島のために必要なことを続けた結果、地域コミュニティの場に【島のほけんしつ 蔵kura 島根輝美さん】#2
地方でヘルスケア事業に携わっている方に、集客や売り上げアップのための取り組みについてインタビューする本企画。前回に続き、島根県隠岐諸島の海士町にあるホリスティックケアルーム「島のほけんしつ 蔵kura」の島根輝美さんにお話をお聞きします。
後編では、島での様々な活動のなかで、売上アップや集客につながったことを教えていただきます。
お話を伺ったのは…
「島のほけんしつ 蔵kura」代表 島根輝美さん
会社員と併行して、アロマの認定協会にてインストラクター資格を取得し、中医アロマやクレイ、陰陽五行論などを学ぶ。2015年、島根県隠岐諸島海士町に移住し、地域おこし協力隊に参加。2016年、「島のほけんしつ 蔵kura」をオープン。現在は、解剖学に基づいたホリスティック(全人的)な見方でのオリジナルケアをベースに、精油の販売、カフェの運営を行っている。
島根輝美さんのInstagram:@ama.hokenshitsu.kura
「人が集う場」としての門戸を広げるカフェスペース
――前編でカフェのお話がありましたが、いつごろスタートされたんですか?
カフェを始めたのは、昨年の夏からです。開業してから自然と「島のほけんしつ」は、人が集うコミュニティスペースになっていました。ケアルームであり、アロマショップであり、フリースペースやコワーキングの要素もある。そういう場所にカフェ機能がないことが不自然に思えて、カフェもスタートしたんです。もともと島にはカフェというものがなく、求められていると感じたのもあります。
――カフェがあることで、よりコミュニティスペースとしての存在感が増したのかなと思います。そういった「人が集まる場」を作ることは、開業の段階でイメージされていましたか?
はい。「島のほけんしつ」を作るとき、とにかく人が集うところをイメージしていました。自然とみなさんが集まってきて、例えばお茶を飲みながらおしゃべりしている中で、「最近こういう症状に困ってるんだよね」なんて声を聞いて、それに何かしらアプローチをする。そういう場所を作りたいなと思っていました。
また、私がいる島は移住者がすごく多いのですが、都会から来た若い方たちが、全く違う文化、環境の中でしんどくなることもあるじゃないですか。そういった方たちにとって、いい意味で逃げ場所というのは必要だなと思っていたんです。つらくなったときに駆け込める保健室のような場所…そんなイメージでした。
――カフェを併設したことで、サロンの経営面でよかったことは?
カフェスペースを始めてから、地域の方たちもより足を運びやすくなったのかなと感じます。今までここで「島のほけんしつ」という看板を掲げていても、何をするところなのかわからないし、行ってみたいけど何て言って行けばいいかわからない…という地元の人たちが少なからずいました。でもカフェがあることで、少し入店のハードルが下がるじゃないですか。
「島のほけんしつ」は港から近いところにあるので、観光の方もカフェによくいらっしゃいますよ。そこからお土産に精油を買ってくれたり…ということもありますね。
地域の人々のために必要なメニューを提案し続ける
――移住時に、「地元の素材を使った商品開発」も活動として掲げていたとのことでした。プロダクトの評判はいかがですか?
そもそも商品開発はするつもりでしたが、セラピストとしての活動がメインなので、あまり大きな市場には出していません。ここで手に取っていただいて、私の説明を受けたうえで購入していただく。そんなかたちで販売しているんですが、結構気に入っていただけていると思います。購入される方は、ほとんどリピーターですね。
地域の方だけでなく、観光で来られてお土産に買って行かれた方から「すごくよかったので送ってください」と頼まれることもあります。
――様々な活動のなかで、売上アップのために取り入れたことはありますか?
売上のために商品を作ろうとか、施術メニューを作ろうということは考えたことがなくて、どちらかというと「こんなメニューが必要だな」「こんなものがあれば、あの人にもあの人にもいいよね」という感じで必要なものを作ってきました。それが結果的に喜ばれたり、すごく売れたりということが多いです。
最近作ったものだと、定期メンテナンスのケアプランが好評ですね。定期的なケアはずっと推奨してきたので、私と近しい関係の方だとご自分から予約を入れてくれるんです。でも、そうでない人は仕事や日常のいろんなことが優先になって、自分の体のことは後回しになりがちなんですよね。だから5回コースで通う頻度を決めて、料金を先払いしていただく定期ケアのプランを作ったんです。
毎月このあたりにケアをしていこうねというのを続けていくと、だんだん定期的なケアの大切さに気付いていただける。結果的に今は、定期ケアプランを受けられる方がすごく増えましたね。
――都会だと、コースの途中で来なくなる人も多いイメージですが…。
それは多分、セラピストやサロンとの信頼関係が築けていないからだと思うんですよね。施術中に定期的なケアの大切さや「自分の体のことだからね」という話はしますが、次回の予約を催促したりはしません。来店されたときに予約していくかの確認だけ。基本的に本人任せですが、みなさんちゃんと来てくださいますね。
お客さまは30代後半から上が多いので、何かしら体の変化を感じているんです。そこで「しっかり定期的にケアを受けていると調子がいい」ということに気づいたから、ちゃんと自分の体のために来店してくれているんだと思います。
拒否されない距離感で、実績を見てもらうことが集客に
――地方で集客を成功させるために大切なことは何だと思いますか?
誤解を生むかもしれませんが、「集客しよう」と思わないことが大切かもしれません。地方というか島の特性だと思いますが、アロマサロン自体が本当にここだけなので、ガツガツ集客しようとすると逆に引かれてしまうんです。だから本当にこれまで、宣伝や広告は出していません。SNSはしていますが、「こんなことをしますよ」という発信だけ。そういった投稿を見て来てくださるのは、島の外からいらっしゃった方が多いですね。
地域の方だと、基本はクチコミや紹介です。今では、ちょっと体調を崩したりメンタル面を含めて何か困りごとがあると、みなさんの中で合言葉のように「蔵に行ってきたら」と言っていただいているようなので、すごく嬉しいですね。
――拒否感を持たれなかったのが大きかったのかなと思うのですが、何か気をつけていたことはありますか?
活動するに当たって、仲間や理解者を増やすことは必要ですが、あまり圧しが強くならないようにはしていました。移住者が多い島なのでウェルカムな雰囲気はありますが、それでもやっぱり新しいことに対して一歩引いた感じもあるので。
だから、こちらから「私こんなことしているんです!」といくよりも、していることを遠巻きに見てもらう。そのうえで実績を積み重ねて、理解を得ていく…という風に関係を作っていけたのが良かったのかなと思います。
――今後、取り組みたいことはありますか?
ホリスティックケアを地域に少しは浸透させられたと思うので、今のあり方をベースに島の外にも出ていきたいなとは思っています。島外から訪れてくださる方たちがたくさんいるんですが、みなさんすごく疲弊してらっしゃるんですよね。すごくストレスを抱えていて、それで心のバランスを崩していたり、体にも出ていたり。
そういった都会の方たちに向けて、ここで積み上げてきたものを発信していけたらなと考えています。自分を大切にするってどういうことなのかを、たくさんの人に知って欲しい。そのためのケア方法などを、この場所を拠点にしながら伝えていけたらいいなと思っています。
――最後に、地方開業される方へのアドバイスをお願いします。
一番大切なのは、自分が楽しいのかだと思います。苦しいと続かないです。地方での開業は、もちろんそんなに簡単ではないと思うし、苦しいこともいっぱいあって当然。でもそこで自分が楽しむためのこともきちんと作って、バランスを取れるといいのかなと思います。
私の場合は、島でできた友達に、本当に恵まれました。その仲間たちと遊ぶ時間が、私にとって何よりのセラピーになっています。
そんな感じで無理せずに。地方でやっていくには、自分が元気でいることが大切なのかなと思います。
島での経験を経て、さらに活動の幅を広げようとしている島根さん。今後の活躍が楽しみですね!
取材・文/山本二季