「お香」を広く普及させるため、香司を育てる薫物屋香楽認定教授の道へ【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.90 お香専門家・教授香司 石濱栞さん】#2
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。
今回は、お香専門家・薫物屋香楽認定教授香司(こうし)の石濱栞さんにインタビュー。石濱さんは、愛知県名古屋市にある願隆寺にてお香の文化を伝える活動を通して、癒しの効果も発信しています。
前編では、石濱さんがお香と出会ったきっかけや香司になった経緯、お香の癒し効果と歴史について伺いました。後編では、手づくり講座で毎月紹介しているお香の種類や現在注力している香司を育てることに注力した経緯について伺います。
お話を伺ったのは…
お香専門家・教授香司 石濱栞さん
お香の魅力に気づき、会社員として勤務しながら講座に通い、香司の資格を取得。副業として自身でお香の手づくり講座を経験したのち、香司の仕事に絞る。その後、願隆寺の住職と結婚、講座はお寺で行われるように。現在は、薫物屋香楽認定教授として香司を輩出することに力を入れながら、多数メディアにも出演するなどお香を伝えるため幅広く活躍中。
お香について深く知ってもらうきっかけとして、多種多様なお香づくりを提案
――お寺の講座でできるお香の種類を教えてください。
お香がどのくらい種類があってどんな使われ方をしているのか知るために毎月違うものを手づくりできるように組んでいます。
手づくりお香講座でつくるもの
1月匂い袋…調合した香原料を袋につめたもの
2月印香…型抜きをしてつくるお香
3月白檀のお線香…お彼岸に向けて。400年間も使用されている
4月煉香…香原料を調合し、蜜で丸薬状に練り固めたもの
5月防虫香…天然香原料を調合して作る虫よけ剤
6月蚊取り線香…除虫菊の有効成分を練り込んだ蚊取り
7月沈香のお線香…お盆に向けて。香木の王様「沈香」を使ったお線香
9月塗香(ずこう)&文香…心身を清めるボディパウダーとして体に塗るもの
10月お部屋香…香原料を大きな匂い袋に詰めたもの
11・12月訶梨勒(かりろく)…新年や慶事の席に飾られるもの
私がおすすめなのは塗香。昔は人間の行いの身口意(思い・言葉・行い)に、悪い業が生じやすいのでお清めの存在として親しまれていました。現在は、体に塗るお香として活用されています。いつでもどこでもお香を身に纏えるのが嬉しいですよね。
また、今年から新しい講座もスタートしました。講座の中で特に人気なのが「訶梨勒(かりろく)」づくりで、「結びを完璧にマスターしたい」といったご要望が多く、訶梨勒に特化した講座を開くことになりました。コツやパターンをより深く理解し、上達を目指す方への講座となっています。
香司を育てる教授に。後継者を増やして日本文化の伝承に貢献したい
――薫物屋香楽認定教授になったきっかけは?
手づくりお香体験講座で教えているうちに「人に教えることが向いているんじゃないか」と思い始めたのがきっかけでした。
6年前に薫物屋香楽認定教授の資格を取得。4年前に会社を設立し、香司を養成することをメインに活動しています。
――講座の流れについて教えてください。
まずは、お香の歴史や文化、香り、香原料とその調合について、最後に香司としての心得や振る舞いなど、といった流れで構成しています。
クラスは複数あり、平日と土日に分けられていて大体ひとクラス8名ほどにしています。
――卒業後はどのように活躍されるのでしょう?
基本的には個人で香司として活動することになります。中には、アロマセラピーなどの施術にプラスで取り入れる方もいらっしゃいます。
卒業直後、個人で活動を始めるには不安…という方には、願隆寺で行っている一般の方向けの手づくり講座のアシスタントをやっていただき、慣れたら香司を1年間務めていただくことも可能です。
――養成講座で教えるにあたって、大変だと感じることはありますか?
お香の匂いを伝えることです。嗅覚って一人ひとり感じ方が違うので、匂いを正しく捉えてもらうことが難しいと感じますね。
例を挙げますと、お香の「甘み」。仄かに甘い匂いがする、といった程度でお香の甘さってとてもわかりにくいんです。加えて、どんなものを甘いと捉えているかも人それぞれ。バニラとかはちみつとか…そういった甘さがダイレクトに伝わるような匂いではないので、匂いを伝えるときは必ずその人に日常の中でどんな匂いを甘いと感じるのかなどを確認したうえで、わかりやすいように伝えることを心がけています。
――嬉しいと感じることは?
やはり、教えていた香司が育って活躍しているのを見られることですね。生徒が成長を感じられることももちろんですが、お香の世界ってまだまだニッチな印象があるので広める人数が増えていくと思うと嬉しく感じます。
ひとりでも多く、「日常の癒しの選択肢」としてどんどん普及していってくれたらいいですよね。
――今後も、癒しの選択肢としてお香の普及を続けられるのですね?
そうですね。私は幼い頃から、お寺の親戚である祖母といることが多く、ご神仏様との向き合い方を間近で見てきましたが、現代は「仏様に手を合わせる」といったことが減ってきている印象があります。お香を通じて、そういった文化があることを知るきっかけにもなればいいなと思います。
お香に目覚め、香司という資格からお香が仕事となった石濱さん。お香を通じて癒しと日本の寺社の魅力や文化を届けるため、今後の活躍から目が離せません。
取材・文/東菜々(レ・キャトル)