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ヘルスケア 2023-03-09

障がいを持つ娘との生活のなかでアロマに出会い自宅開業へ【ナチュラルセラピー心緑 佐藤智子さん】#1

地方でヘルスケア事業に携わっている方に、事業運営のための取り組みについてインタビューする本企画。今回は宮城県仙台市を中心に活動している「ナチュラルセラピー心緑」代表・佐藤智子さんにお話をお聞きしました。

前編では、佐藤さんがアロマセラピーを始めたきっかけから、仙台市のご自宅で開業した経緯、理事をつとめる「一般社団法人地域福祉アロマケアラー協会」の活動についてお聞きします。

お話を伺ったのは…
「ナチュラルセラピー心緑」代表 佐藤智子さん

宮城県仙台市にて、植物療法のスクール「ナチュラルセラピー心緑」を運営。代表講師として活動する傍ら、「植物療法サロン心緑」主宰、「一般社団法人地域福祉アロマケアラー協会」理事として、アロマを取り入れた心身のケアを広く伝えている。

佐藤さんのInstagram:@_satokosato

娘との生活のなかで気づいたアロマの魅力

――まずはアロマセラピーに興味を持ったきっかけを教えてください。

2002年に生まれた娘は、ダウン症と心疾患を持っていました。当初は驚きと不安と戸惑いしかありませんでしたね。

生後14日で心臓の大手術をして、幸い命がつながりました。それで命がけで生まれてきてくれた娘を育てていこうと、夫婦で覚悟のようなものが芽生えたのを覚えています。しかし退院後も病院通いは頻繁に続いて。「こんなに小さな体に、これほどいろんな薬を与えていいんだろうか」とか、いろんなモヤモヤがあったんです。

「自分には何かできることはないかな」と思っていたときでした。たまたま以前、購入していたアロマセラピーの本をペラペラとめくったんです。そこに、ラベンダーに含まれている成分には睡眠にとって大切な役目を果たしているセロトニンという脳内物質を誘発する効果がある…ということが書かれていました。それを見て「アロマって、ただ癒やすだけじゃないんだな」と知ったんです

――アロマの自然療法的な面に触れたんですね。

ちょうど娘に眠剤が処方されて、「ただでさえ多くの薬を服用しているのに…」と思い悩んでいたので、アロマセラピーが少しでも役に立つのなら生活に取り入れたいなと興味がわきました。

娘と一緒に療育施設に通い始めると、いろんな刺激を与えるようにアドバイスをもらいました。そこでも香りを含めた五感の刺激や触れ合いの大切さを知って。そういったベースがあったので、ずっとアロマに興味は持っていたんです。でも学ぶだけの時間はなかなか取れませんでした。

その後保育をお願いできるようになり、すぐにアロマスクールを探しました。数時間ですが自分の時間が取れたので、そこでアロマを学び始めたんです。

子育てと仕事を両立するため自宅開業を決意

2013年からは自宅外にスクールをオープンしたそう

――アロマセラピーをお仕事にすることは考えていましたか?

娘の学校の送迎や世話をすることは必要だったので、会社勤めは難しい。でも、欲張りなのかもしれないけれど、仕事も子育ても、どちらもやりたい。それなら自営で、まず自宅で仕事をしたらいいんじゃないか、というのは考えていました。

その仕事をアロマセラピーに関することにしようと考えたのは、アロマを学んでいくなかで何度もアロマに助けられたり、有用性を実感して、誰かに伝えたいという気持ちが芽生えたからでした。まわりのママ友たちも子育てに一生懸命で疲れている人がとても多かったので、サロンや教室を自宅で開けたら誰かの役に立てるかもしれないという気持ちもありましたね。

それに、娘と全く関係ないことを新しい仕事にしたくなかったところもあります。娘が生まれたことは、何か自分にとって意味があるんだと感じて。だからアロマセラピーをライフワークにしたいなと思ったんです。

――だから仙台市のご自宅で開業されたんですね。当初はどのような活動をされていたんでしょうか。

2009年にサロン勤務などを経て、自宅で開業しサロンとスクールを併行してメニューを出していました。その他にお声がかかれば、出張サロンや外部講師などをすることもありましたね。徐々にスクールのほうが忙しくなり、サロンはやめてスクール一本で運営していくことにしました。そして2013年に、自宅外のスクールに移転したんです。

――現在はサロン活動も再開されていますよね。

コロナ禍になって、ちょっと神経が参ってしまっている人が増えたなと感じたので、逆にサロンももう一度やりたいなと思ったんです。ちょうどスクールの生徒として、とても素敵なセラピストさんと出会ったので、その方に委託して2020年からサロンも再開しています。

隣県の同志とともに福祉とアロマをつなげる活動も

タッチケアを学んだ、障がいを持つ方たちと一緒に
地域のイベントに参加することも

 

――もうひとつ、地域福祉アロマケアラー協会の活動をされているそうですね。

はい。アロマセラピストとして活動をし始めた当初から、福祉とアロマをつなげることができないかなという想いが、ずっと心にありました。ただ、具体的にどうしたらいいのかが、わからなかったんです。

でも、それを実践されている方が隣の岩手県にいらっしゃって。その方と幸運な出会いがあって、2016年に協会の立ち上げに関わらせていただきました。

地域福祉アロマケアラー協会では、特別なケアが必要な方々をアロマやタッチケアで癒やす方法をお伝えしています。また障がいをお持ちの方に、生涯学習の一環としてタッチケアを伝える活動も行っています。

――タッチケアについて、もう少し詳しく教えてください。

タッチケアとは、肌に触れることによる癒やしの手法です。マッサージは何か症状に対して様々な手技や手法でアプローチするものですが、タッチケアは非常にシンプルで、ただ触れるだけ。でも、その「タッチの質」がとても重要なんです。タッチケアをするだけで何故か心がじんとして、体がポカポカしてきたり涙が出たりする方もいらっしゃいます。

タッチケアをするうえで大切なのは、目の前の方を想う気持ちと、自分自身の心が安定していること。手からすごく伝わりますから、実は自分自身の在り方もとても大事です。そして、相手にきちんと向き合って、ただ優しく触れる。そういった「手当て」とも呼べるものが、タッチケアなんです。

――対象者を特別なケアが必要な方にしているのは何故ですか?

親子コミュニケーションのツールとしても役立つものですが、とくに力を入れているのは、障がいを抱えている方や高齢者、緩和ケアの必要な方など、療育や医療、介護の現場での活用です。ケアが必要な方々の場合、肌が弱い、痛みに弱い、感覚が過敏になっている、逆に鈍くなっている…など、いわゆるマッサージが適さないことが多いんです。

タッチケアは施術する側にもオキシトシンというホルモンが分泌されるため、施術する側とされる側、双方のラポール形成に役立ちます。そんな安心して触れ合うことができるタッチケアだからこそ、特別なケアが必要な方々にはいろんな意味で有効になるんです。

――障がいをお持ちの方に生涯学習としてタッチケアを伝える活動とは?

タッチケアの技術を習得することで、癒やしを「伝える側」になるという試みです。発達障害や知的障がいをお持ちの方たちにレッスンをしているのですが、まさに技術よりもハートを大切にしながら頑張っています。

――いろいろなかたちでヘルスケア事業に携わってらっしゃいますが、全体を通して大切にされている想いは何でしょうか?

「誰でも、どんな人でも、誰かの役に立てるものがある」ということでしょうか。それは、私が娘から教わったことでもあります。娘は周りを笑顔にする力を持っています。私の場合は、それがたまたまアロマセラピーやタッチングだったので、それを人に伝える仕事をしています。みんなが誰かの何かになれるし、笑顔を作ることができる。私のサロンやスクール、講座が、誰かにとってのそういう場所でありたいなと思って、さまざまな活動をしています


次回後編では、スクールや協会に人を集めるための取り組みや、地方でヘルスケアの仕事をするために大切なことをお聞きします。

取材・文/山本二季

Information

ナチュラルセラピー心緑
住所:宮城県仙台市青葉区昭和町2-23 ノーヴス・アーバンビル701
電話:022-341-6909

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