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介護・看護・リハビリ 2020-06-11

高齢者向けデイサービス(通所介護)の起業におけるポイント

日本はこれからも高齢者が増え続けるから介護業界で企業すれば儲かる、と短絡的に考えるのは危険なことです。確かに成功している経営者もたくさんいらっしゃいますが、地域差があるとはいえ基本的にデイサービス施設は飽和状態です。いくら介護技術の高いスタッフを集めても、オーナーのビジネスとしての能力が低いとすぐに廃業の危機に追い込まれてしまいます。

ここでは、どのような事業所運営をすれば成功するのかについて、一緒に考えて行きましょう。

デイサービスを起業して困ること

夢を抱いてデイサービスをスタートさせても、理想通りに運営できないことは多々あります。その原因とはなんなのでしょうか。

利用者が集まらない

デイサービスを起業することによる一番のリスクは、利用者(顧客)が集まらないことです。利用者数は直接売上や収入に結び付くため、利用者が集まらないと運営は厳しくなり従業員に賃金を支払うこともできません。その分、利用者が確保できると介護保険の収入により経営は安定します。

しかし、起業してすぐはなかなか集客ができません。例えばあなたの親がデイサービスを探しているとして、オープンしたばかりの店舗でまだ誰も利用していない、噂も実績もない施設に親を預けようと思いませんよね。知人が利用していて、「良い施設だよ」なんて言われると「使ってみようかな」なんて思うのでしょうが、利用者が一人もいなくて評価もない施設に入ろうとは思いません。つまり、一人目の利用者を獲得するのがとてつもなく大変なのです。

スタッフが集まらない

オープニングスタッフというのは求職者に人気のカテゴリです。そのため、求人広告ページに「オープニングスタッフ」と謳うことで応募はたくさん来るでしょう。しかし、オープンしたばかりで利用者がほとんどいない状態では、雇うスタッフも少なくしないと給与も払えず、まともな運営もできません。そこで、最初はスタッフ数を少なくしておき、利用者が増えて来たらスタッフを増やすようにするのが一般的なのですが、利用者が増えて来た頃には求人広告に「オープニングスタッフ」という文言を使えません。

そして、なかなかスタッフが集まらず、既存スタッフに大量の仕事が圧し掛かり、既存スタッフまで不満で辞めてしまう。その結果、満足したサービスを提供できず、施設運営を続けられなくなってしまうのです。

スタッフの関係悪化

良い人材を集めることができても、小さな集団で過ごすうちにいろんな問題が発生します。スタッフ同士の不仲、派閥の発生、中でも問題なのが、管理者がスタッフのリーダーとして経営者を悪者にすることです。そうなると小さな組織はたちまち崩壊してしまいます。スタッフ間の人間関係については、常に気にしておく必要があるのです。

営業の秘訣

開業前の段階では、町の皆さんはそこにデイサービス施設があることを知りません。そのため、まずは知ってもらうことが必要です。しかし、前述したように実績がない施設に入るにはかなりの勇気が必要です。そのため、あなたが始めるデイサービスが何に特化した施設なのかを明確にする必要があります。

例えば、どこにでもある普通のデイサービスであった場合、他の施設に通う高齢者がわざわざその施設を辞めてあなたの施設に移る必要はありませんし、これから利用する人も特色も実績もない施設に行くくらいなら、特色がなくても実績のある施設に行くでしょう。そのため、「この施設に入ったらこんなメリットがある」という特色をアピールする必要があるのですが……さて、何をアピールしましょう。

・風呂(例:一般の施設の倍の時間を使って、ゆっくり入浴できる)
・食事(例:好きなものを食べられるバイキング方式)
・リハビリ、身体能力の維持回復(例:パワーリハビリテーションを採用)
・レクリエーション(例:子どものお遊び程度のレクではなく、心から楽しめる企画が満載)

どんな施設に人気が集まるというのは断言できませんが、開業するところの近くにはないような施設が良いと思われますし、もし余裕があるなら「どんな施設があったら行きたいか」と、地域の高齢者やご家族の声を聞くのも一つの手です。

アピールポイントが決まったら、今度は宣伝です。居宅ケアマネもまだあなたのデイサービスの存在を知らないので、まずケアマネに知ってもらいましょう。その際、特色をアピールしたチラシを作成しておくと説明が楽になります。あなたの施設をケアマネに知ってもらうことにより、新規でデイサービスを探している人に施設を紹介してくれるかもしれません。多くの場合、ケアマネからの紹介でデイサービス利用がが始まります。

その他、歯医者や喫茶店、役所など、高齢者が良く行く場所にもチラシを置かせてもらい、施設の存在を知ってもらいましょう。共存共栄できそうであれば、他のデイサービスにもチラシを置いてもらえるように頼んでみるのも良いかもしれません。

開業の手順

デイサービスを立ち上げるにはたくさんの準備が必要です。ここでは開業までの流れを確認してみましょう。

1.基本構想を練る

□開業する地域や物件を選定する。
(都市計画法・建築基準法・消防法等の手続きの有無を確認)
□地域情報を把握する。
(地域の人口、高齢者数、競合他社の確認)
□入手した情報から需要を予想し、戦略(サービス内容・宣伝活動など)を決める。

地域や物件の選定はデイサービス開業における重要なポイントです。建物を購入した後に後悔しないように気をつけましょう。
・他の事業所は少ないか
・高齢者が多いか
・従業員が通勤しやすい場所か
・送迎車からの乗り降りが安全に行えるスペースはあるか
・市街化調整区域ではないか(都市計画法)
・用途変更手続きが不要か(建築基準法)
・自動火災報知機等の設置の要否(消防法)
・建物が介護事業所として適合するか(条例)
・建物、場所の許可が下りるか(介護保険法)

2.物件の確定

□基本構想から事務所(物件)を決定し、確保する。
□設備基準に配慮して施設の設計をする。

3.事業計画書の作成

□「資金計画」「経費計画」「売上計画」「収支計画」「利益計画」等、 計画を立てた上で事業計画書を作成する。

4.法人格の取得

□指定介護事業所の許可を受けるため、法人格を取得する。

法人には株式会社、合同会社、NPO法人、社会福祉法人等の法人などがあり、それぞれに特徴があります。

株式会社

昔は資本金に1,000万円以上必要だった株式会社も、現在では1円でも設立できるようになっています。

[メリット]
・株式の発行により増資ができる
・認知度が高い

[デメリット]
・設立に約3週間かかる
・設立のための納税額が4つの中で一番高い(登録免許税 15万円、定款認証費用 5万円)

合同会社

認知度が低いことが欠点とは言えますが、デイサービスに重要なのは会社名よりも屋号です。かかるお金が安いことも考えると合同会社で考えるのも良いでしょう。

[メリット]
・設立費用が安い(登録免許税 6万円 定款認証費用 0円)
・設立までの期間4つの中で一番短い

[デメリット]
・認知度が低い

NPO法人

非営利団体で、公益性を重視した法人です。

[メリット]
・信用度が高い
・費用がかからない

[デメリット]
・審査が厳しい
・設立までの期間が長い

社会福祉法人

社会福祉事業を行うことを目的とし、社会福祉法に基づいて設立できる法人です。

[メリット]
・補助金の交付
・税金の優遇措置(法人税の非課税、固定資産税の非課税等)

[デメリット]
・運営が所轄庁の管理下に置かれる
・役員、資産などの要件が厳しい
・設立までの期間が長い

5.事前協議と工事着工

□指定機関との事前協議(工事着工前)
□工事着工

6.スタッフの募集・採用

□管理者の採用(1名・常勤)
□生活相談員の採用(1名以上)
□看護職員の採用(1名以上)[※1]
□介護職員の採用(1名以上)[※1]
□機能訓練指導員の採用(1名以上)

[※1]小規模デイサービス(地域密着型で利用定員が10名以下)の場合は看護職員または介護職員のどちらかを1名以上の配置でも良い。

「管理者と生活相談員」、「管理者と介護職員」、「看護職員と機能訓練指導員」は兼務できる可能性があります。兼務できるかどうかは、指定機関に確認しましょう。

募集・採用の方法

スタッフの募集や採用には以下の様な方法があります。効果的な方法で募集しましょう。
1.ハローワークの利用
2.求人サイトの利用
3.フリーペーパーの利用
4.大学や短大など、学校の就職課の利用
5.知人や以前の職場仲間などの人脈を利用

7.デイサービス(通所介護事業者)の指定申請

□指定機関に(都道府県または市区町村)申請する
(工事完了し、人員基準・設備基準・運営基準クリア後)

指定申請書類の作成や申請の代行には社会保険労務士の資格が必要です。フランチャイズ等が行うと社会保険労務士法違反になります。

8.開業に必要な書類の準備

□通所介護契約書の作成
□重要事項説明書の作成
□就業規則の作成
□社内規定・マニュアルの作成
□介護報酬請求ソフトの導入

9.開業

□開業(書類承認後)

よくある質問・相談

ここでは、デイサービスの起業に関するよくあるご質問・ご相談について回答していきます。

Q1.デイサービスの開業資金はいくら必要ですか?
A1.正直、一概に答えることはできません。物件は賃貸にするのか、元々所有していた一軒家を改築するのか。それによって設備投資にかける金額も異なります。また、都心や田舎など場所によって人件費も違いますし、融資も設備資金か運転資金かによって利率も変わります。

それでも答えてくださいと言われると……平均的な地価で物件を賃貸で借りる場合、物件確保と改装など、立ち上げのために約300万円、運転資金として更に300万円。最低でも600万円は確保しておきたいですね。もちろん、開業後の顧客状況により運転資金は更に必要となることが考えられます。

Q2.開業に必要な資格要件ってありますか?
A2.デイサービスの経営者になるのに資格は必要ありません。ただし、スタッフは配置基準に従い、資格が必要な場合があります。

Q3.デイサービスの起業家のためのセミナーのようなものはありますか?
A3.あります。介護事業全体の起業セミナーもありますし、デイサービスや訪問介護に特化したセミナーもあります。インターネットで「介護事業説明会情報」で検索するとセミナーの記事やブログがたくさん出てくるので、勉強のために参加しても良いと思いますよ。

Q4.FC(フランチャイズ) のメリット・デメリットを教えてください。
A4.起業したいけど、経験やノウハウがないという場合はフランチャイズに加盟するのも良いと思いますが、やはりメリットとデメリットがあります。

<FC加盟のメリット>
・ネームバリューがあるので集客が楽
・開業支援やノウハウの提供がある
・本部が一括で販促や広告活動をする

<FC加盟のデメリット>
・加盟金、ロイヤリティがかかる
・制約が多い(自分自身がやりたい経営ができない)
・他の加盟店で何かがあると、風評被害が起こる場合がある

まとめ

デイサービスを起業するには、5~6か月はかかると考えておきましょう。もちろん、建物設の準備が既にできていたり、様々な要因によって変わりますが、倒産などの心配ができる限りないように、しっかり運営するためにはそれだけの準備期間が必要ということです。

デイサービスを起業するのに大切なことは、「利用者が必要とする施設を作る」ということです。他の施設とよく似たサービスを提供していた場合、倒産して施設が無くなっても利用者からすると「他の施設に行けばよく似たサービスを受けられる」わけですから、それほど困らないでしょう。そこの施設でしか体験できないような、特別なサービスを提供することで、利用者に必要とされ長く続く施設を運営できるのです。

▼監修者プロフィール
氏名: 森田 進(株式会社アビーク 代表取締役)
経歴: 日本大学法学部経営法学科卒 株式会社アビーク代表取締役、社会福祉法人絆会評議員、横浜市保土ヶ谷区デイサービス連絡会会長、介護創業塾塾長 現在、介護事業所の経営コンサルティング業のほかに、デイサービス2事業所を運営中。

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