ヘルスケア&介護・看護・リハビリ業界の応援メディア
ヘルスケア 2024-07-02

何より大切にしたのは対話。自己肯定感を下げない治療家でありたい【もっと知りたいヘルスケアのお仕事 Vol.146/鍼灸師 「アスケア治療院」関口満さん 】#2

ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。

神奈川県で「アスケア治療院」を経営し、鍼灸師、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師とさまざまな資格を保有する治療家の関口満さん。前編では、関口さんが治療家に進んだきっかけを中心にお話を伺いました。

後編では、関口さんが治療家として心がけてきたことを伺います。お仕事をする中でもっとも大切にしてきたのは患者さんとの対話だそうです。

お話を伺ったのは…

関口満さん

「アスケア治療院」院長/鍼灸師、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師。日本体育大学卒業後、スポーツクラブでインストラクターとして勤めていたが、スポーツクラブに通う人の多くが体の痛みを訴えることを目にして、治療家を志す。整骨院で働きながら、夜間の専門学校で柔道整復師、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師の資格を取得。

その後、グループ展開している鍼灸整骨院で分院長、エリアマネージャーを経験し、2015年に「アスケア治療院」を開院。トレーナー活動、治療院向け講師、企業向け福利厚生マッサージなど多岐にわたり事業を展開中。

公式Twitter

対話を大切にしながら、全身を整える治療院を経営

2015年に関口さんが開業した「アスケア治療院」。名前には“訪れる人の明日をケアしたい”という思いが込められている

――「アスケア治療院」の特徴を教えてください。

鍼灸、接骨、あんまなどさまざまな手技を用いながら、全身を整えることをコンセプトにしています。いらっしゃった方の全身の状態を見て、適宜使えるものを組み合わせていくという感じですね。急性の症状でいらっしゃった方は接骨のときに学んだことをベースに東洋医学で学んだことを組み合わせていきますし、腰痛などの慢性症状でいらっしゃった方には鍼やあんまを組み合わせていくなど、場面によって調整をしています。

接骨院をベースにしてしまうと、保険請求の範囲になるので、施術する場所が固定されてしまうんですよね。肘の怪我だったら肘とその周辺というような形で。でも結局は全体を見ていかないと根本的な改善ができないことも多いので、全身を見て整えることをコンセプトにしたいと考えました。

――施術に対して心がけてきたことはどんなことでしょうか?

対話をすることです。僕は治療家と患者さんとして接するのではなく、ひとりの人として接することを大切にしてきました。そしてその人に何ができるのかを考え、できるだけ対応をしたいと思っています。目指すのは「患者さんの腰痛を治せる人」ではなく「○○さんの困りごとを解決できる関口さん」という感じ。その関係性を築くために大事なのが、対話だと思っています。

――対話とは具体的に、どんなことをするのでしょうか?

一方的に痛みの原因を特定するのではなく、痛みの背景に何があるかを聞くことが対話だと思っています。たとえば首の痛みがあった際、多くの治療家は経験則から「腕からの緊張だ」と判断して施術を行います。もちろんこれが間違っているわけではありませんし、僕も首の痛みに対して腕を施術することもしますが。

一方でなぜ首が痛くなったのか、経緯を聞くというのが根本改善と患者さんとの関係性を築くうえではとても大切だと思っています。同じ首の痛みでも人によって要因はさまざまで、生活習慣や日常での困りごとが原因になっていることもあるんです。

――日常での困りごとが痛みにつながることがあるのですか?

はい。たとえば嫌な上司がいるケース。自分が苦手な上司の話を聞いていると、体に力が入ってしまうというのはよくありますよね。そのダメージが体に蓄積されて、痛みにつながることもありますし、不眠などにつながることもあります。

僕には上司を変えることはできませんが、そういう原因があると知っているだけでも、対処方法が見つかることもあると思うんです。

自己肯定感を下げない治療家でありたい

患者さんと接する際は、その方が心地よく生きられる道を模索するという関口さん

――患者さんとの関係性を大事にされてきたんですね。ほかにも心がけていることはありますか?

自己肯定感を下げる施術者にはなりたくないという思いがずっとあって、不調や痛みを、患者さんが自分のせいだと感じないようにすることを心がけてきました。

治療家はよく、患者さんに「生活習慣が悪いから、改善していきましょう」というようなことを言ってしまいがちです。僕もそのように言っていた時代があったのですが、正しいことを伝えるのは、あなたは間違っていると否定することと同じだと思うようになりました。

そしてそんなに簡単に生活習慣を変えられないし、その生活習慣を選んでいるのには理由があると考えるようになってきたんです。

――理由とは?

たとえば普段の生活にストレスがあって食べ過ぎてしまうとか、仕事が忙しくて、睡眠時間が少ないとか。そうせざるを得ない状況が患者さんにはあるわけです。もちろん改善できるのであればそれにこしたことはないですが、無理に生活習慣を正すことでストレスをかけるぐらいなら、今の状態のままの方が良いというケースもあると思っています。

――以前は、「生活習慣を変えましょう」と言っていたということですが、考え方が変わったきっかけが何かあったんですか?

心地よい形は人それぞれ違うんだと気付いたからです。たとえば金メダルを取るようなトップアスリートのフォームが、あまりきれいでなかったりすることがあります。でも力を発揮することができる。

そういったものをたくさん見てきたときに、「平均的に素晴らしい形」というのは確かに基準値としてはあるのですが、人にとっての心地よい形というのはさまざまだと気付きました。そこに正しさという一定の価値をぶつけていく仕事の仕方というのは、僕にとってはあまり面白いものではないんです。

施術の力を、ほかの分野にも広げていく

長年福祉に携わってきた茂呂史生さん(左)とともに、発達障害の啓蒙活動のため、各地で講演活動を行っている関口さん

――最後に今後の目標を教えてください。

治療院とは別に、知り合いの鍼灸師とともに合同会社を立ち上げているのですが、その社名が「ヘルスコネクト」という名前で、健康と社会をつなげていくことをテーマに活動をしています。鍼灸師を増やしていくとか、業界の活性化をしていくというより、すでにある鍼灸という素晴らしい文化を、より多くの困っている人のところに届けるハブになりたいという思いがあり、この活動に力を入れていきたいと思っています。

福祉業界に長く携わられてきた茂呂史生さんと共に、発達障害の啓蒙活動に力を入れているところなのですが、この活動もまさにそうです。茂呂さんは発達障害とは個性だと発信をされている方で、とはいえその個性があることによって生きづらさを抱えている方も多くいます。鍼灸によって、そういった方の体の緊張をとったり、自律神経を整えたりすることで、よりその人らしく人生を送れる可能性があるわけです。

自分だけの施術にこだわるよりも、鍼灸などの施術をいろいろな分野に応用し、さまざまな困りごとを抱える人の選択肢のひとつになるよう、広げていきたいと思っています。


鍼灸師・柔道整復師として活躍するための3つのポイントとは?

1.幅広い手技を身につけ、患者さんにあったものを提供する

2.一方的に痛みの原因を決めつけず、患者さんとの対話によってその背景を探る

3.患者さんが自分の生き方を否定せず、心地よく生きられるように接する

Information

アスケア治療院
住所:神奈川県横浜市青葉区つつじが丘23-11ヒカリメゾン青葉台303
TEL:070-6434-0169

この記事をシェアする

編集部のおすすめ

関連記事