排泄ケアの基礎知識


「始めは4本足、次は2本足、最後は3本足になる生き物は?」というなぞなぞ。小学生くらいの時にやりませんでした? 有名ななぞなぞなのでカンタンだと思いますが、答えは「人間」です。最初は赤ちゃんで“はいはい”だから4本足、次は立って歩くようになるので基本2本足、最後は高齢になって杖をつくので2本足+杖で3本足となるわけです。

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このなぞなぞのように3本足が最後になれば良いのですが、長年重い身体を支えてきた足は年々弱くなっていき、高齢者になると自分の足では歩けなくなってしまうこともあります。負担がかかっているのは足だけではありません。膀胱や内臓を支える骨盤底にも負担がかかり、年々衰えていきます。それにより、排泄障害(排尿や排便の障害)が起きてしまい、排泄ケアが必要になってくるのです。

■排泄ケアとは?

排泄障害は、トイレに行けない、トイレを使えない、トイレで排尿や排便ができない状態のことを言います。それらの原因は手すりを使ってもトイレへ移動することができなかったり、便座に座ることができないなどの運動機能障害によるものや、そもそも排尿や排便ができないという内蔵機能障害によるものの他、認知機能の障害によりトイレで排泄する習慣を失ってしまうなどという場合があります。

排泄ケアとはケアされる方の状態に適した排泄の介助を行うことを言います。一般的には、「トイレへの誘導支援」「ポータブルトイレへの移乗支援」「オムツや下着の交換」など排泄介助の他、「骨盤底筋訓練」や「膀胱訓練」など、自力で排泄する機能を回復し、自分らしい生活を得るためのリハビリ補助的な意味もあります。

■排泄ケアが必要になるきっかけ

上記のように高齢による機能障害や認知症状により、だんだんと排泄介助が必要になってくる場合もありますが、きっかけとしては事故や病気による入院が原因になることも多いようです。
事故や病気によって入院すると、医師は生命を救うための治療を優先的に行います。患者に安静が必要な場合は、便器に移動させずに紙おむつに排泄させることも仕方ないでしょう。
若い人の場合は、退院とともにおむつを外していけるケースがほとんどですが、高齢者の場合は治療が完了し退院できる状態にあってもおむつが外せないケースも少なくありません。退院後も排泄ケアが必要な状態であるなど、退院すると入院時に比べて要介護度が上がっている高齢者がほとんどなのです。

■排泄ケアのポイント

<人間の尊厳を大切にするケア>
加齢に伴う衰えにより、身体の様々な部分に様々な種類の機能障害が生じることはなんら不思議な流れではありません。しかし、実際に失禁してしまうようになると、本人の気持ちとしてはショックであり、そんな自分を認めたくないものです。高齢者は「失禁したことを知られたくない」という思いから、汚れた下着やおむつを隠したり、「おむつをするのは恥ずかしい」という思いから、おむつを拒否して外したり、介護者や家族に暴言を吐くこともあります。
介護者は高齢者のそういった思いを汲み取り、言葉のかけ方や対処方法に配慮し、自尊心を傷つけないように世話をする環境が大切なのです。

<失禁の種類>
排泄ケアが必要となる代表的な例である失禁、しかしこの失禁にはいくつかの種類があります。

名称 内容
機能性失禁 尿路機能障害以外の原因による尿失禁であり、身体的運動能力(ADL)の低下や痴呆が原因である失禁を言います。純粋な機能性尿失禁は少なく、他の種類の尿失禁を合併していることが多いようです。
腹圧性尿失禁 咳やくしゃみをした時、重い物を持ち上げたりした時などに、尿がモレてしまうタイプの尿失禁です。膀胱を支える筋肉、骨盤底筋群がゆるむことで膀胱が下がってしまったり、尿道を締める筋肉の働きが弱くなったりすることが原因で起こります。
切迫性尿失禁 年齢を重ねると便意や尿意を敏感に感じることができず、尿意を感じた時には既にトイレに間に合わず失禁してしまうのです。膀胱に尿が十分にたまるまでに、膀胱が勝手に収縮してしまい、尿がもれてしまいます。排尿の回数が少なくなり、1回の排尿量も少なくなります。
溢流性尿失禁 常に膀胱内に多量の残尿がある状態で、尿道から尿が溢れてしまうタイプの尿失禁です。前立腺肥大症などの尿道通過障害や膀胱の収縮障害による尿排出障害が原因です。
尿排出障害 膀胱にたまった尿を排出することの障害であり、尿の排出に“時間がかかる”、“尿に勢いがない”、“尿線が途中でとぎれる”などの症状があり、まったく尿を出すことができなくなる場合もあります(尿閉)。
残尿が多くなると溢流性尿失禁などを起こすこともあります。残尿が多かったり、尿閉を起こしたりした場合は泌尿器科専門医への受診が必要です。
排便障害 排便障害には、便秘・下痢・便失禁があります。疾患や加齢にともなう排便機能の低下も加わり、いろんな排便障害が同時に起こることもあります。
排便障害の原因は、結腸・直腸・肛門の異常に分類されます。腫瘍や炎症などの大腸の病気のみでなく、糖尿病・慢性腎不全・甲状腺機能亢進症、アレルギー疾患などの全身疾患によっても下痢や便秘が起こります。
十分な水分摂取、食事療法、規則正しい排便習慣の保持などに配慮しましょう。

尿失禁に対しての治療は、失禁のタイプによって使用される薬剤が異なります。

<排尿姿勢の工夫>
排尿の際、その姿勢によっては尿排出障害が改善される場合があります。ここではちょっとした工夫で排尿が改善された例を上げてみました。

立位に比べて座位の方が排尿しやすい場合がある(男性)

洋式トイレより和式トイレの方が排尿しやすい場合がある(女性)

男女問わず、寝ている状態より座っている状態の方が排尿しやすいことが多い

寝ている状態でも、仰向けより横向き、もしくはうつ伏せの方が排尿しやすい場合がある

■状態に合わせた用具

排尿の自立が得られない場合、または本人だけでなく介護者のQOL維持を考えた場合、おむつや排尿器具の使用がやむを得ないこともあります。おむつには様々な種類があり、目的に応じた製品を選ぶことができます。効果や吸収量以外にもパンツタイプのものや、尿とりパッドがついているものなどの機能がある製品もありますので、適切なものを選ぶことも排尿ケアのコツと言えます。
適切なおむつを選ぶことが難しい場合は、おむつなどの排泄用具や、医療や住環境、食事など幅広い視点からのアドバイスが可能な「おむつフィッター」に相談すると良いでしょう。

■排泄ケアに有益な資格

「認定看護師」という資格があり、その中でも排泄ケアに特化した分野があります。一般的には「皮膚・排泄ケア認定看護師」と呼ばれていますが、正式名称ではありません。
資格取得のためには「褥瘡などの創傷管理およびストーマ、失禁等の排泄管理」「患者・家族の自己管理およびセルフケア支援」などの勉強が必要となるので、仕事としての排泄ケアを学びたいという人は資格取得を目指してみてはいかがでしょうか。

■よくある質問・相談

ここでは、リジョブに寄せられているたくさんのご意見の中から、「排泄ケア」に関するよくあるご質問・ご相談に回答していきます。

Q1.グループホームで働いています。リハビリパンツの上からおむつカバーをする職員が数名いるのですが、それっておかしくないですか?

A1.通常、専門的な知識を持っている場合、リハビリパンツの上からオムツカバーをすることはあり得ません。ご利用者様としっかりアセスメントをしていないから統一した排泄ケアができないのでしょう。一度、上司に話してみることをオススメします。

Q2.「膀胱訓練」とはどのような訓練ですか?

A2.膀胱訓練とは、病院の治療でも取り入れている「膀胱のリハビリ」です。計画的に尿意を我慢するトレーニングにより、膀胱に溜まる尿の量を少しずつ増やし、トイレに行く回数を減らします。

Q3.利用者の排泄傾向を把握しておむつを交換することで、利用者にとってどのようなメリットがありますか?

A3.排泄パターンを把握して排泄介助を行うことで、汚れたパッドを装着している時間を短くすることができます。汚れたパッドで不快な状態の時間を少しでも短くし、オムツかぶれの予防にもなります。

Q4.排泄ケアの時はゴム手袋を装着しますか?

A4.ゴム手袋をしないと感染を起こすので、必ず装着します。手から患者に感染する場合もありますし、尿や便から介護者に感染する場合もあります。どちらの目線から見ても手袋は必ずしましょう。

■まとめ

排泄は羞恥心を伴う行為のため、排泄障害を起こすと、社会への参加意欲が低下したり、ひどい場合には、自分の存在価値を否定する状態になってしまいます。
自立した日常生活を送るためには、排泄コントロールはそれだけ大切なものなのです。そのため、排泄ケアは失敗すると、高齢者は尊厳のある生活を送ることができなくなってしまいます。
相手に対し、敬意を持ってケアをすることにより、高齢者の自尊心を傷つけないような介助を心掛けましょう。



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