
鍼灸師が開業するには②|店の名前を決めておこう!
開設予定の自治体に設備構造基準について確認を済ませたのであれば、次は具体的な施術所の名称について考えていきましょう。実を言うと、この名称を決めるのがまた決まり事が複数あり、結構大変です。
好きな名称をつけることができるというわけではありませんので、ルールに沿って決める必要があります。では、実際に名称を決める際のルールについて見ていきましょう。
認められない表現もあるので要注意!
施術所の名称には認められない表現があるため、事前に把握しておきたいものです。先ほどご紹介した「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」の広告の規制を受けるほか、医院などと混同させない工夫が大切でしょう。
実際に、名称に使用ができないものを下に参考として載せておきます。尚、病院などと混同させないためには「鍼灸」を名称に加えるのが好ましいです。
名称に使用できないもの
・〇〇クリニック 、〇〇薬局
・〇〇治療所、療院
・〇〇鍼灸接骨院
・はり科、きゅう科
・鍼灸整体院など
先ず、「科」という文字を入れることは出来ないので覚えておきましょう。更には、医療法や薬事法など別の法律に触れてしまうため、1番目の名称は使用できません。5番目に関しては、整体という認められていない行為が入っている為NGです。
尚、治療所や療院に関しては、はり、きゅうなどの文字を入れたものであれば認められます。そして柔道整復師法に触れてしまうので3番目のような名称も使うことができませんが、鍼灸院・接骨院と並記する場合は問題ありません。
鍼灸師が開業するには③|保健所で開設手続きをしよう!
施術所の名前が決まったら、いよいよ開設手続きへと移っていきます。これより施術所の開設に関する具体的な手続きの流れを、順を追ってご説明していきましょう。
①保健所への事前相談
まず、開設を検討し始めたら、施術所を開設しようとしている自治体の保健所に相談をします。
②開設
設備構造基準を満たす開設できる場所を見つけ、施術所の名前を考え、指導基準に沿った内装や設備を整えたら、ようやく開設することが可能です。
③開設届を提出
施術所を開設したら、10日以内に保健所へ開設届を提出しなければなりません。尚、手続きに必要な書類は以下です。
手続きに必要な書類
個人で開設する場合と、法人で開設する場合とでは必要書類が異なりますので、注意してください。
個人で開設する場合
・開設届 2部
・業務に従事する施術者の免許証コピー 2部
※原本も提示
・平面図 2部
※待合室、施術室、ベッド、換気装置、消毒設備の場所を記入
法人で開設する場合
・開設届 2部
・業務に従事する施術者の免許証コピー 2部
※原本も提示
・平面図 2部
※待合室、施術室、ベッド、換気装置、消毒設備の場所を記入
・登記事項証明書 原本1部とコピー1部
※発行から6か月以内のもの
・定款(寄附行為)コピー 2部
開設届の書き方
まず、様式に従って上から名称、開設場所、開設年月日、業務の種類の欄を埋めましょう。次に、業務に従事する施術者の氏名欄ですが、左から免許の種別、氏名、交付者名、免許登録年月日、登録番号と欄があるので正確に書くようにします。
・免許の種別:はり、きゅう
・交付者名:厚生労働大臣、東京都知事など
※はり師・きゅう師など複数免許を所有する場合は、それぞれ記入
次に、専用の施術室、待合室双方の面積と、外気に開放できる面積を記入し、それぞれ換気装置の有無を選択してください。その次に器具と手指の消毒設備について、実際に使用する消毒液の商品名を書くようにします。
尚、施術日時については下の記入例を参考にしてください。
月~金 10時~13時 15時~20時
土 10時~13時 土曜午後、日・祝休み
④立入検査
保健所に開設届を提出したのちは、届け出通りの内装、設備になっているか、常時清潔が保たれているか、などを確認するために立ち入り検査が実施されます。
⑤副本交付
無事に立ち入り検査をクリアしますと、副本の交付を受けることが可能です。目安として、スムーズに進んだと仮定して開設届の提出から1か月前後になります。
開業後に必要な手続きとは
独立開業後、ベッド数を増やすなど内装を変更したり、新たに施術者を増員したりすることもあるでしょう。また、新たに出張施術サービスをスタートさせるという将来ビジョンも考えられるのではないでしょうか。
このように、構造設備または施術者の変更の際には「施術所開設届出事項中一部変更届」を提出します。尚、構造設備の変更の場合は、変更後の平面図を添付し、施術者の変更の場合は免許証の原本と写しを持参しなければなりません。
また出張施術をスタートする際は、特に届出は必要ありませんが、施術所を開設せず、出張施術のみを行う場合は「出張施術業務開始届」を届け出る必要があります。最後に、開業後に想定される手続きについてまとめておきます。
開設後に想定される手続きリスト
・氏名の変更:戸籍謄本の提示、または免許証が既に書換済みの場合は免許証
・施術所の休止:施術所休止(廃止・再開)届を10日以内に提出
※休止期間は原則1年以内。
・施術所の再開:施術所休止(廃止・再開)届を10日以内に提出
※免許証の原本も併せて提示。
・施術所の廃止:施術所休止(廃止・再開)届を10日以内に提出
・施術所の名称等の変更:施術所開設届出事項中一部変更届を10日以内に提出
・施術所の所在地の変更:現行業務を廃止したうえで、新たに開設届を提出
スムーズな開業には事前準備が欠かせない!
スムーズな開業には事前準備が欠かせません。私たちは、開業資金や開業におけるリスクなどを考えてしまいがちですが、そもそも開設に至るまでにはこれらのことを考えるよりも先に詳細な下調べや、保健所との相談が必要です。
思い立ったら直ぐに開設できるほど簡単には進みませんので、 時間がかかることをしっかりと念頭に置いたうえで行動する必要があるでしょう。また、ここで学んだことを活かして出来る限りスムーズな開業を目指してもらえたらと思います。
終わりに、独立開業は、多くの鍼灸師の夢であり、目標です。だからこそ夢や目標のままで終わらないよう、開業後は将来性を見据えた経営が大切になってくると言えます。開業後に、慌てないよう開設前からしっかりと準備をしておきましょう。