事故が起こってしまったらどうする? 労災保険の基礎知識 #3
いざという時に、慌てず労働災害の認定を受けるためにどのようなことに注意をしなければならないか、少し詳しく説明しましょう。
労働災害といえば、工場での事故というイメージが強いかもしれませんが、実際には交通事故というケースも多くあります。仕事で、外へ出かけているケースよりも、通勤途中で起こる事故の方が多いと言われています。通勤途中の事故であっても、通勤災害ということで、医療費や休業補償の支給はされるはずです。
■自賠責保険や相手の任意保険の問題
交通事故でケガをした場合、自賠責保険や相手の任意保険という問題も当然からんで来ることになります。過失割合の問題もあり、対応はかなり複雑化してくることになります。
ケガが重度の場合では自賠責の120万円では補うことができないため、通勤災害の手続きも行い、相手方との交渉も進めていかなければならなくなります。自賠責の請求を被害者側がしなければならないケースもあります。
通勤災害のケースでは、本来会社側に責任があるという訳ではありませんので、労働災害の手続きはしてくれるとしても、それ以外の交渉は自分に任せられるケースが多いようです。そのような時、なかなか自分で判断をして行うことが困難なので、交通事故を頻繁に扱っている弁護士、または社労士などにお願いするようにしましょう。
自分で行うときに注意をしなければならないことは、準備の整っていない示談です。まだ、治療の最中であり損害額が確定していないにも関わらず、示談をしてしまい、「これ以外には、両当事者の間には一切の債権債務がないことを確認する」などといった文言を入れてしまうことによって、示談が成立してしまい、それ以後の損害賠償の請求権を放棄する意味合いが発生して来てしまうことになります。
そのとき加害者に対して請求する権利を失うと同時に、労働災害に対しての請求権も失ってしまうことになります。もしも、障害が残ってしまった場合、労災から障害年金が支給されるというのに、年金給付も3年間は支給されません。
労災に請求する場合、交通事故などで加害者があった場合において、「第三者行為災害届」という書類と「念書(兼同意書)」を提出することになります。今までお話しして来たことは、この「念書」にも書いてあることです。
まず示談をする前には労働基準監督署に相談しなければなりません。ただなんとなく労働基準監督署に書類を出せば良いという考えではなくて、難しいのかもしれませんがそこに何が書いてあるのか理解をすることが必要です。
■ベストな示談のタイミング
ここには、ベストな示談のタイミングもあり、損害額が確定して症状が固定してから行う方が良いでしょう。
示談のときには「被害者は、労災の給付を受ける分についての損害賠償請求権を放棄するものではなく、請求権が国に移転したものに対して、国と加害者との間で解決すること」といった文言を残すようにすればひとまずは安心です。
■アルバイトでは労働災害が適用されない?
労働災害保険は、正規社員のためのものであり、アルバイトの人たちは無関係と思っている人も多くいます。会社が、労働災害保険に加入することは義務です。会社は、労働災害を起こす労働者を保護しなければならない立場です。
会社では現在、アルバイトで仕事をしている人たちも抱えていますので、アルバイトの人たちを守ることも義務です。自分はアルバイトだから、会社に労災を使わせてくださいと要求することが申し訳ない、などと決して思わないでください。そのような配慮は一切必要がありません。
アルバイトで仕事をしている人たちも、パートの人たちも、正社員と同じく労災は適用されます。
労働基準法には、会社の管理・監督のもと、労働者が就業中に業務が原因でしてしまったケガ・病気に関して療養費や休業補償などの補償をしなければならないとあるためです。労働災害保険に対しての知識があまりない人は、労災は自分で加入しなければならないという思いこみがあるようですが、労働災害保険とはそのようなものではありません。会社がたった一人の人を雇った場合においても、加入は既に義務となり、労災保険料を全額会社が負担します。
■労働災害保険でもらえるもの
アルバイトの人も、仕事場でケガをしてしまったら、すぐに生活費のことなどが不安になってしまうでしょう。労働災害保険・労災保険はそのような人たちの不安にも答える必要があると考えています。治療でかかる費用はもちろん支払われることになり、かつケガで仕事ができない場合には「休業補償」も支払いされることになります。
まず、労災保険では、入院費や通院費、薬の費用などなど治療にかかる費用の支払いが行われることになります。更に、移送にかかわる費用や、入院・療養にともなった看護などの費用もです。更に、ケガ・病気で仕事ができない状況下では、「休業給付60%」と「休業特別支給金20%」の合わせて80%の休業補償をもらうことができます。
ただし、最初の3日は「待機期間」という扱いであり、休業補償の対象ではなく、休業4日目より支給となりますので注意をしてください。そのとき、直近3ヶ月間でもらっていた給料を実日数で割り出した1日の金額が、休業補償の基準となります。後遺障害が残ってしまった場合など大きなケガというケースもあります。そのような場合でも、その程度に応じた給付金や年金がもらえるようなシステムになっています。
文/sapuri