社会福祉士の倫理綱領(りんりこうりょう)とは? どんな内容が書かれているの?
社会福祉士は、社会福祉の分野においてエキスパートといえる存在です。人々を病気や障害、貧困などから守り、専門的知識や技術によってサポートすることが大きな役割となっています。実際に社会福祉士として働くうえで重要となるのが倫理綱領です。そこにはどのような内容が書かれているのか、倫理綱領制定の経緯や重要性も含めてご紹介していきましょう。
社会福祉士の倫理綱領とは?
社会福祉士はソーシャルワーカーとして、介護や福祉の現場や社会に対し重要な役割を担っています。福祉のエキスパートとして倫理綱領に基づき、利用者の立場に寄り添った質の高いサービスを提供する立場です。ここでは、社会福祉士の倫理綱領が定められた経緯や重要性についてご紹介します。
倫理綱領ができた経緯と重要性
「ソーシャルワーカーの倫理綱領」は、1995年に日本社会福祉士会によって採択されました。その後、急速なグローバル化や経済、金融、情報、環境などの変化に伴い人々の生活課題の多様化、複雑化しています。
このような背景によって、さまざまな価値観が交錯し、利用者本位のケアを提供することに困難さが生じてきているというのが現状です。このことを踏まえ、2005年に日本ソーシャルワーカー協会第10回通常総会において改訂・採択しなおされたものが現在の社会福祉士の倫理綱領となっています。
倫理綱領は、いわば社会福祉士が専門職であるということの証です。専門職としての自覚と誇りをもち、責任ある行動によって質の高い利用者本位のサービスを提供するためになくてはならない重要なものになります。仮にもし、社会福祉士として働くうえで倫理綱領がなかったらということを想像してみてください。
専門職でありながら自らおこなう行為に関する規定がなければ、質の高いサービスの提供には結びつかないばかりか道徳やモラルを保つことができません。そのため、社会福祉士としての仕事が成り立たなくなることが考えられます。
価値観の多様化に伴って利用者本位のよりよいサービスの提供が難しくなっている今だからこそ、ますます倫理綱領の重要性が増してきているといっても過言ではないでしょう。
倫理綱領にはどんなことが書かれているの?
倫理綱領には、具体的にどのようなことが書かれているのでしょうか。ここでは、ポイントを押さえてご紹介していきたいと思います。
前文|ソーシャルワークの定義
前文は、すべての人を人間として尊重し平等で価値のある存在だという認識を前提にしていることを示しているものです。社会正義と人権の原理をソーシャルワークのよりどころとすること、人間の福利増進を目指すことがソーシャルワークの専門職の立場であることなどを記しています。
価値と原則|人間の尊厳など
「人間の尊厳」「社会正義」「貢献」「誠実」「専門的力量」について定めています。まずソーシャルワーカーは人種や年齢、性別などによらず人間全てをかけがえのない存在として尊重することです。(人間の尊厳)
近年世界各地で問題となっている差別や貧困、暴力、環境破壊がない自由で平等な社会の実現を目指すという立場であり(社会正義)、人間の尊厳と合わせて社会正義の実現に貢献することが記されています。(貢献)
倫理綱領に対して常に誠実であることも求められており(誠実)、社会福祉士として働くうえでの根本となる重要な内容です。
倫理基準
続いて、倫理基準について詳しくみていきましょう。倫理基準は、「利用者に対する倫理責任」や「実践現場に対する倫理責任」「社会に対する倫理責任」「専門職としての倫理責任」に分かれています。
1. 利用者に対する倫理責任
利用者に対する倫理責任として定めている項目は、以下のとおりです。
・権利侵害の防止
・説明責任
・利用者との関係
・利用者の利益の最優先
・受容
・利用者の自己決定の尊重
・利用者の意思決定能力への対応
・プライバシーの尊重
・秘密の保持
・記録の開示
・情報の共有
・性的差別、虐待の禁止
多忙な業務をこなしていると考え方やケアの内容が自分本位に傾いてしまう傾向にあります。そのため、あくまでも利用者の利益を最優先に考えるという基準に立ち返るということが重要です。利用者自身の自己決定がスムーズになされるような説明をおこなうことや個人情報の扱いに関しては厳重におこないプライバシーが侵害されないよう配慮することが重要となります。
介護や福祉の現場においても性的差別や虐待といった内容が問題となっており、これらの行為を禁止する項目も定められているのです。
2. 実践現場における倫理責任
実践現場における倫理責任では、「最良の実践をおこなう責務」「他の専門職などとの連携・協働」「実践現場の綱領の遵守」「業務改善の推進」の4つの項目を定めています。
自分のもつ専門的な知識や技術は業務に惜しみなく生かすことのほか、他職種と連携しながらサービス提供をおこなうことなどが盛り込まれていることが特徴です。倫理上の内容と実践現場において、ジレンマが生じることもあるでしょう。
このような場合、本綱領の原則を尊重し遵守できるような働きかけが必要であると規定しています。社会福祉士として働きながら、今当たり前のようにおこなっている業務を点検し評価することで、より改善させる方向に促すことが重要です。
3. 社会に対する倫理責任
社会に対する倫理責任では、「ソーシャル・インクルージョン」や「社会の働きかけ」「国際社会への働きかけ」について定められています。
ソーシャル・インクルージョンとは、社会的包摂とも訳される言葉です。あらゆる差別や貧困、抑圧、排除、暴力、環境破壊などから守ることを意味しています。福祉は国内だけの問題にとどまらず、専門職との連携による社会への働きかけのほか、国際的問題解決に向けて全世界のソーシャルワーカーと連携することについても定義しています。
4. 専門職としての倫理責任
専門職としての倫理責任として定めているのは、「専門職の啓発」「信用失墜行為の禁止」「社会的信用の保持」「専門職の擁護」「専門職の向上」「教育・訓練・管理における責務」「調査・研究」です。
社会福祉士は国家資格であり、社会的信用の高い専門職であるということを自覚しなければなりません。信用を失墜するような行為をおこなわないことはもちろん、教育や訓練によって専門性をアップさせることも盛り込まれているのが特徴です。
ソーシャルワーカーが不当な批判を受けるようなことが起これば、専門職と連携を図りながら立場を擁護することについても記されています。
倫理綱領はソーシャルワーカーとしてお仕事する上で大切な決め事をまとめたもの
社会福祉士の倫理綱領は仕事の定義や利用者、実践現場や社会に対する倫理的責任についてまとめたものであり、ソーシャルワーカーとして働くうえでなくてはならないものです。介護や福祉の現場では、倫理綱領と実際起こっている事象との間とに発生したジレンマに直面することもあるでしょう。
多忙な業務のなかで、利用者本位のサービス提供をおこなうという基本的なことを忘れてしまいがちです。このようなときに改めて倫理綱領に立ち返り、基本を踏まえ実践に生かすことが重要だといえます。倫理綱領は、社会福祉士として働く人にとって方向性を正し導いてくれるものです。
出典元:
日本ソーシャルワーカー協会 倫理綱領