鍼灸師も機能訓練指導員になれる! 導入の経緯と従事するための要件とは?
鍼灸師という立派な国家資格をもっていても、資格取得までの苦労や費用を考えると、どうも収入が期待したほどではないと感じる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?
また開業資金の工面、開業しても患者は来るか、といった悩みを抱える方も多いのでは。
そんな悩みを抱える鍼灸師の方々にオススメなのが機能訓練指導員として介護福祉施設などで働く方法です。なぜなら鍼灸師も機能訓練指導員として介護福祉施設で働けるようになったからです。
開業かあるいは職場が限られていた鍼灸師の新しい職種(機能訓練指導員)と職場、そしてその将来性(どれだけの需要が見込めるか)を探っていきたいと思います。
鍼灸師も機能訓練指導員になれる!
平成30年の介護保険法改正により、機能訓練指導員として働ける国家資格として鍼灸師が新たに加えられました。急増する介護施設の人員不足に対応するためです。
実際金額的にみても、介護保険の介護給付費は2013年で約9兆円だったものが、2025年には約25兆円と2倍以上に膨れるとされています。
これまで開業以外に職場の選択肢の少なかった鍼灸師にとって、新たな職場が開発された朗報といえるでしょう。仕事と安定的収入の機会が増えたわけですから。
それでは鍼灸師の皆さんにとってはこれまでなじみの薄かった機能訓練指導員とは何か、鍼灸師が機能訓練指導員として仕事ができるようになったワケ、について解説しましょう。
【はじめに】 機能訓練指導員とは
そもそも機能訓練指導員とは、病気やケガ、加齢などで日常生活に支障をきたし始めた人にリハビリや機能訓練などを行うことで手助けする職種のことです。
介護が必要な人々が健康で自立した生活が送れるように支援するもので、利用者の方や家族から頼られ感謝されるだけでなく、社会的にも評価される尊い専門職といえます。
そのため、デイサービスをはじめとした種々の介護施設では、機能訓練指導員の1名以上の配置が義務付けられています。利用者さんの安全とサービスの質の確保のためです。
実は機能訓練指導員という名のそのものズバリの資格はないのですが、仕事の性質上各種の高度な技能を有する専門家が指導員として認められてきました。
機能訓練指導員のお仕事
機能訓練指導員になれるのは、従来まで理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、看護師または准看護師といった国家資格保有者に限られていました。
仕事内容は、「デイサービス(通所介護施設)」での業務の場合、次のような作業になります。
まずは利用者の身体機能の評価を行った上で、実情に合った計画書を作成します。次いで、血圧など健康状態を把握して、リハビリ機器利用時の介護・指導を行います。
また、必要に応じて利用者に最適な補助具を選んで個別リハビリを実施します。最後に計画書評価を体力測定などで行うほか、他の介護職員への指導も行います。
鍼灸師が機能訓練指導員として仕事ができるようになったワケ
鍼灸師が介護訓練指導員として認められるようになった最大の理由は、急増する介護施設の人材不足への対応です。しかし単にそうした単純な理由だけではありません。
というのも、これら6種の国家資格保有者で、利用者の期待する業務を完全に果たせるかという疑問があるからです。要介護者の場合、抱える問題は複雑だからです。
つまり機能訓練指導員の資格要件が緩和されて鍼灸師が加えられたのは、簡単にはなれない指導員の人手不足が大きな原因と言えます。
そこでこれまで認められてきた国家資格ごとに、それぞれの職種の得意分野ないし手が届かない領域を確認したいと思います。それにより、鍼灸師の役割が明らかになります。
これまでの機能訓練指導員の業務①
まず看護師または准看護士ですが、その資格取得段階では残念ながら機能訓練やリハビリの技術や知識を持ち合わせていません。
日常生活のリハビリは理学療法士が得意とするところです。他方作業療法士は、身体機能ではなく心理的リハビリを担当します。
また言語療法士はコミュニケーションおよび「食べる」ことに関しての機能回復に実力を発揮します。肺炎を招く危険な誤嚥(ごえん)防止がこれに入りますが、お年寄りは要注意です。
しかし高齢者が日常抱える体の痛みには対処できません。そこであん摩マッサージ指圧師が体に関する違和感(肩や腰の痛み、筋肉の張り)を軽減します。
これまでの機能訓練指導員の業務②
柔道整復師はねんざ、打撲などの人体損傷に対し機能回復を図ります。同時に、年齢と共に狭くなる関節可動域の問題にも対処できます。
ところが、マッサージで施術直後は回復しても時間経過により痛みが再発というケースは多く聞きます。またケガでもなく、体調不良だが検査では原因がわからないこともあります。
これ以上薬を増やすのも服薬するだけで大変、副作用も心配だといった声もよく耳にします。その点、鍼灸は安全で年配者の強い支持があります。
いよいよ鍼灸師の出番となります。
機能訓練指導員としての鍼灸師への期待
何よりも要介護者の方々に限らず、痛みを軽減させる緩和ケアは、現代医療の大きな課題です。中でも要介護者には、年齢もあって体の痛みを訴える方が多いのは事実です。
つまり、機能訓練指導員の使命である「健康で自立した生活」を実現するため、痛みのスペシャリストである鍼灸師が加えられたと考えることができます。
鍼灸師が機能訓練指導になるための要件とは?
ここで注意したいのは、鍼灸師という資格があればそのまま自動的に機能訓練指導員になれるわけではないということです。
鍼灸師以外の機能訓練指導員の在籍する介護施設・事業所で半年(6カ月)以上の実務経験が求められています。
細目は定められておらず、実務時間・日数・内容について当該施設管理者が機能訓練指導員として問題ないと判断し、書面での証明が確認されればよいとされています。
その書面もひな形が存在しないので、実務期間と施設名、機能訓練指導員名、施設代表者の記載および必要に応じて押印していれば問題なしと捉えられています。
法改正に至るいきさつ
こうした手順が求められているのは、機能訓練指導の内容が鍼灸師のもともとの専門分野ではないためです。
そのため、指導員として適切なサービスが担保されるかということについて懸念する声が多かったからといわれています。
しかし、指導員の人員不足が深刻で、鍼灸師よりも適当な職種がないことで法改正に至ったのです。
鍼灸師の機能訓練指導員は需要がある?
では実際に、機能訓練指導員として鍼灸師に対する需要はどの程度あるのでしょうか?資格を持っていても働く場がなければ、また待遇が悪ければ、鍼灸師にとってメリットはありません。
そこで以下では、勤務する場所(求人のあるところ)と、将来性(今後の需要動向)について話したいと思います。
勤務する主な場所!介護関連施設
機能訓練指導員の配置が義務付けられている施設は、大きく分けて「介護施設」と「要介護者向け医療施設」に分けられます。後者は医院ですので、説明から省きます。
介護施設の内、鍼灸師が機能訓練指導員として従事できるサービスの種類は、以下の6種に限られています。
「特定施設」、「特別養護老人ホーム」、「認知症対応型通所介護」、「短期入所生活介護施設」、「ショートステイ(短期入所介護施設)」、「地域密着型(小規模)通所介護」です。
要介護者向け医療施設を含めて、機能訓練指導員の配置は1名以上なので、全ての施設で鍼灸師の求人があるわけではありません。
鍼灸師の機能訓練指導員は需要がある!
まず施設における機能訓練指導員の平均人数ですが、厚生労働省によると通所介護施設の場合、2014年は0.7人だったものが、わずか2年後の2016年には1.0人と増加しています。
加えて介護施設数そのものが増加していることから、機能訓練指導員に対する需要増も拍車がかかっていることが見て取れます。
超高齢化社会が世界でも類をみないスピードで進んでいる日本では、今後も機能訓練指導員に対する需要は、増えることはあっても減ることがないのは確実でしょう。
2012年に65歳以上人口は3,000万人を超えましたが、2050年時点で65歳以上の高齢者が全人口に占める比率は38%と予測されています。要介護者は増え続けるのです。
介護サービスにおける鍼灸師の重要性
介護を必要とする絶対人口が増加するだけではありません。そのニーズも多様化、高度化することは、介護サービスが始まって歴史の浅い日本でも明らかではないでしょうか。
単に長生きするだけでなく、痛みをはじめとした生活の質(QOL)を重視するなど健康で長生きすることを国民が求めているといえます。
そのための仕組みが、給与明細書にある介護掛金で、この予算措置により介護施設が急増し、また機能訓練指導員は誰でもなれるものはないので常に求人があるのが現状です。
終生健康で生活を送ることは国民の願いであり、単なる機能訓練に留まりません。日々の痛みや体調不良、病の不安から解放してくれる鍼灸師に対する期待は大きなものがあります。
機能訓練指導員は将来性のある仕事
総合的にみると、機能訓練指導員自体は、将来性のある仕事です。気になる待遇ですが、2016年の厚生労働省の調査では、平均給与は約34万円となっています。
いずれにせよ、鍼灸師が機能訓練指導員の資格を得ることで、今まで見過ごされがちだった利用者の体の痛みと疲れ、未病にも対応できるようになったのです。
超高齢化社会における介護サービスに対するニーズの高度化を反映して、介護施設利用者さんの鍼灸師に対する期待は大きいことから、鍼灸師にとって将来有望な仕事です。
そのため、鍼灸師を機能訓練指導員として採用する需要は、今後一層増加すると予想されます。新規職種なのでゼロからの出発ではありますが、その分伸びしろはあります。
あとはこのチャンスを活かして、半年の実務経験により新しい世界に飛び込むチャレンジをあなたが選択するかどうかです。皆様の夢が実現されることをお祈りします。