相手の人生を変えるかもしれない仕事だからこそ、責任感とやりがいがある!【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.62 ヨガ講師/カウンセラー・倉本ななこさん】#1
「ヘルスケア業界」のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロに、お仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。
今回お話を伺ったのは、
ヨガ講師/カウンセラーとして活躍する倉本ななこさん。
10歳と8歳の男の子のママでありながら、子育てと仕事をうまく両立させて、充実した毎日を送っています。
前編では、ヨガ講師/カウンセラーになったきっかけや、それぞれ大切にしている思いを伺います。
ヨガを通して、世のお母さんたちにも
自分自身を大切にしてもらいたい
――まずは、現在の活動内容を教えてください。
ヨガ講師と、心理カウンセラーをしています。ヨガは、もともと趣味でやっていたんですが、長男が産まれて「産後ヨガ」をやってみたら、フィットネスとは違う良さに気がついたんです。出産をすると、ホルモンなどの影響でどうしても塞ぎ込んでしまったり、気分が落ち込んでしまったりするんですが、ヨガをしたら心が解放されたというか、気持ちがパーッと晴れたというか。どうしても赤ちゃんがいると、自分のことは後回しになってしまうんですが、ヨガをやっていると「自分の時間も取っていいんだ!」と思えて。そこから、子育ても楽しめるようになったんです。
「ママだって、子どものことと同じように、自分のことを大切にする」って、冷静に考えたら当たり前のことなんですけどね(笑)。でも実際、世のお母さんはそれに罪悪感を感じている人も多いと思うし、私自身もそうだったので、ヨガを通して少しでも自分のことを大切にしてもらいたいなと。子どもたちが幼稚園に通うようになって、少し時間が取れるようになったのをきっかけに学校に通い、ヨガ講師になりました。
――レッスンをする時、意識していることはありますか?
例えば「胸を開いて」っていう言葉を一つとっても、人によって「分かりやすい」「分かりにくい」の感じ方はさまざまなので、常に「伝わらないかも」と思って、何通りもの言い方を用意しています。あとは、生徒さんの動きをよく観察して、ちゃんと伝わっているかどうか確認しながら進めるようにしていますね。
――昨今は、オンラインのレッスンも多いと思いますが、対面とオンラインで違いはありますか?
オンラインは本当に難しい! 同じメニューでも、もはや別物です。スタジオで行う対面のレッスンだと、一人一人を見て回って、例えばちょっと腕の高さが低かったら、直接腕を持ち上げて「ここ!この高さでキープして!」とか伝えられるのですが、画面だとなかなかうまく伝えられなくて……。
あと、正しいポーズができているかどうかだけでなく、同じ空間を共有するっていうのも大切だと思うんです。例えば、「今日のアロマは〇〇で森林浴しているような爽やかな香りですね」とか、窓から風が入ってきたら「涼しい風が入ってきて心地いいですね」とか。オンラインだと、そういう五感を刺激するような体験は共有できませんからね。
それに、レッスンを受ける場所もリビングだったり、寝室だったり、生徒さんによってさまざま。直前まで洗い物や洗濯をしていたかもしれないし、奥でお子さんがぐずっているかもしれない……。「いつでも」「どこでも」というのがオンラインの良さではあるんですが、その分、みんなに集中して取り組んでもらうのは難しいかもしれません。
――なるほど……。少しでも生徒さんに集中してもらうためにやっていることはありますか?
いつもより丁寧に伝えるというのはもちろん、レッスンの中にドラマのようなの波を作るようにしています。対面のレッスンでも意識していることなんですが、オンラインだとよりわかりやすくメリハリをつけているかも。音楽やリズムだけじゃなく、私が発する声のトーンや声色も変えて、レッスンの「流れ」に集中できるようなメニューを組むようにしています。
苦しんでいる息子を助けたくて始めた勉強が
心理カウンセラーになるきっかけに
――心理カウンセラーになったきっかけは何だったんですか?
長男が小学校に通うようになってから、突然ネガティブなことをたくさん言うようになったんです。もともとすごくポジティブで明るい子だったんですが、例えば体育の時間にうまくボールが投げられなかっただけで「僕は運動神経が悪いかもしれない」とか、ちょっと解けない問題があると「僕は頭が悪いからできないのかも」とか。
小学校に上がって集団生活が始まり、どうしても周りの子と自分を比べてしまって、「できないことがあってはダメ」という思いに囚われしまったようで。できないことがある自分を否定している様子をみて、「これがいわゆる自己肯定感か!」と思いました。
そんな長男をなんとかしてあげたいと思って、自己流で心理カウンセラーの勉強を始めたんです。すると、学べば学ぶほどもっと深く勉強してみたいと思うようになって、カウンセラーの先生に習いに行くようになりました。そこでは、自己肯定感に特化したカウンセリングのやり方とか、そもそも「自己肯定感とは?」っていうことを教えてもらいましたね。
――そんな経緯があったんですね。
とはいえ、当時は「とにかく長男をなんとかしてあげたい」という思いだけで、カウンセラーになるつもりはありませんでした。でも、学んだことを少しずつSNSで発信していたら、それを見てくれた方達やほかのお母さんたちから「カウンセリングをしてほしい」とか、「子育ての中で、どういう声かけをしたらいいか教えてほしい」っていう声をもらうようになって。せっかくなので、もっとちゃんと勉強してカウンセラーとしてデビューしてみようかな、と思うようになったんです。
――そうだったんですね。ちなみに倉本さんが思う「自己肯定感が高い人」とは?
「自己肯定感が高い人」というと、一見「どんなことにも動じない強い人」だったり、「いつも元気で明るい人」みたいなイメージを持っていると思うんです。でも私が思う「自己肯定感が高い人」というのは、柔軟な心を持った人のことなんじゃないかなと。言うなれば、どんな雨風にも微動だにしない1本の木というよりか、雨や風に揺らいだり、倒れそうになったりすることがあっても、しなやかに柔らかく起き上がる木という感じでしょうか。
正直、どんなに自己肯定感が高い人でも、ずっと意識を高い状態で維持するのは難しいはず。人間ですから、時には気分が落ち込む時もあるでしょうし。でも、自己肯定感が高い人は、そういう落ち込んでいる自分も含めて「自分」と認めてあげているというか、「自己受容」の意識が高いんだと思います。
――なるほど!
なので、時には落ち込むことがあってもいいんです。信念というか、自分の中にしっかりとした1本の軸さえあれば、周りに影響されたとしても、ちゃんとしなやかに起き上がってこられるし、自分の気持ちを上手に整えられる。それこそ「自己肯定感が高い」ということだと思います。
――なんだか、すごく納得しました! ちなみに、カウンセリングをする時に大切にしていることは何ですか?
自分のフィルターというか、色メガネというか、そういうものを全部取っ払ってクリアな状態でお話を聞くようにしていますね。正直、どんな人でも知らず知らずのうちに自分のフィルターを通して物事を見ていると思うんです。もちろん、それはその人の人生というか、生きた証というか、経験の積み重ねがあってこそなのですが……。でも、カウンセリングをする上では、「いやいや、そうじゃないでしょう」とか、「それってこういう意味なのでは?」とか邪推して、ちゃんと相手と向き合えなくなる要因になってしまうので。
――確かに……。でもフィルターを外すって難しそうですね。
初めは難しいですね。私もカウンセラーとしてデビューする前に、先生から「100人ぐらいカウンセリングをしたら、わかるようになるよ」と言われて、驚きました(笑)。でもその通りでしたね。これは場数を踏まないと難しいと思います。
――何かコツだけでも教えてください!
そうですね、視界をクリアにするってことは、気分がフラットな状態であることが大切なので、私の場合は散歩したり、昼寝したり、ストレッチしたり、「自分の機嫌が良くなるリスト」みたいなものを作っています。音楽を聴く、アロマを焚く、掃除をする、なんでもいいと思いますよ。これをやれば気分が良くなる、落ち込んでいても平常心に戻れるっていうリストをいっぱい作っておく。これがあれば、カウンセラーであるなし関わらず、日常生活でも心地よく過ごせると思うので、試してみてください。
ヨガやカウンセリングを通して
前向きな気持ちになってくれると嬉しい!
―お仕事のやりがいを教えてください。
私は、ヨガ講師もカウンセラーも、「相手の人生を変えるかもしれない」という思いでやっています。ヨガって習慣にすると、体が変わるのはもちろん、性格や考え方まで変わってくるんです。私自身も、ヨガを通じて「もっと自分を大切にしよう」と思えるようになりました。カウンセリングも言わずもがな、性格や考え方、生き方、人生を見つめ直す行為だったりするので、ヨガやカウンセリングを通して、笑顔が増えたり、気持ちが前向きになってくれればすごく嬉しいですね。
――そう考えると、ヨガもカウンセリングも少し似ているんでしょうか。
そう思います。特にヨガは、自分を心地いい状態にするための一つのツールだと思うんです。忙しい毎日の中にヨガを習慣として取り入れることで、リフレッシュできたり、リラックスできたり。それが「温泉に入ること」という人もいるかもしれないですし、「カラオケに行って歌うこと」という人もいるかもしれないですが、ヨガをすることで毎日を充実させて、気持ちを整える。レッスン後、生徒さんの顔が清々しく、爽やかな表情をしていると、私自身もものすごく達成感がありますよ。
心と体の健康について、真摯に向き合ってお仕事をされている倉本さん。ご自身の経験と学びが、このお仕事を選ぶきっかけになっているので、言葉の一つ一つに強い思いを感じました。
昨今よく言われる「自己肯定感」についても、とても分かりやすく解説してくださいましたね。「自分の機嫌が良くなるリスト」は、どんな職業であれ、みなさん持っておいて損はないはず! ぜひ参考にしてみてください。
後編では、子育てと仕事をうまく両立させるコツや、今後の目標について伺います。
取材・文/児玉知子
撮影/喜多二三雄