一度目の独立で挫折。新たに「体軸理論」を引っさげ、再スタート!【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.112 鍼灸師・パーソナルトレーナー 柴 雅仁さん】#1
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。
今回は、東京都立川市にて運営している、「体軸理論」を取り入れた「SPTパーソナルトレーニングサロン」が好評の柴 雅仁さんにインタビュー。実は一度独立につまづいたという柴さんが、成功できた方法とは?
前編では、柴さんがトレーナーになるまでの経緯、「SPTパーソナルトレーニング」を考案するまでについて詳しくお聞きします。
お話を伺ったのは…
鍼灸師・パーソナルトレーナー 柴 雅仁さん
横浜リゾート&スポーツ専門学校を卒業後、正社員としてスポーツクラブに1年4ヶ月勤務し、退職。パーソナルトレーナーとして独立を目指すべく、日本鍼灸理療専門学校に入学し、いろいろなスポーツ系のアルバイトを掛け持ち、実力をつけて独立。その後、一度挫折を味わうも再起を図り、現在では東京都立川市にてSPTパーソナルトレーニングサロンで施術や運動指導を行う。トレーナー業以外でも、本の執筆・監修、レンタルサロンの運営、雑誌の専門家監修なども行っている。体軸にフォーカスしたトレーニング方法が話題。(2023年8月現在)
パーソナルトレーナーを目指し、筋トレ強化時代を過ごしてきた
――トレーナーを志すまでの経緯をお聞かせください。
学生の頃から勉強が苦手でしたが、唯一、スポーツは好きでした。自然とスポーツに関連する仕事に就きたいと思い、高校卒業後はスポーツ専門学校に進学してスポーツジムでアルバイトを始めることにしたんです。そこでパーソナルトレーナーという職業と出会い、将来は独立も視野に入れて、その道に進もうと思いました。
――卒業後の経歴を教えてください。
パーソナルトレーナーに憧れながらも、いきなり独立する自信はなかったため、社会勉強も兼ねてアルバイト先とは別のスポーツクラブへ就職しました。
ところが、パーソナルトレーナーになりたい気持ちが強まり、1年半ほどで退職。本格的にパーソナルトレーナーになるには身体の知識が必要と思い、鍼灸の専門学校に通うことにしたんです。夜間の授業を受けながら、昼は引き続き新たなスポーツクラブでトレーナーとしてアルバイトを続けていました。
――スポーツクラブではどんなトレーニングを指導していたのですか?
この頃は、筋トレを中心に指導を行っていました。
――では、現在の「身体(しんたい)調整」を取り入れたトレーニング方法ができた経緯とは?
自分自身の身体も鍛えるために僕自身も筋トレを行っていたのですが、身体が大きくなるにつれ、なぜか体の不調が目立つようになって。例えば、日常生活を送る中で腰痛があったり、今までは何ともなかった肩に違和感を覚えたり…。自分が持っている知識を総動員して改善を試みても、まるで効果が感じられませんでした。
そんな悩みから抜け出せたのは、鍼灸の専門学校で出会ったパーソナルトレーナーの方のおかげです。現在のトレーニング方法に関係する、身体調整を取り入れた身体の使い方などを教えていただいたのです。
この方の指導や援助もあり、23歳にして念願のパーソナルトレーナーとして独立を果たしました。
トレーナーデビューを果たすも、一度挫折。再起のきっかけは家族の言葉
――ついに独立をしたのですね。独立にあたって大変だったことはありましたか?
集客に力を入れようと、毎日8時間くらいチラシ配りをしていたのですが、あまりうまくいかず…。体験の予約はいくつか入っていましたが、僕の技術に対して結果が伴わなかったようで、なかなか継続してもらえなかったのです。
経験や知識がまだまだ足りなかったことが原因で、だんだん売上も低迷していき、挫折を味わいました。
――それでも今、再独立できた理由は何でしょう?
母親が背中を押してくれたからですね。
挫折してからというもの、そもそも業界を辞めるかどうかで悩んでいたのです。そんなときに、「ここまで積み重ねてきたのだから、もう少し頑張ってみたら?」と激励の言葉をもらって。言葉をかけてくれた家族側からしたら、何気ない一言でも、言われてからは僕の原動力になりました。
――その日から再独立までに取り組んだことは?
セミナーに行って勉強したり、上手なトレーナーの話を聞いたり、思いつく限り学びを深めました。
施術などで思うようにいかなかった場合は、原因を考え、仮説を立て、その仮説をもとに、いろいろな方法でアプローチしました。常にトライアンドエラーを繰り返すイメージです。
再起を図るために努力を重ねた結果、再度独立を果たすことができました。
――再独立を果たしたとのことですが、どのくらいで軌道に乗り始めましたか?
再スタートをした2年目くらいですね。
だんだん年数も重ね、身体のことを深く知っているつもりでしたが、以前経験した筋トレへの疑念が晴れないまま。そこをクリアにするためにはもっと身体の仕組みについて学ばなければいけないと考え、ネットで調べて気になった体軸理論の講座を受けに行きました。
実際に受講しに行った際に、身体の小さなセラピストでも、体の大きさが倍くらいある人を相手にして、見劣りしていなかった光景を見て、目を疑いましたよ。体軸理論を知ってからは衝撃の連続でした。
それから講座を受け、体軸セラピストの資格を習得しました。
――どんな理論なのでしょうか?
体軸とは「身体を貫く軸状の意識」のこと。意識なので実態はなく、インナーマッスル優位の体にすることで、その意識を強めることができます。
身体に不調がある場合、体軸がうまく通っていない可能性があります。僕が過去に悩まされていた体の不具合も、体軸が通るための訓練を積んでいったら、だいぶ解消されました。
――「体軸理論」をトレーニングに反映させたのですね。
そうですね。繰り返しになりますが、不調が起きる原因は変な動きや動かし方がパターン化してしまっていることがほとんど。そうなると、「調整」が必要なんですね。身体の不調となる動きを調整し、パターンを書き換えて再構築するんです。動かしにくい部位によって、どこを動かせばラクになるのか、改善できるのかを解決できるトレーニング方法にしました。
――体軸理論を取り入れてから、変化したことは?
体軸理論を学んで、筋トレではなく自分の身体の使い方が間違いだったことが分かりました。このことが理解できてからは、今まで悩んでいた症状が徐々に軽減されていったんです。
お客様の身体の不調を改善するお手伝いだけにとどまらず、自分自身の身体の改善もかなったのは、体軸理論と出会ったからだと感じますね。
一度はつまづいた柴さんですが、周りの応援や自身のトレーナー職への想いにより、再起を果たします。後編では、軌道に乗り始めた「体軸理論」を広めるための取り組みや、新規事業について、トレーナーの仕事の魅力をお伺いします。
取材・文/東 菜々(レ・キャトル)
撮影/寺島 佑(fort)