老健で在宅復帰をお手伝い。利用者様のポジティブな姿勢が私の原動力/介護リレーインタビューVol.29【介護士・長谷川佳乃さん】#1
介護の世界で働く方々のインタビューを通して、介護業界の魅力、多様な働き方を紹介する本連載。
今回は、特定医療法人研精会が運営する介護老人保険施設「デンマークイン若葉台」(所在地:東京都稲城市)へお邪魔しました。
前編では、介護士歴18年の長谷川佳乃さんから、介護の世界で働くようになったきっかけ・介護老人保健施設の特徴などを教えてもらいます。
介護士歴18年。業務の楽しさと働きやすい職場環境が長続きの秘訣
——福祉の世界で働きはじめてどれくらい経ちますか?
高校卒業後からなので、もう20年以上になります。誰かのお世話をするような仕事をしたくて、最初は障がいを持つ方が通う作業所へ就職しました。支援員の仕事をしていましたが、無認可施設だったため介護福祉士資格取得に必要な実務経験として認められなかったんです。また、日常生活全体の支援に関わってみたいという思いも強くなり、入所型の施設へ転職することにしました。
けれど、自宅近隣に障がい児・者の入居施設がなかったため、介護士として「デンマークイン若葉台」で働くことに。とりあえず介護福祉士の資格を取るまでは頑張ろう程度の軽い気持ちで始めたんですけどね。気が付けば、入社18年目になってしまいました(笑)。
——キャリア18年とは大ベテランですね!働きはじめた当初はいかがでしたか?
高齢者介護は未知の世界だったため、最初は全然できないことだらけでしたね。でも、必死でケアの仕方を覚えて、利用者様と関わる時間が増えるとともに、自分の成長を肌で実感することができる充実した日々でした。
実は第一子の妊娠中、経過が良くなくて一度退職しているんです。無事に出産し、またどこかで働きたいなと思っていたとき、施設のみんなから「戻っておいで」と声を掛けてもらいました。働きやすい職場環境に加え、介護士の仕事の楽しさを忘れられず、二つ返事で復職したんですよ。
——現在はどのような勤務スタイルですか?
正社員ですが夜勤には入っておらず、今は日勤帯と遅番のみで働いています。夜は子どもたちと一緒に過ごしたいと思っているのでありがたいですね。勤務時間は9〜17時と10時半〜18時半の2パターン、休日は月に8〜10日程度です。
——お仕事の内容を教えてください。
入社当時からずっと、介護士として勤務しています。利用者様の身体介助が主な業務です。2021年の春からは主任へと昇進したため、スタッフの育成やシフト管理など人材マネジメントの業務も担っています。
住み慣れた自宅へ戻ることをサポートする老健
——「デンマークイン若葉台」はどのような施設ですか?
当施設は介護老人保健施設(老健)です。病院から自宅への「橋渡し役」として、介護士による日常生活上の身体介助、医師・看護師による医療サポート、そしてリハビリスタッフが心身の機能回復・維持のサポートを行います。また、利用者様が在宅復帰された後も、ショートステイやデイケアなどを通じて、継続した在宅生活を支援する機能を持っています。
——老健で働く介護士へ、特に求められるスキルなどはありますか?
多くの利用者様は、ご自宅に戻られる前提で当施設を利用されているので、特養などに比べて入居期間が短いのが特徴です。そのため入居の入れ替わりが激しく、短期間で利用者様と信頼関係を築かなくてはいけません。
私たちが業務を行う際は、症状の把握はもちろん、個々の気質や特性を理解し、その方にあったやり方でケアを行う意識が必要になります。ご帰宅後のことを考えると、スタッフが手を出しすぎるのは良くありません。かと言って、あれもこれも自分で頑張ってと、無理な自立を強要するのは絶対にNG。相手の「できること」をしっかり見極めながら対応することを心がけています。
——フロア内を見学した際、利用者様同士の和気あいあいとした雰囲気が印象的でした。
明るくて前向きな空気感があるでしょう?ご自宅へ戻ることを第一の目標に、皆さんリハビリにとても一生懸命です。朝出勤すると、上着を手にした利用者様が「早く散歩へ行くわよ!」と私を待ち構えていらっしゃることも。この辺りは丘陵地でアップダウンが激しいんですが、急な坂道だって物ともしないんですよ。付き添いのスタッフの方がゼエゼエしちゃいます(笑)。利用者様のポジティブな姿勢に、私たちも大いに感化されています。
また、ご自宅に戻られた後も、ショートステイの利用などでリピートされる方も多くいらっしゃいます。顔なじみの方と入居の時期が重なり「また会えて嬉しい!」と再会を喜び合っている姿もよく見られますよ。人間関係を育むことは生きがい形成にもつながるため、施設が交流の場になっているのはとても嬉しいですね。
リーダー職として感じる自分の新たな課題
——昇進されてもうすぐ1年ですが、ご自身の中で何か変化はありましたか?
昇進に加え、今年に入ってから直属の上司が異動したため、フロア内で一番の責任者となりました。これまでは上司に相談していたことを、私ひとりで判断しなければいけない場面も増えてきました。もっと知識を身に付け、内面においても決断力や実行力を鍛えなければいけないと改めて感じています。周囲から「もっと落ち着いてください」とたしなめられることもありますから(苦笑)、まだまだ努力が必要ですね。
——人材マネジメントの面では、どのような意識で取り組んでいますか?
風通しのよい職場づくりを意識しています。月に1度のスタッフミーティングでは、人前だと話しにくいタイプのスタッフからの意見も吸い上げようと、文章でコメントを出してもらうこともあります。スタッフ達からキャリアプランについて相談される機会も増えました。どんな小さな声もしっかり受け止め、みんなが楽しく働ける環境にすることが目標です。
介護の現場を円滑に回すコツとして、「スタッフ同士、お互いを思いやること」を挙げてくれました。「楽しく働き続けるためには、自分自身の心身の健康が一番大切。体力的に難しいこと、不得意なこと。それぞれが持つ弱点を皆で補い合えると良いですね」。
後編では、長谷川さんが長い介護士人生の中で、キャリア形成に悩んだエピソードなどを中心にお聞きします。
取材・文/黒木絵美
撮影/高橋進