ヨガとアナウンサーの経験から『声ヨガ』を開発【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事 Vol.124 一般社団法人日本声ヨガ協会 八田幸子さん】#1
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。
今回はヨガ講師として活動しながらアナウンサーというキャリアを築き、その経験から「声ヨガ」を考案した八田幸子さんにインタビュー。
前編では八田さんがヨガ講師になった経緯と、『声ヨガ』の開発ストーリーをお聞きします。
お話を伺ったのは…
一般社団法人日本声ヨガ協会 代表理事 八田幸子さん
大学在学中、ヨガの発祥地インドにて講師資格取得(RYT200)。指導実績1万人以上。大学卒業後、IT営業を経てアナウンサーに転身。声と心身の関係を探求し、「声で心を整える」をコンセプトに『声ヨガ』を独自開発。また(株)Relook 執行役員 CCO(最高コンテンツ責任者)に招かれ、マインドフルネス瞑想アプリの立ち上げに尽力し、2年で40万DL達成。2022年に一般社団法人日本声ヨガ協会の代表理事に就任。ウェルビーイングな組織づくりのための企業研修やワークショップ開発、健康コンテンツの企画監修や制作など幅広く活動する。
大学在学中にヨガ講師デビュー。
社会人になってからも副業として継続
――まずはヨガ講師になった経緯から教えてください。
ヨガ講師の資格は、大学1年生のときに取得しました。高校時代にチアダンスをしていたのですが、ハードな練習で左半身や腰の慢性的な痛みに悩んでいました。整体や針治療などにも通っていましたが、通院しなくなると痛くなる。その繰り返しのなかで、「自分でも体のことを知ってコントロール力を高めたり、セルフケアを上手にする必要があるんじゃないか」と感じたんです。そこでヨガに興味を持ちました。
指導する側に立つようになったのは、大学1年生ときでした。近所にスポーツジムがオープンしてトレーナーとして採用された際、ヨガに興味があることを話したところ、講師養成プログラムに招いて頂いたんです。そして、最年少ヨガ講師としてデビューしました。
――学生時代からアルバイトとしてヨガ講師をしていたんですね。
18歳から1年半ほどスポーツジムで活動しました。その後、もっとヨガの本質的なところを学びたいという気持ちが出てきて、大学の夏休みを利用してヨガ発祥地であるインドのリシケシへ行き、国際的なヨガ資格を取得したんです。そして帰国後にヨガ教室を小さく自主開催していました。
――大学卒業後は、一般企業に就職されたんですね。
実は大学在学中に「ヨガスタジオ創るなら出資するよ」と言ってくださった方がいたんです。なので、実は内定を頂きながらも卒業後ヨガ1本でやっていこうかギリギリまで悩んでいました。ただ、私が父のように慕っている人から「大企業だからこそ学べる社会人の基礎もあるし、気づける社会課題がある」とアドバイスを受け、一部上場企業に就職しました。結果として働く人の健康と組織のパフォーマンスについて非常に考えさせられる体験をして、気づけたことが沢山あったのでよかったです。
しかし、配属先の仕事内容と心が向いている方向がアンマッチで、3年目にその乖離状態のしんどさが限界を迎えつつありました。社内公募で職種移動するのも年次条件が厳しく絶望的で転職や転身を考えました。そこで「自分は何かの魅力を発信していけるような仕事がしたいんだ」と気づき、「伝える・届ける」仕事を意識してアンテナを張りました。
その後、1つだけ試しに受けてみたアナウンサー事務所を受けてみたところ合格をいただいたんです。順番が逆ですが、それからアナウンサースクールに通い始め、主にスポーツ番組のスタジオキャスターやインタビュアーをするようになりました。
声と心身のつながりに気づき『声ヨガ』を開発
――『声ヨガ』についてお聞きします。開発の経緯を教えてください。
スポーツキャスターの仕事を始めた2017年、朝の番組を担当するにあたり、朝一番の声の出しづらさに悩んでいました。アナウンサースクールで学んだ発声トレーニングをしてスタジオ入りして、それなりに声は出るけれど、前に飛んでいく感覚がなくて…どこか「声を出さなきゃ」という心を持ちながら現場に立っている状態に課題を感じていました。
そこでいろいろと試行錯誤して、まず朝一でヨガをしてからスタジオ入りしてみようと思ったんです。ヨガで全身を温めてから発声すると、自然と声が前に飛んでいってくれる感じがしました。声と体、声と心のつながりを実感しました。
ヨガはサンスクリット語で「ユジュ」と言い、「つながり」という意味があります。「声もまた、人とのつながりのあるもの」と気づき、「ヨガによる心身のコントロールと声の関係を深めたら面白そうだな」と思ったのが『声ヨガ』開発のきっかけでした。
――どのように『声ヨガ』を開発されたのでしょうか?
「呼吸・瞑想・発声」の3つを柱に、声ヨガを体系化していきました。
①呼吸:声を出すことで客観的に呼吸の状態を観察して、ヨガの呼吸法を深めること
②瞑想:声と呼吸のリズムや振動をマインドフルネスに観察して心を整えること
③発声:自分自身や他人とのコミュニケーションにおける姿勢や言葉を磨くこと
声ヨガというと、多くの方が声を出しながらヨガポーズをするイメージをされますが、それは声ヨガのごく一部にすぎません。それよりも、マインドフルネスなコミュニケーションを実践して「聞く・話す」のメタ認知力を高め、自他とよりよく繋がれることを目指しています。例えば、自分自身や他人と対話するときにどんな情報を交換するかというコンテンツではなく、姿勢や態度といった非言語的な部分を自他ともに観察したり改善します。また、自分の感情や思考を言語化し、紙に書いたり発信したりすることで客観視する力や言葉の力を高めます。
――では『声ヨガ』のプロセス、特徴について教えてください。
『声ヨガ』は、呼吸にハミングや発声を伴うのが特徴です。それにより呼吸の深さが格段に変わるんです。ヨガポーズをしている間に呼吸が浅くなってしまう方が少なくないのですが、発声を伴うことで自分の呼吸を観察しやすくなるんですね。呼吸なしに発声することはできませんから、声には呼吸の状態がダイレクトに乗るんです。
ダイナミックなヨガポーズをできるようにするために行うというよりも、呼吸を深めることで結果としてストレッチの深まりが得られる、という考えです。
またクラスの最後に、参加者みなさんに今日感じたこと、気づいたことを一言ずつ話していただく時間があるのも特徴のひとつです。クラス内での気づきをなんとなくで終わらせず、言語化して分かち合い深め合うことを大切にしています。
――『声ヨガ』に興味を持たれるのは、どんな方が多いですか?
年齢層では40~50代の女性が多いです。ちょうど更年期を迎えて女性ホルモンが低下する時期。血流が悪くなりやすいため喉の奥にある声帯がむくんで太くなり、「声がかすれる・低音化する」といった変化を感じやすく、女性の声変わり期とも言われます。
また年齢・性別的なところを抜きにすると、自分に自信がない方、人前で上手に表現していきたい方、良い人間関係を築くためにコミュニケーション能力を高めたいという方が多い印象です。
一般社団法人化により社会性向上を目指す
――「日本声ヨガ協会」として活動し始めたのは?
もともとは個人事業の中で始めた任意団体でしたが、2022年に一般社団法人化しました。
法人化した理由は、信頼性と、生徒さんのためという部分が大きいです。だんだん取引先に世界的な大企業さんとのご縁が広がってきたので、今後のことを踏まえて法人化した方が信頼性も格段にあがり、先方としてもお取引しやすくなります。
また声ヨガ講師の資格を発行するうえで、そこからみなさんが活躍できる環境を作っていくことも、とても大事だと思っています。資格の発行元が任意団体よりも法人の方が、卒業生が活躍しやすいですし、受講される方も安心して参加できるのではと思いました。
――声ヨガ講師の育成はいつごろから始められたんですか?
2019年のベータ版を経て、2020年にスタートしました。ちょうどコロナ禍がスタートしたタイミングで、ヨガ教室も完全にオンラインになっていたタイミングでしたね。
ちょうど(株)Relookのマインドフルネス瞑想アプリの立ち上げに招かれたのですが、ベンチャー企業なので自由な働き方を許してくださり、声ヨガ協会の活動と両立できました。
そういった経緯もあり、アプリ開発と併行しながら、支障がない範囲で土日などを使って声ヨガ講師の育成をスタートしたんです。
今では一緒に『声ヨガ』を一緒に広めたいと情熱溢れる仲間も増え、ご自身は講演活動など1段階上の活動に専念するようになったという八田さん。次回後編では、そんな八田さんの現在の活動内容、ヘルスケアのお仕事に関わるうえで大切にしていることを教えていただきます。
取材・文/山本二季