患者やクライアントの一番のファンになることが、学びの速度を止めないコツ【もっと知りたいヘルスケアのお仕事 Vol.142 柔道整復師・トレーナー 安達愛美さん】#2
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。
柔道整復師とトレーナーの2つの顔を持つ、安達愛美さん。現在「スポーツメディカル整骨院」の院長として勤務しながら、学生の部活のトレーナーや、アイドルのマラソントレーナーなどとしても大活躍中です。
後編では、開業後のご苦労やその乗り越え方、お仕事のやりがいについて伺います。
お話を伺ったのは…
安達愛美さん
柔道整復師でトレーナー。整骨院「スポーツメディカル整骨院」院長。
日本治療家研究所の理事も務める。社会人アメフトXリーグや中高生の部活のトレーナー、コーチなども務める。アイドルのマラソントレーナーとして帯同経験もある。
1万人にポスティングし、コロナ禍でも集客に成功
――安達さんは2020年に独立されています。開業は順調に進みましたか?
最初はやはり大変でしたね。とくに、開業前に申請した融資の手続きで苦労しました。
融資を受けるための保証協会の審査に「開設届」が必要だと言われたのですが、「開設届」は整骨院ができ上がってから保健所の審査を通して初めていただけるものなんです。
でも融資を受けないと整骨院を開くことはできないし…。前例のないことでしたが、あらゆるところに問い合わせてなんとか融資を受けて開設届業にこぎつけました。
――集客は最初から順調でしたか?
「スポーツメディカル整骨院」は2020年7月にオープンしたのですが、コロナ禍真っ只なかということもあり、集客は全然うまくいきませんでした。
ありがたいことに前職の院からついてきてくださる方もいらっしゃいましたが、そもそも不要不急の外出もできず、スポーツすることもままならない状況でしたので、人は集まらなかったですね。
当時はX(旧Twitter)や、InstagramなどのSNS中心に投稿を行って集客をがんばっていました。
――どのタイミングで集客が上向いていったのでしょうか?
開業してから半年ほど経って、広告のポスティングを始めてからですね。
コロナ禍に経営塾に通いだし、そこでポスティングの有効性について学んだことをきっかけに配布を開始しました。「スポーツメディカル整骨院」の近隣に1万枚ほどポスティングをしたところじわじわと来院が増えてきました。
――1万枚も配布されたとは驚きです!
仕事終わりの夜にポスティングしていたので、不審者に間違われたこともありました(笑)。
ただ効果は絶大で、配布してから半年後に来院してくださる方もいらっしゃったんですよ。SNS広告は流し見してしまいますが、チラシは冷蔵庫などに貼って「どこか痛いところが出てきたらここに行こう」と思ってくださる方が多いようです。
――「スポーツメディカル整骨院」さんの現在の客層はどの様になっていますか?
院名の通り、スポーツをしていてどこかに痛みがある方もいらっしゃいますし、近隣にお住まいの高齢の方にお越しいただくこともあります。年齢層はさまざまですね。
ただ私の院は女性の患者さんが多いのが特徴的かも知れません。「女性の柔道整復師」「女性の整骨院院長」が珍しいという理由で、同性の方が施術を受けに来てくださることも多いですね。
3Dアプリを利用して「なぜ痛いのか」を論理的に説明!
――安達さんが施術をする際に気をつけていることがあれば、教えてください。
施術にいらっしゃった方には、痛さや辛さの原因が何にあるのかをしっかり説明するようにしています。
人間の骨格や筋肉などを立体的に表示できるアプリを利用し、タブレットなどで痛みのある部分を見せながら、「この筋肉の痛みをかばうために、この部分が緊張してしまうので、この部分に負担がかかって痛みが出ています」と説明するように心がけています。
――図を見せてもらいながらですと、説明がわかりやすいですね。
痛みや辛さの理由が分かれば患者さんも「何に気をつけて、何をしたら症状が和らいでいくのか」を考えやすいですよね。問題の解決に向けて、次のアクションに繋がるような説明をできればいいなと思っています。
学生さんが診療に来たときは、図を見せて説明しながら「ここが痛いってことは、何に気をつけたらいいと思う?」とクイズを出して、自分の頭で考えてもらうような工夫もしています。
――安達さんはトレーナーやコーチとしても活躍中ですが、柔道整復師の資格を持っていてよかったなと思うことはありますか?
怪我をしている方については、無理させないというのが大原則ですが、スポーツの現場では強豪校と戦う大切な試合、最後の試合など「ここ一番」の場面があることも。
そうしたときに、私がケアやテーピングをすれば出場してもよいか、はたまたそれは難しいのかを判断できるという点は2つの資格を持っている強みかも知れません。
――逆にトレーナーやコーチとして活動していることが、柔道整復師としての強みになっていると感じることはありますか?
柔道整復師としてスポーツをしている方の施術にあたっているとき、トレーニング談義になることがよくあるんです。そんなときにマイナーなトレーニング方法について話せると、トレーニング好きの患者さんにも安心して、信頼してもらえる感覚がありますね。
――柔道整復師、トレーナー・コーチのお仕事の魅力を教えてください。
柔道整復師、トレーナー・コーチは一見違った仕事のように見えますが、実は仕事の中心に「コーチング」がある点は共通しています。
柔道整復師としては痛みや辛さの原因が何にあるのかを理解して、日常のなかでもそれを解決できるように対策を意識してもらうことが重要です。トレーナーやコーチも、技術を伸ばすために、どんなことを意識すべきか考えてもらい、それを実行してもらう必要があります。
痛みを取る、成績を伸ばすというように目的は違いますが、コーチングがうまくいき、人が成長する過程が見られることに喜びを感じますね。
――今後、柔道整復師やトレーナー、コーチを目指す人にアドバイスをいただけますか。
私は「クライアントのファンになること」を意識しています。
トレーナーや柔道整復師の仕事は、業務外の時間にもコツコツ勉強をして、知識や経験を積み重ねる必要があるものだと思うんです。その原動力になるのは、クライアントさんを想う気持ちや、好き、応援したいと言う気持ちです。「役に立ちたい!」という気持ちがあれば、自分から進んで知識を得ようとするし、苦労も買って出ようと思いますし、ちょっとやそっとのことではへこたれずにがんばれると思うんですよね。
結果的に実力をつけるためにも、ぜひ「クライアントさんを好きになること」をおすすめしたいです。
――安達さんの今後の展望を教えてください。
独立し、高齢の方と接する機会が増えた今、「健康寿命」を伸ばすための取り組みができたらいいなと考えています。歳を重ねたあとも、自分の足でしっかりと歩いて生活することができる人を増やすためにできることを模索していきたいです!