トレーナーの仕事は「人対人」。大切なのは生きてきた背景を知ること【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事 Vol.36 Wellness Sports 齊藤邦秀さん #2】
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。
前回に続き、パーソナルトレーナーとして活動する齊藤邦秀さんにインタビュー。前編ではパーソナルトレーニングの創成期を第一線で過ごした齊藤さんが、アスリートメインから個人への指導に注力するため「Wellness Sports」を立ち上げた経緯や、現在の活動内容についてお伺いしました。
中編となる今回は、齊藤さんが感じるスポーツトレーナーのお仕事の魅力についてインタビュー。トレーナ―育成にも力を入れているという齊藤さんに、トレーナーをお仕事にするためのアドバイスをお聞きします。
お話を伺ったのは…
「Wellness Sports」代表 齊藤邦秀さん
有限会社Wellness Sports代表取締役、Running Fitness Labo.代表、全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会(NESTA JAPAN)副代表、日本メディカルフィットネス研究会常任理事。運動・栄養・睡眠・ストレスマネジメントを統合させたウェルネスコーチングを掲げ、ウェルネスプロデューサーとして活動。フィットネス雑誌『Tarzan』連載やメディア出演、メディカルフィットネスプログラムの開発、企業の健康経営サポート、行政・学校へのセミナー講演、指導者人材育成など、一般個人やアスリートへのパーソナルトレーニングにとどまらず取り組んでいる。
お客様とトレーナーは1人の人間同士。
だからまずは「知ること」から
―齊藤さんが思う、スポーツトレーナーのお仕事の魅力を教えてください。
スポーツトレーナーは人対人の仕事。基本的にはトレーナーとお客様である前に、1人の人間同士であることが大切だと思います。だから「人のことを知る」ということが、すごく楽しいんですよね。
パーソナルトレーナーって、町医者みたいだなと思うんです。今まで生きてきた過程のなかで、何かに問題を感じているから僕のところに来る。もちろん医療行為はしませんが、健康や運動面に抱えている問題に対して、知恵を提供して応えられる。そこに、とてもやりがいを感じます。
―逆に大変だと感じることはありますか?
ありがたいことではあるんですが、次から次へと指名が重なると少し大変ですね。その人、その団体に合わせてプログラムを考えていくので、抱える人数が増えれば増えるほど仕事量も多くなっていきます。
もちろん自分でできるところはやりますが、仲間の力を借りることも多いです。1人では無理なところが出てきたら、育ててきたトレーナーや仲間と一緒に仕事をしています。助け合える仲間を作るという面でも、教育や指導、育成に関わるメリットは大きいと思います。
育てることで仲間が増えて、1人じゃできないこともできるようになる
―育成に力を入れるようになった理由は、そういった面が大きいですか?
そうですね。自分ひとりでお客様に提供できることは限られています。でも僕が育成したトレーナーが、現場でそれをやってくれたら、僕が直接しなくても広げていける。どんどん広めてくれたらなと思っています。
―トレーナー育成に関わる齊藤さんが考える、トレーナーに必要な素質とは?
まずは人が好きなこと。人を健康にするための仕事ですから、好きで興味が持てないと難しいですよね。
あとは、世の中のいろんな情報にアンテナを張れると良いと思います。スポーツ業界にもトレンドがあって、いろいろと外国から入ってきたりします。スポーツに限らず食事なども、健康にかかわるものは押さえておきたいですよね。基本的なことに限らず新しいものについても、お客様に聞かれた時きちんと答えられるように、ちゃんと知っておくことが大切です。
―トレーナーを目指す方にアドバイスをお願いします。
まずはベースとなる部分をきちんと勉強すること。僕が講師を務めている全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会(NESTA JAPAN)(パーソナルトレーナーの資格認定団体)では、知識、実技、ビジネスとしてのコミュニケーションについてなど、パーソナルトレーナーに必要なすべての要素のベースとなるカリキュラムが揃っています。そういったカリキュラムで土台をきちんと作っておくと、長く働くなかで安心材料になりますよね。
最初からトレーナーとして活動し始めてしまうのも、ひとつの手だとは思います。でも、けっこう後から勉強しに来る方も多いんです。コンテストに入賞してネームバリューが高くなり仕事が増えたけど、何も資格がないから不安になって勉強しに来た…という方もいました。きっといつかは必要になるし、必ず役立つ。それなら、そんな勉強から始めたほうがいいんじゃないかなと思います。
ひとつひとつの仕事が積み重なって続いていく。
それを忘れないこと
―齊藤さんがお仕事のなかで一番大切にしていることは何ですか?
個人でも組織でも同様に、どうなりたいのかというところを聞き出して、そこに対してどうしたら最大限お応えできるのかを考えることです。
そのためにしているのは、よくお話を聞くということですね。よく聞くのは、どんなことが好きで興味関心があるかということ。お客様が言葉にして語ってくれたことは、今この瞬間だけじゃなく今まで生きてきた過程を経ていると思うんです。だから、そのプロセスも知りたい。その人の背景を知ることで、提案できることも変わってきます。
―トレーナーのお仕事を成功させるための秘訣を教えてください。
まずは、ひとつひとつの仕事をしっかりとこなすことです。個人のお客様でも法人でも今ある仕事を確実にこなし、その上でお客様の満足度を普通より高いところまでもっていくことが大切だと思います。
そのためには、お客様が求めているレベルをある程度把握すること。「これでいいかな」と思うであろうところを見極め、もう少し上を行くようにレベルを設定していきます。
「自分で思っていたよりできた」という成功体験を作ることで、「この人と一緒だからできた」と思ってもらえる。それを継続していけば必ず仕事も続いていくはずです。
………………………………………………………………………………………………………………
パーソナルトレーナーとして20年以上活動し、いまだ仕事が途絶えない齊藤さん。個人から企業まで幅広いトレーニングを受け持っていますが、「することの基本は変わらない」と言います。案件の大きさに左右されないお仕事への姿勢が、多くの人に信頼される秘訣なのだと感じました。後編では、齊藤さんの実技にフォーカス。トレーニングでのこだわりについてお伺いします。
▽#3はこちら▽
「人生100年時代」も活躍できるトレーナーに必要なこととは【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事 Vol.36 Wellness Sports 齊藤邦秀さん #3】>>
取材・文/山本二季
撮影/片岡 祥