美容師の目標設定&キャリアプランのポイント
“美容師になるという目標を達成した後、今度は「美容師として何を目指すべきか」という目標が見つからず、悩む人も多いでしょう。美容師の目標設定のポイントは、まず「キャリア全体」の目標を立てること、次にその具体的な構想として「スキル」の目標を立てること、最後に、その目標をより実現性が高いものにするために「見直し」を随時行うことです。
ここでは、これらの3つのポイントを具体的にどう実践すればいいのかをまとめます。
仕事にやりがいを見出すために目標を立てよう
美容師でも他の職業でも、やりがいは降って湧いてくるものではありません。自ら生み出す必要があります。そのためには、やはり美容師としての目標が必要になるでしょう。目標を立てるというと「誰でもできる」と思うかもしれませんが、企業でいうなら「戦略立案」です。漠然と願うだけではなく、「なぜそれを目指すのか」「実現するために何をすればいいのか」などを、具体的に研究した上で考える必要があります。基本となるポイントは、「まずキャリア全体の目標を立てる」「次に個別のスキルについての目標を立てる」という順序で考えることです。
美容師としてのキャリア全体の目標を立てる
キャリア全体の目標というのは、たとえば「30歳までに独立開業」などの目標です。もし開業するのであれば、その後店舗は増やしたいのか、増やすなら何店舗を目指すのか、オリジナル化粧品の販売など、サロン経営以外の分野にも乗り出すのかなどを考えます。もちろん、これらは「実際に経営を始めてから考えが変わる」のが普通です。そのため、ガチガチに完璧な計画を立てる必要はありません。あくまでもイメージです。
たとえば、店舗数でいうなら「格安美容室でもいいから、店舗数をどんどん多くしたい」ということなら、スタイリスト時代から目指すものが変わってきます。あまり高度なカットスキルは要らないのです。それより経営や会計、法務や税務などの知識が必要になります。飲食チェーンで成功した経営者など、むしろ美容業界以外の人から学ぶことも多いでしょう。
逆に「店舗数にはこだわらないから、人気のあるカリスマ的な美容院を作りたい」ということであれば、スタイリスト時代に高い技術を得る必要があります。スタイリスト時代に「カリスマ美容師」として活躍していれば、独立開業した後も、そのカリスマの技術に学びたい新人が入社・入店してくれることが多いでしょう。
他にも、「最終的にはスタイリストでも経営者でもなく、講演家や作家として活動したい」ということであれば、スタイリスト時代から情報発信を熱心にすべきです。所属店舗名や実名を出すことが許可されていなくても、匿名の美容師ブログとして、世間の人が知りたい情報を発信するなどの方法があるでしょう。
このように「スタイリスト時代に何をするべきか」は、最終的にどんなキャリアを描きたいのかによって大きく変わってきます。スタイリスト時代どころか、むしろアシスタント時代、美容専門学校の時代から、やるべきことが変わると言ってもいいかもしれません。
どのような道に進むにしても確かなことは、美容師は40代が定年と言われるくらい、40代以降はマネージャーになるか、独立してオーナーになるかという選択肢でないと、満足できる収入、やりがいのある仕事を得ることは難しくなります。最低限、自分はマネージャーを目指すのか、それとも独立開業をするのかということだけは考えておいた方がいいでしょう。
スタイリングのスキルに関する目標を設定する
キャリアの目標を「全体」とすれば、スキルの目標は「部分」と言えます。わかりやすい目標は「資格」でしょう。たとえば独立開業の構想で、「カットだけでなく、レディースシェービングも提供できる美容院にしたい」と考えたとします。この場合、シェービングは美容師免許ではできないので、理容師免許が必要になります。
理容師を雇うなら自分で免許を取る必要はありませんが、この場合「その理容師に辞められたら、お店の売りであるシェービングがなくなってしまう」という弱みも抱えます。もしそれが不安であれば、開業当初から「自分が、美容師・理容師両方の免許を取っておく」というのがベストでしょう。シェービングの時間自体はそれほど長くないのでカットやシャンプーは雇った美容師に任せ、自分はカットと、随時シェービングをするなどの体制で、お店を回すことができます。
以前は「美容師・理容師」両方の免許を取るのは困難でした。両方2年の通学(通信なら3年)が必要だったからです。しかし、2016年に法律が改正され、美容師の資格をすでに持っている場合は、理容師の資格は1年で取れるというルールになりました。
もちろん「ダブル免許」はスキルの目標の一例ですが、このように「キャリアで目指すものに」に合わせて資格を取っていくと、漠然とした夢が徐々に現実的になり、成功確率も上がっていくでしょう。
その他のスキルの目標では「ネイリスト」もいいでしょう。ネイリストの求人情報で多く設定されている条件は「ネイル検定2級」です。2級の取得にかかる期間は、初心者でも経験者でも共通で半年です。また、その上の1級は1年です。美容師として働きながら通信教育などでこの資格を取ると、キャリアプランがかなり有利になるでしょう。
たとえば「ネイルのサービスも導入したいけど、ネイリストを専任で雇うほどではないし、外部ネイリストは不安」というオーナーは多くいます。そうしたオーナーでも「普段はカットをして、必要な時はネイリストになれる」という美容師だったら、ぜひ雇いたいと思うでしょう。サロンにとって役立つ人材なので、資格手当などがついて、給与が上がることも期待できます。転職や再就職をする時にも有利でしょう。
このように、スキルに関する目標設定もいろいろありますが、キャリアの目標が思いつかない人は先にスキルから向上させていくのもいいかもしれません。その過程で、自分に向いていることや、自分が本当にやりたいことも、見えてくる可能性が高いでしょう。
設定した目標を見つめ直し、軌道修正する
目標は、立てた当初と状況が変わることによって、だんだんと変わっていくものです。また、ある程度変えるべきでもあります。知識や経験がない状態で立てる目標と、ある程度それらを得た状態で立てる目標は、質がまったく違うからです。
そのため、美容師の目標も随時見直す必要があります。これは人から言われなくても、本気で何かを目指していれば、誰もが自然にすることでしょう。たとえば「ネイル検定1級を取る」などの目標を達成したら、その資格がなかった頃より、見える世界がまったく変わってくるからです。今までだったら「お客様」として通っていたネイルサロンにも「ここでも、働こうと思えば働ける」という見方に変わるでしょう。求人情報なども、今までスルーしていた情報がよく目に止まるようになるはずです。
目標を見直すためには、やはり「世間一般の情報」にもある程度触れることです。たとえば今、東南アジアを中心に、日本人の美容師が次々海外に出ています。東南アジアで裕福な人が増えるにつれて、レベルの高い日本人美容師のニーズが上がっているからです。
日本人の技術は高く評価されていますが、国ごとに求められるスタイリングが違うのは確かです。全体の傾向として、日本では「さりげないオシャレ」が好まれ、海外では「はっきりわかるオシャレ」が好まれます。つまり、もし将来的に海外に出ることになったら、日本のサロンで磨いた「さりげないスタイリングの技術」は、通用しなくなる可能性もあります。あるいは、通用するにしても「細かい違いを追求するより、英語や第二外国語などを習得した方がいい」という可能性もあるでしょう。
このように、一度設定した目標が「もしかしたら、変更すべきものかもしれない」ということは、いつも考えておく必要があります。これは「迷い」と似ていますが、迷いとの違いは「ただ考えているだけか、冷静に情報を集めているか」ということです。「何となく違うのではないか」と思ったのではなく、海外などの情報を集めた上で「違うかもしれない」と思ったなら、それは正しい疑念です。さらに国内外の調査や、他分野で成功した人の話などを聴き、「やっぱり方針を転換すべきだ」という結論になることもあるでしょうし、逆に「転換する必要はない」という結論になることもあるでしょう。
最終的には、美容師としての目標の設定は、「何のために生きるのか」というところに行き着きます。これはスポーツ選手などもそうですが、何かの道で秀でた人は、大抵哲学者のように人生について深く考えているものです。美容師の世界にもそうした人は多くいるので、そのような人の近くで働くことは、非常にいい刺激になるでしょう。