【エステ業界動向】サロンの生存は人件費の使い方にかかっている!エステ業界に求められる働き方改革

突然ですが、エステサロンを開業した際の1年生存率、どのくらいかご存知でしょうか。なんと40%にも満たないと言われています。10年ではなんと10%程度です。

日本全体の企業の倒産件数は、2018年はバブル期1990年以来28年ぶりに低水準を記録しており、国内自体の景気や中小企業の風当たりは決して悪いわけではありません。エステサロンの倒産・廃業が多い理由としては、まずは無資格で運営でき、法人化しなくても開業しやすい点が挙げられます。

その証拠に、1年で60%の倒産があるもののエステサロン自体のトータル件数に大きな変化は見られません。非常に入れ替わりが激しい業界なのです。従業員を雇って開業されている企業も、個人で開業されている方も、これから開業する方も、人材の問題をしっかりと見つめなおす必要がありそうです。

エステ業界の雇用の現状や課題について、船井総合研究所でエステサロン専門のコンサルタントを務める、楠本文哉(くすもとふみや)さんにお話を伺ってきました。

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広がる都心部と地方の格差、危機迫る地方都市サロン


エステの場合はまず1年どう乗り切るかが第一関門になります。そして軌道に乗り規模が大きくなってきた際に第二の関門となるのが、人の問題です。現在、多くのサロンが人の問題によって行き詰っています。

人口減少に伴い、顧客の取り合いはさらに悪化し働き手は減少の一途なので、マーケット縮小が懸念されています。この数年、エステ業界全体の動きで見過ごせないのが、郊外の大型店舗の衰退です。

10年前くらいまで地方都市のエステの在り方としては郊外にドンと大型店舗を構えるサロンが主流のやり方だったのですが、最近は地方のサロンについてはかなり規模が縮小している傾向にあります。20万人都市程度の規模で地域一番店と呼ばれ8~10ベッドで800~1000万の売上をあげていたサロンが、人材の不足が進むごとに顧客の回転数も落ち、売上が目減りしていっている状況です。

人材については、エリアでの格差が非常に目立ちます。エステティシャンが都心部に一挙集中したことにより、地方の人材不足が深刻化しています。30代で活躍してたスタッフが40歳、50歳になり、若いスタッフが入ってこないのでそのまま衰退しているというサロンが多く見られます。

いわゆる地方のターミナル駅については、一昔前までは地元に根付いた大型のサロンや、大手のサロンが独占している状況でした。しかし、広いスペースをもっているからこそ、ベッドの回転率が落ちてしまうと命取りになります。

今までは若いスタッフがメインで顧客を回し、ベテランスタッフが常連客や新規顧客のクロージングを担当していましたが、メインで顧客を回せる若い層の不足により、新規の顧客を伸ばしていくということがなかなか難しくなっています。エステの中でも特に痩身を得意とするサロンの場合、非常に体力勝負であり年齢とともにさばける人数も減ってきてしまいます。

そういった経緯もあり、最近では大手のサロンも地方都市から続々と撤退をしており、地方のエステサロンの小規模化が目立っています。

エステ業界全体の人数の変遷としては、ここ10年で大きく減少は見られません。エステの専門学校の人数は減りつつあります。その背景としては、以前は日本エステティック協会の国内資格や、CIDESCOと呼ばれる国際エステティシャンの資格を保有しているかどうかが重要視されてきましたが、近年大手サロン以外はそこまでエステの資格保有にこだわりがなくなっていることも挙げられます。

無資格でも実力があれば問題ないのと、近年多くの手技や協会が増え、1dayレッスンでディプロマを発行するような協会も増えてきたので、気軽にエステにチャレンジできるようになったのも要因でしょう。そのため、エステティシャン全体の人数としてはそんなに変わらないのです。では、なぜ人が足りないという状況が発生してしまうのでしょうか。

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やめたいのではなく、戻れないエステ業界の現状


人数は減っていないのに、エステサロンが衰退していく原因としては、長く勤められないという点が一番の問題と考えられます。

エステサロンについては、予約時間帯が重複しやすい傾向にあり、特に平日の夜は仕事帰りの女性の予約が集中する時間帯です。OLの顧客層を多く持つサロンでは、夜の20時・21時を最終受付にして23時頃まで営業する店舗もあります。

エステティシャンはそもそも肉体労働な上、繁忙期は自宅に戻るのが日付をまたぐことも多く、非常に体力を使う仕事と言えます。そのため、結婚や妊娠を機にやめるケースが後を絶ちません。本人がやめたかったのかと言えばそうでもなく、仕事は好きだけど続けるのが難しいというやむを得ないという判断での退職が目立ちます。

エステ業界は業界規模自体が小さく、雇用する側が福利厚生をきちんと整備できていないケースが非常に多いのです。慢性的に人員が足りていないので、産休などで休ませた場合の補填要員がなかなか埋められないというのも福利厚生を整えられない原因と言えるでしょう。

また、一番の問題点は夜の勤務時間そのものです。そのため近年待遇改善のために人件費は上昇傾向にあるのですが、それでも応募が全然ないというサロンが多く見られます。

そもそも、エステサロン業界においては需要と供給が合致していないんです。給与自体は未経験でも20万、店長で28万からといったように割と高待遇なところが多いのですが、求める条件がかなり厳しいです。まず経験者が欲しい。勤務時間は10~20時、土日含む週5働く前提のような募集のサロンが非常に目立ちます。

それが都心の店舗ならまだしも、地方郊外の店舗だったりすると、もはや結婚もして子供もいてという方が多く、応募に至らないということになってしまいます。応募者の状況をくみ取れていないから、どんどん人材不足に陥っていきます。フレキシブルな勤務体制を作れるかどうかがサロン側の今後の課題でしょう。

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夜の営業がなくても売上は作れる!重要なのは人材を生かす戦略


人材不足については、本当にそのエリアに人材が不足しているということももちろんのことながら、それ以上に需要と供給の不一致の問題が大きいということがわかりました。大手のエステサロンでは、積極的に時短勤務を募集しているサロンもあります。

例えば、名古屋が本社のメナードフェイシャルサロンは時短ママをあえて募集し、子育ての息抜きにお仕事をしよう!というスタンスで未経験から育てています。副業も積極的に支援しており、専業主婦だけでなく、OLとのWワークでちょっとだけ勤務というのも歓迎しています。

13~18時の時短勤務で、保育園にも間に合う勤務時間で勤務をしているワーキングママもいて、午前中も夜も自宅にいることができるので、家事に支障が出にくい勤務時間と言えます。メナードとしては、元々特約店方式での営業ですので、お客様をたくさん抱えられるようであればゆくゆくはFC開業を目指してほしい、という視点もあるので門戸を広く開けているようです。

スリムビューティーハウスも産休育休制度の整備はもちろんのこと、産後に正社員とパート好きな方の勤務を選べるようになっており、ライフスタイルに合わせて働き方を調整できるようになっています。最近になって、子供の行事にもうまく参加できるよう半休制度もできたようです。大手のサロンに関しては産休育休はあったものの、復職後の夜勤務や土日勤務もあり、あまり活用されていないケースも多く、最近になってようやく整備も進んできました。

大手でもそういった状況なので、中小規模のエステはもっと対応ができていないことが容易に想像できます。下手をすると社会保険自体が完備されていないケースもあるため、働くサロンではきちんと確認をしましょう。他にも、エステティシャン自らが、この業界の産後の働きづらさに気づき、ママエステティシャンを集めてママサロンとして営業しているエステサロンさんもあります。

ママさんサロンは17時までの営業で、18時には店を閉めてみんなで子供を迎えに行くというスタイルをとっています。その店舗は客単価を一般的なサロンの1.2~1.5倍くらいとっていて、営業時間は短くても売上的には問題ないんです。時間の単価さえきちんととれていれば売上としては夜の営業がなくても十分に成り立っています。そして、求人はもちろんすぐに応募が来ます。

このように人材不足が深刻化する現代、お客様ありきではなく働く人にシフトするモデルは絶対に必要と言えます。働きやすい環境を整えてあげると結果的に良い人材が来るので、サロン自体もよくなってくるのでしょう。スタッフもやめずに長く働けるので、指名の常連客も付きやすくなります。

ママの場合、同じ目線での対応ができるので、子供を産んだばかりの専業主婦や、子持ちのママさんの集客もしやすいと言えるでしょう。例えば産婦人科で、スタッフが経産婦だと患者さんにもちょっとしたことでも気遣いもできるし、アドバイスもできるので重宝されています。

産後、骨盤の歪みや下腹部の痩身は誰しも悩み通る道です。産後ケアの骨盤痩せメニューや中年太りに特化するようなメニューを強化すれば、同じような立場の方も来やすいでしょう。経産婦だからこそ親身に乗ってアドバイスができ、お抱えサロンとして地域に根付くこともできるようになるのです。

法人化しているサロンは産休・育休への自治体助成金を活用するべし

国も、少子化の影響や働き方改革の一環で、出産に対しての助成金は積極的に行っています。ただし、あまり知られていないので該当するにも関わらず申告できていないケースもありますので一部ご紹介します。

<中小企業両立支援助成金>※平成30年度の厚生労働省の通達を参考にしています。
・育児休業等支援コース 育休取得時 28.5万円 職場復帰時 28.5万円

・再雇用者評価処遇コース:1人目 38万円 2~5人目 28.5万円
妊娠、出産、育児または介護を理由として退職した者が、就業が可能になったときに復職でき、適切に評価され、配置・処遇される再雇用制度を導入し、かつ、希望する者を採用した事業主に右表の額を支給します。期間が空いての復職でも適応になるようです。

・女性の活躍促進のための目標値を定め、公表し、達成した場合の加算
1企業1回限り:28.5万円

・女性管理職比率が基準値以上に上昇:47.5万円
女性活躍推進法に基づき、自社の女性の活躍に関する「数値目標」、数値目標の達成に向けた「取組 目標」を盛り込んだ「行動計画」を策定して、目標を達成した事業主に支給するものです。

もちろん、助成金なのでサロンの資本金や従業員規模などかなり細かな確認事項はありますし、年度によっても変更されてしまいますが、サロンであまり負担ができない場合でも、うまく条件が該当し国の制度を活用できれば、お金が支給される場合もあります。

産休の間のスタッフを新しく雇う場合、こういった制度を利用できるのか一度確認してみるのも手です。これは各自治体の管轄になるので、都道府県労働局雇用均等室への問い合わせが必要です。

自宅サロンだけじゃない、業務委託やレンタルサロンという選択肢


それでもやはりライフスタイルが変わってからも好条件で働き続けるというのはなかなかなく、非常に大変です。逆にライフスタイルの変化と共にフリーランスになるという手もあります。近年の働き方改革によって、副業やフリーランスでの働き方が各業界推進されてきました。

美容業界は元々個人事業主で働く方も多く、浸透も早かったので、フリーランスでも働きやすい業界であると言えます。やめてフリーで働く場合、大きく分けると3つの働き方ああります。

自宅をサロンにする

家賃のコストがかからないので結婚してからやっている方が多いのが自宅サロンでのエステです。自宅の場合、子供がいたり、ペットがいても安心して働くことができます。なによりも家賃もかからず交通費もかからないので手軽に始められるのがメリットです。デメリットとしては、自宅に他人を招き入れなくてはいけないので家族の了解が必要であることと、何かトラブルが起こった際に自宅の場合危険度が増してしまうということです。

元々サロンで勤めていて、指名の顧客だけを退職後にも施術するという場合には良いのですが、集客もしながらになると自宅の住所がWEBなどにさらされ、業者さんも自宅にきてしまうので特にお子さんがいる場合はしっかりと家族間で話し合う必要があります。あとは、物理的に1部屋必要になるので、ある程度余裕のある間取りでないと難しいでしょう。

業務委託で働く

業務委託の場合、サロンと雇用契約せず歩合給でお給料をもらうイメージです。リラクゼーションサロンに関しては完全歩合のところと、基本給+歩合設定のところがあり、エステの場合でも同様に60分の施術で数千円という形式で支払われます。完全歩合制の場合、効率よく稼げれば普通のパート以上の金額は余裕で稼げるでしょう。

ただし収入には波ができてしまうので、確実にいくら稼ぎたいというラインがある場合は、ベースの固定給を支払って貰えるサロンを探してみると良いでしょう。雇用ではないので、確定申告を自分で行わなければいけないというデメリットはありますが、機械での施術メインの場合だと自分で美容機器を購入するのはかなりコストがかかりますので、設備の整ったサロンで働くのがベストだと言えます。

レンタルサロンで働く

自宅サロンでの働き方に近くなりますが、自宅サロンのメリットとデメリットが逆転したのがレンタルサロンです。

自宅と違い、その都度場所を借りて施術することが多いので、お客様に合わせて施術場所を変えたり融通が利くのが魅力です。ただし、固定の勤務地を持たないので、しっかり働きたいと思った際の集客が難しいというデメリットはあるでしょう。こちらも固定客を持っている前提で利用するほうがよさそうです。

また、自宅と違い自分の移動があり、レンタルサロン側に何も置いていない場合があります。その場合はオイルやタオルなど施術に使う全てのアイテムを持参しないといけないので電車や自転車の場合結構大変だと言えます。アロマセラピストや、指圧系のセラピストであればそこまで大荷物にはならないので、リラクゼーションサロン出身のエステティシャンが利用することが多いです。

いずれにしても、自分のどのくらいの顧客がいるのかと、家庭の状況を把握してうまく使うことができれば、仕事量の調整がきくフリーランスは非常に快適です。今後は売れっ子のフリーのエステティシャンが幅をきかせる時代もくるかもしれません。

出典元:
sainomarketing 「起業5年以内に8割が廃業?」個人事業主・会社組織の生存率・廃業率【調査データ】
中小企業庁 2019年版小規模企業白書
メナードフェイシャルサロン
スリムビューティーハウス(ホットペッパービューティー総研の産休・育休取材)
厚生労働省 中小企業両立支援助成金

Profile

楠本文哉さん Fumiya Kusumoto

船井総合研究所の中で最もエステ業界に精通し、船井総研の中でもエステ業界のクライアントを最も多く抱えるエステ専門のコンサルタントである。 得意とするテーマは、「WEBを活用した集客・見込み客の最大化」、「多種多様な業種からのエステ事業への新規参入支援」である。 現在は、年商2000万円の企業から年商30億円の企業クラスまで、年間300回を超える個別コンサルティングを全国で行っている。 常に地域1番店を作るためのコンサルティングは顧問先様から好評を得ており、個別コンサルティングの依頼は1年先まで埋まっている状況である(2019年1月現在)

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