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ヘルスケア 2023-06-17

「大人に絵本ひろめ隊®」隊長が語る、なぜ今、大人に絵本が必要なのか?【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.101/絵本セラピスト®・竹下りこさん】#2

「ヘルスケア業界」のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロに、お仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。

今回お話を伺ったのは、絵本セラピスト・竹下りこさん。

「絵本=子どもの読み物」として思っている人も多いはず。しかし昨今、絵本は大人にも注目されていて、絵本を使った「絵本セラピー」が「絵本の力を借りた心の交流の場」として広まりつつあるそうです。

前編では、そんな絵本セラピストの竹下さんが、絵本セラピーに出会ったきっかけや現在の働き方などを伺いました。後編では、「なぜ今大人に絵本が必要なのか」というお話や、未来の絵本セラピストに向けたアドバイスを伺います。

子どもにとっての絵本、大人にとっての絵本、
同じ絵本でも読み方が全く違う!

――先ほど「大人に絵本ひろめ隊」のお話にもありましたが、「なぜ今大人に絵本なのか」ということについて、竹下さんご自身はどのように考えていらっしゃいますか?

私が思うに、最近は忙しすぎる大人が多いように感じます。日々変わっていく情報に対応しなくてはならないこともあると思います。たとえばSNSが身近になったことで、情報過多になってしまい、体だけでなく心まで忙しく、疲れがちなのではないでしょうか。

特にSNSは、キラキラした情報でも溢れているので、人によっては、周りの人の楽しそうな様子と自分の現状を比べてしまい、「私なんて……」と落ち込んでしまっている人もお見受けします。絵本は、そんな方たちにも「自分は自分でいいんだ」「人にはそれぞれ、その人ならではの輝きがある」ということを気づかせてくれるような力もあると感じています。

これは、子どもと大人の絵本の読み方が根本的に違う、というのも関わってきます。

まず子どもの絵本の読み方は、絵本の中に自分自身が入り込み、主人公になりきって、そこでの物語を擬似体験しています。主人公と同じように怒ったり、泣いたり、笑ったり、ハラハラドキドキしながら感情の流れを楽しんでいるんですね。そのため、読み終わったばかりの絵本を「もう一度読んで」とせがむこともあります。例えるなら、一度乗ったジェットコースターにもう一度乗る感覚でしょうか。

しかし大人は違います。子どもに比べて人生経験が豊富な大人は、絵本の世界で主人公になりきることはできません。しかし、過去の経験や自分の持つ価値観、知識、今抱えている悩みなどを絵本の物語に映し出すようにいろいろなことを感じているようです。いわゆる絵本が心の鏡になるわけです。人生経験が豊富な分、絵本と自分の共通点をリンクさせ、そこからいろいろな感情が出てくるようなのです。

そのため、同じ絵本を読んでも、出てくる感想や感情はみんな驚くほど違います。出てきたものは、その人の素直な感情であり間違いなどありません。それまで生きてきた過去と経験が違うので、違って当然だと思いますし、それぞれ違うからこそ素晴らしいのだと感じます。

――なるほど。でもそれなら映画や小説でも同じような気がしますが……。

絵本は物語を語るメディアとして抽象度が程よいのだと思います。映画や小説は、登場人物の生い立ち、背景、内面描写などが映像や文章で立体的に描かれますので、想像の余地が残りにくいと感じます。一方絵本は、子どもにもわかるような絵や写真などで作られていて、ページ数も少ないので、想像力が入る余地が大きく残されています。ですから大人が読むと行間の余白から無意識に何かを感じやすいのだと思います。

とはいえ抽象的すぎるとどうでしょうか。たとえば、短歌や俳句だとしたら、土台となる知識や教養によっては、味わう難易度が高いかもしれませんよね。感性豊かな人だといろいろ感じるものがあるかもしれませんが……。

絵本は、作者、編集者、出版社、いろいろな人が「どうすれば子どもに届くか」ということを吟味して、愛を込めて作られています。だからこそ、大人にも響きやすいのだと私は思っています。

絵本セラピーでも大人気!
竹下さんお気に入りの絵本を紹介

――せっかくなので、竹下さんがお気に入りの絵本をいくつか紹介していただきたいです!

1冊は、先ほどもお話しした、私が絵本の魅力を再認識した、絵本セラピストになるきっかけともなった絵本です。

「だいじょうぶ だいじょうぶ」講談社 作・絵/いとうひろし

絵本セラピーで何度も紹介させていただき、毎回必ず一人は感動のあまり泣く方がいらっしゃいます。私自身も本屋で号泣しましたし、最初のうちはセラピー参加者の前で読んでいる最中に涙があふれ、「ちょっとごめんなさい」と一時中断したこともあります(笑)。男の子とそのおじいちゃんのお話なのですが、私はそこに、幼かった頃の自分と、今はもう天国に逝ってしまった大好きな祖母を重ねていたんですね。

そのような絵本でも、みなさんから出てくる感想は本当にさまざまであることを目の当たりにして、絵本セラピーの深みを再認識しました。また、自分自身の受けとめ方も広がり、それ以来泣かずに読めるようになりました。

もう1冊は
「わたしとなかよし」端雲舎 作/ナンシー・カールソン 訳/なかがわちひろ

これは豚の女の子のお話なんですが、原題は「I like me」。それを「私が好き」ではなく、「わたしとなかよし」と訳した中川千尋さんのセンスが素敵です! 原題から察していただけたら嬉しいのですが、最初は人前で読む時に少し照れてしまっていたんです。でも、何度も読んで学びや経験を重ねていくうちに「自己肯定感」だったり、自分を大切にするということは、私の絵本セラピーで一番お伝えたいことだと思うようになりました。それ以来、大切なメッセージがギュッと詰まっていると感じる大好きな一冊になりました。

――どちらも素敵ですね。

絵本は、心の奥底にある素直な感情を引き出してくれます。そしてそれは、100人いれば100通りの人生があるように、本当にさまざま。絵本セラピーは、そのさまざまな考えや価値観を「それでいいんだよ」と認め合うセラピーです。

昨今社会はいろいろな問題を抱えています。たとえば戦争もそう、政治もそうなのではないでしょうか。でもそれらの問題は、元を正せば全て「自分の意見や考え、価値観を押し付ける」というところから争いが始まっているように感じるんです。それを「あなたはそう考えるのね。なるほど。でも私はこう考えるわ」とお互いの意見を認め合うことができれば、もっと平和に、柔軟なコミュニケーションができるようになるのではないでしょうか。絵本セラピーを通じて、そんなことにも思いを寄せる人が増えたら素敵だなと思っています。

絵本が繋ぐ、人と人との交流は
社会貢献にもつながる

――今後力を入れて行きたいことや、目標などはありますか?

絵本セラピーの可能性として、世代間の交流に注目しています。これからますます高齢化が進むにあたり、孤独な生活をしているご年配の方が増えることでしょう。そういった方々と子どもや若い世代をつなぐ交流が、絵本なら叶えられる気がするのです。

人生経験が豊富なおじいちゃん、おばあちゃんの知恵で、子どもたちを励ましたり、応援したり。逆に子どもたちのエネルギッシュなパワーで、ご年配の方にとっていい刺激になったらいいなと思います。

ただただ「交流しよう」だけでは、なかなかスムーズにいきづらいように思いますが、絵本の力を借りて絵本セラピストを間に挟むことで、心を通わせやすくなると思います。

――社会貢献にも繋がりますね。

これが実現可能なんじゃないか、と思う理由がありまして。実は婚活パーティの前座として、絵本セラピーを行ったことがあるんです。

初対面同士、みなさん少なからず緊張しているし、中には猫をかぶっている人もいるかも(笑)。でも絵本セラピーはそんな人たちの心もほぐして打ちとけやすくします。そして、「さっきの絵本の感想だけど〜」と、会話のきっかけにもなります。実際何組か結婚されたカップルがいらっしゃいます。

先ほど絵本セラピーは、「絵本の力を借りて行う心の交流」とお伝えしましたが、それでいうと絵本セラピストは「場づくり者」。私は「絵本でほんわか 笑顔お手伝い人」と名乗っています。絵本を通じて交流が行われ、みんなが笑顔になれるような場を増やしていきたいですね。

――ちなみに、どんな人が絵本セラピストに向いていると思いますか?

どんな人でも! と思いますが、しいていうなら絵本が好きな人でしょうか。好きであればあるほど読む時に自然と心が込められると感じますし、その絵本の個性や魅力が聞き手に伝わりやすくなると思うからです。心を込めて絵本を読むことで、絵本そのものが力を発揮してくれて、大人の心にも響きやすくなる、とも感じています。

また、心理学の知識や読み聞かせの経験は、それほど気にしなくていいと思います。もちろん知識があるに越したことはないかもしれませんが、「どんな感想、解釈、感情もOK」という絵本セラピーの土台を大切にしていき、あとは磨いていけば良いのではと思っています。

――ありがとうございました。最後に、竹下さんが考える「絵本セラピストに必要な3つの力」を教えてください。

・絵本力
絵本の知識、読解力、選書力、読み聞かせ実技

・講師力
プログラム作り、伝え方、運営力、立ち居振る舞い、技術

・セラピスト力
受容・共感力(違いを認め合う力)、マインド(あり方)、安心安全な場つくり、絵本セラピストとしての生き方

これらをバランスよく磨きつつ、今後も活動を続けていきたいと思います。

取材・文/児玉知子
撮影/喜多二三雄

 

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