社会的存在意義を満たしてくれるのが整体師という仕事【もっと知りたいヘルスケアのお仕事Vol.156 姿勢治療院tetote院長 山嵜智明さん】#2
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載「もっと知りたいヘルスケアのお仕事」。今回は、姿勢治療院tetote院長 山嵜智明さんにお話を伺います。
前編では、山嵜さんがアメフトでのケガをきっかけに「治す仕事」を目指し、接骨院で修行をしながら柔道整復師の資格を取得したこと、「猫背矯正」を強みにした姿勢治療院tetote開業までのお話を伺いました。
この後編では、独立直後の集客方法の工夫や整体師の魅力、また山嵜さんが思う整体師に向いているタイプなどもお伺いしました。
お話を伺ったのは…
姿勢治療院tetote
院長 山嵜智明さん
20才のときに鼻の骨折で入院した際、手厚く看護してくれた医療スタッフに憧れ、治療業界を目指す。その後、ケガでお世話になった接骨院に弟子入りし、仕事と3年間の専門学生を両立。国家資格に一発合格。次なるステージを目指し六本木の整形外科に転職。接骨院とは違った幅広い症例を経験した後、2016年六本木に姿勢治療院tetote開院。治療家歴20年以上。猫背矯正マイスター® 肩こりや腰痛だけでなく骨の変形や内臓の不調も引き起こす猫背矯正を使命としている。
看板はいちばんの営業マン
――独立直後から集客はスムーズだったのですか。
これまで診てきた方もいるし、ホームページを作れば患者さんは来てくれるだろうと思っていたのですが、なかなか思った通りにはいかなかったですね。経営者としては本当に未熟者だったと思います。
――うまくいかなかったときにとった対策は?
わたしには師匠がたくさんいるので、何がよくないのか教えてくれる方たちはたくさんいたんですね。「こういうのやってる? これは? あれは?」言われてみるとやってなかったことも多かったので、ひとつひとつ潰していくことで少しずつ変わっていきました。
――例えばどんなことを?
わたしの治療院はビルの5Fにある空中店舗。何もしないと存在を知ってもらうのは難しいですが、エリアとしては人通りの多い場所なので1階に看板を出しました。看板にどんな治療でどんな悩みを解決できるのかを分かりやすいキャッチコピーを使って打ち出しました。
――効果はありましたか。
看板ひとつで患者さんが大量に来るわけではないのですが、知ってもらうという意味ではいちばんの営業マンになってくれています。キャッチコピーは自分で作って貼ればいいので大きなお金はかからないですし。 認知度を高めるためにも看板は重要だと思います。
あとはホームページですね。独立当初から作ってはいましたが、それをどう運用したらいいのかが勉強不足でした。検索で上位にヒットさせるには、何でもやりますでは埋もれてしまう。そのために「姿勢」とか「猫背矯正」というワードを強く打ち出しています。
――やっぱりキーワード検索でtetoteを知る方は多いのですか。
入口としては多いですね。例えば偏頭痛に悩んでいて、病院に行ってもはっきり理由が分からない。ネットで調べてみたらストレートネックかもしれない。姿勢の問題かもと来院される方も多いです。最近ではいろんな雑誌やテレビで姿勢について取り上げられることも多く、姿勢教育が進んできたことも大きいですね。
――前編で、整形外科勤務時代に富裕層の方たちとの会話が難しかったとおっしゃっていましたが?
独立後は、会話が成立するレベルまでの情報収集に努めています。ありがたいことにわたしにはたくさんの師匠がいて、技術はもちろんですが、治療家として院長として必要な教養や経済関連の情報をたくさん発信してくれる方もいらっしゃるんです。わたし自身の力なんて本当に微々たるもので、そういう方たちにお世話になってこの六本木でやれているんですよね。
治療家にとって一番大事なことは人間性じゃないかな
――整体師という仕事の魅力を教えてください。
個人的な意見になりますが、わたしがいちばん感じるのは、承認欲求が満たされること。社会的存在意義みたいなものを満たしてくれるのが、仕事なんです。治療家にとって何が大事か。知識や技術や経験はもちろん大事ですよ。でも、もっと根本的な根っこの部分、人間性がいちばん大事なんじゃないかなと思うんです。
――人間性。それを磨くために何かされていますか。
感謝の気持ちを持つこと。その言葉をまず発する。それによって自分がそういう気持ちになっていきますよね。それから自分自身が健康であること。体だけでなくメンタルを安定させることも大事な要素だと思っています。
――健康維持のためにどんなことをされていますか。
睡眠、食事、運動、メンタル、治療。この5つの柱を常に意識しています。ここに出勤するときも5Fまで階段上ってくるとか日常生活の中で簡単にできることを取り入れたり、ストレッチをしたり。必要であれば温めたり冷やしたりして体の状態を整えたり、他の先生の施術を受けたり。
――では整体師の大変なところは?
重なりますが、いい健康状態を保つことですね。そうじゃないと相手に治ってもらうことができないので。例えば、整体院に行ったときに先生が「ぎっくり腰をやっちゃって今日は腰に力が入らなくて」と言われたら、大丈夫かなと不安になりますよね。逆に「この前トライアスロンの大会で優勝しました」と聞いたら元気もらえますよね。技術ももちろん大事だけど、実はそういった印象も大事なんですよね。
整体師に向いているのは、自分や家族を大切にできる人
――では治療家として心がけていることを教えてください。
人に誠実に接する。誠実さや謙虚さ、そういう部分は心がけてますね。
患者さんに良くなってほしい。良くなるためには、ある先生が言っていたように、こちらが良くなるためのスイッチを押してあげることが大事なんです。施術では、そのきっかけになることをたくさんやっているんです。一緒に笑うのもそうだし、ときには励ましてあげたり、一緒に悲しんだり。そういう部分もわたしはすごく意識していますね。その方が良くなるように、その方の人生が充実しますようにと。
――患者さんのプライベートな話を聞くことも多いのですか。
僕らの業界と医療業界との大きな違いは、そこなんです。僕らの業界には、患者さんと密な関係性を築いている先生が多いですね。地域のコミュニティを大事にしている医師もいますが、3分間診察ではなかなかそれは難しい。少し時間をとって深いコミュニケーションをとりつつ、お店としても売り上げを立てていかないといけないので、その分ちゃんといただくというスタイルをとっています。
――山嵜さんは、整体師に向いているのはどんなタイプの人だと思いますか。
自分や家族を大切にできる人。そうじゃないと他人を大切になんて扱えないと思うんです。
師匠からも「周囲10人を大事にしなさい。その10人を飛ばして100人は無理だよ」と言われています。その中でも自分を大事にできないとダメですよね。そういう方に出会えた患者さんはハッピーだと思うんです。出会えてないからぐるぐる回ってる人が多い。そういう人に適性があると思います。そういう人に業界に入ってきて引っ張っていってほしいです。
――業界を目指す方にぜひ参考にしてほしいですね。最後に山嵜さんの今後の目標を教えてください。
80歳になっても現在のパフォーマンスを維持したいです。そのためには先ほどの5ヶ条の実践。tetoteの目指すところは、トータルの体質改善であり、そのうちのひとつの指標が猫背や姿勢改善。5ヶ条の内容はすべての患者さんに提供できるものなので今後も皆さんと共有していきたいです。
山嵜さんが整体師として大事にしている3つのこと
1.誠実に謙虚に生きる
2.相手の自然治癒力を高める
3.5ヶ条で自身の心と体を健やかに保つ
取材前に施術体験を設けてくれたり、撮影の際には治療する場所を映してほしいとリクエストをしてくれた山嵜さん。山嵜さんは、すごく主体性のある方だなと思いました。その主体性は、相手を思ってのこと。だから心地がいいんです。それが患者さんに伝わって、患者さんと深い信頼関係を築けているのではないかなと感じました。
撮影/大崎聡
取材・文/永瀬紀子