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ヘルスケア 2023-06-20

多様化する働き方。レンタルサロンと個人サロンのメリット・デメリットとは?【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.102/柔道整復師・鍼灸師 山田暁子さん】#1

「ヘルスケア業界」のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロに、お仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。

今回お話を伺ったのは、柔道整復師・鍼灸師 山田暁子さん。

鍼灸接骨院や高齢者施設での勤務、レンタルサロンでの営業を経て、22年12月に東京・高円寺で「alba暁子鍼灸治療院」を開業された山田さん。
前編では、鍼灸師になったきっかけや現在の働き方、レンタルサロンと個人サロンの違いについてお話を伺います。

同じ資格を持っていても
働く現場はどんどん多様化

――柔道整復師、鍼灸師になったきっかけを教えてください。

実家が福岡で、接骨院を営んでいるんです。そのため自然な流れで「私も資格を取りたい」と思うようになりました。高校卒業後上京し、柔道整復師の専門学校へ。その学校は一部二部に分かれていて午前中のみの授業だったので、午後は接骨院で働いていました。

卒業後一度就職したのですが、母の勧めもあって鍼灸師の資格も取ることに。改めて学校に入り直し、2回目の卒業後は整形外科に就職しました。当時、整形外科に憧れていて一度働いてみたかったんです。「レントゲンとか見られるかな?」とワクワクしていたのですが、柔道整復師の資格だとリハビリ科の配属になるんですよね。残念ながら思っていた感じと違って、結局接骨院に出戻りました(笑)。

その後、結婚・出産。上の娘は今20歳なのですが、切迫流産からの早産で799gの未熟児で生まれたんです。しばらくは子育てに専念することとなり、現場から離れました。その後下の娘が生まれて、少し落ち着いたところで仕事を再開した、という感じです。

――子育てと仕事の両立は大変だったんじゃないですか?

大変でしたね。まず保育園になかなか入れない! なんとか入れて友人の鍼灸接骨院で働き始めても、子どもってすぐ風邪をもらってくるんですよ。そうなると今度は預けられない。1ヶ月に数日しか出勤できないことも多々あってなんだか居づらくなり、結果そこは辞めてしまいました

世間では女性進出と言われていますが、世の中全てがそうかというとやはりまだまだ……。それに子ども体調を崩した時、仕事を休んで看病するのはやっぱり母親。なかなかうまくいかず、一旦この業界から離れてカフェでアルバイトすることにしました。

でも、そのバイトがすごくよかったんです。バイト前夜に子どもが急に熱を出して「明日行けない!」となっても、大学生のバイトさんが「私が代わります」って言ってくれたり、夏休みは子どもが家にいるのでシフトに入れなくても、「私が入るので大丈夫です」って言ってくれたり。いろいろ助けてもらいました。

とはいえ「資格を活かした仕事がしたい」という気持ちもあり、4〜5年働いたあと40歳で再就職を決意。ハローワークにも通って「柔道整復師」の求人を探しました。ですが、そう甘くはなかった……。しばらく業界を離れていたというのも一つの理由ですが、どの治療院も若い先生が多いんです。いろいろ見学に行きましたがどこも馴染めそうになく、改めて探し直すことにしました。

その時目に飛び込んできたのが「機能訓練士」の求人。当時、柔道整復師が機能訓練士として働けるようになったばかりで、私はそのことを知らなかったんです。そこは認知症デイサービスを行っている高齢者施設だったのですが、見学に行って「ここなら!」と思い、務めることになりました。

――柔道整復師はそういう働き方もあるんですね。ちなみに機能訓練士というと理学療法士や作業療法士のイメージがありますが、「こう違う!」みたいなのはあるんですか?

もちろん仕事内容も異なりますが、大きな違いで言うと、柔道整復師は開業できます。でも、理学療法士や作業療法士はお医者さんの元でしか働けないので開業はできません

――なるほど。それは働き方に大きく影響しますね。ちなみに施設ではどのような仕事をなさっていたんですか?

認知症の人は人やものを忘れるだけでなく、「歩く」「食べる」などそれまで当たり前に行っていた行動も忘れていきます。すると筋肉がどんどん硬直してしまうので、運動訓練で可動域を広げるケアをしたり、マッサージをしたりするのが私たちの仕事です。

あと「レクリエーション」も行います。柔道整復師や鍼灸師でレクに立ち会ったことがある人は少ないんじゃないでしょうか。そもそも学校でも習いません。私自身人前で何かをすることに慣れていなかかったのもあり、最初はすごく戸惑いました。

あと「口腔体操」もそうですね。高齢者は誤嚥を防いだり、食べ物をしっかり噛んだりするためにも、食事前に口周りの筋肉をほぐしておく必要があるのですが、これも施設に勤めるようになって初めて知りました。

そう考えると現場で働かないとわからないことって、本当にたくさんあります。実は今でもその高齢者施設で週2〜3日働いているんですが、すごくいい経験ができていますよ。

レンタルサロンにも
メリット・デメリットがある

――ではその後、高齢者施設で働きながら鍼灸師としての仕事も始められたわけですね。最初はレンタルサロンで施術なさっていたとか。

もともと店舗を構えて開業する予定だったのですが、ちょうどコロナが流行ってしまって。先行き不安な状態が続き、まずはレンタルサロンでスタートすることにしたんです。レンタルサロンは会員になると、会費をさえ払えばあとは時間貸し。1時間の施術を行うとして前後30分ずつ抑えたとしても、2時間分の出費で済みます。開業したばかりの人にはメリットが大きいですね。

ただ、会員になるには面接があります。設備も会社によってさまざまで、個室ではなくパーテーションで仕切られただけのところもありました。煙が出るためお灸がNGのところも多いので、鍼灸師は要注意ですね。

私はたまたま、鍼灸接骨院を営んでいる方がプロデュースしたレンタルサロンを見つけることができたのでラッキーでした。ワンルームのお部屋で電動ベッドも備え付け。お灸もOKでしたし、すごく使いやすかったです。

――他にレンタルサロンで開業する際の注意点はありますか?

毎回荷物を運び入れないといけないので、道具が多い人は大変だと思います。あと「住所を公開しないでください」というところがほとんどなのと、毎回確実に場所が抑えられるわけじゃないのも集客面ではデメリットでしょう。「いくつか契約しておいて空いているところで施術する」という人もいますが、どちらにしても住所が公開できないので、大っぴらに宣伝するのは難しいんです。すでについているお客さまやファンが少ない人にとっては、厳しいかも知れません。

ちなみに私はそのレンタルサロンの他に、高齢者施設で一緒に働いているスタッフのご自宅もお借りしていました。音楽スタジオも経営している大きなお家だったので間借りさせていただいたんです。施設の近所なので今でもスタッフ仲間の施術のみそこで行っています。

――先ほどお客さまやファンのお話もありましたが、当初はどうやって営業されたんですか?

開業を決めた時スタッフ仲間に練習台として協力してもらったのですが、彼女たちがそのままお客さまになり、その紹介で少しずつ増えていきました。

――なるほど。そして、22年12月に今のこの治療院を開業された、と。

はい。最初は店舗、いわゆるテナントを探していたのですが、やはり初期費用がネックで貸事務所を探すことに。ただ、貸事務所は「従業員が出入りする分にはいいけど、お客さま(不特定多数の人)が出入りするのはNG」というところが多く、何度も断られてやっとここに巡り会えました。

ちなみにこのマンションは空き物件が2つあったのですが、1つは断られたんです。その物件のオーナーによっても判断が変わってくるので、これから探す方はそういったところもチェックしてみるといいと思いますよ。

レンタルサロンを卒業し、住所や予約の空き状況をきちんと公開できるようになったら、以前より早いスピードで新規のお客さまも増えていきました。やはり「誰がどこでどういう施術をする」というちゃんとした情報を紹介できた方が、お客さまも安心して来られるんでしょうね。

住所を公開できるようになったことで、口コミサイトへの掲載も始めたのですが、これもすごく効果的だったと思います。サイトによると思いますが、私が登録しているサイトは開業パックというのがあって、3ヶ月間のサポートがセットになっていました。集客のコンサルをしてくれて、ホームページ作りについても「最近はみんなスマホで検索するので、スマホの文字列に合わせて作るといいですよ」など、アドバイスをしてくれたんです。すごく助かりました。

――上手にプロの手を借りることも、大切なのかもしれませんね。

ちなみにこの治療院は自宅から近いので、営業後すぐに帰宅できるのもいいところ。子どももずいぶん大きくなったとはいえ、下の娘はまだ中学生です。子どもをもつ母親としては場所選びも大きなポイントでした。

お客さまの緊張をほぐし、
心も体もリラックスできる治療院に

――治療院のコンセプトや施術時に大切にしていることを教えてください。

ここに来てくださるお客さまは「初めて鍼灸の施術を受ける」という人が多いんです。そもそも一般的なマッサージですら初回は少なからず緊張しますから、鍼はなおさら。いつ鍼を打ったかわからない感じで世間話をしながら施術するようにしていますが、部屋の内装自体も治療院っぽさをなくしました

具体的には、木材をたくさん使って観葉植物を多めに配置しています。リラクゼーションサロンやプライベートサロンにいるような気持ちで過ごしてもらえると嬉しいですね。ここは小児鍼もやっていて、お子さま連れのお母さまも多くいらっしゃるので、娘が昔使っていたおままごとセットを置いたり、3点ユニットバスの使っていないお風呂の上を植物と人形で飾り付けしたり。お子さまも楽しく通ってくれて、好評なんですよ。

――基本的には女性限定とのことですが、お客さまの年齢層は?

意外と20代の方が多く、なかには「『ここが悪い』とはっきりわからないけど、なんだか不調。鍼灸がいいって聞いて来ました」という人もいらっしゃいます。そういう時は、脈診、腹診、舌診、体全体を診て「今こういう感じだから、こういう風に元気になったらいいね」と伝えてから、治療を行います。

正直、肩こりが気になって来院されても、脚や腰に原因があることも多いんです。そもそも鍼灸は東洋医学なので対処療法ではありません。お客さまに合わせて、体全体のバランスを診ながら治療を行うようにしています。

20代の他には、更年期が気になり始めた40代、足腰に痛みが出てきた60代の方も多くいらっしゃいますね。男性も紹介に限りお受けしていますので、ご夫婦で通ってらっしゃる方もいます。


後編では、最近インスタでも話題になっているお灸について、未来の柔道整復師や鍼灸師に向けたアドバイスを伺います。

取材・文/児玉知子
撮影/喜多二三雄

information

alba暁子鍼灸治療院
住所:東京都杉並区高円寺南4-7-3 サンシャイン高円寺804
Instagramアカウント
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