介護に関する知識を、誰もが当たり前に取得できるような社会にしたい【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事 Vol.120 ケアポット株式会社 髙橋佳子さん】#2
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。
今回は、自身の親の介護経験から「ケアポット株式会社」を立ち上げた、代表の髙橋佳子さんにインタビュー。前編では、介護業界未経験で会社設立に至った経緯、会社で打ち出している「親ブック」について詳しく伺いました。髙橋さんはそのほかにも、YouTubeで介護の基本知識を発信しています。後編では「親ブック」のほかに取り組んでいる、YouTube発信を含めた事業や業界的に大変なこと、今後の目標をお聞きします。
お話を伺ったのは…
ケアポット株式会社 髙橋佳子さん
人とのつながりをテーマに会社3社の設立を経験。2013年に経営から退き、母親の介護に専念。自身の介護経験より、家族向けの介護に関して物足りなさを実感し、2015年にケアポット株式会社を設立。「介護する人、介護される人、その家族まで、介護に関わる全ての人が手をつなぎ合える社会づくり」を目指し、活動している。
企業の福利厚生の中に「介護サービス」を取り入れる活動に注力
――現在、特に力を入れている事業についてお聞かせください。
家族の介護をしている人が働きやすい場所にするために、企業に向けて介護の理解度を広める活動をしています。
経産省の報告によると、働きながら介護をする「ビジネスケアラー」と呼ばれる人たちが、2030年には約318万人を超えると言われています。それにより、会社を辞めなければいけなくなる人が増え、生産性が落ちておよそ9,2兆円もの経済損失となる想定です。もちろん親の介護も必要ですが、もっと大事なのは子どもの未来。介護によって、自分のことをあきらめさせてはいけないと思うんです。
その損失を避けるためには、各企業の「介護」への理解度とそれをサポートする仕組みが必要になると考えました。育児休業と同様に、介護休業を取得できるようにしましょう、介護が必要となった人には相談できる窓口を設置しましょうと、円滑なルート作りを目指して企業へ提案をし、介護しながらでも働き続けられるように努めています。
――今後の介護業界で取り組むべき課題についても教えてください。
お金の問題は、介護を必要とする家族の中で問題となっています。
例えば、介護を必要とするときに親のお金でいろいろなサービスを受けようとしても、みんながみんなそのためのお金があるとは言い切れません。子どもが支払うとしても、終わりが見えないという理由から悩んでしまう人はたくさんいます。いつまでどうなるか分からない、先が見えない状態の親にどこまでお金をかけたらいいのか、分からない人がほとんど。先が見えないからこそ生計が立てづらいのです。
――そのような背景がある中で、経営していくうえで大変だと感じることはありますか?
利益を生み出すことが大変だと感じます。
まだまだ仕事と介護の両立に対して、企業への取り組みが進んでいないのが実態です。そんな状況の中ですから、家族向けのサービスを一つ生み出すにも試行錯誤の繰り返しです。
――では、利益を生むためにしていることは?
目先の利益にとらわれ過ぎず、地道に介護を必要としている方々へサービスを提供していくことが大事だと思っています。
その一つがYouTubeの動画配信。ありがたいことに、YouTubeは収益化され、企業のタイアップ広告や活動の場を広げることにもつながりました。
――大変な中でも、どんなところにやりがいを感じるのでしょうか?
サービスをご利用していただいている方々や、友人・知人などから、感謝の声をいただくと、やりがいを感じられますね。これからも、一人でも多くの人に情報を届けられるような仕組みやコンテンツ作りに励みたいです。
専門家も認める「正確性」のある情報を、より多くの人に届けたい
――他にもYouTubeの配信を行っているとか。配信に至った経緯をお聞かせください。
コロナ禍により企業へのセミナー活動が制限されてしまって。空いた時間を利用して、デイサービスを運営している友人とYouTubeの配信をスタートさせました。
――YouTubeのターゲットは? 動画のテーマもお聞かせください。
介護の情報を必要としている人をターゲットに、分かりやすく簡潔に伝えることをモットーに役立つコンテンツを発信しています。
具体的には、介護の際に必要な公的介護保険制度の解説や認知介護のHOW TO、後見人制度など相続に関する内容です。介護前の準備や介護中に必要な情報をワンテーマにし、5分程度の動画に収めています。
一般の方だけではなく、介護業界の方たちにも見られる想定で配信していますので、正確性にはかなり気をつけています。
――正確さを追求するために行っていることは?
必ず、その道の専門家に出演をお願いしています。直接、その分野の方にご出演いただくことで、情報に齟齬や誤りが生じないようにするためです。
また、正確性のある情報を発信するには、入念なシナリオが必要不可欠。5分の動画を作成するのに、2時間以上かけてシナリオに取り組んでいます。
――動画のテーマはどこから着想を得ているのですか?
私が経験した際に必要だと思ったことや疑問はもちろん、セミナーに行った際に質問いただいたことや専門家の提案をもとに動画を制作しています。
――今後のチャンネルの方向性は?
今も多くの専門家の方たちにご協力いただいていますが、もっと範囲を広げて役立つ情報を発信すること、将来介護に関わるほとんどの人たちの目に留めてもらえるような動画制作を続けていきます。
――では、会社としての目標をお聞かせください。
現在は、大手の企業に向けて提案することが多いのですが、今後は大手に限らず中小企業へも制度導入の提案を増やしていきたいと考えています。
介護はいずれ誰もが直面する問題だと思うので、環境によって情報が取得できる・できないといった構図を無くすためにも、社会の常識を変えて企業の介護への理解力を高め、介護に悩む人たちを少しでも減らしたいと思っています。
介護が必要な人のサポートをするために取り組んでいること
1.自身の経験から、困っている人のサポートができる仕組みを考える
2.介護される人について知るツールを開発する
3.真剣に介護と向き合い、正確性重視の情報を発信する
取材・文/東 菜々(レ・キャトル)