「大人のための体操のお兄さん」として介護業界に笑顔を作る【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.116/ごぼう先生 やなせひろしさん】#1
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。
今回お話を伺ったのは、「ごぼう先生」やなせひろしさん。
鍼灸師として大手鍼灸接骨院に勤務後、2014年に「高齢者の笑顔をつくる会社」として株式会社GOBOUを創業。全国各地の介護施設や地域を中心に「ごぼう先生」として、座ったままできる健康体操を普及しています。
前編では、やなせさんが「ごぼう先生」になった経緯と、現在の働き方、お仕事をするうえで大切にしていることをお聞きしました。
鍼灸院の営業の一環として始めた健康体操の模索のなか
見つけた「高齢者に特化」というチャンス
――まずはヘルスケアのお仕事につかれた経緯と、これまでの活動を教えてください。
学生のころから身体や健康に興味があったので、鍼灸の学校に入学して21歳で鍼灸師になりました。大手の鍼灸接骨院に2年ほど勤め、師匠が地元で開業することになったので右腕としてついていったんです。とは言え人を雇えるほどの余裕はなかったので、僕は僕で独立をして24歳で訪問鍼灸を開業しました。その訪問鍼灸の患者さん探しの一環として、デイサービスで健康体操のボランティア活動を始めたんです。
でも当時14年前には、そういった高齢者向け、とくに介護が必要な方向けの健康体操が、全く見つけられませんでした。そこにチャンスを感じて、介護業界向けの健康体操をブログなどで発信し始めたんです。
――当初から「ごぼう先生」として活動されていたんですか?
最初は本名のまま、衣装も決めてはいませんでした。「ごぼう先生」と名前をつけて活動し始めたのは27歳ごろ。ずっとキャラクター名は探していたんですが、なかなか決めるのが難しくて。
名前を決めたきっかけは、新婚旅行でハワイに行ったときに、妻に「ごぼうみたいだね」と言われたことでした。それが自分のなかで「これだ!」となったんです。「ごぼう」はおじいちゃんおばあちゃんも知っている身近なもの。それに鍼灸師として呼ばれていた「先生」をつけて、「ごぼう先生」として活動し始めました。
その後、「介護予防」というキーワードを掲げるようになり、「介護のGO、予防のBOUでGOBOU」と発信し始めました。「ごぼう先生」として発信を続けた結果、2015年には健康体操のDVDを販売できるようになり、それからは毎年新しい作品を出し続けています。
――現在の活動内容は?
変わらず、健康体操についての発信は続けています。コンテンツ制作に関しては、最近は介護事業所向けのものがメイン。DVDやカラオケ配信などで、事業所での日常の体操として取り入れていただいています。
また月に3回ほど第一興商さん(カラオケDAMを展開する企業)とのコラボで、全国各地の介護事業所さんとオンラインでつながって、体操の実演を行う活動も。自宅にいながらですが、介護事業所のみなさんと一緒に体を動かしてコミュニケーションをとる活動も続けています。
その他、リアルな活動ですと、講演やイベント出演なども行っています。ただ価格設定が高めなので、地域の講演会など大きな会場でのものが最近は多いです。
狙うのはQOLを重視したエンターテイメント
「正しい」よりも「楽しい」を重視
――日によって働き方が全く違ってきそうですね。
そうですね。講演会などがあれば前日から出張することもありますし、事務作業だけして子どもたちの習い事の送り迎えなどをしている日もあります。時給の働き方ではないので、決めた時間にしっかり働く感じ。子どもたちと関わる時間を確保できるので、すごく嬉しい働き方ができていると思います。
――活動のモットーや理念は何ですか?
当初から発信の対象は高齢者です。だから僕の中のルールとして、体操は「座ったままできる」ことを前提に考えてきました。また、QOLを重視したエンターテイメントとしての側面を強く出しています。
理学療法士さんや作業療法士さんなどが行うような、機能を向上させるための体操をネタとして出すことはあります。でもメインのゴールは「楽しませる」「笑顔を作る」というところ。だから体操を考えるときは、高齢者の方たちが楽しく過ごせるためのコミュニケーションやアイディア、ひらめきを、とても大切にしています。
――ブランディングという面でも重要そうなお話ですね。
そうですね。自分のポジションを明確にして、他の方の領域を侵さないというのは、長く続けさせてもらっている理由でもあると思います。エビデンスを元にして健康を作るというよりも、「ごぼう先生」というキャラクター、エンターテイメントというところから、みなさんの笑顔を作る。「そこに僕は秀でていますよ」というのを、口に出して言えるようにするのも、活動を続けるうえでは大切なことだと思います。
キャラクターと経営者の顔をしっかり分けることが
「ごぼう先生」を長く続ける秘訣
――お仕事をする上で大切にしていることは何ですか?
僕は経営者でもあるので、「ごぼう先生」というキャラクターと、経営者である「やなせひろし」はしっかり分けて考えています。「ごぼう先生」としての仕事の現場にたどり着いてしまえば、主催者さんから参加者さんまで、その場にいる全員がいい結果で過ごせるようにパフォーマンスに徹します。でも、そこまでの準備というマネージメントの部分は、経営者である「やなせひろし」の仕事です。
主催者さんと結構シビアなやり取りもしますし、「情報だけ聞きたい」「ボランティアで来てください」など、自分が搾取されるような依頼は当然お断りすることもあります。僕みたいな活動は、趣味で楽しくやっている方も多いんです。でも、仕事としてキャラクターを確立させていくためには、厳しく対応しなければいけない裏の部分は出てきてしまうんです。
経営者としての面をしっかり芯を持って対応していくことで、「ごぼう先生」としてのパフォーマンスができる。その意識をきちんと持ち続けることが、仕事を継続していくうえでとても大切だと思っています。
――経営者としての面と「ごぼう先生」というキャラクターの使い分けにストレスはないですか?
「ごぼう先生」の衣装に着替えるとスイッチが入るんです。そこで切り替えができているので、あまりストレスは感じません。自分1人ですべてをするのは大変な部分もありますが、今では「もう1人の自分をプロデュースしている」という感覚。「ごぼう先生」の一番の理解者として、そこも楽しんでやっています。
次回後編では、やなせさんがヘルスケアのお仕事に感じるやりがい、これからヘルスケアのお仕事を目指す方へのアドバイスをお聞きします。
取材・文/山本二季