勤めていたサロンが倒産。その悪夢を乗り越えたからこそ誕生した人気サロン Sui代表 冬木慎一さん #1

サロンを立ち上げるだけでも大変ですが、経営を継続させるのはさらに難しいこと。いくつもの困難に打ち勝ち、人気サロンの座を保ち続けているサロンの代表に、その秘訣を伺います。今回ご紹介するのは、2015年表参道にSuiをオープンした冬木さん。‘21年には店舗を拡張し、オリジナルのホームケアシリーズも手がけるほど業績は好調です。前編ではSuiを立ち上げたいきさつや、サロンの経営が軌道に乗るまでのお話をご紹介します。

お話を伺ったのは…

Sui 代表 冬木慎一さん


2002年に高津理美容専門学校を卒業後、都内の大手サロンに入社。そこで順調にキャリアを形成して店長、アートディレクターを歴任。2015年サロンの倒産により退社し、同年表参道にSuiを立ち上げる。現在はサロンワークのかたわら撮影の現場でヘアメイクを担当したり、美容師外部講師として講義をするなど、美容業全般に携わって人の美しさを探究している。

「潰れるわけがない」と信じていたサロンが倒産

サロンワークのほか、雑誌の撮影でも引っ張りだこになったのはこの頃から。

──在籍していたサロンの経営が思わしくない、と感じたのはいつぐらいですか?

本店以外にもいくつか支店があったのですが、どんどん縮小されて1店舗だけ残った頃でしょうか。このサロンの代表を含め幹部たちは、美容業界に影響力のある方たちだったので、「今は業績が悪くても、絶対にまた盛り返すに違いない」と信じていました。サロンに督促状が届くようになって、初めて「これはダメだ!」と腹をくくりました。

──腹をくくってからはどうしましたか?

店に残っているスタイリストやアシスタントのリクルートです。スタッフがどんどんいなくなるなか、来店なさったお客様のスタイリングはもちろん、撮影の依頼があればヘアメイクもこなしていました。最盛期には200人を超えるスタッフが在籍していましたが、最終的に残ったのが6人。彼らは僕に「ついていきたい」と言ってくれたので、ではサロンを立ち上げよう…ということになりました。

僕が前のサロンで過ごしたのが14年。残ってくれたスタッフは10年目、8年目、6年目のキャリアがありました。彼らが成長するのをずっと見てきて、これからも一緒に成長していけたら…という想いもありました。

──冬木さんのようにキャリアのある方なら、いろいろなサロンからオファーがあったのでは?

確かに美容業界の方から「一緒に出店しないか」という話もありました。ただ、僕についてきてくれるスタッフがいるのに、その気持ちを無視して他の人と共同経営をするのは「本意ではない」と考えてお断りしました。

そう決意したものの、一から店舗を経営するのは初めてのことなので、専門書を読みあさって必死に勉強しました。美容師として働くことと経営をすることはまったく違うことなので、勉強は必要です。僕は何かを知りたいときに本で学ぶことが多いのですが、京セラ、第二電電の創設者、稲盛和夫さんが書いた『生きる』やジョルジオ・アルマーニさんの自伝はとても参考になりました。特にアルマーニさんはデザイナーと経営者の2つをこなして成功した人。自分にも通じることが多かったですね。

──新しいサロンの準備はいつくらいから始めましたか?

前に勤めていたサロンが閉店する半年ほど前からです。お客様には「店を閉じる」という話はせず、「独立するので、今度は新しい店にいらしてください」と伝えました。通常であればスタイリストが独立するとき、顧客を奪うことになるので新しい店の話はできません。このときは店が無くなってしまうので、大っぴらに告知できたのも幸いしました(笑)。

──このいちばん大変な時期、ご家族の反応はいかがでしたか?

実は妻が妊娠していて、間もなく出産…という時期でした。初めての出産ですから、ただでさえ不安でいっぱいなのに夫の仕事が無くなるのですからストレスは大きかったと思います。それなのに、「あなたなら何とかできるでしょう。頑張ってきなさい!」と励ましてくれました。

順風満帆のはずが、アシスタント6人が退職

オープン時には数え切れないほどお祝いの花が。冬木さんを慕って6人のスタッフが集結。

──前のサロンが倒産となると、給料も支払われなかったのでは? その中でサロンをオープンするとなると資金繰りが大変だったのではありませんか?

僕を含め最後に残っていたスタッフにも未払い分の給料がかなりありましたが、もう諦めるしかなかったですね。初期費用にかなり資金が必要だったので、銀行に融資してもらいました。融資してもらうには、僕という人間をどれだけ信頼してもらえるかがカギになります。美容師という仕事を続けるうえで、信頼関係が何よりも大切。銀行との関係も、実は数字だけではなく融資の担当者と僕の間に信頼感がないと成り立たないのだと実感しました。

──オープンしたのは現在の表参道ですか?

ビルの1階に5席のサロンをつくりました。資金的にもスタッフにも負担にならない、ちょうどいい規模でした。3年ほど経ったころでしょうか。お客様も着実に増えて「ちょっと手狭になったな」と感じていたら、運のいいことにSuiが入っている同じビルの3Fが空いたのです。そこで1Fと3Fを借りて、店を拡張することにしました。

──ずっと問題もなく業績は伸びていったのですか?

いいことは長く続かないものですね(笑)。オープンから4年経ったころ、アシスタント6人が辞める事件が起きました。知り合いのサロンから「アシスタントが定着しない」とか「アシスタントがすぐ辞めてしまう」という話を聞いていて、「うちは3年経っても辞めないし、順調に育っている」と思っていた矢先でした。今まで6人のアシスタントがこなしていた仕事を残ったスタッフに振り分けなくてはならず、本当に死ぬかと思いました(笑)。結局、最後に残ったのは元からいた6人と入ったばかりのスタッフでした。

──原因は何だったのでしょうか?

最初にアシスタントの一人が「自分は海外で仕事をしたい」と言って辞表を出したのを機にその空気感が他のアシスタントに伝わり「、半年の間に残りの5人のアシスタントが辞めていきました。お客様が増えて仕事量が多くなったうえに、アシスタントの仕事もやらなければならない。みんなが歯を食いしばって仕事をこなしている姿を見て、「自分もリーダーとして売上をつくっていかなくては!」と奮い立ちました。
そうは言っても、自分が売上を上げても他の技術者に売上を立たせなければ意味がありません。そこで、僕の予約を減らして他の技術者のヘルプに回るようにしました。1年半は僕の立ち位置を変えて、アシストもできるように働きました。

──この件から冬木さんの中で変わったことはありますか?

もともと技術力のある人よりは人柄のよさで採用を決めていました。この一件からは、人柄がよくてさらに美容の好きな人を選ぶことにしました。美容が好きな人たちが集まっているサロンが僕の理想です。せっかく美容師の資格を取っても、辞めてしまう人が多いのがこの業界です。僕は歳を取ってもずっと続けていける人材を育てたいと思っています。面接でも「美容が好きか」、「やり抜こうと思っているか」。この気持ちを確認するようになりました。
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起業するために心がけたい3つのポイント

1.手本となる人物を見つけて、その考えや実績を学ぶ

2.対人関係では「信頼」を何よりも重んじて裏切らないこと

3.人に求めるだけでなく、自分から率先して動くこと

最後まで倒産した店舗に残って、スタッフのために働いた冬木さん。「一緒に仕事がしたい」というスタッフが6人もいたのは、冬木さんの責任感と人間力に惹かれてのことでしょう。立て続けに6人のアシスタントが辞めたとき、元々のスタッフが歯を食いしばって仕事を続けたのも、率先して現場を仕切る代表の姿があったからだと推察できます。

後編では、これからSuiをどのように発展させていくのか、そのために心がけていることなどを伺います。

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Salon Data

Sui 表参道本店
住所/東京都渋谷区神宮前4-1-20神宮前フォレストビル3F
TEL:03-6455-5802

東京店
住所:東京都渋谷区神宮前4-1-20神宮前フォレストビル1F
電話:03-6812-9712
URL:https://sui-beauty.net/salon/tokyo

奈良店
住所:奈良県生駒市小瀬町100-1
電話:0743-61-5616
URL:https://sui-beauty.net/salon/nara

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