「大切なのは、どれだけヨガが好きか」ヨガが好きな人のもとに人は集まる【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.94 mysore fukuoka 秋山紫穂さん】#2
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。
前回に続き、日本では数少ないアシュタンガヨガの正式指導者である秋山紫穂さんにお話をお聞きします。後編では、スタジオ経営についてのお話とともに、ヨガインストラクターのお仕事の魅力とアドバイスを教えていただきました。
お話を伺ったのは…
ヨガ講師・秋山紫穂さん
日本では数少ないアシュタンガヨガ正式指導者。「mysore fukuoka」、「Ashtanga Yoga Miyazaki」主宰。DJ、音楽制作、モデルなどのクリエイティブ活動を経験後、2006年からヨガインストラクターとして活動開始。2012年にアシュタンガヨガ正式指導者としての資格を得る。マクロビオテックなどの哲学や食事法にも精通し、「Cold Press Juice & Smoothie Bar, DEEP GREEN FUKUOKA」の経営も行う。
秋山さんのInstagram:@shihothepurplehaze
アシュタンガヨガのシャラを表す「mysore」を冠するスタジオへ
――秋山さんは福岡にヨガスタジオをお持ちです。開業の経緯を教えてください。
スタジオを持つ前は、近くのマンションの一室で小さく活動していました。プライベートの変化に伴い、その部屋に住むことにしたので、別にヨガができる場所を持とうと思って、スタジオにできる場所を探し始めたんです。
ちょうど近くに1年以上空いているスペースがあったので内見に行ったら、すごく広くて家賃も高かったんですが、ずっと借り手がいなかったからか半額近くにしてくれて。とてもラッキーなことに、すごく良い立地で広いスペースが借りられたんです。そこで「mysore fukuoka」の前身となるスタジオを2010年にスタートしました。
だからスタジオを持った経緯というのも、自分の生活に伴って、たまたまそうなった…という感じで。大きなヨガのスタジオを持ちたいとは、まったく思っていなかったんですよね。でも広い場所を借りちゃったし、初期投資もしているので、子育てをしている中でもちゃんとやらなきゃいけないなということで、いろんなことを工夫してクラスの内容や時間を試行錯誤しながらいろいろやってきました。
――現在の「mysore fukuoka」になった経緯は?
2015年ごろに、スタジオの名前を「mysore fukuoka」に変えました。「mysore」というのはアシュタンガヨガのシャラ(学校)であることを表します。だから「mysore」をスタジオ名につけるのも、とても勇気がいることで…。2012年にアシュタンガヨガの正式指導者の資格をいただき、そのことがやっと自分のなかで落とし込めるようになったタイミングで、「mysore」を掲げる決心がつきました。
そこからクラスも本格的な内容になり、私がメインティーチャーとして早朝からスタートするようになりました。
――では現在の働き方を教えてください。
平日は毎日、朝6時から10時までのクラスを行っています。だから自分の練習は、6時までに終わらせます。伝統的なアシュタンガヨガの指導と同じように、新月と満月の日はお休み。ちょっと時間がかかりましたが、今ではほぼ正式な指導法に沿った流れで日々過ごせています。
週末はマイソールクラスがお休みなので、県外でワークショップを行っていることが多いです。宮崎にもスタジオがあるので、そこにも3カ月に1度は週末に顔を出しています。
ヨガ好きはヨガ好きに共鳴する。仕事にするならヨガに向き合うこと
――ヨガスタジオを経営するうえで大切なことは何だと思いますか?
大切なのは、経営者がヨガをどれだけ好きか、どれだけやっているかだと思います。お金をいただく以上ビジネスであり、プロでないといけないというのは、個人のインストラクターであれ有名な先生であれ同じ。でも、そこにどれだけの想いがあるのか.。その想いがお金をただ稼ぎたいからヨガをしているのか、ヨガが好きだからしているのかで、やっぱり大きく分かれますよね。
想いは、人に伝わっていく。ヨガを好きになって学びたいと思った人が、どちらを選ぶかといったら、やっぱりヨガが好きだからしている先生に共鳴するんです。そういう先生やスタジオに人は集まる。結果、経営も続いていくんだと思います。
――秋山さんがヨガをお仕事にするうえでも、その点を大切にしている?
そうですね。自分がどれだけヨガに向き合っているかというのは、全部伝わってしまうことなので、自分自身にそこに対しての自負があるかどうかは意識しています。あとは生徒さん側の要望もいろいろあると思うんですが、1人の意見だけに流されないこともすごく大事。
先生という立場になる人は、客観的に全体を見まわして様々なことに気づける能力が必要です。1人の人だけを見るのではなく、何人もの人を見ながら個々のライフスタイルや性質まで見る。
そういった能力は、経験によってしか培われないと思います。どれだけの人を見て、接して触れてきたか。そういった自分の経験値も含めて高め続けることを、ヨガを指導する者として、とても大切にしていますね。
学ぶという姿勢には終わりがない。学んでいるからこそ、得られるものがあり、それを人に伝えるということが初めてできるんだと感じています。
修練を続けた先に、ヨガ講師の仕事の魅力がある
――ヨガインストラクターのお仕事の魅力は何だと思いますか?
ヨガをすること自体に、すごくいいところがたくさんあります。自分というものが自分以外のコントロールできないものに多大な影響を受けて存在していること。それが感じ取れるようになり、より深く自分を知ることができる。ヨガによる体の変化を通して、内面まで変化する。そういった変化の観察ができることで、さらに自分以外のものに対しての理解も深まる…。簡単にいうと、受け入れる幅が大きくなるんですよね。
そんなヨガを人に伝える仕事には、伝えた方々の変化や成長を見る楽しみがあります。最初はアーサナの仕方や呼吸が変わり、だんだんと話す言葉や行動が変わってくる。そういう変化の過程を見ているのは、やっぱり嬉しいし楽しいです。
みなさんがコツコツとヨガと向き合い、自分と向き合っている時間と空間は、すごく美しい。その中に、私がポツンと立って、全体を見ている時間が、すごく好きです。
――最後に、これからヨガインストラクターを目指す方にアドバイスをお願いします。
伝えたいことはたくさんありますが、一番は「いっぱい練習しましょう」ということ。学ぶしかないですよね。
正直なところ、ヨガをこれから仕事としてやっていくのは、すごく大変そうだなと思っています。インストラクターの数も、すごく多いですから。仕事になると、なかなか思うようにはいかないと思う。
でも、本当にやりたかったら、諦めずに続けることですよね。そこについてきてくれる生徒さんは必ずいると思います。だから長いスパンで取り組んでいけるように、ヨガに向き合い続けて欲しいです。
取材・文/山本二季