食事やトイレ介助など生活全般に関われるのが魅力【介護・看護・リハビリ業界のお仕事企画 理学療法士 横田昌憲さん】#2
業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載「介護・看護・リハビリ業界のお仕事企画」。今回は、理学療法士で多機能型事業所LEO代表の横田昌憲さんにお話を伺います。
2023年鎌倉初となる重症心身障害児・医療的ケア児に特化した多機能型事業所LEOをスタート。前職では理学療法士としての仕事に徹していたそうですが、開所後は食事やトレイ介助など生活全般に関わるように。そこが大きな違いで、それが魅力でもあると語ってくれました。
お話を伺ったのは
多機能型事業所LEO
代表 横田昌憲さん
重症心身障害児者施設で12年間、理学療法士として障害児者のリハビリテーションを担当。重症心身障害児、医療的ケア児を対象とした社会資源が十分ではない現実を知り、2023年多機能型事業所LEOをスタート。鎌倉市で初となる重症心身障害児、医療的ケア児を対象とした放課後等デイサービスおよび児童発達支援を行う。看護師、理学療法士、介護福祉士・保育士など多職種の専門スタッフによるチーム体制で全力サポート。
違う分野を勉強しながら利用者さんと関わる

重症心身障害児・医療的ケア児に特化した事業所は、鎌倉市初。
――NPO法人ハビリテーションケアの名称には「リ」がついていません。
リハビリテーションは、例えば脳卒中で歩きづらくなった場合、元の状態に回復させることを目標とします。一方、ハビリテーションはご自身の機能を最大限環境に適応させて、その方がいちばんのパフォーマンスができるように発達支援することを意味します(=療育)。障害を持って生まれてきた方や幼少期に障害を持った方には、寝返りが打てない方もいれば、少しの時間なら座れる方もいます。NPO法人ハビリテーションケアでは、一人一人に応じた支援を提供しています。
――では多機能型事業所とは?
障害・福祉に関する2つ以上のサービスを提供する施設を多機能型事業所といいます。LEOでは小学校に上がるまでの未就学児を対象にした児童発達支援と、小学校1年生~高校3年生までが対象の放課後等デイサービスの2つを提供しています。
――LEOではどんな職種の方が働いているのでしょうか。
自治体の基準に沿って理学療法士、看護師、保育士、児童発達支援管理責任者、児童指導員などが在籍しています。
――さまざまな職種の方がどんなふうに関わりあって働いているのですか。
まず未就学児対象の児童発達支援は10時から13時、小学生~高校生が通う放課後等デイサービスは放課後から17時まで。この開所時間内にハビリテーションに則って利用者さんの生活全般に関わりながら発達を支援しています。
例えば看護師は経管栄養の方の栄養を入れる、保育士は療育活動の企画をするなど専門職ならではの業務があった上で、チームとしてうまく機能するようにそれぞれのスタッフが違う分野を勉強しながら利用者さんと関わっています。公園に散歩に行くときは、看護師も保育士も一緒に行きますし、イベントではスタッフもワーワー言いながら利用者さんと一緒に楽しんでます(笑)。
食事やトイレ介助など生活全般に関われるのが魅力

「食べることと姿勢は密接に関わっているので、誤嚥を防ぐために姿勢を整えることも理学療法士としての業務のひとつ」
――一般の病院やリハビリセンターに勤務する理学療法士との違いはどんなところですか。
接する時間も付き合いも長いことでしょうか。いわゆる訓練室でのリハビリは1単位約40分ですが、放課後等デイサービスでは平日約2時間、土曜は10時~16時までの方もいらっしゃいます。長時間接することで食事やトイレ介助など生活全般に関われるのが大きな違いであり、魅力でもあります。
また一般の病院では退院したらさよならですが、いま自分が担当している14才の利用者さんは2才のときからのお付き合いになります。
――生活全般に関われること、接する時間とお付き合いが長いことが大きな違いですね。ところで横田さんは公認心理士の資格も持っているそうですね。
はい。その方全般をみるためには、心理面とくに認知に関わることも多く含まれているので公認心理士の資格が必要だなと思ったんです。
例えば実際のお母さんは認識できるけれど、カードに描かれたお母さんと別の人の区別はつかない。その人がどういうふうに世界をとらえているのか、より深く知った上で利用者さんにサービスを提供したいと思っているので。
――本当に勉強熱心ですよね。
利用者さんにどう働きかけるかが大事なので、最新の情報を得ることは常に心がけています。世界的に読まれている論文を読んだり、学会に参加したり。それでもその通りにはいかなくてアレンジしたり。プラス理学療法士として積み重ねた経験から今目の前にいる方がどうなのかと予測してその方に合った働きかけをするのが肝。経験だけだと個人的な気持ちで突っ走ってしまったり、ある特定の方法に偏りがち。常に新しい情報を仕入れて、閉じこもらず職種を超えて議論できるようなスタイルが望ましいと考えています。
地域密着で途切れのないサービスを提供したい

「その人の生活全般に関わりたい方がLEOには向いていると思います」
――運営面でのご苦労はありますか。
想定外のことが起きると「今日出れますか」とスタッフに声をかけまくりますね。声をかける人がいればまだいいですけど、開所当初は看護師スタッフのお知り合いの方に2時間だけ来てもらったこともあります。サービスを提供している時間は必要職種のスタッフを配置しないといけないので。
――まだまだスタッフは不足気味ですか。
そうですね。何度か募集をかけたときの反応では、まず重症心身障害児施設がどういうところなのか分からない人が多いのではないかなという印象です。重心での経験がある看護師の方などは適用しやすいんですけど、当然その知識がない保育士の方などにはハードルが高いのかなと。一歩踏み入れてやりがいを感じられると、重心を辞めてもまた他の重心という方も多いと聞きますが。
――そのハマるツボはどこに?
一見コミュニケーションがとりづらい方でも、その方が発するメッセージをしっかり受け止められて、返して、その結果がよかったりするとそれがやりがいになるんだと思います。
――最後に目標や夢をお聞かせください。
途切れのないサービスを提供したいです。現在LEOは高校3年生までが対象ですが、それを過ぎてももちろん人生は続きます。その後は生活介護という形になるんですが、夢は大きく(笑)。もうビルを一棟バーンと建てて地域の方に向けて途切れのないサービスを提供できる場をつくりたい。あくまで地域密着。利用する方にも知ってる顔で安心すると思っていただくのが夢ですね。
横田さんが理学療法士として充実している理由は
1.直感を信じて重症心身障害児者施設に就職
2.常に新しい知識を得てアレンジ。常に研究熱心である
3.利用者さんそれぞれとのコミュニケーションを大事にしている
直感で重症心身障害児者施設に就職した横田さん。「利用者さんに予想を超える動きや反応が出たときは本当に嬉しい」というエピソードが印象的でした。興味のある方はぜひ門を叩いてみて!
撮影/森末美穂
取材・文/永瀬紀子