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ヘルスケア 2023-07-25

予防医学の重要性とセルフケア法を30年以上広め続ける【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.106/自力整体 矢上裕さん】#1

「ヘルスケア業界」のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロに、お仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。

今回お話を伺ったのは、鍼灸師・整体治療家「自力整体」矢上裕さん。

予防医学の重要性に目覚め、鍼灸・ヨガ・整体術を学ぶなかで、セルフケアのための整体術「自力整体」を考案した矢上さん。以来30年以上、「自力整体」の教室や指導者育成に尽力しています。

前編では、「自力整体」考案までの道のりや現在の働き方についてお聞きしました。

自分の体を医者に丸投げ… 予防医療の重要性に気づき、「自力整体」を考案

――まずは矢上さんがヘルスケアの道に入られた経緯から教えてください。

予防医学の重要性に目覚めたのは、大学2年生のとき、母親の入院がきっかけでした。病院へお見舞いに行くと、待合室でうなだれ暗い顔をしている患者さんがたくさんいたんです。自分のからだなのに、すべてお医者さんに頼り切っている。そこに違和感がありました。

病院に来るまでに、自分で何かすることはできなかったのか。自分でケアをまったくせず、病気になったらお医者さんに丸投げする。そういう人達を集めて、自分で病気にならないように予防するノウハウを教えてあげて、病院に来なくてもよくなるように教育できたらいいんじゃないかと考えたんです。

――最初は東洋医学を学ばれたそうですね。

予防の重要性に気づいたころ、ちょうど大学の学生会館で中国映画を観たんです。そこで、中国では治療よりも予防に力を入れていることを知りました。農村などの貧しい地域では医療費があまり使えないんです。そこで農村のお医者さんは、患者さんが多いと収入が少なくなり、患者さんが少ないほど収入が増えるというシステムになっている。

日本では患者さんが多い方がお医者さんも儲かりますよね。それとは真逆のシステムがあると知り、こっちのほうがいいなと感じました。そこで中国の鍼麻酔を習うため、大学を中退して鍼灸学校に入ったんです。

1976年、鍼灸院開業当時の写真

――鍼灸師になってから「自力整体」考案までの道のりとは?

卒業して7年ほど鍼灸院をしていましたが、その間も結局「患者さんを治療してお金を稼ぐ」という生活に違和感を持っていました。私が持っている鍼灸や整体の知識を、患者さんが自分一人でできるように改良したい――。やっぱり教育を通して患者さんたちの意識を変えることが重要だと感じていたんです。

そのための一歩として、まずはヨガを学び始めました。当時はセルフケアに力を入れている鍼灸整体師はほとんどおらず、「自分でからだを整える」という考えの手本になるものがヨガしかなかったんです。また私自身、ヨガの断食や瞑想に興味がありましたし、治療家と患者というマンツーマンではなく、指導者と生徒という1対大勢での指導になるというのも魅力でした。

そのヨガの先生として活動した8年の間に、「自力整体」の基となる考えを練り上げていきました。ヨガを構成する「ポーズ」「断食」「瞑想」の3つの教えから、「食生活」と「瞑想」を取り入れました。また従来のヨガのポーズが苦行になってしまう、年配の方やからだに痛みがある方でも、楽にできて気持ちがよく回復できるようなメソッドを、鍼灸や整体の知識を取り入れながら構築していったんです。

その後、「実際に施術をして痛みが改善した手技を、自分1人でできるようにしたい」という部分を追求するため、ヨガの先生をやめて整体診療所を始めました。自力整体の基となるものを教えながら、整体術での施術をする12年間があり、「自力整体」が完成しました。そこで整体診療所を閉め、自力整体の教室に専念できるようになったんです。2000年からは「ナビゲーター」いわゆる指導者の養成も行っており、全国・海外に約500名のナビゲーターが在籍しています。

整体院に通うのと同じ効果を、自力で可能にするメソッドを構築

「自力整体」の対面教室の様子

――改めて「自力整体」の特徴を教えてください。

「自力整体」は、私が人に触れて改善をしてきた整体技術を、患者さんが自力でできるように改良して作り上げたボディワークです。声での誘導に従うだけで、整体治療を受けたのと同じように改善できます。整体院に行って帰るのと同じことが、自力整体の教室で起こるんです。自力でできるので日々のメンテナンスにも使えますし、人に教えることもできる。だから整体院に通うよりも格安で、不調の改善と予防ができるんです。

「自力整体」のプログラムでは、90分を「脱力」「リセット」「強化」の3パートに分け、目的に沿って心身を整えていきます。また指導のベースとして「自力整体法」「製食法」「整心法」の3つの柱を立て、医療に頼らずにすむような健康の維持と増進、病気の予防という視点を持つこと、そのための行動指針を伝えることも大切にしています。

――自力整体を行ううえで矢上さんが大切にしていることは何ですか?

こういった活動をしていると、どうしても先生と生徒というかたちの関係になってしまいがちです。でも教えている人数に限らず、「1人1人を治療している」という意識を忘れないようにしています。これはナビゲーターたちにも、毎回伝えていることです。

この意識が違うだけで、本当に効果感も変わってくるんです。前に立って先生がボディワークを伝えるという構成上、1対大勢という意識で指導してしまうと、ラジオ体操みたいになってしまうんです。誰かの号令でみんなが動くだけ。そうではなくマンツーマンの意識を持つと、直接は触れないけれど先生がマッサージしてくれているという感覚になるんです。これが「体操」と「整体」の違いにもつながっていきますから。

現在は娘の真理恵さんとともに、自力整体の教室を続けています

――では現在の働き方を教えてください。

教室は1授業90分で、今は1日1回にしています。月曜と木曜の13:30から公民館で対面の授業、水曜と金曜はオンライン授業を行っています。土曜日はナビゲーター向けの研修、火曜と日曜が休みです。対面は30名ほど、オンラインは80~120名が参加してくれています。

若い頃は1日3教室していましたが、集中力と根気が必要なので大変で。著書の執筆時間が増えたタイミングで、1教室に減らしました。

――今後の展望は?

娘の真理恵もいろいろ学びながら一緒に教える側として活動し始めたので、若い人向けの指導は彼女に任せて、今後は終末期を迎える人たちにむけた発信もしていきたいです。終末期というと言葉が悪いですが、寝たきりにならず最期まで現役で人生を全うできる、そういう人たちを作っていきたいなと思っています。介護が不要な老人が増えれば、若い人たちの活躍にもつながるじゃないですか。そこを目指していきたいですね。


コロナ禍以降、重視されている「セルフケア」を、30年以上前から追求し続けている矢上さん。作り上げた「自力整体」は多くの人から支持され、15000人を超える生徒に学ばれました。次回後編では、矢上さんが感じるヘルスケアのお仕事の魅力や、教室の経営面、ヘルスケアのお仕事の心得についてお聞きします。

取材・文/山本二季

Salon Data

自力整体
※お問い合わせはHP上「contact」へ

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