【理美容業界の動向】独立よりもフリーランスがおいしい?美容室でも広がる働き方改革
ここ数年人材不足がささやかれている理美容業界ですが、即戦力となる中堅以上のスタイリストの不足が特に問題視されています。このレベルのスタイリストであれば、お客様への施術はもちろんのこと、新人の技術指導や教育も担当する立場です。
新卒の美容師・理容師も一時期は低迷期がありましたが、現在は徐々に回復傾向にあり、人材不足そのものは解消されつつあります。
しかしながら、即戦力の人材が不足してしまうことにより、お店の回転率も下がり、新卒スタッフへの教育も手が回らない状況になってしまいます。新人教育がうまくいかないと新卒スタッフの離職率悪化にもつながり、将来的な若い世代への引継ぎも難しくなってくるのです。
「即戦力の人材をなんとか確保したい」それは各店舗共通の課題であり、中堅クラスのスタイリストの採用と在り方を今一度考える必要があります。
そこに一石を投じたのが、フリーランスという新しい働き方です。
美容業界の雇用状況や現状抱える課題について、船井総合研究所で美容室のコンサルタントを務める、富成将矢(とみなりまさや)さんにお話を伺ってきました。
美容業界にも働き方改革の波、増加するフリーランス美容師
2019年4月に働き方改革関連法案※が一部施行され、労働時間法制の見直しや雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保の実施が各企業に求められることになりました。
今までは一部の上場企業で指摘されていた過労問題や、社員と非正規社員の待遇格差の問題が、中小企業にとっても大きな経営課題としてクローズアップされています。
※働き方改革とは
「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面している中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。
「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。(厚生労働省説明文より抜粋)
美容師は30歳の平均年収が額面で300万を割ってしまうとも言われており、勤務時間や休みの面を考慮しても、他業種と比べ決して好待遇とは言えません。
今までは稼げる美容師になるためには、コンテストやショーで優秀な成績を収めるか、人気サロンで実績を積むか、地道に顧客を増やし独立するかのいずれかのパターンしかありませんでした。しかし、最近そのワークスタイルに変化がでてきています。
年々増加するフリーランス美容師の割合
先述した働き方改革ですが、美容業界にも昨年から影響が出始めています。
取材でお伺いした船井総研の富成さんも、フリーランス美容師の増加が美容院に与える影響は大きく、今後の動向を非常に注目しているとのことです。
フリーランスの美容師の数は昨年のデータで全体の約16%、これは決して少ない数字ではありません。リジョブでの美容師応募の割合としても、正社員の割合が40%、パートが40%、業務委託(フリーランス)が20%程度あり、今までよりも社員という働き方にとらわれない美容師が増えてきました。
これはライフスタイルをより自由に、より効率よくお金を稼ぐというニーズが顕著に表れていると言えます。採用側の立ち位置で見ると、このフリーランスの枠を除いて募集をした場合、約20%応募が減ってしまうということになり、フリーランスの人材雇用は企業サイドから見ても看過できない問題となってきました。
フリーランスの稼ぎ方 面貸し・業務委託の仕組みを解説
それでは、実際フリーランスというのはどのような働き方なのでしょうか。
理美容業界では、以前から良く聞く【面貸し】というシステムと、【業務委託契約】のシステム、フリーランスの働き方については大きく分けるとこの2つに分かれます。
面貸しとは
その名の通り、美容院のセット面を借りるというスタイルです。セット面の鏡から、ミラーレンタルという呼び名もあります。
通常場所を借りる場合、家賃が必要となることがほとんどですが、この面貸しのシステムの場合は、家賃という形で時間でのスペース料をとる場合と、お客様から頂いた売上のうち規定の%分を店舗に納める形をとることがあります。
美容院自体は退職したものの、時間がある時だけ面貸しで指名客の対応をする美容師もいます。また、最近では1席ではなく、店舗丸々を貸すサロン貸しというシステムもちらほらでてきています。
この場合、スタッフとしてではなく、自分がオーナーとして独立に近い形でサロンを借りることも可能になってきました。大手の美容院であればフランチャイズ制度でのれん分け独立を支援している会社もあります。
そういった制度がないサロンに勤務していて、独立の夢が捨てきれないという人には、初期投資がかからない分、独立へのとっかかりとしては低いハードルで挑むことができます。
業務委託とは
基本的には面貸しと非常に似ており、法的にみるとどちらも個人事業主としてのお仕事になります。面貸しはスペース提供に重きを置いているのに対し、業務委託は業務委託契約という形で正社員同様に契約書を交わし、その店舗の労働力としてカウントされることが多いです。
面貸し同様に完全な歩合で契約するケースもあれば、最低賃金保障+歩合という形で契約を結ぶケースや、新規の指名なしのお客様が来店した場合にお客様を振ってくれるケースもあり、美容院によって条件面はかなり変わってきます。
条件次第ではたくさんの固定客を持っていなくても、働きながら徐々に顧客を増やしていくということが可能になります。
特に、トータルの勤務時間によって%の条件を変えているケースが多いようですので、勤務時間が月トータルでパート以下の勤務時間になる場合には、あまり有利な条件交渉ができない場合もあるので面貸しと比較しながら検討する方が良いと言えます。
フリーランスのメリットとデメリット
フリーランスで働く場合、最大のメリットは自由が手に入ることです。時間労働に対しての対価ではなくなるため、月に働く時間と稼ぐお金の枠がなくなるからです。
ライフワークバランスに合わせての働き方ができる点も非常に魅力でしょう。特に女性の場合、結婚や出産でライフスタイルが大きく変わってしまうため、今まで通りの働き方だと継続が難しいケースが多いです。
とはいえ、産休・育休制度を整備している美容院は決して多いとは言えないので、業務委託という働き方を選ぶことで、仕事を続けるという選択肢が出てきます。特に美容師のような技術職はブランクが空いてしまうと戻るのが難しいケースも多く、ブランクを作らないという点でも賢い選択だと言えます。
また、基本的にはお客様を最初から最後まで全て担当できるので、一人一人の顧客とじっくりコミュニケーションをとりたいという美容師にも向いているでしょう。逆にデメリットとしては、しっかり稼ぎたい場合どの程度の収入が欲しいかを前提にある程度指名客を持っておく必要があるということです。顧客数で不安のある方の場合、逆に安定した収入が入ってこなくなるので生活に不安が生じてストレスになる場合もあります。
また、フリーランスは技術面で独立できるレベルのスキルを持っているという前提での契約になるので、そもそもスキルが不十分な場合は、技術面でのスキルアップが最優先と言えます。
あとは個人事業主になると、経理の処理や確定申告も自分でやる必要があるので、その点も時間が割かれるというのは覚えておかなくてはいけません。無料の会計ソフトなどを使ってうまく低コストでやりとりしている美容師さんが多いようです。
船井総研の富成さんは、フリーランスで働きたい場合、その特性にあったエリアであるかはまず判断が必要だとおっしゃっています。
そのため、フリーランスの募集は首都圏や政令指定都市のように、ある程度美容院の数も美容師の数も多いエリアであるということが前提です。郊外の場合はパート募集での採用やフランチャイズ店舗など後ろ盾のある独立制度を活用する方が賢い場合もあります。
郊外でフリーランスの勤務を希望する場合、自分の働きたい条件とマッチしている美容院があるのか一度調べてみたほうがいいでしょう。
パートナーとなる美容院の選び方
先述したように、フリーランスは業務委託契約となるため、自分がどのような働き方を想定しているのかを明確にすることが必要になります。抱える指名客数が多い美容師の場合、単純に月に何人くるかを逆算し、フリーランスのバックアップ体制が強いサロンの方が有利な条件で働けます。
プライベートとの両立を図りたい美容師の場合は、勤務時間の縛りが厳しくないサロンや育児中のワーキングママ歓迎の美容院の方がライフワークバランスがとりやすくおすすめです。
例えば、最初から業務委託の制度をとっているサロンは、若い世代の収入に対してのモチベーションも高いため、非常にスピード感ある広がりを見せています。一方で、中途での面貸しや業務委託を積極的に進めているサロンも業績が伸びてきています。
どちらにも共通して言えるのが、独立支援制度や経理面でのサポート体制もしっかりしており、独立したいけれど不安があるという美容師をうまく後押しする仕組み作りをされている点です。フリーランス美容師が増えるにあたり、このような経営体制のサロンは今後も伸びしろが注目できると言えるでしょう。
単純に利益の%を見るだけでなく、どのようなサポートが受けられるかもしっかりとチェックしておくと、経営のノウハウも学べて一石二鳥と言えそうです。
サロンによっては、手数料を高く納める代わりに備品や薬剤類も全て使用OKだったり、逆に全て持ち込みにすること条件で高待遇になるところもあります。オーガニック薬剤やイルミナカラーなど、自分がこだわった商材を使っている場合、持ち込みなども確認しておくポイントになります。
年配女性客の囲い込みができれば40歳定年説も払拭できる
※出典元:ホットペッパービューティーアカデミー
美容師の場合、収入面だけでなく肉体的な負担や抱える客層も考慮する必要があります。特に男性の美容師については40歳定年説が囁かれており、いかにハッピーリタイアするのかという点は美容師共通の課題となっています。
と、船井総研の富成さんは分析しています。
その背景としては、40代を越えてくると白髪染めなどの需要が増えることや、髪を短くしてヘアスタイルをこまめに維持する方も増えるため、若い頃よりも美容院の頻度が上がることが考えられます。白髪については、昨年のリクルートライフスタイルの白髪に関する意識調査で興味深い結果がでています。
まず白髪に対するイメージですが、以前よりもネガティブなイメージは減っているものの、男性から女性の白髪のイメージはほぼ全員が疲労感や老化を感じさせるマイナス要素と感じています。それに対し、女性から男性の白髪に対しては半数ほどは老化を感じるものの、残りの半数は落ち着きやかっこよさを感じていることがわかりました。
そういった世間的なイメージもあり、男性は全体の約3割、女性は8割弱が白髪染めを実施するという結果が見られました。女性は40代以降年代が高くなるほど実施率が高まっています。そして、男性は7割近くが家で白髪染めをするのに対し、女性は約6割がサロンでの白髪染めを行っています。その点も美容院の通う頻度や単価が変わってくる部分でしょう。
男女の見解の違いが美容院通いへの頻度を変えているといえる面白い結果です。また、男性の場合は理容院という選択肢もあるので、その点でも年齢を重ねた際に顧客離れが起こる可能性もあります。
店舗勤めの場合は、ある程度その店舗の立地やターゲット層で客層が決まってしまいますが、フリーランスの場合は自分の希望する客層を囲い込むことも可能になります。例えば店舗勤務ではかかっていた指名料がかからなくなるなど、顧客側も料金や立地でデメリットがなければフリーランスであってもついてきてくれる可能性は高いでしょう。
年配になっても長く来てくれそうなお客様を育てていくのも、フリーランスのやりがいと言えます。もちろん技術力は前提となりますが、トレンドだけでなく年配向けの技術を磨くというのも頭に入れて仕事をしていくと、自分の体力が落ちてきた際にも必要なだけの顧客を抱えながら仕事がやりくりできるようになります。
独立と違って店舗を持たない分小回りが利き、将来的にやめる際にも店舗の後継問題なども起こらないため、シフトチェンジしやすいのがフリーランスの魅力です。
重要なのは、フリーランスになることで何を得たいのか
フリーランスはただ単にもっと収入を増やすためのもの、自由な働き方を得るものという認識がありますが、自由になるということは自分の責任が増えるということでもあります。責任がプレッシャーになりストレスがかかっては元も子もありませんので、どうしたいのかという自分の理想の働き方を一度見つめてみる必要があります。
例えば、業務委託だと介護施設や病院などへの出張カットとしての働き方もあり、フリーランスという選択肢は通常のサロン勤務ではできなかったことも経験できる可能性があります。働き方改革の波を受けて、これからの時代は確実に雇用から、個々の働き方に変わっていきます。正社員が一番安心なポジションで稼げるという時代は終わりつつあります。
これからは、雇用という枠に捉われないフリーランス美容師という人材が活躍する時代がくるでしょう。
出典元:
厚生労働省WEBサイト
リクルートライフスタイル「白髪に関する意識調査2018」
Profile
富成将矢さん Masaya Tominari
1991年生まれ。立命館大学卒業後、船井総合研究所入社。美容室の業績アップを得意としており、売上2000万円の美容室から、県内No.1美容室まで、規模に応じた経営戦略を組み立てながら、業績アップに必要なものを的確に提案するスタイルが経営者から高く評価されている。業界内有名美容室もクライアントに多数抱える実力のあるコンサルタント。日本各地にクライアントを持ち、今日も全国を駆け巡っている。 「富が成る」美容室経営ブログ:http://www.funaisoken.me/m-tominari/ 美容室経営のことをもう少し聞きたいという方は、m-tominari@funaisoken.co.jpまで