梶原幸 interview：「メイク大好き」カラフル看護師から、ヘアメイクアーティストへ転身

広告撮影・雑誌・ブライダルのヘアメイクとして、また、スクールの講師や一般女性のためのヘアメイク講座など、女性を美しくするため幅広く活躍するヘアメイクアーティストの梶原幸さん。片やタレントやモデル、方や一般女性と、タイプの違う『ヘアメイク』の仕事にどう向き合うのか、じっくりとお伺いしました。

看護師時代のあだ名は「信号機」（笑）

「もともとは、岡山で看護師をしていたんです。でもお化粧が好きで、素人ながらファンデーションを３色で塗り分けたりしていたの。病院内ではカラフルな化粧をしている人はもちろんいなくて、その時のあだ名は『信号機』でした（笑）。 でもメイクを職業にする気はぜんぜんなくて、趣味として楽しんでいたんですが、ある時友だちが大阪のファッションショーに誘ってくれて。それを見に行ったのが転機でしたね。ショーを見ていて、『私も自分の顔だけじゃなくて人を綺麗にしたい！』と強烈に思ったんです。メイクを本格的に学ぶことを決意して、『どうせやるなら東京だろう！』と、思いきって上京しました。 その時は、メイクの勉強をすればメイクの仕事ができるんだと思っていました。学校でもそういう説明でしたし。でも卒業する頃になって、ヘアができないと仕事はないって知って、『えぇえー！？　うっそーー！！』と、晴天の霹靂でした。衝撃でしたね（笑）」

美容師には絶対になりたくなかった！

「学校では髪の毛を扱う授業はほとんどなくて、卒業制作用に作品撮りができる程度しかやってなかったのね。そんな時、学校に来ていた講師から仕事のアシスタントをやってみないかと声をかけられて、撮影現場に行くようになりました。それが今の会社の社長なんですが（笑）。 アシスタントとして現場へ何度も向かい話を聞くうちに、どうやら髪の毛を扱えないとヘアメイクの仕事はない、ということが分かって。アシスタント業のかたわら通信教育で美容師の勉強も始めました。実は私、実家が床屋なんです。裏側をいっぱい見てきたので美容師には絶対になりたくなかった（笑）。もし美容師の勉強もしなくちゃヘアメイクになれないと最初に知っていたら、たぶんこの仕事には就いていなかったでしょうね。卒業間際に知って驚いたけど、結果的には良かったんですね。 また、私はファッションショーの仕事がしたくてこの世界に入ったのに、師匠がやっていたのは広告の仕事で、希望していた媒体と違っていたんですけど、やっていく中で面白いなあと思うようになりました。何にしても、考えていただけじゃわからない、動いてみて初めて見えてくるものがある、と実感しました」

興味のなかったブライダル。でも……

「事務所の仕事は広告と着物のショーが多かったんですが、だんだんとブライダルメイクの仕事も増えていって、私にも『そろそろやってみない？』と声がかかるようになりました。忙しかった頃は、年間1000件くらいやっていましたね。 私、ブライダルメイクも全く興味がなかったんですが（笑）、手が足りなくなっているようだし、しょうがないなーと嫌々始めたんです。けど、いざ蓋を開けてみると、驚くほどやりがいのある仕事でしたね。広告撮影でモデルさんをメイクする時と気の使い方が全然違いますし。 ウェディングって、その人の一生の晴れ舞台でしょう。写真も、孫の代まで残るんですよね。お客さまの思い入れも半端なものではないですし、広告とは目標というか、着地点が違う。すごく勉強になりましたし、本当に面白い仕事だと思うようになりました。全くやってみなけば分かりませんね。 ブライダルメイクは、花嫁さんはもちろん親兄弟やご親戚からも『あの子を綺麗にしてくれてありがとう』って言われるでしょう。『美しく変わったこと』への喜びは、広告写真よりも大きいんじゃないでしょうか。その嬉しさがダイレクトに伝わってくるんですよ」

ティアラがない！！　血の気が引いた瞬間

「ブライダルは、失敗は許されないプレッシャーがあります。もちろん、他の現場でも失敗はしちゃいけないものなのですが、どうしてもブライダルならではの緊張感はありますよね。 でも、失敗したことも数多くありますよ。ある日、すごくボリュームのあるヴェールで小さいティアラの衣装の花嫁さんがいました。ヴェールをおろしてリハーサルをする時に、『ティアラにひっかけないでね』って言おうとしたら……『ティアラがない！！』気付いたのは、すでに大型写真を撮影し終えた時で。もうね、顔からざーーーっと血の気が引きました。『ごめんなさいごめんなさい！！』って走ってカメラマンさんを探して、再撮影しました。花嫁さんからは『私も気付かなかったので気にしないで』、お婿さんからも『式は予行演習だから良かったです』って言っていただいたのですけど、それ以来チェックは欠かせません。 人間のやることですから、失敗はしょうがないですが、同じ間違いを繰り返さないようにすることが大事ですね。それから、ブライダルの場合は特に、常に本番。毎回初めての現場だと思って、慣れによる気の緩みがないように気を引き締めていくことが大事だと思います」

「人間ウォッチング」でメイクの勉強

「ヘアメイクの勉強はいろいろな方法があると思います。私はスクール生だった時代、お金をかけずに自分の中に引き出しをいっぱい作ろうと思って、渋谷のお店の前に座ってスケッチブックを持って人間ウォッチングをしていました。通る人をずーっと見て、その人に似合う髪形やチークの色を考えたりして。色紙を買ってきてシャドウを塗ったりもしました。同じ色でも、白い紙に塗った時と黄色い紙に塗った時では発色が違ってきます。ほら、口紅を考えると分かりますよね、他の人にはいい色でも、自分には似合わなかったりするでしょう？　そういうことを自分なりに学びました。 美術館に行くお金がなかったので、本屋さんで美術書を読み漁って色の勉強をして。勉強はしようと思えば方法はいくらでもあります。お金なければ知恵を使いましょう（笑）！」

メイクは全身トータルで考える

「人間ウォッチングをしていて一番感じたのは、やっぱり肌の色って千差万別だな、ということと、メイクはトータルで考えなければいけないということ。例えば家庭雑誌のメイクでも、衣装がエプロンなのか割烹着なのかでメイクも変わりますし、コーヒーを飲んでいる場面でも、夜明けのコーヒーなのか仕事のブレイクタイムなのかで全然違ってきますよね。それは自分の中の経験が蓄積されていないと提案のしようがないんです。そういう時、人間ウォッチングが活きていると実感できます。 長いお休みが取れた時はよく海外旅行へ行くのですが、そこでもつい人を見てしまいますね。海外だと、ファッションや、色や光が違いますし、勉強になります。海外では美術館に行くのが楽しみです。昨年はパリ４回目でやっとオルセー美術館を制覇できました！　素敵でしたよ。ルーブルはまだ全部見ていないので、次のお休みのために楽しみにとっておいています。 普段のお休みの日でも、一日一回は絶対に外に出るようにしています。私の場合、それがリフレッシュになるんですね。ダラダラ寝ていられないんですよ（笑）。いつも何か動きまわっています。やっぱり現場に出ないとね！」

適職かどうかは、自分ではなく他人が決めること

「もし自分が転職するとして条件を3つ上げろと言われたら……『好きかどうか・やりがいがあるかどうか・人の役に立つか』です。お給料とか待遇はあまり考えてないですね。技術職は下積みがあるのが当然ですから、厳しいことは当たり前です。私も何度も『田舎に帰れ！』と言われました（笑）。 仕事が向いているかいないかは自分が決めることではなくて、人が決めてくれること。面接で『やる気はあります』とか『一生懸命頑張ります』とよく言われるのですが、そういう言葉は『あなた、がんばってるわね』って人が言うものですからね。そう言われるまで努力できる仕事が適職だと思います。言葉ではなく、思いの強さを行動で示すことができる人は、転職してもきっと成功しますよ。 あと言えることは『貯金をしておけ』ということですね（笑）。下積み時代はほとんどお金が稼げないですが、生活はしなくちゃいけないですから。貯金は本当に大切です（笑）」

自分を活かし、人に喜ばれる仕事を

「いま私は、通常業務の他に、年に一回老人ホームでボランティアメイクをしています。それまで話さなかったおばあさんが、メイクパレットを見て『この色がいい』と言い出したりして、すごく元気になるんです。表情もどんどん変わってきて、90歳のおばあさんが、80歳の方に『あなたは若くていいわねえ』なんて会話が生まれたり。女性にとって『美』というのは本当に大切な心のケアでもあるんだな、と痛感しました。この活動も続けていきたいです。 あと、将来は……実は、お好み焼き屋さんをやりたいんです（笑）！　小さい時から大好きなんですよ。お料理が好きで、朝食はいつもご飯とお味噌汁とお魚と、何か一品。出汁も毎日取っていますよ。出汁を取った後の鰹節は佃煮みたいにして、全部食べちゃう。捨てるものがほとんどない、エコです（笑）。時間ができたら陶芸もやりたくて、自分の器でお好み焼き屋さんができたら最高ですね！ やりたいことは一杯ありますが、生涯現役のつもりでいます。海外ではヘアとメイクはそれぞれプロがいて、老眼鏡を掛けたおばあさんがショーのメイクをやっていたりします。日本のヘアメイクも、将来はそうなるんじゃないでしょうか。自分が辞めようと思うまで仕事を続けられるようになるはず。 自分の力を最大限に活かして、人に喜ばれる仕事をすること。それができる時代が来ると思っています。若い皆さんも、ぜひその時に向かって頑張ってください」

Information

BELIEZZE Bean’s(ヴェレッツァビーンズ )

梶原幸さんが学院長を務めるヘアメイクプロフェッショナルスクール。 広告やブライダル、ファッションショーなどで豊富なキャリアを持つ講師陣が揃う、プロを目指す人のためのメイクアップスクール。少人数制、短期集中、数多くの現場研修などで、プロとして活躍する確かな技術を習得できる。卒業後はヘアメイク事務所、美容室などの進路先の紹介などでサポートしている。 資料請求はサイトのメールフォーム、またはお電話にて。 TEL：03-3796-8897 HP：http://www.bellezze-beans.co.jp/

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