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特集・コラム 2023-09-21

介護現場でのリスクマネジメントとは? 介護事故の対処法を詳しく紹介

介護の現場では、リスクの可能性を十分に認知し、起こらないように努めるのはもちろんのこと、万が一発生した場合の対策も知っておかねばなりません。そこで今回は、介護における「リスクマネジメント」について詳しく解説します。

リスクマネジメントとして行えることや、事故発生時の対処方法など、日頃の業務に役立つ内容をたっぷりお伝えするので、ぜひしっかり読んで役立ててください。

介護現場でのリスクマネジメントとは?

リスクマネジメントは、起きるかもしれない事故やトラブルを「現場で必ず起こるもの」として把握し、管理していくことです。よくあるヒヤリハットや介護事故の事例について原因を分析していき、事業所全体に周知・管理することで、事故を未然に防いだり、リスクを軽減したりできます。

ただし、介護事故を完全に防ぐことは不可能ですので、事故が起きたときの対処法についても準備をしておかなければいけません。

介護現場でのリスクマネジメントの必要性

介護現場では、なぜリスクマネジメントが必要なのでしょうか?その必要性を3つの視点から紹介していきます。

1.利用者を事故から守る

介護サービスを受ける利用者は、高齢者が多いことが特徴です。高齢者は、心身の機能が低下しているため、事故が発生する危険性が高くなります。

たとえば、高齢者が転倒した場合、身体の衰えから、高い確率で骨折をするリスクがあります。利用者を守るために、リスクマネジメントで事故の可能性を減らすことが大切です。

2.訴訟のリスクを下げる

介護現場では、転倒などの事故によって、訴訟が起きるという事態がすでに発生しています。

高額な賠償請求をされた場合、事業所の経営が立ち行かなくなる可能性もあります。また、訴訟が起きたために、事業所への信頼が失われてしまうこともあるでしょう。訴訟のリスクを下げるために、リスクマネジメントは必要不可欠です。

3.職員が働きやすい環境を整える

現場で起きるヒヤリハットや事故を、担当している職員個人のせいにしていては、状況はいつまでも改善しません。職員が働きやすい環境を整えることで、防げる事故もあります。

たとえば、役割分担を明確化させて担当の仕事に集中させるだけでも、職員の負担が減り事故の減少につながります。リスクマネジメントは、職員の働きやすさにも直結しているのです。

介護現場で取り組めるリスクマネジメント4つのステップ

介護現場では、どのようにしてリスクマネジメントに取り組めばいいのでしょうか。ここでは、4つのステップに分けて説明していきます。

1.リスクを特定│事例を把握する

まずは、現場で実際に起きたヒヤリハットの報告書や、過去の事例をピックアップして情報の収集を行います。しかし、収集といっても、どの程度の事例を集めればいいのでしょうか?

「ハインリッヒの法則」では、「1件の重大な事故の裏には、29件の軽傷で済んだ事故、300件の傷害がなかった事故が起こっている」とされています。

ハインリッヒは統計分析の専門家で、工場における労働災害を調査した結果、この法則にたどり着きました。この「ハインリッヒの法則」を参考にすると、300件はヒヤリハットの事例を挙げることが必要になります。

引用元
ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)|厚生労働省「職場のあんぜんサイト」

2.リスクアセスメント│事例を分析する

リスクアセスメントとは、危険性の特定・リスクの見積もり・優先度の設定・リスクを低減する方法の決定という一連の流れのこと。1で実際に起こりえるヒヤリハット事例を把握したら、分析を行います。そこで、事例と分析結果の具体例を見てみましょう。

引用元
リスクアセスメント|厚生労働省「職場のあんぜんサイト」

転倒事故

たとえば、介護の利用者が椅子から転倒した場合は、合わない高さのいすを使っていたなどの原因が考えられます。また、杖での歩行中に転んだ場合は、段差でバランスを崩したなどの可能性があるでしょう。

転落事故

転落事故の事例としては、たとえば利用者が寝返りした際にベッドから転落した場合は、少し目を離した隙に起きた・ベッドに柵がついていなかったなどの状況が考えられます。

また、移乗の際に車いすから転落した場合は、ブレーキの利きが悪く、車いすの停まり方が不安定だったなどの可能性が考えられるでしょう。

誤嚥事故

利用者が誤嚥を起こしてむせた場合、その利用者に合わない食事形態だった、または他の利用者の介助で目を離した一瞬の間に起きてしまった、などの状況が考えられます。とくに高齢者は噛む力や嚥下力が低下しているので、十分に注意しなければなりません。

また、誤って食べ物以外のものを飲み込んでしまう「誤飲」にも注意が必要です。

誤薬事故

本人のものではない薬を飲ませる・薬の量を間違えるなどの誤薬事故も起こりえます。確認を怠ったなどの原因が考えられるでしょう。薬は種類によっては命にかかわることもあるので、とくに慎重に取り扱わなければなりません。

3.リスクに対応│具体的な対策を立てる

分析した事例について、どのような具体的な対策が取れるのかを考えていきます。事例ごとに、リスクそのものを取り除けるのか、リスクの発生率を下げていくのかなど、しっかりと検討する必要があります。

また、自然災害や熱中症・感染症などについても対策を練っておきましょう。利用者の命を守るために、ありとあらゆるリスクをピックアップし、対策を立てることが重要です。

そこで、以下で具体的な対策を押さえてみましょう。

転倒事故

転倒事故の対策としては、高さの合ったいすを用意する・段差をなくす・手すりを設置する・歩行リハビリを行って転倒しにくいように足腰を鍛える・介助を担当する職員を見直すなどの方法があります。

前項で分析した内容も参考にしながら、適切な対策を実施してください。

転落事故

転落事故の対策には、ベッドに柵を取り付ける・車いすで移乗する際の声かけを徹底する・安全性の高い車いすを準備するなどの方法が考えられます。

誤飲・誤嚥事故

誤飲・誤嚥事故の対策は、食事形態を見直す・食事中の声かけや見守りを強化する・口腔ケアを行う・誤飲しやすいものを除去するなどがあるでしょう。万が一誤飲や誤嚥で利用者がせき込んだ場合は、看護師などにすぐに相談できるような体制も整えておきましょう。

誤薬事故

誤薬事故の対策では、とにかく念入りな確認を行うことが求められます。薬を入れる袋に利用者の写真を貼っておく・服用の直前に改めて飲む人の名前と薬の種類や量を確認する・ダブルチェックを行うなど、確認を徹底しましょう。

4.リスクコントロール│組織内でシステム化する

リスクコントロールは、事業所全体で取り組むことが必要です。リスク対応で立てた具体策をマニュアル化して、職員へ周知します。研修を行い、職員の一人ひとりがヒヤリハットや介護事故についての意識を高め、対策を理解することが大切です。

組織内でリスクマネジメントをシステム化するためには、「安全管理委員会」を設置することが有効です。継続的な運営を行えるようにしていきましょう。

一度マニュアルを作ったら終わりではありません。手順のチェックや修正を繰り返すことで、はじめてリスクマネジメントが機能していきます。

介護事故が起きたらどうすればいい?対応方法を詳しく紹介

介護事故が起きたときは、まずは焦らず冷静に対処しましょう。ここでは、対処の仕方を流れで詳しく紹介します。

適した対処法を実施する

まずは適切な対応を行うことが重要です。前章で見たような事例に対応するためにはどうすればいいのか、以下で具体的な対処法を紹介します。

転倒・転落事故の場合

転倒・転落事故の場合は、意識ははっきりしているのか、負傷した箇所に腫れはないかなど、利用者の状況を冷静に確認・把握しましょう。出血がある場合は清潔なタオルで傷口を軽くおさえる、頭部を打った可能性がある場合はその場から動かさない、ということも重要です。

また、施設の医師、もしくは看護師に速やかに連絡をしてください。施設外で起きた場合など、必要に応じて救急車を呼ばなければならないケースもあるでしょう。

誤飲・誤嚥事故

誤飲・誤嚥事故の際には、何を誤飲・誤嚥したのかを確認します。さらに、利用者に前かがみになってもらい、背中をさすったり軽くたたいたりしながら、誤飲や誤嚥の原因になっているものを吐き出させるなどの対処も必要です。

誤薬事故

誤薬事故が起きてしまった場合は、介護職員が自己判断で行動を起こすのは危険です。とにかく急いで病院を受診し、医師の判断を仰ぎましょう。

家族への連絡

家族への連絡は適切に行いましょう。事故の対応でクレームになりやすいのが、家族への連絡です。

前もって、事故が起きた場合の連絡方法について、家族と相談しておくことが求められます。たとえば、連絡は利用者がどのような状態のときに行うのか、夜間の場合はどうするのか、事業所内の誰が連絡するのか、など詳細に決めておく必要があります。

事故の原因調査

事故の発生状況や対応について、事業所側は説明を求められます。

まず、客観的な事実に基づいた記録を取り、事故の原因を組織内で究明していきます。あらかじめ、弁護士や医師などの外部の専門家に頼んでおくことも重要です。事故が起きた場合は、アドバイザーとして事故原因の究明にあたってもらうことも考えておきましょう。

利用者や関係各所へ報告

事故の原因が判明次第、早めに利用者家族に報告を行いましょう。起こった事故に対して遅れた対応を取れば、信頼をそこねる可能性があります。

また、施設を利用している他の利用者や家族にも、施設内の掲示や回覧で公表することが求められますが、その際はプライバシーに充分配慮しましょう。

自治体や保険会社などにも報告が必要です。事業所の過失の有無にかかわらず、事故報告書を自治体へ提出する義務があります。損害賠償が予想されている事故については、加入している保険会社にも事故の報告を行いましょう。

示談交渉

利用者や家族に事故の説明をしたにもかかわらず、解決に至らないケースも。この場合は、示談交渉になる可能性があります。示談交渉は、なるべく弁護士などの専門家に相談し、最終的な解決の糸口を探りましょう。

介護事故が起きた時にリスクが高い行動を紹介

介護事故が起きたときに誠実な対応を行わないと、施設の評判の悪化、利用者や家族からの信頼が低下するなどのリスクが高くなります。ここでは、やってはいけないリスクの高い行動を紹介します。

・事故を上に報告しない
・事故そのものを隠ぺいする
・家族へのあいまいな説明
・職員への責任追及

事故は、大きさを問わず、必ず管理者へ報告するようにしてください。ヒヤリハットなどの未然に防げたこともふくめて、報告することが今後の対策につながります。

また、責任から逃れるために隠ぺいを行った場合、事業所の営業停止などの行政処分になることがあります。事故を隠すことなく、報告は正しく行ってください。

家族に対して形ばかりの説明を繰り返したり、紆余曲折した説明をしたりすると、不信感が高まります。訴訟の原因にもなりますので、事故の原因や今後の対応策をしっかりと説明しましょう。

事故を起こした職員の責任を追及することはやめましょう。個人の責任ということで片付けてしまえば、今後のリスクマネジメントに活かせません。さらに、個人を責め立てる環境ができてしまうと、職員が事故を報告しなくなる恐れもあります。

利用者の尊厳や事業所を守るために│リスクマネジメントの重要性を理解しよう

介護現場におけるリスクマネジメントの重要性が高まっています。事業所の経営を守ることも大事ですが、なにより利用者の尊厳や職員を守っていくために、リスクマネジメントは必要です。

リスクマネジメントは、一度行うだけでは機能しません。何度もチェック、修正をかけながら循環させていくことが大切です。リスクマネジメントをしっかりと理解して、利用者も職員も安心して過ごせるようにしていきましょう。

引用元
「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」報告書(公益財団法人 介護労働安定センター)
イラストで見る介護事故事例集(公益財団法人 介護労働安定センター)

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