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ヘルスケア 2023-02-03

体をふにゃふにゃに⁉︎ 骨以外を全てほぐし切る「根こそぎ深層手技術法」とは?【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.87/桂整体院・宮下志津さん】#1

「ヘルスケア業界」のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロに、お仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。

今回お話を伺ったのは、桂整体院・宮下志津さん

桂整体院は、2009年に山梨県富士吉田市でオープン。宮下さんのお兄さま・刑部卓也さんが院長として開業されているのですが、「この技術を、もっと多くの人に知ってもらいたい」という思いで、2022年9月、東京都立川市に2店舗目を作られました。現在は山梨と東京の二拠点で活動されているそうです。今回は宮下さんと一緒に、刑部さんにもお話を伺うことができました。

前編では、お二人がこの業界に進まれたきっかけや、院のモットー「骨以外をすべてほぐしきっていく」を叶える「根こそぎ深層手技術法」について詳しく伺います。

兄の技術をもっと多くの人に伝えたい!
兄妹二人三脚で、新天地でのオープンを決意

――この業界に進まれたきっかけは?

刑部さん:大学在学中に阪神淡路大震災があり、ボランティアに参加しました。そこで整体療術を知り、見よう見まねで被災者の方に施術したところ、大変喜ばれて。そこから整体に興味を持ち、大学院卒業後に整体療術師の免許を取得。この道に進みました。

――最初はどこかにお勤めされていたんですか?

刑部さん:はい、いろんな整骨院や整体院に勤めました。たくさん技術を学び、たくさん施術しましたが、なかには症状が全く改善しない人もいて。少しずつ疑問を持ち始めたんです。

その後、当時プロ集団(経路整体)と言われていた治療院で手技股関節矯正を学び、そこで出会った外国人整体師からクリニカルマッサージを教えてもらいました。「ツボを含む骨以外の場所をほぼすべて施術していく」という教えで、その時代だと世界でトップの考え方だったと思います。

ただ、これにも限界がありました。一つは筋肉の硬いところにも厚みがあり、ちゃんと奥までほぐせなかったこと。そして、筋肉の繊維に沿ってのみ施術を行うため、完全にほぐし切ることができなかったこと。そこをなんとかしないと「骨以外を全てほぐし切る」ということにはならないと感じ、独学を開始。それが今の施術につながっています。

――宮下さんは?

宮下さん:やはり、兄が先にこの業界で仕事をしていたのが大きいですね。結婚・出産を経て今はシングルマザーなのですが、「何か手に職を!」と考えた時、産後から携わっていた整体の仕事こそ自分のやりたい仕事だ、と思いました。勉強のために柔道整復師の免許を取り、整骨院に勤めながら兄のもとでさまざまなことを学んだ結果、兄の生み出した整体に関する考え方や施術方法こそ、この業界の最終結論だと感じたんです。ただ、山梨の整体院だけでは、せっかくの技術も世に広められずに終わってしまうと感じて。「まずは多くの人に知ってもらうことが先決」と、立川で2店舗目をオープンさせました。

書道の筆の運びを応用して
「機械で行うのが通例」とされている施術を指で行う

――その技術というのが、「根こそぎ深層手技術法」ですね。

刑部さん:そうです。まず、院のモットーが「骨以外を全てほぐし切る」なのですが、下のイラストを見てください。左は太ももの断面図です。真ん中の白いのが骨。黄色いのが神経、赤と青が血管、ピンクが筋肉です。一つの筋肉を拡大してみても、筋肉は束になっていて、その中には血管や神経が通っていますよね。

そして右が皮膚から骨までの断面図。皮膚層(A)はわかりやすくするために拡大して書かれていますが、皮膚層には神経や血管、リンパが張り巡らされています。Bは筋肉です。省略されていますが、ここには腱や靭帯が含まれます。

私たちの院では「骨以外を全てほぐし切る」ので、このAとBを全てやり切っていくんです。これにはすごくパワーが必要です。それを可能にしたのが「根こそぎ深層手技術法」なんです。

――HPを拝見したところ、書法「てん隷書」が元になっているとか。ぜひ詳しく教えてください。

刑部さん:僕は小学3年生の時から書道を習っていまして、大学でも書道の研究をしていました。「整体の技術に応用できる」と気がついたのは本当にたまたまではあるのですが、簡単にいうと「遠心力」を応用しています。

書道をする時、紙に筆を乗せる点(始筆)と離す点(収筆)がありますよね。楷書や行書ならスッとまっすぐ乗せたり離したりするのですが、てん隷書ではこの時、筆を回転させるんです。回転(遠心力)を加えると、力がグッと入るんですよ。その力を応用して、凝り固まった筋肉を奥までしっかりほぐしています。

宮下さん:とはいえ、ただ力を加えればいいというわけではないんですよ。症状のあるところだけピンポイントでほぐしていくと、今度は別のところが痛くなるんです。

刑部さん:例えば彫刻刀で仏像を彫る時、鋭角な刀で一気にグイッと彫ると、そこだけ凹んで虎刈りになってしまいますよね。それだと見栄えも良くないし、場合によってはそこでバキッと折れてしまう。荒削りすぎます。でも丸い刀で周りの部分と馴染ませながら丸く丸く掘っていくと、なだらかで綺麗な曲線に仕上がる。これと同じです。だから僕は親指の柔らかい面を使って施術しています。爪は割れ、指は変形し、関節がずれてしまっていますが……もう仕方ないですね(笑)。

宮下さん:正直私には真似できないです。一般的な接骨院ですと、このほぐす工程は機械で行うことが多いんです。実際、柔道整復師の教科書にも「バイブレーターを使って行う」と書かれています。ただ……私はあんまり効果を感じません。かといって、人の手で行うには限界がある。その限界を超えて施術している兄は、本当にすごいと思います。

凝り固まったカチカチの体を
ふにゃふにゃの柔らかい体にすることで
怪我や病気をしにくく、疲れにくい体に!

――それほどまでに大変な技術、どうやって身につけられたんですか?

刑部さん:ただただ、お客さんに応えてあげたいという一心ですね。一生懸命になればなるほど、感覚は研ぎ澄まされていきます。正直「ほぐす」という感覚は、手探りで見つけていくしかないんですよ。「なんとかしてあげたい」という思いを強く持ち、感覚を研ぎ澄まし、たくさん数をこなしていくしかないのかな、と思います。

宮下さん:ちなみに、上のイラストは桂整体院のロゴマークです。右は体に力が入りすぎて筋肉が強張り、凝り固まっちゃっている人。左はふにゃふにゃで柔らかい体の人。極端な比較ではありますが、右の人は骨や内臓の位置がずれやすくなり、血管や神経も圧迫されるので、体に不調が出やすくなります。逆に左の人は、怪我や病気をしにくいし、疲れにくいんです。右の人を左の体にしてあげるのが私たちの仕事なのですが、じつはこの施術によって、過去に面白い結果も出ているんですよ。

刑部さん:ある吹奏楽部の女の子なんですが、もともとその子のお父さんがうちに通っていて、「せっかくだから娘も」ってことで、施術をするようになったんです。その子は運動が苦手で体も硬くて。中学1年生のマラソン大会では、ビリから2番目だったそうです。

でも月に2〜3回、お父さんと一緒に通うようになったら、2年生のマラソン大会では真ん中より上の順位になって、3年生の大会ではなんと一番を取ったんです。特に、何か運動を始めたわけではなく、私生活では相変わらずトロンボーンばかり吹いていたそうですよ。

宮下さん:体が柔らかくなると可動域も広がるので、運動にも成果が出やすくなるんですよね。本人は「走ってもあんまり疲れなくなった」と言っていて、日常生活でも体が楽になったそうですよ。

――すごいですね!

刑部さん:体が柔らかくなると、それまで圧迫されていた毛細血管も広がってスムーズに血液が流れるようになるので、疲労も溜まりにくくなるんですよ。疲れにくくなるとやる気も出るし、メンタルにも影響してきます。だからスポーツ選手なども、トレーニングするだけじゃなくメンテナンスが必要。これをおろそかにしていると、頑張れば頑張るほど成果が出ず、逆効果になってしまいます。

今までの経験から言うと、体の硬いところから大病が見つかることも多いと感じています。硬くなると流れが滞ってしまいますから。体も畑と同じ。カチカチに固まって干からびていては、野菜は育ちません。水をしっかり蓄えた柔らかな土地にしてあげたいと思って、日々施術しています。

自らの体を酷使して施術されているお二人。「関節がずれている」という刑部さんの親指を見せていただいたところ、確かに右手の親指と左手の親指の形が異なっていました。「痛くないんですか?」と伺うと、「施術さえできればなんとかなるよ(笑)」とのこと。とても驚きましたが、「この仕事に命をかけている」という思いが、指の形からも伝わってきました。

後編では、現在の働き方や今後の目標、未来の整体師に向けたアドバイスを伺います。

取材・文/児玉知子
撮影/喜多二三雄

information

桂整体院
住所:東京都立川市曙町3-3-23
電話:042-512-7552

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