否定はせず、利用者さんとの時間を楽しむ。関わり方次第で他害行為も落ち着いていく【介護・看護・リハビリ業界のお仕事企画 小平晴風会 介護福祉士 望月亜津子さん】#2
業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載「介護・看護・リハビリ業界のお仕事企画」。
今回は「社会福祉法人 小平晴風会」が運営する知的障害者の生活介護事業所「ひまわりばたけ」で、主任、介護福祉士、サービス管理責任者として働く望月亜津子さんにお話しを伺います。
前編では望月さんが障害者福祉の道に進んだきっかけや、「ひまわりばたけ」に入るまでの経験について伺いました。
後編では転職した望月さんが、生活介護事業所「ひまわりばたけ」での仕事をどのように感じたのかを伺います。とくに印象深かったと話すのが、人を叩いたり、物を壊したりしてしまう、「他害行為」をしてしまうある利用者さん。他害行為が出ても否定的なことは言わず、利用者さんが好きなものを一緒に楽しむことで信頼関係を築けるようになると、そういった行動がどんどん落ち着いていったといいます。
お話しを伺ったのは…
社会福祉士法人 小平晴風会
主任/介護福祉士/サービス管理責任者
望月亜津子さん
短大にて保育士資格を取得後、重度心身障害者の入所施設、児童発達支援事業所でそれぞれ3年ほど経験を積む。結婚や出産、子育てのため、障害者福祉の仕事から長い間、離れていたが2019年に「小平晴風会」に入職。介護福祉士、サービス管理責任者として、利用者が地域のなかで主体的に生きていけるように支援を行っている。
自分が考えた支援で行動に変化が。大きな可能性を秘めた仕事

「ひまわりばたけ」に併設された、パン工房「ひまわりばたけ工房」。建物がとても可愛らしいのも「ひまわりばたけ」の魅力
――「ひまわりばたけ」で働くようになって、どんなことを感じましたか。
魅力の多い施設だと感じました。建物も新しくて素敵ですし、アトリエやパン工房を併設しているため利用者さんが主体的に活動できます。職員も優しい方が多いのでとても働きやすい環境だと思いました。
――「ひまわりばたけ」で仕事のやりがいを感じるのは、どんなときですか。
自分が考えた支援がうまくいって、利用者さんに変化が現れたときです。ここに通っている方のほとんどが重度の知的障害のある方です。人を叩いたり、物を壊したりする「他害行為」が出てしまう方、作業をしていても5分ほどしか集中力が続かない方、決められた通りの時間に活動ができないという方など、さまざまな特性を持っています。
私の仕事のひとつに利用者さんの個別支援計画の作成があるのですが、そういった方たちの他害行為が落ち着くにはどうしたらいいか、集中できる時間を10分に伸ばすにはどうしたらいいか。どのタイミングで声をかけるか、気分転換をどう入れるかなど、合理的配慮をしながら支援を考えます。自分の関わりによって、利用者さんに変化が出るという意味では大きな可能性を秘めた仕事だと思います。
「だめ」ではなく「大切に」。否定的な言葉を言い換えて、信頼関係を築く

「ひまわりばたけ」で関わってきたなかで、もっとも印象深かった利用者さんについて話す望月さん
――これまで「ひまわりばたけ」で6年ほど働かれてきたとのことですが、とくに印象深かった出来事はありますか?
他害行為が出てしまう、ある利用者さんとの関わりはとても印象深く残っています。最初のころは他害行為がとくに頻繁で。まだ心を許せる職員がおらず、自分をどれくらい受け入れてくれるかを、他害行為によって試している部分もあったと思います。
それが3年ほど関わるうちに徐々に行動が落ち着いてきました。ただ新しい職員が入ってくると、また試し行動が始まったりもするので、状態に波はあるのですが。
――どんなアプローチをされたのでしょうか。
ひとつには否定的な声掛けをしないことです。たとえば利用者さんが物を投げてしまったときに「投げてはだめ」と言ってしまいがちなのですが、利用者さんの多くは小さいころからそういった否定的な声を掛けられてきています。
否定的な言葉を聞くだけで昔を思い出してイライラしてしまう方もいるため、支援のなかでは「物を投げてはだめ」を「物を大切にしようね」に言い換えるなど、極力、前向きな言葉に置き換えるようにしています。
またこちらが強く反応すると利用者さんもさらに興奮してしまうので、あえて反応せず、淡々としていることもとても大切だと思います。
もうひとつ心掛けていたのは、利用者さんが楽しいと感じることを一緒に楽しむことです。その利用者さんは、ボタンを押すと音楽が流れるおもちゃが大好きで、いつも「きらきら星」を流しているんです。私も一緒になって歌って楽しむことで、信頼をしてもらえるようになったと思っています。
物が壊れても、誰のせいでもない。物事をしなやかに受け止める

起きたことは誰のせいでもないと捉えて、あまり深く考えないという望月さん
――利用者さんには、心の余裕を持って接することが大切なのですね。
正直、私も余裕はないです(笑)。余裕はないけれど、あるように見せることが大事なのかなと。利用者さんは本当によくスタッフの表情を見ていて、こちらがイライラしていると、利用者さんもイライラし始めます。
私たちがどう行動するかということより、どんな表情をしているか、どういう気持ちでいるかの方が利用者さんに大きな影響を与える、大事なポイントのような気がします。
――利用者さんに穏やかに接することができるように、普段から心掛けていることはありますか?
あまりないかもしれません。というのも私はどんなことが起きても、「しょうがないや」で済ませてしまうタイプなんです。たとえば利用者さんに物を投げられても、「この方の障害だからしょうがないよね」という感じで。物が壊れてしまったとしても、それは誰のせいでもないし、偶然が重なってそうなってしまっただけだと考えます。
あとは私の場合、何かうまくいかないことがあったとしても、朝起きたときにはもう忘れているということがほとんどです。単純なタイプなので仕事が長く続いているのかなとも思います(笑)。
――最後に今後の目標があれば教えてください。
私は元々、保育士として働こうとしていたベースがあるので、いつかはまた子どもたちに関わる仕事がしたいなという思いはあります。子どもたちと関わることで、子どもたちはもちろん、親御さんの人生まで少しでも明るくできたらいいなと。
またこの事業所での目標でいうと車いす利用の方もいるので、そういった方たちも安心して過ごせるように動線を確保したり、1日に数時間でも車いすから降りられる場所を作れたらという思いもあります。
この生活介護事業所は重い知的障害のある方が多い場ですが、支援によってその方が変わっていく姿を見ると、自分の仕事が報われたと感じます。これからも少しでも利用者さんの笑顔を増やし、充実した生活を送る手助けができたらと思います。
利用者さんやご家族が少しでも明るく前向きに過ごせるよう、力を尽くしている望月さん。一方で肩に力を入れすぎず、起きたことをゆるやかに受け止める姿勢も感じました。この2つの軸を行き来するしなやかさが望月さんの強さなのかもしれません。