お笑いを介して地域コミュニティの認知をアップ【介護福祉士/介護芸人 鹿見勇輔さん】#2
地方でヘルスケア事業に携わっている方に、経験談についてインタビューする本企画。前回に続き、広島県で介護福祉士として勤務する傍ら、「介護芸人」としても活動している鹿見勇輔さんにお話をお聞きします。
後編では、介護芸人としての活動と施設運営のつながり、地方でヘルスケアに関わるうえで大切なことを教えていただきます。
お話を伺ったのは…
介護福祉士/介護芸人 鹿見勇輔さん
広島県の介護事業所「めぐみ」を運営する傍ら、介護芸人として活動。介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士、主任介護支援専門員の資格を持つ。
Instagram:@ shikamiyusuke
YouTube:『広島お笑いライブ・ワンチャン』
お笑いのチカラで退屈な講演を記憶に残る発信に
――「介護芸人」としての主な活動内容と、どのような発信をしているか教えてください。
月1回のお笑いライブ・ワンチャンの開催のほか、高齢者施設や病院からの依頼で出張お笑いライブを実施したり、行政や企業等からの依頼でイベントに出演したりしています。
講演などでは、介護保険制度のことやケアマネージャーの仕事のことなど、依頼いただいたものは何でもお話します。でもどうしても難しい話になってしまうので、「娯楽」として理解してもらいやすくするために、お笑いの要素を取り入れているんです。
講演会に来る方たちのほとんどが、意識は高いけれど介護の当事者ではない人で、実際に本当に困るときには講演会の話なんて覚えていない。それなら「困ったときに、この人に相談したらいい」と思ってもらえるほうが優先。僕は介護予防の研究をしていたので、介護を必要としなくてもいい地域を作りたかったんです。そのためには、介護で困る前に相談できる場所がないといけない。そのひとつとなれるよう、記憶の片隅に残るような発信を心がけています。
――発信が集客などにつながることは?
直接的な関わりはありませんが、何年後かに相談に来てくれることはあります。僕は10年くらい、このエリアで活動しているので、何回も顔を合わせていると介護が必要になったタイミングで「ここにお願いしたらいいんじゃない」と思い出してもらえたり、地域の代表者や民生委員さんの紹介で相談に来てくれたりするんです。多くはありませんが、ケアマネージャーとして担当して欲しいと指名いただくこともありますね。
正直なところ儲けにはつながりませんが、損得を考えるとお笑いの活動や地域の講演会活動なんてできないと思っていて。やっている自分が自己満足のなかで、できる範囲でできたらいいなと思っています。
――デイサービスの地方での運営について、何か取り組みはしていますか?
介護の仕事というのは、コミュニティに入り込んで仲間にならないと、選んでもらえないんです。いろんなところに顔を出して営業したからといって、すぐに集客につながることはないけれど、そこで深い関係を築いていけばいつかは結果が出る。誰かの役に立つ活動こそが、集客や売上アップにもつながるんです。
だから事業所スタート当初は、地域の清掃活動に参加して、自分がどこのどんな人間なのかを話すことから始めました。そこから徐々に広げてもらうのが、新規にもつながりやすいし、継続した依頼や紹介にもつながりやすいと思います。信頼関係ができていると、こちらの対応も丁寧になるし、相手もちょっとした要望がすぐに言いやすいから、結果として大きなクレームにつながらなかったりもするんですよね。
外からの評価が社内での働きやすさにもつながる
――他に、「介護芸人」の活動を始めて良かったことはありますか?
お金関係なく活動している理由のひとつでもあるんですが、外部の人たちが褒めてくれるのを、法人の中の同僚や上司が聞くと、頑張っているんだなと認めてもらいやすくなるんですよね。周りから認められ、その結果として自分がやりたいことができる。そのための手段というのも、発信することのメリットだと思います。
また活動のメリットとして、気軽に相談してもらいやすい関係が作れることも大きいです。例えば利用者さんに対しては、相談援助技術の部分でお笑いの活動が生きていると感じます。利用者さんは、障がいや病気、家族関係の悪化など、人生の中で出会いたくないようなエピソードがいっぱいある。それを一緒になって真剣に話を聞きながら、自分のネガティブなエピソードを面白おかしくさらけ出すと、最後には「みんな大変だね」と笑顔で帰っていくんですよね。ネガティブなエピソードを、ポジティブな思考に変換できる。その技術が、お笑いにはあります。
またデイサービスがある地域の人たちに対しては、落語会やお笑いライブを通して「介護の兄ちゃん」と呼ばれ、身近な存在になれていると実感しています。近所で会えば呼び止められて、世間話の延長で「近所の人が介護で困っている」「うちの人が認知症かもしれない」と介護の話になる。僕が一番やりたかった「本格的に介護が必要になる前に相談できる場所を作る」ということが、個人レベルですが実現できているので、介護芸人をやってよかったなと思います。
汗臭く泥臭く活動を続け評価されれば、やりたいことができる
――地方でヘルスケアに関わる活動を成功させるために大切なことを3つ教えてください。
1.負け組の生き方でも、一生懸命努力し続ける
東京などの大都市での活動と、地方での活動は違うんだなという実感があります。それは芸人活動も介護施設の経営も同じで、どうしたって地方と都会は違うんです。ライバルの数も違うし、制度や政策、補助金の額、情報や資源の差も大きい。だから、都会の真似事をしても意味がないんです。地方は、アナログでも泥臭くても、汗水たらして結果が出るまで地道な活動をし続けること。
2.「やらなきゃいけないこと」と「やりたいこと」は別
「やらなきゃいけないこと」をきちんとやり続けることで、周りから認められて応援されるようになり、「やりたいこと」ができるようになるんです。僕の場合は、介護の仕事は他の同僚たちと同じようにしっかりやらなきゃいけないこと。そこを真面目に取り組んでいるから、やりたいお笑いの活動も応援してあげようと思ってもらえるんだと実感しています。
3.評価は外から逆輸入する
地方でひとりで活動していても、やっぱり限界があります。自分の評価は周りがしてくれて、初めて評価されたことになる。自分がいくら「俺はこんだけ頑張ってるぞ」と言っても、認めてくれる人がいなければ成功はできないんです。成功するためには、大物からの評価が必要で、それが広く知られるきっかけにもなる。
僕の場合、地区の社会福祉協議会の会長さんと知り合ったことで、いろんな活動に声をかけてもらえたり、発信する企画を作ってもらえたりと、地域の人に知られる機会が増えました。お笑いで言うと、有名な事務所とつながりができたことで、お笑いライブも大きくなったし、他の芸人さんたちが発信してくれるようになり、自分の活動を広く知ってもらえるようになりました。そうして外から評価をしてもらうことで、地方にいる自分の存在価値も高まっていくんじゃないかと思います。
お笑いの活動も、介護の仕事も、ずっと一体で続けたい
――今後の展望や、これから取り組みたいことを教えてください。
お笑いの活動としては、広島人はお笑いをテレビで見るという意識があるので、劇場に足を運んでお笑いを見る文化を根付かせたいです。あとは、介護ネタは大変な部分が多い分、ブラックジョークになりやすいので、介護を知らない人でも触れられるようなマイルドな介護ネタをたくさん作って、多くの人に知られる機会を作っていきたいですね。
また介護の仕事では、人材不足が課題になっているので、解決策としてデイサービスで「芸人雇用」を行っています。お笑いの仕事だけでは食べていけない芸人が日本全国にたくさんいる。僕も昔はそんな芸人のひとりで、たまたま介護の仕事をしているからですけど、アルバイトしながらお笑いの舞台に出るなら、介護で働きながらしたらいいと思ったんです。僕が昔、養成所で言われた「協力者」になって、夢を追える環境を作りたいんですよね。
それにお笑い芸人は、介護の仕事と相性がいい。ネガティブをポジティブに変換する思考だけでなく、人を客観視できるので介護に必死になっていないんです。高齢者を介護の目線で見ていないから、人間的に受け入れている感じがして、利用者さんからも人気だし、他のスタッフも原点に戻って見習えるという相乗効果もあるんですよ。
――ありがとうございました。最後に、これから地方でヘルスケアのお仕事をする方にアドバイスをお願いします。
誰かのマネをしようと思っても、継続・実現できないことが多いです。人の言うことをしても、やっぱり気持ちが持続しないと思うんですよね。だから、自分なりのやり方で、自分にしかできないマネジメントで取り組んだほうが、良い方向に行くんじゃないかと思います。
取材・文/山本二季