ヘルスケア&介護・看護・リハビリ業界の応援メディア
ヘルスケア 2024-01-15

今、ご利用者やご家族が本当に求めているサービスとは?【介護リレーインタビュー Vol.42/デイサービス ラスベガス(森 薫さん)】#1

介護業界に携わる皆様のインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。

今回お話を伺ったのは、
カジノをモチーフにしたユニークなサービスで注目を集める「デイサービス ラスベガス」の代表取締役社長・森 薫さん。

前編では、「デイサービス ラスベガス」が生まれた経緯やその特徴を伺います。

アメリカ視察で気づいた
これから求められる介護施設のありかた

――「デイサービス ラスベガス」のサービスは、どのように生まれたんですか?

もともと弊社は訪問介護やいわゆる従来型のデイサービスをやっている会社です。私も入社して2年間は訪問介護やデイサービスの管理職をしていたのですが、「なにかやり方を変えないと駄目だ」と思ったきっかけは、東日本大震災ですね。あの時の衝撃はすごく、このままだと日本は崩壊するんじゃないかと思いました。

介護保険事業の財源は税金ですから、日本が危機に面してしまうと、介護保険にまで手が回らなくなる。このまま介護保険に頼った事業をしていると生き残れないと感じたんです。

そこで参考にしたのがアメリカでした。そもそも日本は、北欧の社会保障を踏襲していますが、自身で調べれば調べるほど、「本当に日本はこうなりたいの?」と思うようになりました。例えば北欧諸国の消費税は22%~25%です。それだけ取ってみても、日本で完全に再現する事が難しく感じました。そんな時にふと「アメリカはどうしているんだろう」と思ったんです

――アメリカは公的な介護保険制度がありませんもんね。

介護保険制度どころか、国民皆「保険」がないです(笑)。でもアメリカにも高齢者はいらっしゃる。その仕組みが知りたくて、アメリカへ視察に行きました。

それは、介護施設そのものを見てみたいという思いもありましたが、私の中では、アメリカで何か新業態を見つけて、その収益で介護事業を支えるというのも一つの手だと考えていました。そのため、まずはラスベガスに行ったんです。

――カジノですね!

カジノも一つですが、ラスベガスはアメリカの中で新業態が試されるエリアと聞いて……。そもそも砂漠の地を切り開いてできた街ですから、凄くアグレッシブですよね。

行ってみると、やはりすごかったですね。スーパーマーケットやホームセンターなど、いわゆる一般的なお店からも、ユーザーから選ばれるための企業努力を惜しまない姿勢がすごく伝わってきました。価格だったりサービスだったり方法はさまざまですが、どのお店もお客のことを一番に考えていたんです。

それって介護事業者にも必要なこと。日本の介護事業者は自由競争とはいえ、国や自治体に守られています。どこかあぐらをかいているところが少なからずあって、ご利用者に選ばれる為の努力が欠けている。だから「行きたくない」と思うかたも多い。せっかくの社会保障なのに、残念ですよね。

じゃあ、どういう場所なら行きたいかと考えた時に浮かんだのがカジノです。ラスベガス視察ではカジノにも行きました。もれなくすぐ負けたのですが(笑)、ふと周りを見渡した時、高齢者ばかりだったんです。平日の昼間だったというのもあると思いますが、見渡す限り高齢者。杖をついている人もいれば車椅子の人もいる。そしてなによりみなさん笑顔で楽しんでいる。「これはいい!!」と思いました。

――なるほど。

日本の要介護者高齢者は、「介護が必要になったら家から出ない」「遠慮して生活する」という人がたくさんいます。でもカジノで見た高齢者は、とにかく楽しそうで、人生を謳歌している様子が伝わってきました。日本でも高齢者の生活がこういう風になるといいなと思ったんです。

そこで生まれたのが「デイサービス ラスベガス」です。当初は10年後ぐらいに流行れば、という気持ちでした。団塊の世代のかたたちが後期高齢者になった頃にうまくはまればいいと考えていたんです。でも思いの外すぐ注目していただけましたね。それほどみなさんがお困りだったんだと思います。今では21店舗展開していて、「〇〇にも作って」というお声もたくさんいただいています。

ご利用者が「ぜひ行きたい」「行くのが楽しみ」と
思えるサービスを提供

――「みなさんお困りだった」とのことですが、これからの介護施設にはどのようなことが求められているのでしょうか。

介護はいつ必要になるかわかりません。いざ必要になると想像以上に辛い。そんな失意の時に、子どもをあやすような言葉遣いをされたり、トイレやお風呂など羞恥心を配慮すべき時に流れ作業のように扱われたり、病院のような雰囲気や、いかにもな送迎車も……。今思い返しても申し訳ない気持ちになります。

でも私は20年前に、それが「介護の常識」だと教わりました。ご利用者のための施設なのに、ご利用者が望まないことをしているわけです。これではいつまで経っても高齢者の気力や意欲は上がりません。

――気力や意欲って大切ですよね。

これは私の伯母の話ですが、施設に入所していた時に体調が悪くなり、水も飲めなくなったので病院に行ったんです。医師からは「気力の問題です」と言われました。従妹と試行錯誤した結果、家に戻って家族と過ごす選択をしました。当時は藁をもつかむ気持ちでしたが、そんな心配をよそに1週間で元気になりましたね。この時、気力ってものすごく大切なんだなと実感しました。

医療のことは私どもではどうしようもありませんが、気力は私たち介護事業者でもサポートできます。そのためにも「ぜひ行きたい」という場所をつくり、「行くのが楽しみ」というサービスを提供する。結果、車椅子だったかたが歩行器で歩けるようになり、最終的には杖歩行ができるようになることは珍しくありませんし、実際「デイサービス ラスベガス」にはそのようなかたがたくさんいらっしゃいます。

――すごいですね!

ですが、どうしてもカジノのギャンブル的なイメージが目立ってしまい、「税金を使って遊んでいる」と言われることも多々あります。当たり前ですが、私どもの行っているサービスは、厚生労働省の定めるデイサービスの定義から逸脱するものではありません。私はともかく、現場で一所懸命働くスタッフはいい気分はしませんよね。しかし反論したところで売り言葉に買い言葉です。

だからこそ私たちは、「税金を使っているからには結果を出す」ということに努めています。結果はさまざまですが、要介護者の社会的孤立の解消、日常生活動作の改善、介護度の改善、家族の介護負担の軽減等、10年前に開設してから現在に至るまで、ご利用者やご家族から嬉しい報告を沢山いただいています。

おかげさまで「ラスベガス」はいろいろなメディアで取り上げていただいています。そして施設内の映像が流れるたび、「なんだ、元気な人が通うところなのか」とよく言われます。

でも「ラスベガス」にいらっしゃるかたは全員要介護のかたたちです。以前は要支援のかたもいらっしゃいましたが、要介護の希望者が増え、泣く泣く要支援のかたの受け入れをやめました。元気な人が通うのではなく、通うようになって元気になっている人ばかりです。これってすごいことですよね。

いろいろ誤解されることもありますが、私たちが一番大切にすべきはご利用者。意欲を持って楽しく過ごしてもらうために、スタッフ一丸となってサービスに努めています。

ゲーム形式で楽しく過ごすことで
意欲的でハリのある生活を

――実際「デイサービス ラスベガス」で行われている仕掛けや演出を教えてください。

大きな特徴としては、カードゲームや麻雀、パチンコなど、ゲーミング要素を取り入れていることです。それらをするのに「ベガス」という施設内通貨を用いるのですが、これは体操に参加していただくことで1万ベガスお渡ししています。

ちなみに体操は1時間ごとに1回行うのですが、午前と午後に1回ずつ10分の体操、それ以外は5分。トータルで40分あるので、一般的な介護施設で行う機能訓練の平均時間より、しっかり体を動かしているんですよ。

そうやって稼いだ1万ベガスですから、ただの紙クズではありません。「こんな紙クズ」と口では言うかたも多々いらっしゃいますが、実際に破ったり、丸めたりして捨てられているのを見たことはないです。だからこそスタッフにも、「ベガスの扱いを蔑ろにしてはいけないよ」と伝えています。

ちなみにベガスの単位も、日本での日常生活の買い物と同じ1万、5千、千という風になっています。普段の生活に近い単位を用いることで、計算訓練を行いつつ日常生活での自立支援を目指しているんですよ。

――さまざまな工夫が施されているんですね。

ベガスは毎日集計し「今日一番多くベガスを稼いだ人」には表彰状と記念写真をお渡しします。なかには写真を撮られる事が苦手な人もいるのですが、勝った記念に写真を撮るわけなので、みなさんいい表情をされるんです。負けた人も、「次は勝つぞ」と熱が入り、気持ちにハリが出る。みなさん本気になって楽しんでくださっています。

――壁にもたくさんのお写真が飾られていますね。

表彰式だけでなく、普段から写真はたくさん撮るようにしていますね。というのも、これは以前見学させていただいた高次脳機能障害のかたたちが通うデイサービスでの出来事ですが、私が見学に行った日は公園散策をする日でした。みなさん楽しそうに過ごし、ことあるごとに写真をたくさん撮られていたのを覚えています。

そして昼ぐらいに施設に戻り、サイン帳に写真を貼りながらコメントを書かれていたんですが、その様子を見ていると、「これは〇〇公園だと思う……。でもあんまり覚えてない……」と。一生懸命思い出そうとしているのを見て、やるせない思いから泣きそうになりました。

――それは見ていて辛い……。

でも、だからこそ、写真って大切だなと思ったんです。それに写真から会話が生まれることもあります。18年前、私が社長に就任した時に弊社の介護付き有料老人ホームの入居者さんのお部屋をまわってご挨拶させていただきました。なかなか上手くコミュニケーションが取れなくて困っていた時に、お部屋の壁に飾っていた写真について触れると、「それは、〇〇の時で〜」と楽しそうにお話ししてくださった事が忘れられません。

在宅で介護を受けるかたもいますが、施設などで介護を受けるかたがほとんどだと思います。そんな時「ラスベガス」での写真を見て、楽しかったことを思い出したり、会話のきっかけになれば嬉しいなと思っています。


後編では、「デイサービス ラスベガス 横浜都筑」で実際に働かれている市川真由さん、森香澄さんにもご登場いただき、施設での働き方や、これから介護業界を目指す方へのアドバイスを伺います。

取材・文/児玉知子
撮影/喜多二三雄

この記事をシェアする

編集部のおすすめ

関連記事