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特集・コラム 2019-10-23

私の手にしかできない仕事 Work.2/パーソナルトレーナー・柴雅仁(前編)

3年前に第一三共ヘルスケアが全国の30~40代の男女5,000人を対象に実施した『肩こりと腰痛に関する意識調査と実態調査』で73.5%の人が「肩こりは国民病」と答えました。また、67.0%の人は「腰痛も国民病」と答えています。

そんな国民病をはじめとする体の不調の原因をわかりやすく解説し、痛みを取り除く即効性のあるストレッチ動画を公開して大きな反響を呼んでいるのが、今回登場いただくパーソナルトレーナー・柴雅仁さんです。

月間10~20万PVの痛みのない動ける体をつくるためのWebサイト『セルフケアラボ』を運営し、Twitterのフォロワー数も11万人超と情報発信にも長けている、柴さん。近年、パーソナルトレーナーの認知度が高まり業界が飽和しつつある中で生き抜いていく秘訣は何なのか? 10月に『10秒で絶好調になる 最強のストレッチ図鑑』(SBクリエイティブ)、『3コマまんがですぐできる 10秒ゆるみストレッチ』(主婦の友社)も上梓(じょうし)される柴さんの「私の手にしかできない仕事」について、お聞きしました。

「体軸理論」で切り拓き続けるパーソナルトレーナーの道

——パーソナルトレーナーを目指したきっかけを教えてください。

高校生になって進路を考えなければいけない時期に差し掛かったとき、「運動が好きだから」というざっくりとした理由で、横浜リゾート&スポーツ専門学校に進学することを決めました。運動自体は小さい頃から好きでしたね。

入学後、スポーツ系の学校ということもあり、勉強をしながらフィットネスクラブでアルバイトを始めてみたんです。そこで、初めてパーソナルトレーナーという職業を知りました。自分が当時筋トレにハマっていたのもあって、トレーナーさんと積極的に話していくうちに「かっこいい職業だなぁ」と思いましたね。「単純な憧れ」が最初のパーソナルトレーナーに対する印象でした。

専門学校卒業後は一度スポーツジムに就職しました。けれど、体のことをもっと深く知りたいという思いが大きくなって、1年過ぎた頃に辞めてしまったんです。そして、鍼灸師の資格を取るための新たな勉強と同時並行でパーソナルトレーナーとしての活動を始めました。23歳の頃ですね。

ただ、活動し始めた当初はお客さんがついては離れの繰り返しが続いて、どんどん生活が苦しくなってしまって……。鍼灸師の資格が取れたときにパーソナルトレーナーを一度辞めているんですよ。もう、鍼灸整骨院に就職しようかなと……。

——その後再チャレンジされるわけですが、一度挫折した直後の心境はどんなものだったのでしょうか?

辞めた後、鍼灸整骨院で働き始めるんですが、「鍼灸師の資格を持っているんだから大体のことはできるでしょ?」の視線で見られるんです。これがつらかったですね。「何だ、大したことないね」といった感じのことも言われました。

確かに、鍼灸師の資格は取っても整骨院で働いた経験はありませんでした。しかし、夢を諦めて落ち込んでいるときだったので、追い討ちをかけられたような心境というか……落ち込みましたね。ただ、自分がパーソナルトレーナーを辞めたがゆえの出来事なので、自分の考えが甘かったんだなと思います。

——そこから這い上がれた理由を教えてください。

あのときは、「もう、業界から足を洗おう」とまで考えていました。業界からいなくなって、普通に他社に就職しようかと。それを母親に相談したんですよ。そうしたら、「もうちょっとやってみたら?」と、さらっと返されたんです。たった一言なんですけど僕にはすごく響いて……。多分、自分自身まだパーソナルトレーナーに挑戦したい気持ちが奥底にあって、本心は誰かに背中を押してもらいたかったんだと思います。それがたまたま母親の一言だったんでしょうね。

そこから、「30歳までは頑張って続けよう」と決め、「30歳までにうまくいかなかったら、諦めて就職する」と自分を納得させたのが、25歳のときでした。そこから、僕なりに挫折を振り返った結果、「自立していない」状態が原因ではないか、という結論に行き着いたんです。25歳まで、ずっと実家暮らしでぬくぬくと生活していましたから。マインドも自立とは程遠かったです。

そこで、「一人で稼がなければならないんだ!」という危機感を持つために、独り暮らしを始めることにしました。「やらざるを得ない状況」に自分を追い込んだことで、初めて大きくマインドが変わった気がします。「パーソナルトレーナーでやっていく!」と踏ん切りがつけられたのは、自発的に環境を変化させたのが大きかったですね。

——月間10~20万PVの『セルフケアラボ』ではいくつもの「正しい体の使い方」を紹介されています。

パーソナルトレーニングでお客さんが良い方向に変わっていくのを見ているうちに、「この情報を一定の場所だけにとどめておくのは、もしかしたらもったいないんじゃないか?」と思うようになり、運営を始めました。もっと多方面に価値を提供できるんじゃないかなと。とはいっても、『セルフケアラボ』で発信している内容はあくまで痛みをとり、ケガをしない、動ける体をつくるきっかけ、です。自分で自分の体をケアできるようにならなければ、本当の意味で体は変わりません。

一方で、僕が直接診る場合は、その人の体に合ったケアがわかります。具体的には、体の状態を全て診て、症状を聞いて、実際に動かしてみて、動きが悪い部分や痛みの加減を知ると、体のどこが悪いのか明確にできるんです。その過程を経て「あなたの悪い部分を良くするためには、こういうことをやった方がいいですね」と提案していきます。

ちなみに、僕のTwitterで公開しているストレッチは、セッションで最初にやる「さわり」のようなもので、その中でも本当に簡単なものを数秒の動画で共有しています。

柴さんがTwitterで公開しているストレッチの一例(動画からキャプチャ)

——そのTwitterで公開されているストレッチは結構な種類がありますが、一人ひとりの症状によって施術も大きく変わるのでしょうか?

実際に診てみないとわかりません。同じ原因のケースもあれば、そうじゃない場合もあります。一例を挙げると、体の固まってしまっている部分と動きの悪い部分はある程度同じなのですが、肩の痛みをよくよく診ていくとみぞおち付近の固さが原因になっている場合もあります。他にも腰痛の原因が足首にあるケースもありますね。

——柴さんの「診る」方法を教えていただきたいです。

ベースにあるのは「体軸理論」です。体軸理論では、まず自分の体を正すことから始まります。体を正すためにインナーマッスルを自在に使えるように修練する。そして、少しずつインナーマッスルが使えるようになってくると自分の体の軸が整ってきて、体と同時に感覚も研ぎ澄まされるようになってきます。

このように自分の中で「体軸」ができると、相手の体の整っていない部分、つまり悪い部分がわかるようになるんです。もちろん、相手の症状を聞き、体を動かしてもらって動きにくい部分を特定するんですが、そうしなくても感覚でわかるようになります。

体軸理論は、人間の反応を応用しているようなものです。例えば、僕はタバコの煙が苦手なのですが、その煙が近くにあると体から力が抜けてしまうんですよ。それと同じような例だと、好きな女の子からの声援があったら力が出ますよね。嫌いな先生の授業だとやる気が出ないとか。そういった感覚で、体の良し悪しがわかるんです。腰痛の原因が腰から離れた足首に原因があることが瞬時にわかるというか。僕の場合、相手の悪い部分を見つけると力が抜けてしまいます。

パーソナルトレーナーとしての挫折と再チャレンジの紆余曲折。そして出会った体軸理論の解説をしていただいた前編。後編では柴さんの仕事観やオンリーワンになるためのヒントをお聞きします。

私の手にしかできない仕事 Work.2/パーソナルトレーナー・柴雅仁(後編)>>

パーソナルトレーナー・柴雅仁さん

 

横浜・蒲田を拠点に置き、体軸理論をベースにした関節痛の治療や体の使い方を指導している鍼灸師・NSCA認定パーソナルトレーナー・JCMA認定体軸セラピスト。年間セッション数は1,400~1,500。「自分の体は自分で正す」をコンセプトにした『セルフケアラボ』も運営している。Twitterのフォロワー数は11万人超(2020年10月現在)。2020年10月には『10秒で絶好調になる 最強のストレッチ図鑑』(SBクリエイティブ)、『3コマまんがですぐできる 10秒ゆるみストレッチ』(主婦の友社)を出版する。
Twitter:https://twitter.com/PT_shiba
『セルフケアラボ』:https://t.co/KCHh6B2ANa?amp=1

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