【今さら聞けない!? 介護のお仕事の基本vol.54】「生きていてもいいことない。死んだほうがまし」にどう返す?
介護の現場での困りごとを取り上げる当企画。今回は、グチや不満をこぼす利用者への対処法を取り上げます。
「生き続けるのが辛い」と度々話す利用者。どう対応すればいい?
数年前に妻を亡くしたKさん(90代)。介護サービスの助けを借りながら一人暮らしをしています。年々、身の回りのことにかまわなくなってきて、今では家の中が物であふれています。
最近、Kさんと話しているとよくこんな話になります。
Kさん:…もう生きているのがイヤなんだ。
介護職:どうしたんですか?
Kさん:身体のあちこちにもガタがきているしね…
介護職:具合悪いですか? どこか痛いところとかありますか?
Kさん:ここがってのがあるわけじゃないんだけどさ。生きていたって何もいいことなんかもうないんだからさ、死んだほうがましだよ。
この話になるたびに、「そんなこと言わないで! 元気出して長生きしてくださいね。」と励ましているのですが、あまりKさんには届いていないよう…。担当の介護職はどうしてあげればいいのか分からずに困っています。
お話を伺ったのは…
中浜 崇之さん
介護ラボしゅう 代表/株式会社Salud代表取締役/NPO法人 Ubdobe(医療福祉エンターテイメント) 理事/株式会社介護コネクション 執行役
1983年東京生まれ。ヘルパー2級を取得後、アルバイト先の特別養護老人ホームにて正規職員へ。約10年、特別養護老人ホームとデイサービスで勤務。その後、デイサービスや入居施設などの立ち上げから携わる。現在は、介護現場で勤務しながらNPO法人Ubdobe理事、株式会社介護コネクション執行役なども務める。2010年に「介護を文化へ」をテーマに『介護ラボしゅう』を立ち上げ、毎月の定例勉強会などを通じて、介護事業者のネットワーク作りに尽力している。
暗い気持ちで毎日を過ごすのは辛いですよね。では、どう対応すればKさんの気持ちや生活に寄り添えるのでしょうか。ポイントを押さえながら見ていきましょう。
ポイント1:「グチ」は「潜在的不安」が表面化したもの
人は誰しもが大小さまざまな寂しさや悩みを抱えながら生きています。同年代が逝去していく高齢者世代は特に寂しさや不安を抱きやすいでしょう。昔からの知人友人が減って話や相談をする相手がいなくなったり、Kさんのように最愛の伴侶を亡くしたりすることで、潜在的に誰もが感じている寂しさや不安が一気に表面化してしまうのも自然な流れなのではないでしょうか。言ったところでどうしようもないことをグチグチと口にしてしまうのは、この寂しさや不安の表れだと捉えましょう。
ポイント2:「励ます」よりも「寄り添う」気持ちで
前述のように、高齢者はさまざまな寂しさや不安を抱えながらも、日々を必死に生きています。きっと、同世代ではない人の想像を超える寂しさや不安感なのではないでしょうか。そんな人に対して、単なる励ましの言葉が響かないのは当然のことかもしれません。まずは、その不安に寄り添い、「あなたのことを心配している」「あなたは一人ではない」というメッセージを伝えることから始めましょう。
ポイント3:具体的な困りごとを聞いてあげる
Kさんの場合、「ばあさんが生きているときは何でも相談しながらやってきた」んだそう。「貧しいながらも楽しい我が家だった」と懐かしそうに話されます。今の生活でどんなことが大変だったり、辛かったりするのかを尋ねると、「お金の蓄えはほとんどないから、暮らしていくのが不安でね…」とのこと。金銭面の不安を一緒に抱えながら乗り越えてきたその伴侶が亡くなり、Kさんの中の金銭面へ不安が表面化しているのが分かります。詳細が分かればよりきめ細やかな介護体制を整えることも可能になります。そのためにも、悩みを聞く雰囲気づくりを大切にしましょう。
不安・グチに向き合う時の2つの心得
1.不安は期待の裏返し
2.不安を解決する答えは本人の心の中に
「不安」は、期待していることが「手に入らないのではないか」「手に入らなかったらどうしよう」というときの感情です。Kさんの場合も、積極的に死にたいわけではなく、金銭的不安が生きることへの不安となり「死んだほうがまし」という言葉へとつながっているのです。
不安を抱える人に対しては、「心配しなくても大丈夫」と声をかけるよりも、「不安なんですね」「何があなたを不安にするの?」と問いかけていくことが大切です。そうすることで、本人の中にある期待や願望に、問いかける介護職だけでなく本人も気がつくことができるからです。
こうして不安の種が明らかになれば、本人が「どうしたいのか」、介護チームとしては「どうサポートできるのか」を見据えて動くことができるようになるはずです。
監修・中浜さんの「実際にこんなことありました!」
「死んだほうがまし」という言葉はとても強い表現ですが、高齢者には少なからずこのような思いを抱いている方がいらっしゃるのが現実です。
私自身の介護職歴の中でも、「私は娘に迷惑かけているんじゃないか。いなくなった方がいいんじゃないか」とお話しされるデイサービスのご利用者様がいました。また、この方以外にも、「家族に迷惑をかけてしまっている」と感じている方に何人も出会ったことがあります。
その方々の共通点は何かと考えた時、「役割の喪失」があるのではないかと感じています。介護サービスを利用する高齢者は、良くも悪くも、家では座っているだけでご飯が出てきたりお風呂に入れたりする状態のことが多いでしょう。家族としては、「大変だろうから」という思いでやってあげているのかもしれませんが、高齢者からすると、【何もしなくて良い=いる必要がない】と感じてしまっているケースがあります。
なので私は、利用者の話を受け止めた上で、どんなに簡単なことでも良いので<何か役割を作る>ことが対策のひとつになると思っています。励ましなどの言葉をかけるよりも、関わりの中でその方がそこに居る意味を作ることで視点が変わっていくのだと感じています。これは介護サービスの提供場所が施設でもデイでも、ご自宅でも変わらないと思います。ぜひそういった関わりをしてみてくださいね。
参考:「こんなときにはどう言葉をかけたらいい? 介護の言葉かけタブー集」誠文堂新光社