新しい働き方「オンライン インストラクター」のメリット・デメリットとは?【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.92/くびれダンストレーナー・榎本愛子さん】#1
「ヘルスケア業界」のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロに、お仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。
今回お話を伺ったのは
くびれダンストレーナー・榎本愛子さん
もともとダンサーとして活躍していた榎本さん。コロナ禍以降、豊富な経験を元に、ヨガやピラティスなどのオンライン インストラクターとして活動されています。
前編では、榎本さんがインストラクターになったきっかけや、オンラインレッスンのメリット・デメリットなどを伺います。
コロナ禍でダンサーとしての仕事がゼロに……
友達の一言で、インストラクターの道へ
――インストラクターになったきっかけを教えてください。もともとダンサーをされていたんですよね?
小さい頃からバレエを習っていて、高校卒業後はダンスの専門学校に進み、そのままダンサーになりました。テーマパークでダンスをしたり、舞台やテレビ、CMなどでバックダンサーを務めたり、当時は踊ることがとにかく楽しかったですね。
大きな転機となったのは、やはり新型コロナの流行です。実は2020年に予定されていた祭典にダンサーとして参加する予定でした。その頃は、そこに出ることが目標だったので、なくなった時はすごく悲しかったですね。延期後改めて開催が決まり、「参加しますか?」とご連絡いただいたのですが、なんだか気持ちを切り替えることができず、結局お断りしてしまいました。
とはいえ、イベントや舞台などの出演予定は軒並みキャンセルになったので、仕事はゼロ。外出もできないし、人と会うこともできないので、毎日のように友達とビデオ通話を繋ぎ、一緒に運動をしていました。その時、「オンラインで説明するのがうまいから、オンラインでインストラクターやってみたら?」って言われて。それがきっかけです。
――お友達の一言に、背中を押されたわけですね!
もともとピラティスやルイジエクササイズなどを学んでいて、楽しく踊るだけじゃなく、体を整える運動というのにも興味があったので、その辺りの知識も活かせると思いました。
実は私、27歳の時に肺気胸で入院したんです。本来10代の細身の男の子がなりやすいといわれている病気なんですが……(苦笑)。とはいえ、なってしまったものはしょうがない。でも、本当に辛かった。「こんなに簡単に踊れなくなるんだ」っていうのを肌で感じて、今後の人生も不安になりました。
幸い元気になり、また踊れるようになりましたが、その頃から少しずつ「踊れればいい」っていう生き方を、考え直さないといけない、と思うようになりました。そこで、ピラティスやルイジエクササイズを勉強したんです。
そもそもピラティスは、第二次世界大戦で傷ついた兵士たちの体を整えるために考えられた運動ですし、ルイジエクササイズも、ジャズダンスの王様・ルイジが交通事故に自分自身のリハビリのために作ったものなんですよ。
――いろいろな経験や学びが活かされて、今のレッスンができたんですね。
そうですね。あと、バレエとヨガとフィットネスを融合した有酸素運動である「バレトン」や、「距骨コンディショニングライセンス」の資格も取りました。「距骨コンディショニング」は体の土台となる「足元」を整えるもの。そういった知識も今のレッスンに役立っています。
場所を選ばず、時間に余裕ができるだけでなく、
オンラインだからこそ可能になるメリットもある!
――オンラインレッスンでのメリット・デメリットを教えてください。
メリットは、インストラクターも生徒さんも、移動時間がないところ。直前まで好きなことができるっていうのは、忙しい現代人にとって最大のメリットだと思います。場所を選ばないので、日本全国の方に受けてもらえますし、海外で受講してくれている生徒さんもいるんですよ。
あと、これはインストラクター側のメリットなんですが、生徒さんがきちんと画角さえ調整してくれていれば、みんなを同じ位置から見ることができるということです。
――同じ位置からというと?
例えば、スタジオなどの広い空間で複数人の生徒さんをレッスンする場合、鏡があるとはいえ、一度に全員を正面からチェックすることは難しいんです。どうしても角度がついてしまうので、一人一人そばに行って確認しなきゃいけない。でもオンラインなら、カメラの位置さえ生徒さんにお願いして調整してもらえば、全員を正面から見られるんです。私は画面上で間違い探しをするようにチェックすればいいので、とてもわかりやすいんですよ。
――なるほど! でも対面じゃないと、距離を感じませんか?
意外と感じないですね。私の画面上には、もちろん全員の生徒さんが写っているのですが、生徒さん側には私の様子しか写っていないので、一対一のレッスンを受けているようだと言われます。
――ちなみにデメリットは?
どうしてもネット環境なので、電波の不具合に影響されるところでしょうか。近くで大きな車が通った時など、たまに回線が止まってしまったりします。ゆっくりした動きの時はいいですが、早い動きをしている時などはちょっとコマ落ちしたような感じになったりするので、困りますね。
あと、生徒さんの中には実際に体を触って教えて欲しいという人もいます。例えば、「お腹に力を入れて、背中をまっすぐに」と言っても、お腹のどこに力を入れればいいかわからないから、「ここ!」って触って教えて欲しい、とかね。
そういう生徒さんは対面の方がやりやすいかもしれないです。ただ、「触られたおかげで、なんとなくできている」っていう状態のままだと、理解できていない可能性も高い。自分で修正し理解することが必要なオンラインレッスンの方が、本人のためになるかも、と思うこともあります。
より深く効果を感じられる
レッスンの流れや構成を組むことこそ、
インストラクターの腕の見せ所!
――今のレッスンが確立するまでに苦労したことはありますか?
パソコンやカメラ、マイクなどの設定は苦労しましたね。特にバレトンとルイジエクササイズは音楽を使うので、どうやれば私の声がちゃんと聞こえるかなって、イヤホンを使ってみたり、ワイヤレスマイクを使ってみたり、試行錯誤しました。
――設定の他に、大変だったことは?
発声・滑舌でしょうか。始めた当初、自分の動画を見返したら、何を言っているのかわからなくて……。アナウンサーみたいに「あいうえお いうえおあ」って、発声練習をしたりしました。
あと、オンラインの場合は動きを言葉で正確に表さなくてはいけません。もちろん画面を見て真似してもらうのでもいいのですが、常に画面を見ている状態だと、首だけ画面に向いてしまって、正しい姿勢が取りづらいんです。「みんな私の声を頼りに動いている」という意識を持って、丁寧にわかりやすく表現するよう、気をつけています。
――オンラインならではの注意点かもしれないですね。最近はたくさんのオンラインレッスンがありますが、その中から選んでもらうために意識していることはありますか?
まずは見つけてもらわないといけないので、SNSなどで情報は惜しまず出すようにしています。例えば、動画ひとつとっても「これだけ?」って思われないよう、その動きを真似するだけで何かしら効果を感じられるように、詳しく紹介しています。
――でも、全部を出してしまうと、その動画を見るだけで満足してしまいませんか? レッスンに来てもらうための、駆け引きが難しそうです……。
レッスンに来て欲しいなって思うのは、一人では頑張れない人や、より効果的に運動したいという人なので、確かに「なんとなく」でいい人は動画を見て終わっちゃうかもしれないですね。
私は、1時間なら1時間、そのレッスンの枠をどういう構成で組み立てて、どんな流れで進行して、より深く効果を感じるにはどうしたらいいかを考えるのが、インストラクターの腕の見せ所だと思っています。私もまだまだ試行錯誤している途中ですが、少しずつ「私らしい形」を作っていければいいなと思っています。
目に止まった後は、「受講してみよう」って思ってもらわないといけないので、それを後押しする口コミを集めています。実際に参加してくれた人の口コミを見ることで、安心感や信頼感につながればと思います。
――リピーターになってもらうためには?
各レッスンの最後に、必ず質問タイムを設けています。とはいえ、全体に向かって「何か質問はありますか?」というと、だいたいシーーーンってなるので(笑)、急いでいる人だけ先に聞いて、後は順番に話を聞きます。
私のレッスンはひとクラスあたり10人前後なので、できることかもしれないですね。とはいえ、これくらいの人数の方が一人一人にしっかり目を向けてサポートできるので、私にはちょうどいいなと思っています。
コロナ禍で不便になったり、制限されたり、辛いこともたくさんありましたが、「オンライン」という新しい可能性も生まれました。その中で新たな道を見つけ、懸命に取り組まれている榎本さん。今後の活躍からも目が離せません!
後編では、人気レッスン「くびれダンス」のメソッドや現在の働き方、未来のセラピストに向けたアドバイスを伺います。
取材・文/児玉知子
撮影/喜多二三雄