いったんプライドを捨ててアドバイスを受け入れる。これが成長のカギ【介護リレーインタビューvol.59/訪問美容師 松橋なお子さん】#2
介護業界に携わる皆さまのインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。
お話を伺ったのは…
K+plus トップスタイリスト・訪問美容師
松橋なお子さん
理美容専門学校を卒業後、都心のヘアサロンに就職。2年間のアシスタントを経て転職し、店長も経験。店舗の統廃合を機に、K+plusに転職する。現在は訪問美容師として施設や個人宅を訪れるほか、発達障がいや精神障がいを持つ方々のヘアカット、医療ウィッグアドバイザーとしての業務もこなしている。
前編では2度の転職を経てK+plusに勤めるようになった松橋さんを襲った癌のこと、3度の手術を経て、医療ウィッグアドバイザーの資格を取得するまでのお話を伺いました。
後編では、訪問美容のかたわら発達障がいや精神障がいの方たちのヘアカットを行うようになったいきさつ、壁に突き当たったときの克服法、これから訪問美容を志す人へのアドバイスをご紹介します。
訪問美容のニーズが広がり、スタッフも増えて3人体制に

最初は松橋さんだけで始まった訪問美容のチームがこの春、さらに1人増えて3人に。
――松橋さんは訪問美容もなさっています。そのきっかけは?
私の中では医療ウィッグの延長線上に訪問美容がありました。
医療ウィッグは実際に着けてから、その方に似合うようにカットします。でも体調が悪くてサロンにいらっしゃれない方もいます。その方のためにご自宅へ伺うんですが、ベッドから 起き上がれない方もいました。
――それは悩みますね。
いろいろなケースに対応するにはどうしたらいいのか、調べていくうちに訪問美容の困りごとをサポートしてくれる団体と繋がりました。そこで状況に合わせた対処の仕方を教わったんです。
――訪問美容となると、高齢者や障がい者など対象が広がりますね。
ニーズがあるのも実感できたので、社長に「訪問美容をやりたい」と相談したら、「それなら会社としてやっていきましょう」と背中を押してくれました。社長も訪問美容に興味があったようです。
――理解のある社長さんなんですね。
お子さんができたり、お父さまが癌になったり、身近な人たちがご病気になったり、社長も実体験として考えるところがあったのかもしれませんね。
――今、訪問美容をなさっているのは何人?
私とスタッフ2名の合計3名です。
精神病院の敷地なかに介護老人保健施設があって、そこに美容室があるんです。もともとそのサロンを運営していた方が亡くなって、K+plusが引き継ぎました。私たちはそこをベースにして活動しています。
――そちらの利用者は精神病院に入院している方?
入院している患者さんと、老健を利用なさっている方ですね。発達障がいや精神障がいをお持ちの方でも、赤羽のサロンにいらっしゃれれば、そちらで対応しています。
――サロン2つのほかに訪問美容もあって、体が1つでは足りませんね。
以前は過労が原因で毎年2週間、入院していた時期もあったんですよ。
――え!? 毎年ですか?
抗がん剤治療を受けると免疫力が下がるので、「無理をしないように」って言われているんですが、限界を知らずに働いちゃうんですね(笑)。いつの間にか菌が体内に入り込んで40度を超える高熱が出て、抗生剤を打ってもらっていました。
――今は?
4年前に結婚してから変わりました(笑)。夫は飲食店を経営していて、休みの日を私に合わせてくれているんです。それでしっかり休みを取るようになったし、時間が合えば私の仕事終わりに彼が車で迎えに来てくれるので体の負担もだいぶ軽くなりました。
いつも笑顔でポジティブでいることがテーマ!

訪問美容先でのスナップ。お客さまの「ありがとう」の言葉が大きな支えになっているそう。
――仕事に関して、松橋さんが体験した最大のピンチは何ですか?
ダブルブッキングしてしまったこと、スタッフが急きょお休みしてスケジュールが上手く回らなくなったことなど些細なことばかりで、まだ最大なピンチはないですね(笑)。
――十分にピンチだと思いますが(笑)。辛いとかキツいとか、落ち込むことは?
訪問に伺う予定だったお客さまが直前に亡くなられて、お目にかかれなくなることですね。「日にちを早めにすれば良かった」とか「無理してでも、あの日にすれば良かった」とか、なんとも言えない感情が残ります。
――お別れは辛いですよね。気持ちを上げるには?
他のお客さまが支えてくださっています。私たちがご高齢の方をサポートしているつもりでしたが、実は支えられているんだなと気づかされます。
――このお仕事を通して、嬉しいときはどんな瞬間ですか?
ご高齢の方の場合は「また会えた」、「またお話しできた」だけで嬉しい。本当に突然、いなくなってしまうので、その瞬間を大切にしています。
障がいのある方の場合は、お互いの考えていることや感じていることが通じ合った瞬間が嬉しくて楽しいですね。言葉にしにくかったり、伝えるのが難しい方が多いので、「嬉しい」とか「可愛くなった」、「ありがとう」って伝えてくれるだけで嬉しいです。
――松橋さんが壁に突き当たったときはどう解決するんですか?
壁に突き当たったところで弱音を吐いている時間がもったいない! 「どうすればいいんだろう」って、上手くいかない原因を考えて実行に移せば突破できるものです。
――何ごとにもポジティブに向き合っていらっしゃるんですね。
訪問美容って、人を元気にして笑顔になってもらえるものだと思っています。だからこそ、私自身いつもポジティブでいることを心がけています。
――高齢者や障がい者のための美容を考えている方にアドバイスをお願いします。
「自分はこうしたい!」という信念や目標は持ち続けてください。
そのうえで「高齢者って〇〇だよね」っていう思い込みや、「自分はそう思わない」という決めつけはない方がいい。まずはいろいろな意見を聞いて柔軟に受け入れてみることが大事です。とりあえず何でも受け入れてみて、そこから少しずつアウトプットしていくと成長できると思います。
松橋さん流! 訪問美容の心得三か条
1.壁に突き当たったら「原因」を探り、行動に移すこと。
2.「自分はこうしたい!」という信念や目標を忘れずに持ち続けること。
3.まずはいろいろな意見を柔軟に受け入れてみること。
撮影/森 浩司