介護処遇改善手当とは? 介護業界で働く人が知っておきたい基礎知識を紹介
「介護処遇改善手当」という言葉をご存知でしょうか。言葉を聞いたことはあっても、制度について理解している方は少ないかもしれません。
介護処遇改善手当は、介護業界で働く人にとって重要な制度です。今回は、介護処遇改善手当とはどういうものなのかについて解説し、対象となる職員や、どんな条件が求められるのかなどについてご紹介します。
介護処遇改善手当とは?
はじめに、介護処遇改善手当とはどういうものなのかについて見ていきましょう。
介護処遇改善手当とは、介護事業所で働く介護職員の人の賃金や、働く環境を改善するために行われる加算制度です。条件を満たした施設や事業所に、国から報酬という形でお金が支給されます。
施設や事業所は支給されたお金を、そこで働く介護職員に手当や一時金といった形式で支給します。
介護処遇改善手当が生まれた背景とは?
介護処遇改善手当が生まれた背景には、介護職員の給与の低さや、それに伴う離職率の高さ、介護職に対するイメージの低下などが挙げられます。高齢化が進む現代において、介護職員の需要はますます高まると考えられていますが、なかなか人材が定着しないのが現状です。
そこで、介護業界の離職率を抑え、さらなる人材確保のために生まれたのが介護処遇改善手当です。介護業界で働く人の賃金を上げたり、働く環境を整備したりすることによって、現在働いている人材を定着させ、介護業界を目指す人を増やすことを目的としています。
手当がもらえる職種とは?
介護処遇改善手当は介護職員のための制度ですので、制度を利用するには介護施設で働いているだけではなく、直接介護に関わっている必要があります。たとえば、介護施設で働いていても、栄養士や理学療法士、清掃や事務職のような他の職業に従事している場合や、直接利用者の介護に携わらないサービス管理責任者は、対象にはなりません。
ただし、看護師やケアマネージャーなどが介護業務も行っている場合には、支給対象となります。
特定処遇改善加算とはどこが違うの?
似たような制度に、「特定処遇改善加算」というものがあります。介護処遇改善手当は介護施設や事業所で介護に携わるすべての人を対象とした制度ですが、それに対して特定処遇改善加算は、介護職員のなかでも経験や技能を持つ職員を対象としています。
具体的には、「勤続年数10年以上の介護福祉士について月額平均8万円相当の処遇改善を行う」という方針に基づいて作られた制度です。介護処遇改善手当に上乗せする形で、介護報酬が加算される仕組みです。
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介護処遇改善手当を受け取るにはどうすればいいの?
介護処遇改善手当を受け取るには、具体的にはどうすれば良いのでしょうか?介護処遇改善手当を受け取るための条件について、詳しく見ていきましょう。
1. キャリアパス要件を満たす
介護処遇改善手当を受け取るためのひとつ目の条件として、キャリアパス要件を満たす必要があります。キャリアパス要件の詳しい内容は、以下のとおりです。
①…職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系の整備をすること
②…資質向上のための計画を策定して、研修の実施または研修の機会を設けること
③…経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること。
引用:厚生労働省
③の「経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組み」は、具体的には以下のような例があります。
○ 「勤続年数」や「経験年数」などに応じて昇給する仕組み
○ 「介護福祉士」や「実務者研修修了者」などの取得に応じて昇給する仕組み
○ 「実技試験」や「人事評価」などの結果に基づき昇給する仕組み
引用:厚生労働省
2. 職場環境等要件を満たす
キャリアパス要件以外にも、職場環境要件を満たす必要があります。入職促進に向けた取組や資質の向上、職員のキャリアアップに向けた支援など、賃金を改善する以外の、働きやすい環境を整えることです。
たとえば、スタッフの肉体的な負担を軽減させるための設備を導入したり、子どもがいるスタッフのために産休や育休制度を整えたりと、実務面や労働条件など、さまざまな点からキャリアアップの支援や働きやすさを整える必要があります。
さらに、賃金の改善や労働制度の内容について、雇用する全てのスタッフへ周知することも求められます。
介護処遇改善手当はどうやって決まるの?
介護処遇改善手当は、前項でご紹介した要件をどれだけ満たしたかによって区分や加算率、金額が変わります。介護処遇改善手当の、さまざまな具体的な数字について見ていきましょう。
加算Ⅰ|月額3万7,000円相当
加算Ⅰの区分は、以下の条件を満たす必要があります。
・キャリアパス要件の①~③のすべて
・職場環境等要件
要件を満たすと、介護職員一人あたり月額37,000円相当の報酬が上乗せして支給されます。
加算Ⅱ|月額2万7,000円相当
加算Ⅱの区分は、以下の条件を満たす必要があります。
・キャリアパスの①及び②
・職場環境等要件
要件を満たすと、介護職員一人あたり月額2万7,000円相当の報酬が上乗せして支給されます。
加算Ⅲ|月額1万5,000円相当
加算Ⅲの区分は、以下の条件を満たす必要があります。
・キャリアパスの①または②
・職場環境等要件
要件を満たすと、介護職員一人あたり月額1万5,000円相当の報酬が上乗せして支給されます。
加算Ⅳ|月額1万3,500円相当
加算Ⅳの区分は、以下の条件を満たす必要があります。
・キャリアパスの①または②または職場環境等要件
要件を満たすと、介護職員一人あたり月額1万3,500円相当の報酬が上乗せして支給されます。なお、この区分は2018年の介護報酬改定により、廃止されています。令和3年3月31日時点でこの加算区分を算定している事業所の場合、令和4年3月31日までの1年間、引き続き算定することが可能です。
加算Ⅴ|月額1万2,000円相当
加算Ⅴの区分は、
・キャリアパス要件①・②、職場環境等要件のいずれも満たさない
とされており、条件がありません。介護職員一人あたり月額1万2,000円相当の報酬が上乗せして支給されます。加算Ⅳと同じく廃止が決定しており、令和3年3月31日時点で同加算区分を算定している事業所は、1年間継続して算定可能となっています。
令和4年度の新加算|月額9000円相当
令和4年度から、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」として新しい加算区分が追加されています。新加算を受けられる要件は、以下のとおりです。
• 処遇改善加算Ⅰ~Ⅲのいずれかを取得している事業所(現行の処遇改善加算の対象サービス事業所)
• 賃上げ効果の継続に資するよう、加算額の2/3は福祉・介護職員等のベースアップ等の引上げに使用することを要件とする。
ベースアップの基準となるのは、 基本給、又は毎月決まって支払われる固定の手当です。この算定要件を満たせば、月額9,000円の処遇改善手当を受けられます。
介護処遇改善手当を受け取るまでの流れは?
介護処遇改善手当を受け取る条件については、ご理解いただけたのではないでしょうか。ここからは、介護処遇改善手当を受け取るまでの流れについて見ていきましょう。
手当は必ずもらえるの? 毎月出るの?
介護職員処遇改善加算の支給方法には、実は規定がありません。介護職員の賃金改善に充てるための制度であるため、最終的に介護職員の収入が増えていれば、目的を果たしたとみなされるためです。
そのため施設や事業者によって、時期や方法が異なります。毎月の給与に上乗せされるケースもあれば、ボーナスや一時金といった形でまとまった金額を支給されるケースもあるため、詳しくは施設や事業所に確認するようにしてください。
処遇改善手当がもらえないこともある?
介護処遇改善手当を受け取るための条件を満たしていない事業所や、処遇改善加算を行っていない事業所は、処遇改善手当をもらうことはできません。他にも、福祉用具の貸与や販売を行う事業所や訪問看護など、介護業界ではあるものの介護職ではない事業所は、制度の対象外となっています。
また、介護職員処遇改善加算は、「すべて介護職員に還元する」とは定められているものの、「すべての職員に均等に支給する」という原則ではありません。そのため、同じ事業所内でも、職員によって金額に差が出ることも考えられます。
介護処遇改善手当は介護職員の人材確保に役立つ仕組み
介護処遇改善手当は、介護職員の待遇の悪さや離職率の高さを憂慮し、人材の定着を目的として、介護職として働くスタッフの賃金や環境を改善することを目的とした制度です。いくつかの要件があり、要件を多く満たしている施設や事業所ほど、高い金額の支給を受けることができます。
事実、介護職員処遇改善手当のおかげで、介護職員の待遇は年々よくなっている傾向を見せています。将来的に、介護職員の需要はますます高まると見られているため、これからも待遇改善は期待できると言えるでしょう。
介護処遇改善手当の支給を受けている施設や事業所は、介護職員にとって待遇が良かったり、働きやすい環境だったりするひとつの目安となります。これから介護業界で働きたいと考えている人は、希望する職場が介護処遇改善手当を取得しているかどうかも確認してみると良いでしょう。
引用元:
「介護職員処遇改善加算」のご案内|厚生労働省
賃金改善の方法等について|厚生労働省
処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算の概要|厚生労働省