「敬いと真心で地域社会から最も必要とされるサービスを創造する」。このビジョンを掲げているのが、世田谷区にある特別養護老人ホーム『千歳敬心苑』です。千歳敬心苑では、住み慣れた家を離れ、施設で暮らす利用者が、いつも元気に生活できるようにと、イベントやレクリエーションが活発に行われています。
今回は、この施設に入居している梅澤フミさん(81)と、職員育成を担当する介護士・山口晃弘さんに話を伺いました。山口さんの介護について、フミさんはどのように感じているのでしょうか?
山口さん(以下、敬称略) フミさんとは、まだ1年のお付き合いなんです。僕が、この施設に来たのが2016年の2月ですから、ちょうど1年くらいですね。
フミさん(以下、敬称略) 山口さんがいらした2016年の9月くらいから、「活き生きデイサービス」という料理をするイベントがはじまったんですよ。
フミ 1カ月に1回、私たち入居者が献立を決めて、施設の職員のみなさんに、スーパーに連れて行ってもらうんです。そこで材料を買い、料理をして、みんなで食べます。それを企画してくれたのが、山口さんです。
山口 始まった時期まで、覚えてくれていたんですね。フミさんは、もともとお元気な方ですが、「活き生きデイサービス」の活動では、さらにキラキラとされています。
フミ 最近では、「お好み焼き」を作りましたよ。
山口 「すき焼き」も作りましたよね。このイベントは100%アドリブ企画なんです。当日の朝、利用者のみなさんに、「お昼ごはんは何を食べたいですか?」とお伺いして、メニューを決めています。どんなリクエストがあるかわからないから、僕らの頼りは、いろいろなメニューが載っている「クックパッド」ですね(笑)。
山口 特別養護老人ホームでは、みんなで揃って、「いただきます」「ごちそうさま」と言ってご飯を食べることが、当たり前ではないんですね。そういった当たり前のことにチャレンジして、利用者のみなさんに楽しい毎日を過ごしてほしいと思いました。それに、ここではフミさんみたいに、お元気な方が少ないんです。どうしても介護度の高い方が多くなるので、ほんとうに心苦しいんですが、お元気な方に関わる時間が取りにくくなってしまいます。
フミ 外に置いてあるベンチも、実は私が作ったんですよ。統括主任の方と一緒に塗装もしました。
山口 フミさんは身体も元気で、「おばあちゃん」じゃなくて、まだ「おばちゃん」だからね(笑)。ですが、今こんなふうに元気な方も、加齢とともにどうしても身体は弱ってしまいます。それを黙って見ているだけなのは、やっぱり嫌だったんです。「身体の弱っている方の身の回りのお手伝いするだけが、僕らの仕事ではないだろう」と思って、「活き生きデイサービス」のイベントをはじめました。
フミ イベントも楽しいですよ。入居するまでは、料理をするのは当たり前でしたが、ここに来てからは料理する機会がありませんでした。けれど、また料理を作りだしたら、昔の感覚を思い出してきました。
山口 やっぱり人間って、使わない機能は衰えていくんですよね。他にも、フミさんが好きな演歌歌手のコンサートにも、みんなで行きました。
フミ うちわを作って、観に行きました。そのとき、ちょうど私と他の入居者さんの誕生日月だったので、職員さんがお祝いしてくださったんです。品川のプリンスホテルでビュッフェを食べて、サプライズでデコレーションケーキを用意してくれました。職員のみなさんは、ほんとうに親切にしてくださいますよ。
山口 フミさんが喜んでくれて良かったです。でもね、特別養護老人ホームにいるおばあちゃんで「サプライズ」っていう言葉を使う人は、フミさんぐらいだからね(笑)。
フミ 足腰に病気があったので、2013年に敬心苑のショートステイではじめて利用しました。2年前の3月31日、こちらの特別養護老人ホームに入居になりました。ここでは職員の方といろいろな会話ができて、うれしいです。とくに山口さんは毎朝必ず、朝ごはんを食べている食堂に来てくださいます。
山口 勤務時間前、僕は早めに出勤して、食堂にいる入居者さん全員に「おはようございます! 元気ですか!」と挨拶するようにしているんです。そうすると、少し元気のない方も、「はい、元気です!」ってシャキッとしてくれるんですよ。
フミ 山口さんみたいに、毎朝お声がけしてくれるのは、ありがたいことです。朝から元気になりますよ。
山口 なかなか名前を覚えてもらえないので、「おはようのお兄さん」とか呼ばれています(笑)。ですが、フミさんは「山口さん」と名前で呼んでくれるから、うれしいんです。
フミ 快適だし、楽しいですよ。何とか杖を使いながら、歩いてトイレも行けますし、自由に行動できますから。
山口 フミさんはお元気な方だけど、朝方とかは、足の痛みが辛いんだよね。
フミ 朝起きて、すぐはね。朝の4〜5時は、膝の痛みで目が覚めることもあるんです。
山口 そういうときは、リハビリやマッサージしてもらうと楽になりますもんね。
フミ リハビリは、専門の先生がいらっしゃるので、階段の昇り降りを86段ほど行っています。マッサージも朝一番で、30〜40分近くお願いしています。困ったとき、何かと介護士さんにお世話になっていることを、つくづく感じますね。山口さんが見守ってくれるから、「これからも大丈夫だ」と思っていますよ。
取材・文=流石香織
取材協力=特別養護老人ホーム「千歳敬心苑」
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