島唯一のセラピストとして生活に寄り添う場所作りを【島のほけんしつ 蔵kura 島根輝美さん】#1
地方でヘルスケア事業に携わっている方に、集客や売り上げアップのための取り組みについてインタビューする本企画。今回は島根県隠岐諸島の海士町にあるホリスティックケアルーム「島のほけんしつ 蔵kura」の島根輝美さんにお話をお聞きしました。
前編では、島根さんが島に移住して開業した経緯と、移住当初から現在までの活動についてお聞きします。
お話を伺ったのは…
「島のほけんしつ 蔵kura」代表 島根輝美さん
会社員と併行して、アロマの認定協会にてインストラクター資格を取得し、中医アロマやクレイ、陰陽五行論などを学ぶ。2015年、島根県隠岐諸島海士町に移住し、地域おこし協力隊に参加。2016年、「島のほけんしつ 蔵kura」をオープン。現在は、解剖学に基づいたホリスティック(全人的)な見方でのオリジナルケアをベースに、精油の販売、カフェの運営を行っている。
島根輝美さんのInstagram:@ama.hokenshitsu.kura
第二の人生でイメージしたのは「島のセラピスト」
――まずはセラピストになった経緯を教えてください。
以前は関西で一般の会社に勤めていて、プライベートでアロマセラピーなどを学び、ボランティアとして医療機関での施術などは経験しました。
本格的にセラピストを仕事にすると決めたきっかけは、娘が成人して、「これからは自分の好きなことをしていきたいな」と思ったからでした。そこで最初に浮かんだのが、「セラピストとして生きていきたい」という気持ちだったんです。
――そのタイミングで隠岐諸島に移住された?
はい。「じゃあ、どんなセラピストになりたいんだろう」と考えたとき、いわゆる一般的なアロマサロンのイメージが浮かばなくて。会社勤めをしながら活動していたときのように、医療機関や高齢者施設などで、人の生活に寄り添うような活動がしたいなと思いました。
そんなセラピスト像を抱いたときに、なんとなく「人口2000人ちょっとの島にセラピストがいてもいいじゃないかな」という考えが浮かんだんですね。
もともと隠岐郡海士町は私の両親の生まれ故郷で、子供のころから夏休みになったら遊びに帰ってくる場所でした。良くも悪くも人と人との距離が近く、医療体制が強いとは言えない島のことを知っていたので。そこにセラピストとして何か役に立てることがあるんじゃないかと思って、ここに移住することを決めました。
――では移住するときにはセラピストとしての起業を考えていたんですね。
そうですね。起業というほど「一生ここでやっていくぞ!」みたいな意気込みはありませんでしたけど(笑)。
地域おこし協力隊での活動を経て、港近くの蔵でケアルームを開業
――移住当初は「地域おこし協力隊」に参加されていたそうですね。これは起業のために?
いいえ、最初は「地域おこし協力隊」という制度すら知りませんでした。移住に向けて町の役場に相談したところ、地域おこし協力隊の制度を提案してもらって。
でも開業の足掛かりとして、参加して良かったと思います。任期は3年なんですが、その間は役場に籍が置かれるのでお給料が出ますし、家賃の補助などもありますから。
――任期の3年間では、どんな活動をしたんですか?
移住に当たって、セラピスト活動と地元の素材を使った商品開発を掲げていたんですが、やっぱり田舎なので「セラピストってなんだ?」みたいな感じで。だから当初、地域おこし協力隊の活動としては、商品開発の方をすすめられました。「よくわからないけど、島の素材を使った商品開発をしてくれるなら、それでいいよ」という感じだったんですね。
でも私の中では、商品開発はセラピストの活動がありきだったので、「まずはセラピストとして活動させてください」とお願いしました。なかなか理解は得られなかったんですけど、とりあえず高齢者施設に毎日入って、そこで入居者の方やスタッフさんのケアをさせてもらい、同時に商品開発も進めていったんです。
2年目には、空いていた蔵をケアルームとして使い始めて、高齢者施設に通いつつケアルームでの施術もスタートしました。任期の3年を終えて開業した今も、そのまま蔵を使わせてもらっています。
「よくわからない存在」から、地域コミュニティの場へ
――セラピストという存在が知られていない地方での開業は、地域に浸透するまで大変だったのでは?
ケアやセラピーというものを理解してもらうのは大変でしたね。でも「そういう人がいる」と噂になるのは、すごく早かったです。やっぱり住民同士のつながりが強いからですかね。
「あそこに入っている島根さんっていう人、マッサージしてくれるよ」とか「体のことアドバイスしてくれるよ」なんてクチコミが広がって。私の連絡先がわからない人から役場に電話がきて、「家まで来て欲しいんだけど」とか「訪問はしていないの」という話になったり。
数カ月でそういう状況になったので、セラピーの需要はとても高かったんだと思います。みなさん船に乗って本土に出たときに、ついでに整体に行ったりはされているんですよね。でも、結局その場限りですから。
多分、みなさん「島では無理」と諦めていただけで、本当はこういったケアの場所を求めていたんだと思います。そこに私というピースがうまくハマっただけで。
――セラピストとして島での活動に感じたメリットはありますか?
人が近いことですね。その人の生活も家族構成もトラブルも全部わかっているので、寄り添いやすいしケアがしやすいです。
でもこれは、マイナス面でもあるんです。みんなが知り合いですから、セラピーの中だけで知った情報か、みんながいる場での会話からの情報か、というのはすごく気をつけています。守秘義務みたいな部分は、都会以上に気をつけないといけないところです。
――では現在の活動を教えてください。
以前は高齢者施設での施術や、看護師さんから依頼を受けて訪問でのターミナルケアなども行っていましたが、コロナ禍以降は難しくなりました。だから現在はケアルームでの施術にくわえ、スタッフと一緒にアロマショップとカフェスペースの運営をしています。セラピストとしての仕事は、毎日2件は入っていますね。
地方でサロンを運営するために大切なこと3か条
島に移住してサロン経営をスタートした島根さんに、地方でサロンを運営するうえで大切なことを教えていただきました。
1.「理解してもらおう」と頑張らない、闘わない
2.自分が元気であること
3.みんなが知り合いなので、公私の区別をつける
後編では、売上アップや集客面での取り組みについてお聞きします。
取材・文/山本二季