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ヘルスケア 2023-06-21

インスタでも話題! セルフケアにぴったりなお灸をレクチャー【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.102/柔道整復師・鍼灸師 山田暁子さん】#2

「ヘルスケア業界」のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロに、お仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。

今回お話を伺ったのは、柔道整復師・鍼灸師 山田暁子さん。

鍼灸接骨院や高齢者施設での勤務、レンタルサロンでの営業を経て、22年12月に東京・高円寺で「alba暁子鍼灸治療院」を開業された山田さん。
前編では、鍼灸師になったきっかけや現在の働き方、レンタルサロンと個人サロンの違いについてお話を伺いました。
後編では、最近インスタでも話題になっているお灸について、未来の柔道整復師や鍼灸師に向けたアドバイスを伺います。

赤ちゃん、妊婦さん、高齢者、
その人その人に合わせて施術を行う

――前編で小児鍼のお話がありましたが、小さな子どもでも鍼ってできるんですね。

生後3ヶ月ぐらいから可能です。ただ小児鍼は体に鍼を刺さず、皮膚の上からツボを刺激する施術になります。子どもの肌はすごく敏感で感受性が高いので、皮膚表面の刺激でも同じ効果が得られるんです。とても気持ちいいのでウトウトする子や、「明日も来たい!」っていう子もいます。

――でも、大人と違って施術が大変ではないですか?

一人でベッドでじっと寝ていられない赤ちゃんは、おむつだけになってもらってお母さんが抱っこしたまま施術します。そして最初は、お母さんの腕でデモンストレーションをするんです。お母さんが「気持ちいいな」って言っているのを、子どもに見せるわけですね。そうすると子どもも安心するし、お母さんも安心する。それから実際に子どもの施術に移ります。

何回も通っていて2〜3歳になってくると、一人でベッドにゴロンと寝て「お母さんは入って来ないで!」って自分でカーテンを閉める子もいます(笑)。大人ぶっていて可愛いですよね。小学生になってくると、小児鍼にお灸をプラスすることもあります。

――ちなみにホームページでは妊婦さんや高齢者、認知症の方にも、と紹介されていましたが。

妊婦さんはお腹が大きくてうつ伏せができないので、横向きで寝てもらって施術します。また、腰痛がある方が多いのですが、直接腰を触られるとお腹が張って余計辛くなるので、こまめに様子を伺いながら刺激を与えすぎないように注意しています。

高齢者も妊婦さん同様、横向きで施術することが多いです。足腰に痛みがある人は、起き上がる時に負担がかかりますからね。また、高齢者は皮膚が薄くなっているので、鍼を使うと内出血してしまう場合もあります。肌の状態を見ながら、場所によってはお灸のみで対応します。

認知症の人は、「腎」の気力を補う施術を行います。これは認知症に限らず、多くの高齢者に当てはまると思うのですが、夜長く眠れず何度もトイレに起きてしまうという人、いますよね。夜しっかり眠れるというのは、その人の生活リズムにすごく影響しますから、そこをケアするんです。

認知症の人に「これはダメ」「あれはダメ」と行動制限をしてしまうと、症状が悪化するのでよくないんです。とはいえ夜眠れなかったら徘徊などにつながってしまい、ご家庭だとご家族が、介護施設だと夜勤のスタッフが大変になってしまいます。もちろんご本人も辛いでしょうし……。

――確かに。これは、高齢者施設で働かれている経験が生きてらっしゃるんでしょうか。

そうですね、働かなかったらわからなかったことかもしれないです。施設に勤めるようになってから、認知症について勉強するようになりましたし、初任者研修の資格も取りました。

正直、柔道整復師や鍼灸師の資格を持っていても、「ベッドから立たせて、歩かせて、椅子に座らせる」って学校では習わないし、わからない。私も最初全くできなくて苦労しました。でも、これから高齢化社会が進むにつれて、それらをすべて介護士さんが行うのは大変ですし、介護士さんの手を借りられない場面もたくさんあるはず。そういった経験を少し積んでおくことも、今後大切かもしれません。

即効性があり予防医療にも効果的な
お灸をレクチャー

――ちなみにこの治療院で受けられる施術は?

鍼とお灸、吸い玉を使って施術を行っています。施術のほかに「お灸教室」というメニューもあります。「何月何日の何時からやりますよ」というイベント方式ではなく、他の施術と同じように予約していただくのですが、ママ友グループなどで参加される方が多いですね。

じつは最近、お灸がじわじわと人気になっているんです。インスタでも「お灸女子」というワードが話題になっていて、セルフケアに取り入れる人も増えているのですが、「買ったけど、使い方がよくわからなかった」「試してみたけどあまり効果が感じられなかった」という人もいて……。そういう人に正しくお灸を使ってもらいたいなと思って始めました。

――どのようなことをレクチャーしているのか、少し教えていただけますか?

まずは、現在の体の状態を確認してもらいます。痛みや不調だけでなく、前屈をしたり腕を上げたり、首を動かしたり、可動域もチェックするんです。

次はいよいよお灸を据えていくのですが、一般的に市販されている貼るタイプのお灸だと順番は、

1.台座のシールを剥がす
2.指先に貼る
3.火をつける
4.火がついたのを確認したら、台座を持ってゆっくり指から剥がす
5.ツボに貼る

という流れになります。難しくはないのですが、意外とわからないですよね。

――ちなみに、お灸初心者にもおすすめのツボをいくつか教えていただけますか?

●内関:手の平を上にして、手首のしわから指幅3本分離れたところ
動悸、不眠症、不安感、イライラなど

●三陰交:内くるぶしの中心から指幅4本分上がったところ
めまい、立ちくらみ、低血圧症、のぼせ、冷え、むくみ、生理痛、更年期障害、自律神経失調症など

●大推:頭を少し前に倒し、首の付け根に突き出る骨の真下
肩こり、頭痛、風邪予防、ぜんそくなど

大推は首の後ろなので、火を使わない貼るタイプのお灸を使うのがおすすめです。それぞれいろいろな効果がありますが、大きく分けると、

・気圧によって自律神経のバランスが崩れやすい人→内関
・生理不順や更年期障害が気になる人→内関・三陰交
・すべての不調に→大推

このようなイメージなので参考にしてみてください。さらに言うと、ツボは決められた箇所だけでなく、その人その人によって異なる「ケアすべきツボ」というもあります。

例えば、腕を軽く触っていって「冷え」「凹み」「ざらつき」がある箇所を探してみてください。そこがその人のケアすべきツボです。要は血流が不足していて滞っているため、冷えや凹み、ざらつきが出ているんですね。押して痛いところ、ズーンと響くところは「阿是穴(あぜけつ)」というツボになります。腕以外にも全身にありますよ。

――先ほど「煙の出ない貼るタイプのお灸」とおっしゃっていましたが、いろんな種類があるんですか?

火を使うタイプ、煙の少ないタイプ、火を使わないタイプ、アロマの香りがついたタイプなど、いろいろあります。お灸をすえる場所やお好みで選んでください。火を使うタイプのお灸は、腕や足の見える場所でのみ使うようにしてくださいね。

「お灸教室」では、だいたい1時間半ぐらいたっぷりお灸を試してもらうのですが、最後にもう一度体の状態をチェックします。お灸って、意外と即効性があるんですよ。みなさん最初の状態と比べてかなりよくなっていて、驚かれます。

最近は「鍼灸院」といってもお灸を使わず鍼だけで施術するところもありますが、ここでは一般的なお灸のほかに、鍼の上にお灸を乗せる「灸頭鍼」や、箱の中でもぐさを燃やし、お腹などに乗せて使う「箱灸」など使って施術しています。来院される方の中には「『お灸』で調べてきました」という方もいるんですよ。

今、「予防医療」というのがすごく注目されていますが、お灸は予防ケアにもぴったり。この良さをもっと伝えたくて、初回で来てくれた方には、お灸のトライアルセットをプレゼントしています。

子どもからお年寄りまで
「家族のかかりつけ院」になりたい

――この仕事のやりがいや魅力を教えてください。

鍼灸院にいらっしゃるお客さまは、「病院に行ったり、薬を飲んでみたり、いろいろ試してみたけど、どうしようもなくて来た」という人が多いんです。そういう人たちが、「楽になった」って笑顔でお帰りになる時に、一番やりがいを感じますね。

鍼灸は基本、副作用がありません。その人の自己免疫力を上げることで、本来持っている気力や元気を引き上げてあげる施術です。そのため、負担が少ないですし、何より1つの症状だけでなく、体全体のバランスが整うので、「鍼のおかげで、最近なんだか調子が良い」と言ってくださる方もたくさんいます。

基本的には即効性もありますが、たまに「全体的に楽になったけど、ここの辛さが少しだけ残っている」ということもあります。そういう時、私の場合は置き鍼を使います。シールタイプのもので、体に貼ったままお帰りになってもらうのですが、これが「あと一歩」のいい仕事をしてくれるんです。来てくださったからには、みなさまに「完璧!」と思って帰っていただきたいですからね。

――今後の夢や、目標はありますか?

いろんな世代の人に「鍼灸ってすごくいいんだよ」っていうのを伝えたいです。そのための一つがInstagramだったりするんですけど、おかげで20代の若い人たちも少しずつ興味を持って通ってくれているのが嬉しいですね。

ここには、耳の不自由な方も通っています。その人とは文字起こしアプリを使って会話しながら施術しているのですが、そういった一人一人に合わせた施術ができるのも個人治療院の魅力。赤ちゃんからおばあちゃんまで通っていただける治療院なので、「家族のかかりつけ院」的な場所になれたらいいなと思います。

――今後鍼灸師を目指す人が学んでおくべきこと、経験しておくべきことなど、アドバイスをいただけますか?

私はいろんな仕事を経験して、学校の勉強だけが全てではないということを知りました。同じ柔道整復師、鍼灸師でも、働く場所が変わればお客さまも変わりますし、施術のアプローチも変わります。学校では教えてくれなかった知識も必要になるので、積極的にいろんな現場でいろいろな経験を積むことが大切ではないでしょうか。特に、これからますます高齢化社会になっていくので、介助的なサポートができるとよりいいと思いますよ。

あと、この仕事はお客さまといいコミュニケーションを取らないことには、いい施術ができません。そう考えると、私はカフェでアルバイトをしていた経験がすごく役に立ちました。今でも覚えているのですが、当時接遇研修があって、声のトーンや出し方、笑顔の作り方などを教えてもらったんです。「ザ・接客業」の研修ではあったものの、習ってよかったなと思っています。

――どの経験も全て生かされているんですね。最後に、「柔道整復師・鍼灸師の3ヶ条」を教えてください。

・お客さまとの何気ない会話からも原因を探ること
施術はお客さまが治療院に足を踏み入れた時から始まっています。私は雑談が多いんですが、そこからその人の生活環境だったり、習慣、身の回りのことを把握させてもらっているんです。もちろん歩き方や声のトーンにも注目します。どんな小さなヒントも見逃さないようにするのが、心得の1つですね。

・お客さまと向き合うのではなく、同じ方向を向くこと
向き合って対面するのではなく、お客さまの目指す方へ一緒に向き、ある時は背中を押す、ある時は手を引く、ある時は横に並んで手を繋ぐように、二人三脚で寄り添って歩む姿勢が大切だと思います。

・来院した時よりも圧倒的な笑顔になってもらってお見送りすること
みなさん何かしら辛い思いをされて来院されているので、それらを完全に取り去って笑顔になってもらうことを目標に、これからも施術していきたいと思います。

取材・文/児玉知子
撮影/喜多二三雄

information

alba暁子鍼灸治療院
住所:東京都杉並区高円寺南4-7-3 サンシャイン高円寺804
Instagramアカウント
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