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ヘルスケア 2023-06-16

絵本を通して心の交流を行う「絵本セラピスト®」の働き方とは?【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.101/絵本セラピスト®・竹下りこさん】#1

「ヘルスケア業界」のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロに、お仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。

今回お話を伺ったのは、絵本セラピスト・竹下りこさん。

「絵本=子どもの読み物」として思っている人も多いはず。しかし昨今、絵本は大人にも注目されていて、絵本を使った「絵本セラピー」が「絵本の力を借りた心の交流の場」として広まりつつあるそうです。

前編では、そんな絵本セラピストの竹下さんが、絵本セラピーに出会ったきっかけや現在の働き方などを伺います。

心も体も疲れ切っていたOL時代。
1冊の絵本と出会って、セラピストの道へ

――竹下さんが絵本セラピーに出会ったきっかけは、何だったんですか?

実は私、以前は金融関係の会社でOLをしていました。小さい頃から絵本が好きで、高校生の時には初めて稼いだアルバイト代で「ピーターラビット全集」を大人買いするような子だったのですが、OL生活を始めてそんな余裕は全くなくなり、心も体も疲れていました。

そんな時、たまたま立ち寄った本屋で出会ったのが1冊の絵本。そのタイトルは後ほどお伝えしますが、店先で読みながら涙が止まらなくなってしまったんです。大の大人が、絵本コーナーで、しかも立ち読みで(笑)。

ふだんの私なら、そんなところで泣くなんて恥ずかしいし、自分の気持ちを抑えてしまうほうなのですが、その時ばかりは周りの目が気にならないくらい泣けてしまって。でも、読み終える頃には、胸の辺りがふわっと温かくなっていて、心も体も疲れ切っていたはずなのに、足取り軽く帰宅できたのです。

それ以来、「大人にも絵本っていいな」と思うようになりました。ちょうどその頃、心理学にも興味があって学び始めていたので、絵本には心理的にも大人を癒す力があるのでは?と考えるようになりました

そこで「絵本」と「心理学」の2本のアンテナがピンと立ったわけです。「この経験を他の方にもお伝えしたい! 何かないだろうか」と探した結果、「絵本セラピスト協会」に出会い、絵本セラピストに。今では天職だと思っています。

絵本セラピーとは
絵本の力を借りて心の交流を行うこと

――そもそも絵本セラピーとは、どんなことをするのですか?

絵本セラピーとは何か、ひと言では説明しづらいのですが……。私なりの表現でお伝えしますと、絵本の力を借りて行う、大人のためのワークショップです。大人同士のふれあい、自分自身とのふれあい、心の交流が行われる場ですね。

――「大人同士」というのは、セラピストとセラピーを受ける側の人との?

それも一つですし、参加されている方同士のふれあいもあります。絵本セラピーは、基本的にグループワークのプログラムです。

絵本セラピストの具体的な活動の話をしますと、絵本セラピーの開催が決まると、セラピストは絵本セラピーの「プログラム」を作ります。まずは、目的・対象者に合わせてテーマを設定し、絵本を合わせてストーリーを組み立てるイメージです。

例えば、「あなたはあなたのままでいいのよ」とか、今の時期だったら「春だから新しいことにチャレンジしよう」だったり。心のテーマでもいいですし、タイムリーな社会的な出来事を取り入れたり、季節を感じるテーマでもいいです。

そしてそのテーマに沿って、取り上げる絵本を選びます。だいたい5冊程度。私の場合は1時間から1時間半ぐらいのプログラムが多いのでお話の長さによっては6~7冊になるときもあります。

プログラムでは、絵本を1冊読むごとに参加者のみなさんに質問を投げかけます。例えば春をテーマにした絵本を読んだら、「あなたにとって、春といえば?」とか。その回答を、紙に書き出していただき、一人一人話してもらうこともあれば、グループになって自由におしゃべりしてもらうこともあります。

そうやって、みなさんそれぞれの回答を分かち合っていただきます。もちろん正解も不正解もありません。「パス」もOKです。私はパスも一つの答えだと思いますし、参加者それぞれのペースを大切に進めていくことを心がけています。

そして最後に、今回のテーマで絵本セラピストが一番伝えたかった思いが詰まった絵本を読み、プログラムを終わります。最後の絵本ではメッセージをお伝えするだけで質問はしません。

――なるほど、この絵本を紹介したいから、「このテーマ」「この質問」ではなく、テーマや質問したい内容を先に考えてから、それにあった絵本を選ぶんですね。

そうですね。質問内容も、最初は答えやすいものから、だんだん深い部分を出していきます。

最初のうち、特に初めて参加された方は、少々緊張している方もいらっしゃいます。それでもみなさん回数を重ねるごとに少しずつリラックスしてきて、心がほぐれてくるようです。私はこれを「絵本の魔法」と言っています。

絵本は子どもにもわかりやすいように描かれていますし、何より絵が表現豊かで美しい作品がたくさんあります。これには、大人の心もをほぐしてくれる、素直にしてくれる力があるのだと思います。

――ちなみに「絵本セラピスト」になるには、どのような勉強をするのですか?

絵本セラピスト協会で行っている養成講座に参加します。現在ですと4日間で32時間の養成講座に参加して課題をクリアすれば「基礎 絵本セラピスト」という協会が認定した資格が得られます。

「基礎 絵本セラピスト」から「絵本セラピスト」になるには、その後認定試験を受ける必要があります。この試験では、4日間の養成講座で学んだ知識を実践し、実際に絵本セラピーのプログラムを披露します。参加者役として、先輩セラピストもお手伝いします。そこで合格をもらえれば、晴れて「絵本セラピスト」に認定されます。

絵本セラピーの開催だけでなく、
大人への絵本の普及や
未来のセラピストの応援も

――ちなみに「絵本セラピスト」の方は、全国にどれくらいいらっしゃるんですか?

現段階で1300名ぐらい。ただ、全員が頻繁に活動しているわけではないと思います。

私自身も、ふだんは書店員をしています。ここ(取材場所:こどもの本専門店ブックハウスカフェ〈東京・神保町〉)でも働いていて、休日で絵本セラピストをしている、という感じです。絵本セラピーは外部からご依頼をいただいての開催もありますが、基本的には自主開催が多いので、自分で企画して自分で運営しています。

ちなみに私の絵本セラピストとしての活動は、セラピー以外のものもあります。

・絵本セラピー®
・大人に絵本ひろめ隊® 隊長
・絵本セラピストのためのフォロー講座

私の絵本セラピストの活動は、上の3本の軸でできているんです。1つ目は先ほどお話しした、一般の参加者を募って開催する「絵本セラピー」ですね。

2つ目の「大人に絵本ひろめ隊」は、「大人に絵本を広めて世界を平和に」をスローガンにした、その名の通り、大人に絵本を広める活動です。私はそこで隊長を務めていて、「大人に絵本ひろめ隊 入門講座」を開いています。

そこでは、「なぜ大人に絵本なのか」というお話をして、「大人にも絵本っていいよね」ということを伝えているのですが、講座を受講した方には、絵本セラピスト協会から「大人に絵本ひろめ隊員証」を発行しています。

3つ目は「絵本セラピストのための講師力フォロー講座」。こちらでは、先ほどお伝えした「基礎絵本セラピスト」から「絵本セラピスト」になるための試験対策など、スキルアップ講座を担当しています。

2つ目の「大人に絵本ひろめ隊」の隊長と、3つ目の「絵本セラピスト フォロー講座」の講師は、協会代表から訓練を受けた絵本セラピストが担当しています。誇りを持ちつつ、大人への絵本の普及、共に進んでいける未来の絵本セラピストをサポートできるよう、一生懸命努めています。

後編では、「なぜ今大人に絵本が必要なのか」というお話や、未来の絵本セラピストに向けたアドバイスを伺います。

取材・文/児玉知子
撮影/喜多二三雄

 

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